↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/212

054話:突入準備

 スロークは隠密で姿を消したまま1階を探ると、すぐに子供の泣き声が聞こえてきた。

 声の方を探ると、ユーキ達が囚われたようなドアがあり、薄く開いたその中では先ほどの男が小さな女の子に凄んでいた。

 精一杯のおしゃれをしてきたのだろう、明るい色の服は、泥で汚れていた。

 思わず体が動きそうになるのをグッとこらえる。

 今はスロークのスキル、オートマッピングで1階の構造を把握するために、できる限り動き回って記録しなければならない。

 熟練をMAXまで上げているため、屋内では視野に入る範囲、直径10m程の地図が自動的に記録される。

 魔法で隠蔽されていなければ、隠し扉なども自動記載される。

 確実な証拠として突き出すためにも、漏れがあってはいけない。

 隠密とはいえ、触れられてしまえばバレてしまう。

 狭く、こまごましたもので足の踏み場もないような通路での探索は、相当な時間と気力を消耗させられた。

 広めの部屋には、奴隷と思わしき人影がすし詰め状態になっていた。

 うずくまるようにして詰め込まれた人影達は、その姿で眠っていのかピクリともしない。

 他にも、体中血だらけの獣人や、傷だらけの魔獣が檻に入れられていた。

 入り組んだ作りで、行き止まりも多く迷路状になっている。

 建てられてまだ日が浅いはずなのに、ニオイもひどくまるで地獄絵図のようだ。

 きれいな区画もある。

 各部屋が広めに設定されているので、おそらく関係者の居住区画だと思われる。

 小屋の入り口とは逆に配置されていることから、衛兵などの手入れが入った時のため逃走路が確保されているとみていいだろう。

 迷路で時間を食っている隙に逃げ出せるような配置だ。

 案の定、奥にドアが一つ。

 位置的にここを出ると外につながっているはずだ。

 オートマップによる地図の作成も一段落ついたところで、頭上からの喧騒が落ち着いてきた。

 (今日の営業は終了か。)

 結局地図の作成に午後いっぱいかかってしまったが、この状況で気づかれることなく進められたのだから上出来だろう。

 できることならドアの中を確認したかったが、さすがに無理だった。

挿絵(By みてみん)

 そのまま潜んで営業が終わり落ち着くのを待つと、2階へ上がって目的の人物との接触を試みることにした。

 

    **

 

 営業が終わってしばらくすると、捕まった子供たちが集められた。

 ユーキ達も昼間とは違う強面に連れられて、割と広い部屋に押し込まれた。

 クモタと共有した位置感覚では、中央に近い場所のようだ。

 ユーキ達のほかに、女の子が2人、男の子が4人いる。

 「多すぎじゃねぇのか?まだ2日目だぞ。」

 神経質そうな男が、一口かじっただけの肉の塊を不味そうに放り捨てると、横にいる強面を睨みつけた。

 「すいやせん、抑えるように言っときやす。」

 ペコペコと頭を下げて、愛想笑いを浮かべる強面がひどく滑稽に見える。

 「ガキィさらうのはリスクもデカいってんだろうが!本番前に余計な面倒ごと増やしてんじゃねぇぞ!」

 言うが早いか、強面の下げた頭を酒瓶で殴りつけた。

 派手に割れて、粉砕された瓶が飛び散る。

 子供たちはその様子におびえ、ガタガタと震えている。

 泣き出す子供がいないのが意外だったが、それだけ昼間怖い目に合って、脅されたのかもしれない「泣いたらひどい目にあうぞ。」とか。

 ユーキも一応怯える演技をしているが、瓶の割れ方がおかしいことに気が付いていた。

 昔テレビ番組で見た、芝居用に作られた飴細工の瓶、それの割れ方にそっくりだった。

 (確か、本物の瓶を割った時はあんなに細かく砕けなかったよな。)

 同じ番組の中で本物の瓶を割った時の様子も見たので、間違いないだろう。

 (子供を怯えさせるためのお芝居ってやつか。)

 神経質そうな男は、並んでいた食事ごとテーブルをひっくり返した。

 パンや干し肉が床に散乱する。

 それを指さし、

 「それがお前らの餌だ。」

 と言うと、強面を伴って部屋を出て行った。

 (床に落ちた食べ物を食べさせることで心をくじこうってことかな?)

