037話:冬
ここ数日雪が続き、膝上まですっぽりと埋まるようになってきた。
冬も本格的になってきたらしい。
俺が子供の頃は、東京でも毎年10cm程度の積雪があって、学校で雪合戦したりかまくら作ったりしたんだよな。
雪少なくて黒いマダラ模様だったけど。
雪がほとんど降らなくなったのはいつ頃からだろう。
その時から温暖化ってやつが影響しだしていたのかな?
とりあえず、今の俺の心境。
この世界にも温暖化プリーズ。
雪が積もり始めた頃、ちょっとだけウキウキした自分自身にマジックミサイルをお見舞いしてやりたい。
長屋の前を雪かきして、終わった頃にはスタート地点がしっかり雪に埋もれていた。
体力的には何ともないけれど、心をゴッソリすり減らされたよ。
作物は越冬が必要な小麦、玉ねぎを除いて収穫済み。
今の人数ならなんとかやりくりできるくらいは揃ったそうだ。
ハンターたちが狩ってくる肉や、冬に収穫を迎えるこの世界特有の果物とかもあるそうだから十分冬を越せると、整然と食材が積まれた貯蔵庫を見ながらマスターが言っていた。
「これなら、酒の研究に回せる分くらいはありそ」
「無いです、必要なら自分で調達して下さい。」
俺、まだ言い終わってなかったのに。
冬に採れるっていう果物に期待するか。
アパートなど先行契約分の建築も済んだ。
暖房に関しても目途がつきつつある。
うろ覚えで作った炭窯が稼働を開始して、燃料の量産を始めている。
量産できるまで何度も失敗したけどね。
窯を作って木材を入れ、火入れしたら入り口を土で塞いで酸素の供給を止める。
炎が上がらないように燃やし続ける。
そんなイメージしかなかったからさ、燃えきっちゃって消し炭になったり、半生だったり・・・もう散々。
これはヤバいと、窯を5基に増産してそれぞれ別パターンで実験、失敗を繰り返して何とか実用に足るだけの成功率を上げられるようになった。
しかし、一回の焼き上げに7日もかかるんだもん、大変だよね。
あ、俺は部屋に籠って水瓶の研究してたよ。
炭焼き実験は指示だけしてマルナーゲ。
皆さんお疲れさまでした。
水瓶の研究は俺以外無理そうだったから仕方なくだぞ。
で、マルナーゲした以上俺の方も結果を出さなければならないわけでね、けっこう頑張ったのだよ。
この水瓶、元々は地方の集落で細々と売られていた工芸品だったらしい。
模様が面白いとある行商人が自宅に置いて水入れに使っていたが、その瓶に入れておくと水がうまくなる。
しかも、お腹を壊すことが激減した、ということで、水がうまくなる水瓶として売り出したところ大ヒット、国中に広まったらしい。
散々実験して調べた結果、どうやら表面に掘られた模様の一部が偶然にも魔導印の役割を果たしていて、除菌に近い効果を発揮していることが分かった。
そんな偶然あるかなぁ~って気になったから、カブロを通じて情報を集めてもらったら、どうやらこの模様にはオリジナルがあるってことが分かった。
集落の近くで発見された小さな遺跡、そこに残されていた大きな壺らしき石の置物に掘られていた紋様が見事で、それを真似たものと言うか、そっくりそのままパクったみたい。
それに釉薬の成分がうまくマッチして原始的な魔導印としての効果を発揮していたみたいだ。
釉薬は一般的に使われているものと若干成分が違ったから、その集落独自の製法とかがあるんだろう。
ひょっとすると、遺跡時代から受け継がれた釉薬なのかな、とか考えると、うまくマッチングした理由も納得できるんだけど・・・さすがにそんなことまでは分からなかった。
ま、考えても仕方がない。
この魔導印、どうやら水に含まれる魔素に反応して稼働していたようだ。
雑菌などを分解して無毒化する魔導印。
さらに、水に含まれていた魔素が消費されることでエグみも薄れる。
問題はこれを再現できるかなんだよね。
だってさ、流通している魔導印は、どれも魔力で動くものばかり、魔素で動くものなんて一つも無い。
術式杖の、魔素を魔力に変換する印も稼働するために必要なものは使用者の魔力だもの。
比較対象が無いから読み解くなんてとてもできない。
