038話:オーク
深夜、営業後の食堂に集まった村の臨時代表10名。
創設者としてソンチョー、スローク、ユーシン、俺。
ハンター代表としてマルク、ルッツ。
職人代表でギリョウ、リュカ。
ゴブリン代表でンダバ、ハゾル。
そして、オーク代表として、遅れてユーキの馬車でやって来たオーク6人。
大怪我で運び込まれて、今も昏睡のままのオークはオーグルという名で、グラン族の姫、パラミドの親衛隊長だったそうだ。
が、さすがに参加は不可能だ。
代わって彼の守護対象パラミド、お付きのパナ、パト、護衛のオベル、オリク、オギトの6名が参加している。
護衛の3人も大怪我を負っていたが、昏睡のままのオーグルに変わって姫の警護を、と言って参加している。
立っているのもやっとなほどの大怪我、かなり無理しているのがわかるけれど、彼らの気持ちもわからないでもないから止められない。
集まった理由は、彼等からもたらされた凶報の共有と、今後の対応について話し合うことだ。
それとは別に今回の件で、みどり村、というか結界に新たな問題が見つかったのだが、それに関しては今回は伏せることになるかもしれない。
新たに見つかった問題とは、オーグルのようにソンチョーの許可を受けていない魔物でも、意識が無ければ入れてしまったことだ。
まだオーグルが目を覚まさないから、意識が戻った後どうなるのかは分からないけれど。
そこら辺は今後注意していく必要があるだろう。
村に入れる基準を把握し直さなければならないかもしれない。
もし、眠っているだけで入ることができるなら、悪意あるヒトが、薬なんかで眠らせた魔物を荷台に隠して運び込み、村の中で起こして暴れさせる、なんてテロ行為もできてしまうことになる。
防壁を作って門番配置して、入村検査とか必要になっちゃうのかな。
閉塞感が嫌なんだよな、防壁の中って。
全員揃うと、まずは経緯の説明から始まった。
スロークからザックリとは聞いているけれど、参加者には聞いていない者もいる。
あらためて詳しく経緯が説明されてゆく。
まずはスロークがこちら側の状況を説明する。
「街道の整備をしているときに、彼ら4人が武器を構えたまま飛び出し、攻撃してきました。
すでに彼らはかなりの怪我を負っていましたが、攻撃された以上反撃せざるを得ません。
しかし、デモンエイプの毛皮を魔物除けに所持していたにもかかわらず襲い掛かってきたこと、元々かなりの怪我を負っていたこと、他に3名が隠れていたことが確認できていた事から、殺さずに取り押さえました。」
オークからすれば圧倒的上位のデモンエイプだ、臭いで存在を感知すれば、普通なら近づきはしない。
にも関わらず襲いかかってきたということは、何か切迫した事態に陥っていたと思うしかない。
だいぶ時間がたったとはいえ、デモンエイプの毛皮が放つ匂い、魔物除けの効果はまだまだ健在だった。
オークが隠れていても、”警戒”を使っていれば丸わかりだしね、何か理由があるのではと判断したようだ。
すぐに隠れていた3人が飛び出してきて、謝罪と助命の嘆願をしてきたという。
ここまでがスロークの説明。
続いてオーク側の説明だけど、人の言葉を話せるのはパラミドだけで、かなり怯えている様子もあってなかなか要領が得なかった。
それでも、みんなじっと我慢して、たどたどしくも誠実に言葉を紡ぐパラミドの話を聞いた。
要約すると、彼らはグラン族というオークの部族で、村より5日ほど奥に入った地で200を超える大部族として暮らしてきたという。
それが、ある日突然10匹のデモンエイプの襲撃を受けた。
数ヶ月前にグラン族に流れついてきたという、不思議な力を持つオークの青年、マーコットの活躍で女性や老人、子供などの非戦闘員の多くが脱出に成功したが、多勢に無勢、激しい戦闘の中、マーコットは命を落とし、一気に形勢はデモンエイプへと傾いていった。
絶望的な戦況の中、彼らはパラミドを逃がすために脱出し、逃走を続けてきたという。
以後の部族の状況は全く分からないそうだ。
森に生息する魔物から姫を守りつつ、ようやく強敵の少ない地域にたどり着いた。
木を切り倒す音に、自分たちを受け入れてくれるオークやゴブリンの集落では?という期待と、相手が好戦的な存在でいきなり攻撃を受けるかもしれない、という緊張感から、まずは確認しようと近づいた。
しかし、デモンエイプの臭いを感知してしまった。
すでに瀕死の重傷を負っていたオーグルが、部族の仇、こここそが死に場所と飛び出し、護衛3人も続いた、ということだ。
なるほど、魔物除けが逆効果になっちゃったのね。
「でも飛び出した先にいたのは人間だよ。なんでそのまま襲い掛かったの?」
ユーキのもっともなご意見。
俺もぜひお聞きしたい。
「悪魔大猿の近く、ヒト、いたで、す。」
ほへ?
