027話:問題山積
さて、問題だ。
2週間で守護神像と祭壇を仕立て上げなきゃならん。
ユーシンに責任を取って何とかさせたいところだけどたぶん無理だ。
なので魔素抜かずメシの刑を執行した。
どうしたものかな。
ただ像を作ればいいってもんじゃない、この場所を安全に守護する何か、を感じさせないと。
さらに10人分の住居も必要だぞ、えらいこっちゃ。
解決する問題より発生する問題の方が多いって、どういうことよ。
と、もう一つ。
問題なのかは別として、ちょっと気になることがある。
「何か心配事?」
皆が分かれた後、周りに人がいないことを確認してユーキに声をかけた。
どうも、昨夜の夕食前から元気が無いように感じる。
今朝も、ユーシンのやらかしに全くといっていいほど反応していない。
「・・・僕、本当に女の子になっちゃってるのかな。」
少し時間をおいて、意を決したようにつぶやいた内容は意外なものだった。
「え、なんで?」
普段から男の恰好をしているし、しゃべり方も女の子っぽさは無い。
・・・いや、ひょっとすると変化が起こっているのかもしれない。
俺やユーシンが感じている違和感。
混ぜられた(?)という魂の影響なのか、それとも使っていたゲームキャラの影響なのか、微妙な違和感。
それをユーキも実感し始めたのかもしれない。
「カブロさんにバレちゃったんだ・・・男所帯の中で大変だね、って。
ひょっとして、自分じゃ気が付かないうちに仕草とか、そういったものが女性化してきてるんじゃないかって、不安になってしまって。」
なるほど・・・カブロは商人だし、特別そういったことに気が付きやすいんじゃないかなって気はするけれど、それでも今のユーキを見て女性であることに気が付いたってことは、カブロ以外にも気が付く者が出てきてもおかしくないだろう。
自分自身で違和感に気が付くだけではないんだな。
ユーキの例は特殊かもしれないけれど。
真剣に悩んでいるユーキに適当なことも言えず答えられないでいると、
「ごめん、変なことで気を遣わせちゃって。
まぁ、護衛の人たちには気が付かれてなかったみたいだから。」
といって、アオンたちと木の伐採を手伝うために奥へと向かっていった。
う~ん。
たぶん、あれならユーキの悩みを解決できるかもしれない。
たぶんじゃないな、なんせクソ悪魔のお墨付きだ。
ただ、それには第一貯蔵庫に入らなければならない。
チクリと胸が痛む。
スロークが持っていればよかったんだけれど、彼はデフォルトのままのキャラメイクに満足していたようで、定番ともいえるあのMODを導入していないと言っていた。
いつまでも逃げ続けるわけにはいかないか。
覚悟を決めよう。
「よし、今夜話そう。」
声に出すことで、一歩前に踏み出せる気がした。
夕食後、皆のいる前で、まずユーキに土下座した。
「な、どーしたんスか、シンさん。」
派手に驚くユーシン。
ユーキも、他の二人もあっけにとられいている。
「突然ごめん。
ユーキ、謝らなければならないことがあるんだ。
それに、皆にも話さなきゃならないことがある。」
そうして、まずユーキの悩みを解決できるだろうアイテムを俺が所持していることを打ち明けた。
そもそも基になるゲームが違うのに利用できるのか不明だから危険ではないか、との疑問もあった。
普通ならそう思うところだが、両替機問題の時に、ユーキが女性化してしまっていることのクレームに対するクソ悪魔の返答が、そのアイテムが利用可能だということを示唆していた。
襲撃者を殺したことでレベルがありえないほど上がったこと、その事実を確認した時、ありえないことに高揚感を覚えてしまったこと、そのことで自分自身への嫌悪感と、恐怖にとらわれてしまったことを話した。
4人とも真剣に、俺の告白を聞いてくれた。
「第1貯蔵庫の中にあるんだ。
でも、それを、というか、殺したことで得たスキルや魔法を使うことで、人殺しそのものを肯定してしまうような気がして使えなかった。」
すべて話して、自分だけでなんだかスッキリしてしまった。
こんなことでいいのだろうか。
不謹慎だけれども、そう思ってしまった。
これまでため込んでいた靄が取れた気がする。
今ならどんな叱責も受け入れられる。
そんな気がする。
「ちょっと良いスか?」
静まる室内に場違いなほどあっけらかんとしたユーシンの声。
「シンさんは襲ってきたやつを撃退しただけスよね?
殺しに来てるやつを殺っちまったからって、シンさんが罪の意識みたいなの感じるって、おかしくないスか?
超レベルアップ大歓迎じゃないスか、何の落ち度もない奴相手ならまだしも、殺しに来た相手スよ。
情けは無用だし、その結果仲間守れて経験値ドバーなら、おいしく頂いちゃっていいんじゃないスか?」
・・・え?