仕方が無いので結局実験。
模様の何が魔導印になっているのかとか、どこを変えたら効果が強くなるかとか、延々と日々を費やした。
もう当分実験はしたくない。
炭窯実験組と同じくらい苦労したんだよ、うん、頑張った。
で、俺たちが実験を繰り返して四苦八苦している間、他のみんなは浄水場の建設にとりかかっていた。
だから余計に失敗できなかったのさ。
水道が通ったけど飲んじゃいけません・・・じゃあ、カッコ悪いじゃん。
浄水場は、村より10mほど高い丘の上に作られている。
クリフトがクラフトできる物の中にはポンプもあるみたいなんだけど、それを作れるようになるには高いハードルがあるみたいだ。
ということでポンプは将来の微かな希望ってことで、現状はポンプ不要でも蛇口から水道がちゃんと出るようにしなければならない。
ってことで浄水場そのものを高い位置に建造している。
浄水場は地面から10m程の高さまで貯水するようになっている。
接続したパイプラインから水を供給するので、村と水位の高低差は20m程になるわけだ。
これなら3階くらいまではそれなりの勢いで水が出るだろう。
なんでかって?
水は、水平になろうとするからだよ。
例えば、村の水道管を真っすぐ直立させた場合、何もしなくても浄水場の水位と同じ高さ、村の地面から20mまで水は登ってゆくってわけ。
4層に分けられた沈殿槽をゆっくりと通ってごみや不純物を除去していき、直径2mのパイプラインで村まで通す予定になっている。
俺のスキルで作る銅パイプよりクリフトのクラフトで作った木製パイプの方が、材料も少なく頑丈にできるようなのだ。
クラフトと言っても、オヤカタ達が切りだして削りだした筒状の木材をひもで縛るだけ。
それだけでクリフトがクラフトしたことになり、結構な圧力がかかっても水漏れしない水道管になってしまうのだ。
なんか理不尽だけど、作業丸投げできるので良しと言うことにして自分をなだめることにした。
釈然としないけどね!
ゲームチートのせいなんだから納得するしかない。
下水の先には浄水設備も同時進行で作っている。
熱帯魚なんかで使うろ過機のような仕組みにするそうだ。
3層構造で、沈殿槽は1つ、大きなごみが流れてこないしね。
後はバクテリアが繁殖しやすい環境を作って有機物を分解してもらう濾過槽が一つ、最後に、大きなパイプを折り畳むように設置、長距離を水が流れるようにした特殊な槽につながる。
パイプの中にはバクテリアが生息しやすいような環境を整えてある。
ただし、空気が入らない構造になっているのが特徴。
空気の無いパイプラインを長距離流すことでバクテリアが酸素を消費、程なく無酸素状態となる槽を作る。
酸素が苦手なバクテリア、嫌気性バクテリアとかいうやつを繁殖させることが目的で、こいつらが過剰な栄養を分解してくれるんだって。
藻の異常発生とかを抑えるためにやっといた方が良いって言ってた。
その後用水路に流すんだそうだ。
村の中は道を掘って上下水道を埋め込む。
ブー垂れるアオイをなだめすかしての工事。
当然俺は避難だ、巻き込まれてはたまらない。
で、俺が研究中の浄化システムはクリフトがクラフトしたことになっている蛇口に仕込む予定。
少々大きくなってしまうけど、蛇口のコックに魔導印を仕込んで、触れている間は魔力を使って浄化する。
水を出している間触れ続けて魔力も消費しつづけないといけないけど、蛇口から出る水の浄化程度ならごくわずかな魔力で済むので誰でも使えるのだ。
最初は浄水場の最終濾過槽に魔導印を組み込んでしまえばいいんじゃないかと思ったんだけど、クリフトからNGを食らった。
浄水場から各蛇口までの間に水が傷んじゃうんだそうだ。
そう言えば何かで見たことあったな、レジオネラ菌だっけ?どこにでもいて、増殖しすぎると人の命を奪うこともあるっていう細菌。
そういえば、日本の水道水にはそう言った細菌が増殖しないように塩素が入っていた。
てことで、水を使う直前の蛇口で浄化しようということになったんだ。
結構面倒だけど、安全第一ってことでね。
そんな感じで、冬も半ばを過ぎる頃にはインフラの大半が完成した。