パラミドは確かに、襲い掛かって来たデモンエイプの一体と会話するヒトを見たというのだ。
逃亡してきた先でデモンエイプのにおいの原因が毛皮だとは思いもせず、もう全員で逃げ切るのは不可能だと囮として飛び出したオーグルたち。
スローク達もデモンエイプの仲間だと思い込んでしまったんだそうだ。
そう言うと、パラミドは両ひざをついて、両掌を上に向けた状態で前に差し出し、深々と頭を下げ服従の意を伝えて来た。
それに従うように他のオークも続く。
ゴブリンとはちょっと違うけど、手のひらを上に向けるのは同じなんだな。
「大丈夫、安心してください、貴方たちを受け入れますから、まずは怪我と疲れを癒してください。」
ソンチョーが服従の意を示すパラミドにやさしく話しかけ、椅子を進める。
いまだ震えが収まらない様子だからしばらくそっとしておこう。
重苦しい雰囲気は変わらず、誰もが考えこんでいる。
「まずいな・・・。」
沈黙を破るようにマルクが険しい表情でつぶやいた。
「ヒエンはデモンエイプにとっては使い走りのような存在だ、シンさん達が遭遇したっていう異常行動は、デモンエイプが関係している可能性が出てきた。」
普段ヒエンはデモンエイプから逃げるように生活しているけど、一度出会ってしまうと決して逆らえない、怯えながら従うしかない、という関係性らしい。
ってことはマルクの言う通り、今日のヒエンたちの異常行動もデモンエイプがらみなのかもしれない。
ていうか、たぶんそれ以上に俺たちと同じ異世界人がらみなんだろうなぁ。
グラン族に数ヶ月前から居着いていたという不思議な力を持つ青年マーコット。
真かな?
たぶん、俺たちと同じだと思う。
デモンエイプの裏にいるのも同じだとすると、経験値目当てで彼をターゲットにグラン族を襲ったと考えられる。
デモンエイプと会話していたヒトなんて、そうでなければチョットあり得ないもんね。
10匹のデモンエイプをテイムしたか、強い個体をテイムして、残り9体を従わせているか。
どっちにしろ厄介だし、ヒエンも参戦してくる可能性がある。
最大級の警戒をした方がいい。
すでにデモンエイプッて段階で、この世界の人間にどうこうできる問題ではないし。
一目散に逃げだしたいところだろう。
さらに重い沈黙が続く。
確実に、国が傾くレベルの脅威だ。
しばらくして、ギリョウが沈黙を破った。
「しかしな、オークの集落は5日も離れた場所なんだろう?ここまでは影響ないんじゃないか?」
「おう、そうだな、だいぶ離れとるだろう。」
リュカも同調した。
同調したい気持ちはわかる。
他の魔物ならそれも言えただろう。
誰も、この村を手放したくはないに違いない。
「伝聞だが、デモンエイプは恐ろしいほど狡猾で執念深いそうだ。このオークたちが村の近くまで来た段階で村のことに気が付いている可能性は高いな。」
ルッツがギリョウの言葉を否定した。
それは、もしあの時オークたちを殺してしまっていたとしても結果は同じだ、とも含んだ言い方だった。
顔に似合わず優しいおっさんだ。
打ちひしがれたオーク達に、住人の怒りが向かわないように気を使ったようだ。
「ヒトが絡んでるってのも腑に落ちないな。
ユーキ君みたいな力があって、デモンエイプを操ってるってことか? それともこの村の魔物たちみたいに、特殊個体が人間を頼った? いや、さすがにそれはないか。」
沈黙していたマルクが疑問を投げかけた。
彼らは俺たちのような存在がまだほかにいることを知らない。
スキルのことも。
が、今回の件で漠然と思い至ったのだろう。
常識では考えられない存在が他にもいるかも知れないと。
「村の中には許可しない魔物は入れない、そのことは変わりありません。
ただ、籠城戦となるとどれほどかかるかわからないし、知らずにやってきたカブロさんたちが被害にあう可能性もある。
あと、外から何かを投げつけられた場合に村の中に被害が出てしまう可能性も捨てきれません、なにかしらの対応は必要だと思います。」
意識がなければ許可していない魔物でも入れてしまった、という事実は、やはり伏せることにしたようだ。
「最悪村を放棄する、と言う選択肢も考えなければならないだろう、一時避難でもいい。」
スロークが、ギリョウたちへ向けて案を提示した。
村を出てサンサテへ避難してはどうか、と。
その後話は進まず、ソンチョーの発案でいったん戻ってそれぞれ話し合い、翌日もう一度会合を開く、ということになった。
村から退去するなら一刻も早い方がいい。
残るのであれば念のため、できる限り食堂で過ごしてもらうことも伝えた。
住人たちやオークが食堂を出てしばらくすると、アオイやクリフト、ユーキ達被害者の会一同と従魔達が入ってきた。
「クソ猿が群れでとかって、やってらんないっスね。」
腕を組み、珍しく神妙な顔をするユーシン。
苦い思い出のある相手、さすがのユーシンも慎重にならざるをえないようだ。
「僕たちと同じ異世界人だとすると、目的は何だろう? やっぱり、あいつと同じなのかな。」
うつむいたままユーキがつぶやいた。
奴と同じなら、また殺すことになるのか。
知らない6人にも、あの事件のことは伝えてある。
俺が殺したことも。
反応は思いもかけず、悪くなかった。
意外過ぎるほどにすんなりと受け入れられてしまったので、こちらが悩んでしまったほどだ。
「おじーちゃんが悪い人のわけないじゃない。」
アオイの一言に救われた気がした。
おじーちゃん呼びは許さないけどね!
