039話:総出
翌日は朝早くからバット製造に取り掛かった。
鍛冶小屋で作業を始めたんだけど、なぜか隣ではアオイが作業をしている。
確かに、アスクラでは武器や防具のクラフトもあったっけ。
何を作るつもりか知らないけれど、俺は俺の作業に没頭するのだ。
なんせ依頼されたものが難題だからなぁ。
金属バット、というと普通はアルミ製だろうけど、アルミなんて素材は無い。
第三貯蔵庫にはクラフト用のミスリルだとかオリハルコンだとかが眠ってるんだけど、それらが日の目を見る日はいつになることか。
とりあえず重いだろうけれど、鉄で作るしか無いよな。
うぃきネットでバットの寸法を調べたけど、バットっていろんなサイズがあるのね、知らんかった。
一応最大の太さとか、長さの上限とかは決まってるみたいだけどさ、詳細な寸法は分からずじまいだった。
確定したサイズが無いなら、それっぽければいいだろう、後はユーシンに使ってもらって微調整するしかない。
と思ったんだけど、金属バットって確か、中身空洞なんだよね・・・あたりまえか。
たぶん、アルミの板を丸めて筒状にして溶接、一部を絞って細くしていって持ち手部分にする、先端とかのパーツは別で作ったものを溶接してからつなぎ目を磨いてなだらかにするって感じでやれば作れるんじゃないかなって想像はできる。
でも、ここの設備じゃ絞るところからして無理。
そんな装置ないもの。
結局午前中いっぱい考えてみたもののいい案は浮かばず、とりあえずは形状だけでもモデルになるものを作ってみようか、と半ば自棄になった。
鋳物で作ってやろうじゃないの。
まずは木を削ってバットっぽい形状の物を作る。
糊を混ぜた砂に半分程度埋まるような感じで押し込んで、半分だけ型取りする。
この時、後で型がピッタリとはまりやすくするためワザとサイドなどにデコボコを作っておく。
乾燥させたら、上からのりを混ぜた砂でもう半分の型を取る。
木の型を取りだしたらぴったりと張り合わせて、過熱して溶かした鉄を流し込む。
冷えたら型を壊して、表面を磨いて完成。
いや、これだと中までみっちり鉄のバット、重くてとても持ち上がらないよね。
当然か。
問題は、どうやって中身をくりぬくかなんだよなぁ。
無い頭をふり絞っていると、
「スゲェ、もう出来上がったんスか!」
とユーシンがやって来た。
「いやいや、これはまだとても使えるもんじゃなくてね、」
なんて言う俺の話も聞かずに手に取った。
え?
ブンブン軽快に振ってるんですけど・・・マジですか。
ゲーム補正恐るべし。
形がそれっぽければバットとして認識してくれるって言うことかね?
相変わらずいい加減な・・・。
「ちょっと重いけどバッチっス、これ、いけるっスよ。」
本人がそういうのならいいんだけどさ・・・あらためてマジか・・・。
あの重量のバットで頭かち割られたら、確実に頭パーンってなるぞ。
夏の海辺で、あるレクリエーションに使われるスイカみたいにパーンって。
すぷらった~な戦場になりそうだ。
「なぁ~んでこうなるの~!」
隣で何かを作っていたアオイの嘆きが聞こえてきた。
チラリと見ると、アオイの手にはギザギザの剣が。
まぁ、アスクラで出てくる装備もカクカクギザギザ、極小サイズのドット絵を無理矢理拡大したような造形だったしね。
まぁ、これはこれでゲーム補正恐るべしって感じだけど。
「あ~、フランベルジュみたいでいいんじゃない?」
一応フォローしてあげよう。
「なにそれ?」
あ、知らないか。
「波打った刀身が炎のようだってつけられたフランスの剣、だったかな?切り口がえぐいことになるらしいよ。」
確か、それで切りつけると傷口がグチャグチャになるらしい。
いかにも西洋って感じの発想だよね。
「えぇ~、スパッと切れる剣がいい~。」
そう言って作業を再開するが、やっぱり真っすぐな剣にはならない。
まぁ、3本目にしてだいぶカクカクが滑らかになって来たっぽいから、そのうち作れるさ。
しかし不思議だ。
ここの炉は鉄をドロドロに溶かせるので、糊を混ぜた砂で金型を作って溶けた鉄を流しいれ、冷えて固まってきたら型を壊して中身を取り出して叩いて微調整、そして刃先を研ぐと言う、いわゆる鋳造法の製法で造っているはずなのに。
どうやったらこんな形になるんだろう?