「まぁ、ユーシンの言うことはちょっと極論的な感じもするけど、罪の意識なんて感じる必要は無いと思うよ。
みんなを守ってくれたことは間違いないんだから。」
「あの時も言ったけど、あれは自分がやるべきことだった。
もし同じようなことがあったらもうためらわないと誓えるし、後悔する気も無い。
レベルアップに苦労していたシンさんなら、大きなレベルアップに高揚するのはおかしなことじゃないさ。」
ソンチョーもスロークも気づかってくれる。
「すいません、僕があの時煮え切らない態度をとってしまったせいで、シンさんが悩まれていたなんて。」
「あ、いや、ユーキのせいじゃないよ。
そもそもあの後、俺は村を出るつもりだったんだし。」
「それでも、です。
僕も頭ではわかっていたのに感情が付いてこれなくて。
今も、今朝のことで悩ませてしまったんですよね。」
ユーキは俺の真正面に正座して、まっすぐ俺の目を見ながら言うと、頭を下げた。
「お願いします。
今じゃなくていいです。
シンさんが心の底から吹っ切れたら、僕にそのアイテムを使わせてください。」
そう言って頭を下げるユーキに、
「今から使うんだよ。
そのつもりでみんなに話したんだ。」
そう言って立ち上がった。
なんだか、今まで悩んできたのが馬鹿らしく思えるほどスッキリしている。
俺は、良い仲間に出会えたんだな。
右手を壁の少し手前に向けて、第一貯蔵庫を発動する。
手の先に頑丈そうな扉が出現する。
簡易貯蔵庫より豪華で頑丈そうなのは”簡易”じゃないからか?
「実は、そのアイテムと金庫と、いくつかの装備品以外は何が入ってるか覚えてないんだ。
メインで使っていたのは第3貯蔵庫と第4貯蔵庫だったから。」
そう言って、ドアを開けて中に入る。
ゲームでは100個のアイテム枠があるだけだったけど。
「なにこれ。」
すでに第一貯蔵庫を開放していたスロークから、第一貯蔵庫は体育館位ある空間だったと聞いてはいたけど・・・それは実感できなかった。
なんせ壁も見えないほどギッシリと物が詰まっていたのだから。
木材に石材、レンガ、鉄や鋼、銅のインゴットに、積み上げられた大量の木箱。
こんなに大量に入れた記憶は無いけど、一体何がどうなってる?
と、詰め込まれた資材をよけながら中を歩いて見回る。
これ、ひょっとして、拠点用の資材?
いやいや、拠点が完成してからは資材関係は処分してしまったはず、残っているはずがない。
訳も分からず、とりあえずユーキのためのアイテム、キャラメイクをやり直せる“姿見の鏡台”を探して回る。
すると、鏡台を見つける前にこの資材が何なのかが判明するものを見つけた。
「あの悪魔、何てことしてくれる」
貯蔵庫の最奥にあったそれは、拠点の玄関ホールに展示してあった天使の彫像だった。
実際の天使が悪魔の呪いで彫像になったもので一点物、といういわくありげな存在でありながら、天使を救うためのクエストが発生するわけでもなく、像の周囲半径10mに弱い回復を付与するだけという何とも微妙なアイテムだった。
ただ非常に凝った造形で、淡い光を放つエフェクトが気に入って飾っていたのだ。
これがここにあるっていうことは・・・。
「苦労して作った拠点をバラシて詰め込みやがったのか・・・」
唖然、呆然・・・どう表現したらいいんだ?この感情は。
いくら何でもバラシて詰め込むってどういうことよ?
これ、第一貯蔵庫だけに収まるはずが無いよな・・・。
第二貯蔵庫以降にもみっちり詰め込まれてるのか?
簡易貯蔵庫に無かったのは、簡易貯蔵庫はあくまでもMODで導入した物だからか?
意味がわかりませぬ。
なんにせよ、整理だけでどれだけかかるだろう・・・全部村づくりに流用してしまおうかな?それならまぁ、多少は許せる。
むしろ大助かり?