最初あっけにとられていた職人組も慣れたもので、あきれるほどの速度で進行していく工事をよそに、作業場や鍜治場、食堂などが作られていく。
中でも実験によって構造なんかが確定した炭焼き窯は、彼らに託されて最優先で作られ、現在絶賛フル稼働中。
そうそう、ごり押しで浴場も作ったよ。
薪で沸かすタイプだけど、農作業組が手持無沙汰なので材料の切り出しとか頑張ってもらった。
組み立てはスキル持ちがやらないとならないのが不便だよね。
村の整備が落ち着いてくると気持ちにも余裕が出てくるもので、久しぶりにレベルアップに励んでみようか、なんて気にもなってくる。
レベル60になれば第二貯蔵庫も開放されて資材も装備もより良いものが出てくるかもしれないし、貯蔵庫内部の時間経過も現実通りになる。
マスターとマナに声をかけて、従魔も一緒にパワーレベリングとしゃれこもう。
「なんだか、ズルしてるみたいで申し訳ないですね。」
マスターは恐縮しっぱなしだ。
「いやいや、この辺りは魔物も強いから、それなりに上げとかないと戦いにならないからね。」
午前中のレベリングで現在マスターのレベルは15、ステータスを聞いたけど、エイルヴァーンとは全く基準が違うので当てにならない。
とりあえず30まで上げて、サポートしつつ戦ってもらって様子を見るしかない。
マナの方は、ゲーム自体レベルが10までしかない。
ストーリー仕立てのゲームで、10章に分けられた構成のドラマチックRPG。
章ごとに必要以上の経験値が入らないような作りになっていて、不要な戦闘は避けられる構成になっていたそうだ。
その分レベルアップによる成長も大きい、たった一レベルで別キャラみたいに強くなる。
ただ、敵も同様に強くなるし雑魚ですら結構強い、プレイヤースキルを必要とされたゲームだ。
物静かでおとなしいイメージの彼女だったけど、戦闘になるとなんとも頼もしい。
まさに流れるような動きで全く危なさの無い、完璧な戦い方だった。
従魔たちも順調にレベルを上げて現在レベル30、そろそろ戦闘に参加させてもいい頃か。
なんて思い始めた頃、
ずずぅ~ん・・・
遠くに地響きのような音が聞こえる。
スロークやユーキ、ユーシン達が森の外へつながる道の拡充を行っている音だろう。
結構離れていたと思ったけど、いつの間にか音が聞こえるところまで近くに来てしまったようだ。
小気味の良い斧の音が絶えず聞こえる。
頑張ってるなぁ。
俺たちも負けないように頑張らなきゃな。
マスターは夕食の支度があるので、夕方前に切り上げなければならない。
それまではひたすらバトルだ。
今日のマスターの目標はレベル30。
そこまで到達すれば、氷結をはじめとした自然エネルギー系の魔法が解禁されるのだ。
木製の躯体に、外周部分だけ金属で覆って鋭く研いだ特製スプーンをぶんぶん振り回して戦うマスター。
シュールだ。
まぁ、ハッキリ言ってマスターは性格的に戦闘向きではない。
危なっかしいところも多々あったので、俺の役目はもっぱらマスターのサポートになってしまった。
もちろん夕方には目標であるレベル30に到達した。
早くていいなぁ。
翌日からはマスターも本格的に戦闘に参加した。
背丈ほどもある巨大なスプーンでひたすら殴るという戦闘スタイルに、魔法を織り交ぜて慣らしてゆく。
俺は、マスター用に新しく金属製のスプーンを作ってみた。
当然相当な重量だった。
スプーンだけに、先端が大きく重いから持ち上がらないんじゃないかって不安だったけど、ゲームの補正だろうか、マスターは難なく振り回していた。
最初からこれにすればよかった。
持ち上がらないんじゃないかって、躯体を木で作ったり無駄な苦労をしてしまったよ。
マッキーアイランドはターン制のバトル。
だから単調な動きでいいんだろうけど、ここではそうもいかない。
同格以上の相手には厳しいだろう。
とはいえ、マスターのレベリングは戦闘能力の向上を目的にしたものじゃあない。
ゲーム特有の地水火風のファンシーな魔法が調理にも役立ちそうだって言ってたから、それらを解禁させるのが目的だ。