ゲーム補正、と言うかこれは立派な呪いってレベルだよな。
最初なんか、見事というしかないほど、ギザギザカクカクの剣ができた。
あらためて言おう、なんでこうなるかね。
「こんなんじゃ、日本刀なんて無理だなぁ。」
ガックリと肩を落としたアオイがぽつりと漏らした。
「ん?日本刀に興味あるの?」
意外。そういうのは興味無さそうだったけど。
そういえばなんかで聞いたな、刀剣女子とか言うんだっけ?
「え、興味って程じゃないけどね。
その、なんかさ、きれいじゃない?」
?
ちょっと引っかかるけど、まぁいいか、どうせ日本刀なんて無理そうだし。
本物作ろうとしたらものっそい大変だからね、あれってさ。
何となく違和感を感じるものの、金属バット作成と言う難題が終わって肩の荷が下りたから追及はしない。
さて、警戒作業に戻るとしましょうか。
スロークに任せっきりというのも気が引けるし。
そうそう、俺の愛剣はグレートベア戦で尊い犠牲となってしまった。
なので、だいぶランクが下がってしまったけど一応カブロ一押しの逸品を購入して、強化を数回程施してある。
できればもうちょっと強化したいけど、これ以上は失敗のリスクも増えてくるから時間的にも諦めるしかない。
まぁ、多少は良いだろう。
鎧もグレードアップしたし、以前のデモンエイプ戦よりはだいぶマシなはずだ。
広域警戒を発動しながら、夕食までの数時間ほど村の中、特に外周付近を巡回して回った。
村の西側に多数の反応を発見。
ジッとしていて動きは無いけれど、これまでのいきさつを考えるとどうやらヒエンの群だろう。
デモンエイプのパシリって話だしな。
しかし、反応からすると100どころじゃないぞ。
あからさまに密集してるのは、いかにも見つけてくださいって言ってるような気もする。
おとりっぽいなぁ。
だとしたら、デモンエイプが来るのは逆の東側からかな?
いやいや、決めつけは良くないか。
他に異常は見られないから、今日襲撃ってことは無いんじゃないかって気はする。
と、思いたいだけかもしれないけれど。
不気味だ。
夕食後に再び開かれた会議には、代表のみ出席したゴブリン以外は村の住人全員が集まった。
回復したオーグルも参加している。
かなり無理してるだろうに、それを全く感じさせない。
理解はできないけど、本物の親衛隊とかってそういうものなんだな、と感心してしまう。
どうもね、親衛隊って言うと、アイドルの追っかけみたいなのを想像しちゃうんだよ。
古いか。
会議はまず、現状の報告から始まった。
と言っても大きな動きはなく、注目となったのはヒエンと思われる集団のことだ。
「やはりデモンエイプの配下になっているってことだな。」
「群とはいえ100を超えるなんて普通じゃない、いくつもの群れが合わさっているんだろう、その上人里近くで固まってるなんてありえんからのう。」
「10や20ならなんとかなるが、さすがに100とは、想像もつかん。」
ハンターたちの反応は重い。
俺たちが遭遇した時の状況を知っているから、余計不安になるだろう。
そうだよね、いや、何となく想像は付いていたけどさ、ここはやっぱり逃げの一手だよね。
脱出するなら早い方がいい。
非戦闘員も多いことだし、できればハンターたちには脱出者の護衛を引き受けてくれるといいんだけど。
「障壁の内側から弓や投石で地道に数を減らすしかあるまい。」
「え?」
思わず声が出てしまった。
しかも、ソンチョーと見事にハモった。
ハンターたちが一斉にソンチョーと俺に視線を移した。
「あ、いえ、まさか戦ってくれるとは思いもしなかったので。
皆さんには、脱出される方達の護衛をお願いできればと思っていたんですが。」
俺も以下同文です、とばかりに首を縦に振った。
「ソンチョーの頼みなら仕方ないが、脱出するやつなんているのか?」
マルクの問に声を上げるものはいなかった。
「ここはもう、俺らの村だ、なら守るのは当たり前だろうが。」
ギリョウがソンチョーの背中をバシッと叩いて拳を上げると、鬨の声を上げた。
ハンターが、職人が、ゴブリンやオークまでもがそれに続く。
あぁ、なんか、泣きそう。
戦いとは無縁の人達まで、村を守ろうと拳を突き上げている。
いつの間にか、ユーシンやユーコたちまで一緒になっている。