 初日からなんとも徹底したことだ。

 本当なら、ギリギリまで情報収集に徹して我慢するつもりだったけど。

 (ちょっと、無理そうだよね、特にユーコが。)

 この部屋に入ってから、ユーコはかすかにふるえるだけで微動だにしていない。

 恐怖に、ではなく怒りで震えているのが分かる。

 (ユーコは子供大好きだからなぁ。)

 とはいえ、今爆発させるわけにはいかない。

 幸い今ここには子供たちしかいない。

 もしものためにとスロークから借りて服の中に張り付けていたトートバック(エイルヴァーンのアイテムで、20個のアイテムを入れられる)を取り出す。

 中には、マスターお手製のホーンボアのハムや、完熟ラサの実で作ったジャムを、試作中のナンに似たパンに挟んだ、なんちゃってサンドイッチとクッキーもどきが入っている。

 小声で子供たちに、静かに食べるように話してから配る。

 恐怖が張り付いていた子供たちの顔が、一口でみるみる笑顔に。

 (さすがマスター。)

 ユーコが子供たちの相手をしている間に、床に散乱した食べ物を半分ほど拾って、空になったバックに詰める。

 ある程度でも食べたと思わせた方が都合がいいだろう。

 と、子供たちはすっかり眠っていた。

 体も心も限界だったのだろう。

 「我慢できそうにない。」

 ユーコがぼそりとつぶやいた。

 (やれやれ、我慢できそうにないのは僕もなんだけど、止めなきゃいけないんだよなぁ。)

 「遅くなった。」

 その時、どこからともなくスロークの声が。

 (あれ?ドア開いてないけど。いつからいたんだ?)

 「やはり囚われていたよ、見世物小屋に二人、歌劇場にも一人だ。

 三人とも戦闘系のゲームじゃなくて逆らえなかったそうだ。

 これからユーシン達に伝えに一度脱出するが、突入は奴らが盗みを働いた直後でないと意味が無い。

 ここで被害者を救い出せたとしても、別の街で同じことを繰り返すだけになるからな、もう少しだけ我慢してくれ。」

 そう声が聞こえると、床の食べ物を入れたトートバッグが消えて、新しいトートバッグがユーキの目の前に現れた。

 「同じでスマンが、食料とポーションを入れておいた。辛いだろうが、耐えてくれ。」

 そのまま声は聞こえなくなった。

 (どこから出入りしてるんだろう。)

 恐る恐るユーコを見てみる。

 目が合った。

 「うん、大丈夫、頑張る。」

 心配するユーキにこう言うと、ユーコはゴロリと寝ころんだ。

 (明日からはちょっと反抗して、あいつらの気を引こうかな、はぁ、損な役だよなぁ。)

 新しく渡されたトートバッグを念入りに服の中に張り付けると、ユーキも横になった。

 

 スロークが食堂に戻ったのは深夜を少し回った頃だった。

 昼間、微動だにしていなかった奴隷たちが一斉に動き出したために脱出にかなりの時間を要してしまった。

 夜中に雑用や魔獣の世話などをやらせるための奴隷だったのだろう。

 狭い通路をせわしなく動き回る奴隷たちを躱すのはなかなか骨が折れた。

 深夜にもかかわらずベリッサ以外はみんな起きていたので、さっそく大テーブルに集まった。

 オートマップで記録した図面をもとに、作戦を打ち合わせる。

 「売られていない強奪品と思われる装飾品が保管されていた。」

 そう言って、図面の一番奥、大きめの部屋を指で叩いた。

 きれいな区画で唯一ドアの中を確認できた部屋だ。

 運よく強面の男が出入りする場に居合わせた。

 「事前調査で確認していたんだけど、普通には捌けないヤバイ盗品は専門の闇オークションにかけるらしいってことなんで、保管されている盗品は奴らにとってヤバイ物の可能性が高い。」

 「でも、それなら何十年も捕まらずに続けてこれるのかな。」

 椅子の上に胡坐をかいて、天井を見ながらライアーが疑問を口にした。

 「かなり慎重な連中なのは間違いないな。

 保管してある場所もそうだけど、主だった幹部の居室は入り口と最も離れた場所にある。その手前は迷路のように複雑で狭いうえ、そこら中に金属製の小物を散乱させている。」

 「させている?」

 「ああ、音をたてないように移動するのが難しいほどにな。」

 「なるほど、警笛替わりか。」

 「2階部分はそこら中落とし穴になっていて、その下は施錠された個室になっている。攫われた子供たちも迷路の中の一か所に集められていたし、奴隷が詰め込まれた部屋もあった。