でもあのクソ悪魔に感謝とかしたくないんだよなぁ。
結局、鏡台を探し出すのにとんでもなく時間がかかってしまい、外で待つ皆を大いに心配させてしまった。
「拠点をバラシて詰め込まれてるって・・・。
拠点にはあこがれていたけど、作ってなくてよかったと思うよ。」
心の底からホッとしないでくれ、スローク。
「ユーキ、これがアイテムの鏡台、ゲーム開始後でも自由にキャラメイクがやり直せるものだよ。
で、こっちは天使像、守護神像役にピッタリじゃないかと思って。」
天使像はゲームのエフェクトと同じ淡い光を放っている。
「なるほど、これって三大残念アイテムのひとつだったよな。」
エイルヴァーンにおいて存在した、3つの超微妙アイテム。
エイルヴァーンには、あらゆるものに隠しクエストだとか隠し効果だとかが設定されていて、謎解きのようにそれらを解明することがブームになった時期があった。
例えば、廃村に隣接した墓地の、何の変哲もない一つの墓標を21回攻撃すると特殊職の死霊使いが解放されたり、遺跡で見つかったボロボロの剣を13回修復すると、耐久値が255(通常は50くらいでかなり頑丈と言える)というとてつもなく頑丈な剣になったり。
三大残念に数えられるアイテムには、どれもいわくありげな説明書きがあり、造形も凝りに凝った、いかにも何かありますよって感じさせるうえ、不釣り合いに微妙すぎる付与効果のおかげで様々な憶測を呼んだ。
裏クエストのキーアイテムだとか、覚醒イベントがあって最上級アイテムに変化するに違いないとか、多くのプレイヤーを巻き込んで真相を暴けと騒動になった。
が、結局誰一人何も引き出せず、いつしか“3大残念”と呼ばれるようになってしまった悲しき存在である。
「これって不壊アイテムだし、一度設置すると設置した本人以外には動かせないから、広場予定地の中央にでも置いて飾ればいいかなって思うんだけど。」
休憩にもいいよね。
弱いけど周囲に回復効果あるし。
「野ざらしはやばくないっスか。」
「石材とかもあるからそれっぽく飾って屋根もつけようか。」
ユーキと守護神像という2つの問題が解決したけど、また2つやることができてしまった。
で、ユーキはというと。
「変わってないじゃないスか。」
うん、見た目変わってないんだけど、まさか使えなかった?
「いきなり全く違っちゃったら、カブロさんやベリッサさんが混乱するだろ。
だから今回は性別変えただけ。
何度も使えるみたいだから、時間を見ながら身長伸ばしたり、少しずつ変えていくよ。」
それもそうか。
じゃあ、これはユーキがいつでも使えるようにソンチョー宅に設置させてもらおう。
翌日からはオヤカタと天使像、もとい守護神像を設置する祭壇っぽい台を作る。
とにかく乱雑に押し込まれた資材から使えそうなものを探すのに時間を取られて、初日は材料の運び出しだけで終わってしまった。
ユーシン、ユーキ、スローク、トウリョーはハンターが寝泊まりする家と、カブロ一行が滞在する家を作るためのスペース確保に村の入り口周辺の木を伐採し、根を掘り起こしている。
ソンチョーはゴブリン用の小屋の発注、畑の手入れなどみどり村の機能でできることを中心に忙しく動き回っている。
そして、最初の接触から10日後、再びハゾルが村にやって来た。
「君たちを受け入れることを決定したよ。
ただし、ただ保護するわけじゃない、君たちも村の一員として、働いたり学んだりしてもらうことになる。
当然、村のルールには従ってもらうことにもなるけどいいかな。」
代表としてソンチョーがハゾルに村での注意事項などを伝える。
ハダ族は元々100人ほどの村だったそうだけど、デモンエイプの襲来で多くが餌食になり、現在は30人ほどにまで減ってしまっているそうだ。
女、子供がほとんどで、若干名の狩猟班と老人が残るだけだという。
インフラ整備の戦力にはならないかな、と思ったけど、ゴブリンの村では住居を作るのはもっぱら女の仕事なんだそうだ。
ということで、力仕事も任せてくれとのこと、頼もしい。
男の役目はとにかく狩猟に出ること。
が、帰らないものも少なくないうえケガして戻る者が多く、回復するとすぐまた狩猟へと、かなりハードな生活をしていたんだそうだ。
結果的に成人以上の男は常に不足していた。
そのためか、ハダ族には結婚という概念そのものが無かった。
ひょっとすると、ゴブリン全体もそうなのかもしれないな。
男は次々に命を落としてゆくので、部族の存続のためにも決まった相手、伴侶をつくらないってことらしい。
世知辛いなぁ。
住居はテントのようなものなので、移住に際しても解体して持ち込んでくるという。
しばらくはそれで過ごしてもらって、おいおいちゃんとした住居を増やしていこう。
受け入れ人数は少しずつ増やしていこうという予定だったけど、戦える者があまりに少ないし、全体数も予想よりかなり少ないので時間をかけると何かあったら不安だ、というソンチョーの気遣いで一気に受け入れてしまうことになった。
当面の教育係はソンチョーとユーキ、言葉と村での暮らし方などを覚えてもらい、その後適性のありそうな仕事を割り振って得意な人の下で覚えてもらう。
子供たちにも読み書きと簡単な算数程度は教育する。
その程度ならそれほど差が出ないはずだしね。
先生はもちろんポスドクだったソンチョーだ。
ハゾルは涙を流しながら感謝を伝え、準備を整えて10日ほどでゴブリンたちを連れてくると言い残して部族に戻っていった。
人手も増えることだし、久しぶりにガチャを、ということでガチャにトラウマがあるらしいスロークを除く4人で両替機の前に。
む?