その輪の中に入りたいと思う気持ちをぐっと抑える。
勢いだけで勝てる戦いじゃない。
水を差す気はないけど、一人くらいは冷静に、少し引いた所で考えておかないと。
俺たちにとって最悪は何だろう。
もし、ヒエンがおとりでデモンエイプとは別行動を取るなら、ハンター達やゴブリン、オーク達に対処してもらえば良いだろう。
マルクが言っていたように、障壁の中から攻撃してもらえばいい、無理する必要はない。
デモンエイプがヒエンとは別行動で、まとまってきてくれれば好都合、厳しい戦いになるけれど対応できると思う。
問題になるとすると、ヒエンとセットで、一斉に襲ってきた場合だ。
正直、手に負えなくなるだろう。
命も顧みず、狂ったように襲いかかってくる大量のヒエンをかわしてデモンエイプに対応することは不可能だし、おそらくデモンエイプはヒエンもろとも攻撃してくる。
そうなると、ハンターたちは戦闘に加わることができなくなる、俺たちに矢が当たってしまう可能性があるからだ。
少数で恐ろしい数の敵を相手にしなければならない上、10体ものデモンエイプがまぎれて来るとなると勝ち目はかなり薄い。
まぁ、異世界人が関わっているならそうはならないと思うんだけど。
ヒエンはエイプへの恐怖心でこちらを襲ってくるだけだから、プレイヤーにはコントロールしきれないだろう。
ちょっと頭が働くなら、無秩序状態は避けたいはずだ。
経験値が目的であればこそ、コントロールの効かないヒエンを使って経験値の拡散はせずに、とどめは自分達でさしてくるはずだからね。
迷彩男とつながっていた可能性もあるよなぁ。
奴は、絶対有利の狙撃を捨てて近距離戦を選んで負けた。
もしつながっていたとしても、こちらの詳細までは伝わってないと思うけど、何かしらこちらに対して警戒している可能性は高い。
いや、思い込むのは良くない、復讐に駆られている可能性だってある。
考えろ。
最悪の一歩先を警戒するんだ。
もし、10体のデモンエイプが完全にバラけて襲ってきたら。
無理だ、完全に手が足りなくなる。
でも、それだと経験値はどうなる。
デモンエイプ1体につき一人の異世界人がセットで・・・ならばあり得るのか?
いや、それは無い、同じような能力を持った者が10人、一度に出会うなんてありえない・・・
・・・
・・
・
落ち着きを取り戻した食堂で、思いついた限りのパターンと、考えた対処法を話した。
さすがにそんなことは無いだろうと笑われたものもあるけど、頭の片隅にでも入れて置いてもらえれば、いざという時の対応に差が出るはずだ。
危機感の共有、とまではいかなくても、そういう可能性もあるということを知っておいてもらえればいい。
準備は俺がすればいいんだ。
この日は深夜遅くまで話し合いが続き、職人やゴブリンたちは矢や、岩などを投げ込まれた時、建物への被害を減らすための簡単な防壁建造を、ハンターたちは交代でヒエンが確認された西側の警戒を、オークたちも協力を申し出てきたので、ハンターたちと警戒をしてもらうことになった。
それ以外は俺とスロークが交代で広域警戒を使って巡回する。
などなど、それぞれの役割を決めて会議は解散となった。
忙しくなるぞ。
**
夜が明けるとほぼ同時に活動が始まった。
巡回しながら、広域警戒を発動しながら村の様子を見て回る。
村づくりは全てストップし、みんな昨晩の会議で決めた役割にそってあわただしく動き回っている。
丸太や角材で家や道の前に壁を作り簡易的な防壁にする。
石を積み上げて投石や弓を射る人たちが身を守れるような壁を作る。
スリングや矢を作り、スリング用の小石も集めては各地に積み上げるなどなど、やっておくべきことは無数にある。
そんな中、アオイは鍛冶小屋に籠り続けているようだ。
そんなに熱中するならもっとちゃんとした小屋を作っておけば良かったな、隙間風入りまくりで寒いだろう。
今後の課題だな。
なんて感じで巡回を続けたが、ヒエンは動かずデモンエイプも感知できなかった。
スロークも異変を感知することはできなかったようだ。
すぐに動くとは思えなかったけど、なにも感知できないってのも不気味だな。
いっそ、このまま何も起こらずに冬眠でもしてくれればいいのに・・・って、この世界の魔物は冬眠するのか?