 そこでも足止めされることになるだろうし、普通に突入したら、たどり着く前にヤバイものを持ち出して幹部連中には逃げられるだろうな。」

 改めて図面を見ると、確かに入り口から複雑で雑多な構造が続いていた。

 初見でこれは、なかなか奥に進めないだろう。

 静かに移動しようにも、暗く狭い通路には大きな音の出る金物が散乱している。

 「奴隷も見世物に出ている連中も捨て駒ってことだろうな。幹部と保管されている強奪品だけ無事なら再起できるってことだろう。」

 「でもさ、逃げられないように裏口で待ち伏せすればいいんじゃないの?」

 と言うアオイに、ライアーが

 「中身が分かってればそうだろうけど、どうせ隠されてるんだろ?」

 そう、中身が分かっていれば簡単だが、そんなはずもない。

 「確認してきたが、逃走用の出口は外からはわからないように、壁の一部のような加工がされていた。

 かなり念入りに手を加えられていたからな、俺でもオートマッピングが無ければ気が付かなかったくらいだ。」

 そう言って、脱出口の隠し扉を指で出した。

 「現状だと、盗みを働いてもらわないと叩き潰す証拠が弱い。

 明日、自分が小屋の中で息子がいなくなったと騒ぎを起こしてみる。

 影響が出るか分からないけど、ユーコがヤバそうなんで、ヤツラには少しでも早く事を起こしてもらいたい。」

 ユーコが危険な状態なのか、と慌てるアオイに中の状況を説明して落ち着かせると、夜が明けるまで作戦を話し合った。

 

 翌朝スロークは予定通り、興行小屋の前で騒ぎを起こした。

 一緒に来ていた息子が突然いなくなった、関係者にさらわれたに違いないと大げさに騒ぎ、息子を返せと叫びまくる大芝居をうった。

 さすがに小屋の関係者が火消しに出てきたが、それでも騒ぎ続けたスロークは、駆け付けた衛兵に引きずられていった。

 ライアーはマナと姉弟のフリをして見世物小屋を見て回ると、スロークの騒ぎに乗じて目的の人物達が入る檻の前へ。

 なるほど、確かにチラシの絵は嘘ではなかった。

 監視員や見物人の隙をついて、日本語で作戦を書いた紙を渡す。

 そのまま見世物を見るふりをしながら歌劇場へと向かった。

 歌劇場で目的の人物は、歌い手としてソロで舞台に立つ中の一人だった。

 気に入った歌い手には、貨幣や花などを投げ入れる。

 スロークが聞き出した情報では、貨幣は取り上げられるが花はそのまま渡されるそうなので、花束を包む布に模様のように崩した日本語で作戦を書いて投げ入れた。

 (う~ん・・・やっぱりマナと来たのは正解だったかな。)

 マナの美貌は、男女問わず目を引きまくっている。

 ライアーも十分すぎる美少年(女?)設定なのだが、やはり人々の目はマナに魅かれるようだ。

 おかげで対象とのコンタクトも楽だった。

 ここへ来るまでは、マナの美貌が不安ではあったのだ。

 しかし、アオイは作戦のための資材確保に出ているし、ユーシンは問題起こしそうだし、ということでマナと来ることになったのだけれど、人目を惹きつけ過ぎて動きづらくなるのではという懸念があった。

 実際には真逆だったのだが。

 (恐るべしマナ・・・じゃないな、キャラデザインした銀河大成先生ってところか、あの人、エグい絵描くうえ妥協しないからなぁ、CGクリエイターさんも大変だっただろう。)

 地図で記憶した落とし穴を避けつつ、全体像の確認も済ませると速やかに興行小屋を離脱した。

 ミイラ取りがミイラになったらしょうがないし。

 

    **

 

 その夜、監視していたスロークは、興行小屋裏手の隠し扉から10の人影が、人目を避けるように出てく姿を確認した。

 迫真の演技で衛兵からの同情を買うことに成功したスロークは、釈放後隠密で興行小屋を監視していたのだ。

 予定どおりなのか、スロークの騒ぎで早めたのかは分からないけれど、とにかく動いた。

 その連絡を受けると、それぞれが打ち合わせ通り配置について準備を始めた。

 ユーキ達にも、クモタを通じてとってもらいたい行動は伝えてある。

 突入と同時に中でも暴れてもらう予定だ。

 決行は連中が盗みから帰って落ち着いたころ、気が緩む瞬間を狙う。

 おそらく早朝になるだろう。

 突入組のユーシン、ライアー、マナは、食堂1階で決行を待っている。

 アオイはスロークと合流し、逃げ出す幹部連中を一網打尽にするためのトラップ作りのために待機している。

 連中が盗みを終え小屋へ入るのを確認後、連中が落ち着くのを待って行動を開始する予定になっている。

 逃走用隠し扉の外に大きな落とし穴を作るだけだが、穴の側面を平らでつるつるした石板で補強して、逃げられないようにするのだ。

 落ち着くのを待つわけだから、作戦決行直前から奴らが気づくまでのわずかな時間に仕上げなければならない。

 アオイの能力なら問題無いだろうが、重要な役割だ。

 (子供にひどいことする奴は許さない。一人も逃がさない、必ず罰を受けさせてやる。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。