自販機に、明らかに不審な装飾が。
<<驚異の激レア素材排出量2倍!>> <<10回連続で1回分サービス期間中>>
「こりゃだめだ、やめとこう。」
即決案件が発生しました。
「なんでっスか?2倍スよ、チャンスじゃないっスか。」
隣でユーキもうなずいている。
しかし騙されちゃいかんのだ。
「激レア素材って何さ。」
「む・・・・」
「排出量は何%?」
「ぬ・・・・」
「激レア素材ってのが何か提示されてないでしょ。
例えば、聞いたことも無いような貴重なだけでうまくも無いものだったら?それに、排出率2倍って、元々の排出率が分からないのに2倍言われてもね。
激レアが最高素材だったとしたら、その排出率が10%で、それの2倍っていうならやる価値あるけど、排出率0.1%だったとしたら、2倍でも通常とほぼ何も変わらないからね。
しかも、ガチャの1%は100回やれば1個確定って意味じゃないんだ。
あくまでも1/100のガチャを100回回すだけだから、1000回やっても当たらないなんてことも有りだからね。」
ガチャとはあくまでも過剰課金促進システムなのだ。
「・・・恐ろしい・・・悪意の塊だね。」
ユーキは理解してくれたようだ。
ちょっと、絵面的によろしくない表情で両替機を見ている。
「そうかもしれないっスけど、でも回さないと調味料とか手に入んないっスよね。
なら今の方がまだいいんじゃないスか?」
ユーシンは前向きだよね。
普段と何も変わらない、どころか、普段より厄介かもしれないって言うのに。
「「ほんとにねぇ・・・。
なんでもっとガチャらないんです?せっかくスバラシイ集き、ん~、配布システムのボーナス期間なのに。」」
集金って言いかけたな、コイツ。
「本音でてんじゃねーか、ボッタくり悪魔。
何が出るかも、確率も提示されていないんじゃ課金する気にならん。
提示しろ、提示したら考えんでもない。」
やっぱり出てきたクソ悪魔にさっそく要求だ。
こんなことした以上は、ガチャを回させたいのは間違いない。
目の前でガチャを阻止しようとすれば出てくると思ってたよ。
「「仕方ありませんねぇ。」」
と言って提示された票を見ると…
「うわぁ・・・。」
全員ドン引きの内容だった。
レア度はコモンから激レアまでの5種類、激レアは確率0.01%だった。
ちなみにコモンは80%だ。
「うん、シンさんの言う通りガチャはやめよう。」
ソンチョーの一言で慌てた悪魔(俺がそう感じただけかもしれないけど)。
「「ちなみに、どの程度ならガチャを回すんで?」」
いかにも興味無さそうなそぶりが芝居臭いぞ、大根役者。
「コモン30%、アンコモン25%、レア20%,超レア15%、激レア10%が妥当かな。」
さすがにこんな好条件は無理だろうけど、一応言ってみた。
「「それはいくらなんでも・・・」」
ん?なんか今日のクソ悪魔は弱気だな。
何かあったのか?
「「40、25、20、12、3ではどうでしょう。」」
ガチャとしては十分なレベル。
問題ないけど、即答してはいけない。
排出される内容と見比べながら、しばらく考えるフリをする。
散々もったいつけてもう一歩妥協を引き出したいところだけれど、頭の中を覗けるクソ悪魔には通用しないかもしれないな。
ならここで手を打ってしまうしかないかな。
「しかたない、妥協しよう。
余計な増量期間とかいらないから、確実に確率を守ってくれればそれなりに利用する。」
ムスッと、仕方なく妥協したって雰囲気で答えた。
俺もたいがい大根役者だ。
「あ、それと、作物の育成がゲームと違いすぎるんだけどどうなってんの?」
ついでにクレームも入れておく。
「「良い肥料を使わないからですよ。
ゲーム通りの期間で収穫したいなら最上級肥料をお使いください。
高級肥料で最上級を使ったときの倍、上級で3倍、普通なら現実通りです。
では、よろしく。」」
これ以上クレームに付き合いきれないとばかりに悪魔は消えた。
完全勝利だ。
なんか気分が良い。
けど、ちょっと気になるな、何となく、不快感、というか、得体の知れなさが少なかったような…大丈夫かな、あいつ。
ま、いいか。
「じゃあ、俺はガチャ運悪いんで後はソンチョーにお任せします。」
と言って、ハンター小屋の建設に合流するために両替機を後にした。