使えるようになったら、レベリングよりも魔法での調理研究を頑張ってもらう。
おいしいご飯は明日の活力だし。
「それにしても、シンさんのおかげで生き残れただけじゃなく絶望からも救っていただいたんだから、感謝してもしきれませんよ。」
マスターから感謝されたのは何度目だろう、こっちが恐縮してしまうよ。
この世界の食べ物に含まれる魔素の味、料理人の彼にとっては絶望するほかなかったんだろう。
とにかく感謝されまくっている。
「わたしも、シンさんの鏡が無かったらどうなっていたか分からない。」
機械だったマナの体も、この世界では受け入れられなかっただろうなあ。
アオイとは違った意味でありえない存在だったからな、他のメンツは・・・まぁ、ごまかしきれないわけじゃないけど、やっぱり生きにくかったろうな。
「シンさんの料理も食べてみたいですね。
すごいスキルを持ってるんでしょう?」
「いやぁ、完全にスキル頼みだからねぇ、ゲームの食材があればいろいろ作れるけど、この世界だとほとんど存在しない食材だから再現できないよ。
ドラゴンの肉とか、満月草の葉とかさ。
向こうじゃジャンクフードにまみれた生活だったからね、全く期待しないで。
無理やり作っても素人料理に毛が生えた程度にしかならないよ。」
なんて話しながらのレベリング、マスターがレベル40になって料理に使えそうな魔法をあらかた覚えると、予定通り戦闘から離脱した。
これからは魔法を調理に応用するためのコントロール訓練だ。
マスターが抜けた分、今度はライアーが入ってレベリング続行。
ライアーも格闘系ゲームでレベルは無いけど、ユーシン同様必殺技やコンボの連結には習熟が必要で、強くなるには実戦が欠かせない。
練習相手のユーシンが街道整備にかかりきりなので、こちらに参加してきたのだ。
ライアーが参加するようになって数日、
「できれば集団戦とか経験してみたいな。」
とライアーが言い出した。
確かに、集団戦は格闘ゲームではシステム外の状態だし、その場になったらどう影響するか分からない。
経験しておくにこしたことは無い。
翌日、ハンターのマルクに聞いてヒエンの生息地へ行ってみることにした。
集団で格上の魔物を狩るという猿の魔物だ。
単体ではそれほど強くないが、集団戦はお手の物、ということで訓練相手にはよいだろう。
と、思ったんだけどね。
「ちょっと!なんだよこいつら、多過ぎなんてもんじゃないだろ。」
最初こそ順調だったものの、あれよという間に100を超えるヒエンが集まってコンボ練習どころの騒ぎじゃない。
木を支点に立体起動戦を楽しんでいたライアーも、何匹ものヒエンに取りつかれて四苦八苦している。
「ムリ・・・。」
マナも群がるヒエンに辟易といった状態。
流れるような動きで切り裂いていく戦闘スタイルのはずが、飛び込んでくるヒエンに邪魔されて技が出せないようだ。
まぁ、訓練だからね、頑張ってくれたまえ。
手伝わないよ、だって・・・俺も手一杯。
ダメージはほぼ無いけどうっとおしい。
遠出になるからと従魔達を連れてこなくてよかった。
しかしおかしいぞ、ヒエンの群れはせいぜい30~40程度のはずなのに。
「ぬぅう~、しょうがない。やりたくないけど・・・。」
いててて、なんだ?ライアー、なんかやるの?なら早くして。
と、ライアーの体が燃え上がった。
あ、そういえばあったな、全身発火で相手を燃やすカウンター技。
ライアーに群がっていたヒエンたちが炎にまかれてボタボタと落ちてくる。
炎の玉になったライアーは、そのまま木々を飛び回ってヒエンを焼いていく。
ふ~ん、あれってカウンター技だけじゃなかったんだ。
10匹ほどのヒエンにかみつかれながら飛び回る炎の玉を眺めていると、すぐ隣で何かが光った。
ギェア
ギィー
体に穴をあけたヒエンたちがのたうち回っている。
マナのビーム砲だ。
結構疲れるって言ってたけど、なんか、ブちぎれたのか撃ちまくってる。
阿鼻叫喚って感じになって来たな。
俺に取りついているヒエンたちも攻撃をやめて怯えている・・・気がする。
やっぱり、なんかおかしいな。
なんで逃げ出さないんだろう?