アラフィフはまだおじーちゃんじゃないから!
最近、ゴブリンの子供たちにまで、おじーちゃん呼びする子が出始めている。
一刻も早く辞めさせねば。
と、そんなことは置いといて、これからは真面目な話し合いだ。
「しかし、デモンエイプ10匹か・・・。
バラけたところを1匹ずつ、ってわけにもいかないだろうね、奴らの速さならすぐに駆けつけてくる。」
「できれば集団で対応したいところだな。そうなれば自分の暗殺術も生きるし、互いにサポートしあえる。」
現状、他者に回復魔法を使えるのは俺だけなのでスロークの言う通り、団体同士で戦った方が勝率は高くなると思う。
弱点をカバーしあえるのは大きなアドバンテージだ。
「シンさん、俺の武器っスけど、今までのバールで慣れてたし、気にいっちゃあいるんスけど・・・本来俺のキャラが持ってた武器って、バットなんすよ。
無理だとは思うんスけど、作ってもらうことって、可能ですかね?」
ユーシンからの提案は、ちょっと俺を悩ませた。
「バットかぁ・・・正直、授業以外で持ったことすらないんだよね、球技全般苦手でさ。
ざっくりした形はわかるけど、期待に沿えるかわからないよ。
できれば、うぃきネットで寸法とか調べたいな。」
先日クソ悪魔から勝ち得た”うぃきネット”は、高額になるので使う前にみんなに相談してから、という暗黙のルールが出来上がっている。
「いいと思うよ、それでユーシンが強くなれるなら、村のためにも必要だよ。」
というソンチョーの発言通り、全会一致で許可が出た。
気合を入れて作りましょう。
そして、集団戦になった場合の役回りなどを決めていく。
村ギリギリの位置で戦うことが重要。
大きなダメージを受けたときは即村の中へ、障壁内に逃げ込んで治療。
今回は秘蔵のポーションを上限無く投入する。
この世界では使うことをはばかられる超高級品扱いのポーションだ。
ゲームじゃただの初級ポーションだから、おなかタプタプにならないと効果がいまいちかもしれないけど。
俺が回復中心に動くと火力に不安が出てしまうので、回復はポーション頼みだ。
本当にやばいときは、スローク提供のハイポーションとエクスポーション。
攻撃の要はユーシン、ライアー、マナ、アオンだ。
俺は攻撃しつつ補助も掛け持ち、スロークは隠密で隠れながら、隙を見て暗殺で確実に仕留めていってもらう。
ユーコは戦ってるところを見たことが無いけど、キャラクターの速さを生かしてかく乱役、本人もやる気なので多分大丈夫・・・かな?無理はしないように。
アオイもやる気十分なのだけど、アスクラの戦闘スタイルが・・・デモンエイプにはとてもついていけそうにないので、主にサポート役としてマスターや従魔達とチームを組んでついてもらうことにした。
ユーキ、ゴンも障壁内でサポート役、クマはユーキのボディガードだ。
問題は、バラけてやってきた場合だ。
バラけたなら余計、集団で確実に各個撃破すればいい、と思えない問題がある。
なんせ、相手にはプレイヤーが絡んでいる可能性が高い。
どんなからめ手で来るかわからない。
さらに懸念が一つ。
この障壁、もし魔物が故意に障壁に攻撃を加えた場合、ソンチョーに何かしらの影響が出ないとも限らないからだ。
ユーシンの軽トラのように、普段なんでもなく使っていることでも、過負荷がかかった場合に突然意識を失うなど起こりえる。
以前スロークを追いかけて障壁にぶつかったホーンボアとは格が違う上に10匹だ、自由にさせるのはあまりにも危険。
そうなったときは、かなりムチャでも戦う人を厳選して、最悪の場合村を放棄して脱出することも念頭に置かなけえばならない。
少しでも不向きと思えるメンバーはその時の護衛として、ソンチョーたちと行動を共にしてもらわなければ。
みどり村には、どうしても行き詰った時用の救済策、「村を破棄する」コマンドがある。
すべてを失う代わりに、新たな土地で村をやり直すことができるコマンドだ。
みどり村にはオートセーブとセーブ、2つの保存方法しか存在せず、どちらも1つづつしか記録できない。
やり直すには、村を放棄しなければならないという、なかなかきつい仕様だったのだ。
ソンチョーにはいざとなったらためらわずに使ってもらいたい。
厳選メンバーは相手の出方次第で、ということで、スロークと俺は常に広域警戒でデモンエイプの動向を探ることを決め、この日は解散となった。