それぞれが準備を続け、事が起こったのはそれから2日後だった。
巡回中のスロークが、東側から村に近づく個体を検知したと伝えてきたのだ。
「これ、デモンエイプじゃ無いと思うんだけど、動きが変だろ。」
スロークの指摘通り、村に近づきそうで近づかない。
フラフラと動き回っている。
「だね、グネグネと・・・何かに追われてる感じ?にしては、追いかけてくる方が見当たらないな。」
違和感を感じる。
村の存在を分かっていて、あえて周辺をうろついているような。
かといって、村の様子をうかがっているって動きでもない。
立ち止まることなく動き続けているからだ。
「どうする?調べに行った方がいいかな。」
「村に着くか、魔物に襲われそうにならない限り様子見がいいんじゃないかな。こっちに索敵持ちがいるのかを調べてるのかもしれないし。」
「あぁ、なるほど、この段階で近づくと、完全に索敵持ちがいるってバレるな。」
「おとりかもしれないよねぇ、こういう腹の探り合いって苦手だなぁ。
とにかく、動き出したってことだろうから、とりあえず反対側も警戒しといたほうがいいかね。」
「なるべく平常に見せかけた方がいいな。」
警戒は慎重に、広域警戒でヒエンを検知するぎりぎりのラインまで西側に移動して、通常運行のフリ。
苦手だ。
俺、すぐに顔に出ちゃうフシがあるんだよなぁ。
演技力とかも自信ない。
普通通りにしようと思っても、普通ってどうやってたのかが分からなくなってくる。
そんな緊張の中、怪しい存在の正体がつかめたのは夕方近くになってからだった。
散々動き回ったあげく、村から見える地点まで来たのでスロークが確保したのだ。
知らせを受けて俺も駆け付ける。
途中で会ったソンチョーに、確認したいこともあるの任せてほしいとだけ伝えてからスロークと合流した。
緑の髪、左右で色の違う目、まさにゲームキャラって感じの男で、服は血で染まり、全身の打撲、数か所の骨折もあった。
狩りの途中、デモンエイプに襲われて逃げ出したという。
仲間とはチリジリになってどこにいるのか分からないと。
クラフト系のマイナーなゲームをプレイしていたとか、日用品なら何でも作れるとか、怪しい男グロックは、聞いてもいないことまでベラベラとしゃべりまくった。
う~ん、カルいなぁ。
それに、どうしてこっちが同じ異世界人だって知ってるのさ。
気づかれないようにスロークと目くばせ。
「まだ建設中だけど、部屋は使えるから診療所で治療をしよう。
すまんね、ここには回復系の魔法が使える者がいないんだ。」
そう言って、建設中だった倉庫を急遽診療所として連れて行った。
貴重品を分別して保管できるように小部屋が多く、鍵もかかるのが選んだ理由だ。
「ここでいいかね。」
職人たちがベッドをしつらえてくれていた。
「急ごしらえで悪いね。
俺のスキル応急処置は重ね掛けできないんで、とりあえず苦しいだろうから肋骨の骨折にかけさせてもらったよ。
後は毎日1か所づつかけていくから完治するまではここで安静にしててよ。」
そう言ってグロックをベッドに誘導。
「あ、はい、わかりました・・・窓とかないんですね・・・。」
誘導されるままベッドに横たわったグロックは、部屋をきょろきょろと見まわしながら、一瞬不安そうな表情を見せた。
「あぁ、そうだよね、申し訳ないんだけど、この村ではゴブリンを使役してるんだ。
まだテイムのレベルが低くて完全じゃないから、安全を期してね。
特に君みたいに重傷で弱ってる人へは極端に態度が変わるんだよ、所詮魔物だよね。
だから、ここは特に頑丈に作ってるんだけどさ、完全に使役化が完了するまでは気が許せないんで、侵入されそうなものはつけられないんだよ。」
ちょっと苦しいかな、と思いつつ誤魔化しの方便を使う。
「なるほど、それは怖いですね。・・・あの、何か慌ただしかった気もするんですが、何かあったんですか?」
「君が来ただろう?」
と間髪入れずにスローク。
「いや、その前から何か準備されているように見受けられたもので。」
「あぁ、少し前にオークの襲撃があってね。
道の整備中だったんだけど、まぁ、所詮オーク数匹なんで、ゴブリン20匹程度の消耗で済んだよ。
でまぁ、一応この村にはこの世界の住民もいるんで、安心させるために形だけでも警戒態勢を取ろうということになってね。」
う~ん、こうもペラペラ嘘が付けるようになるとはねぇ、俺も黒く染まったものだ。
「それはそれは、なんというか・・・。」
「気にしないでくれ、所詮はゴブリンさ、すぐに増える。
じゃあ俺は仕事に戻るけど、夕食はちょっと期待してくれよ、うちのはうまいぞ。
あ、さっき言ったとおりゴブリンの従属化が完全じゃなくてね、念のためドアには施錠するけど、信用できる者がたびたび様子を見に来るから何かあればその時伝えてくれ。」
そう言って施錠し、急遽診療所になった倉庫を後にした。
さて、いよいよ本格的に動き出しそうだな。