あ、とりあえず君たちもいい加減にしてね。
取りつくヒエンたちを振り落とす。
逃げるなら逃げなさいってつもりだったけど、我に返ったように襲い掛かって来たので切り捨てた。
ナムナム。
結局ヒエンたちは全滅するまで攻撃をやめなかった。
やっぱり変だ。
「つかれた。」
肩で息をしながらへたり込んだマナ。
無表情に撃ちまくるあなた、ちょっと怖かったです。
「ウザ過ぎだよね。」
降りて来たライアーは・・・スッポンポンだった。
「露出狂?」
いやいや、マナさん、いくら相手が子供だからって、丸出し相手に冷静ね。
あ、看護師さんだったか。
「あの技使うといつもなんだよね、燃えない服とかないかな。」
うん、それはわかったけど、ちょっとくらい隠そうよ。
ライアーがおかしな方向に進むといけないんで慌てて貯蔵庫からローブを取り出して渡した。
「なんか、露出狂が好きそうな服だね。」
あぁ、計らずも・・・そんなつもりないからね。
「そっちの道はこの世界でも駄目だと思うぞ。」
一応ツッコんでおく。
「なんだ、残念。」
残念がっちゃダメ!
「そうね・・・そういう人は・・・切り落としてもいいんだよね。」
なにを?ねぇ、なにを?
あ、ライアー隠した。
マナさん怖ぇ、絶対怒らしちゃだめだな、だよね。
無言でライアーとうなずきあった。
日はまだ高いけど、ライアー露出癖化阻止のためいったん帰村。
燃えない服をオリヒメに相談してみるか・・・って、無理だよな。
なんてことを考えていた時、村の入り口方向が騒がしくなってきた。
おろ?軽トラがもう戻ってきた。
ここのところ、街道整備でユーシン達は朝早く出ると日暮れまで戻ってこなかったのに。
「シンさーん!助けてほしいっス~。」
なんか、ただ事じゃない雰囲気だな。
次から次へとまったくもう。
駆け寄ってみると、荷台からスロークが出てきた。
「すいません!シンさん、回復魔法お願いします。」
と言いながら荷台に。
そこには、血まみれのオークが。
オヤカタ?!
じゃない、見たことないオークだ。
「すいません、自分は自己回復系しか有効にしてなくて、今は応急処置くらいしか・・・。」
エイルヴァーンでは、覚えたことのある他系統の魔法やスキルを系統ごとに5つまで有効にできる。
シングルゲームなので範囲系や仲間の回復魔法を有効にするプレイヤーはあまりいない。
従属する従魔やNPCはポーションさえ所持させていれば勝手に回復するからだ。
まずいな、ここで回復系の上位魔法はさすがに目立つ。
「とりあえずソンチョー宅に!他のみんなは?」
「アオンが引く馬車で戻ってきている、怪我をしている者はいない。」
とりあえず安心か。
ソンチョー宅に駆け込むと、ハイヒールとヒール、ライトヒールを次々にかけた。
エイルヴァーンの回復魔法は上限値固定で、かつ最大生命力に対してのパーセンテージで回復する仕様だ。ハイ・ヒールの回復量は25%、瀕死のオークを回復させるには4回はかけないといけないけど、クールタイムが1分と長い。
ヒールが15%、ライトヒールが10%なので、とりあえずは危険な状態は脱しただろう。
オークには悪いけど、完全回復させるとハンターや職人たちへの説明が面倒になるので今はここまでで耐えてもらおう。
で、なんでオークが?
「かなりまずいことになりそうなんだ。」
スロークの口調が、かつてない緊張感を感じさせた。




