026話:行商人
商人到着予定日の昼頃、伝令としてユーシン達より先行してゴンが戻って来た。
ユーキに託されたらしい手紙によると、やってくるのは商人1人と護衛5人、一応テントを持参しているとのこと。
ソンチョーがいつの間にか、というか、俺たちが伐採に集中している間に俺たちが住んでいた住宅(中)を増築、3部屋から4部屋になっていた。
滞在中はその住宅を使ってもらう。
部屋割りは自分たちで決めてもらおう。
従魔たちにはとりあえず行商人の目につかないように長屋に入ってもらって、取引用の干し肉も準備する。
「あ!」
ソンチョーの「あ」は最近ちょっと心臓に悪いんですが。
「酢とトウガラシ、売れないかな。」
あぁ、外れガチャか。
市場でトウガラシっぽい香辛料があったから、売れるんじゃないかな。
「酢は難しいだろうなぁ。この世界、調味料はかなり未熟だから。」
そうなんだよね、売るにはまず味を知ってもらうことから始めないといけない。
でも、酢だけじゃなぁ・・・エグみは無くても酸っぱいだけだし・・・ピクルスとか作ってみるか?
「入れ物も問題だろうな、ペットボトルはいくら何でもマズイ。」
スロークの指摘ももっともだ。
「そうか。じゃぁ、酢はまた今度だね。トウガラシは袋に移し替えればいけるかな。」
なんせ、酢が10リットル、トウガラシが5kgも残ってる。
何とか手を変え品を変え、使うようにしてるけどまったく減らない。
売れるなら処分したいけどね。
ゴンが戻ってから、体感で30分ほどで商人を連れたユーシン達が戻って来た。
馬車の旅は相当つらかったんだろう、ユーキは荷台でグロッキーだ。
村に入って来た時ユーシンがぴくッとした気がしたけど、なにかあったのかな?
「母がお世話になっています、カブロと申します。」
丁寧に挨拶してきた商人のカブロ氏は、見上げるほどガタイのいい青年だった。2m近くあるんじゃないかな。
ベッド小さすぎるな。
「あぁ、ベッドのことならお構いなく、持参してますので。」
いかん、顔に出てたか?
「で、早速なんですが、干し肉・・・どの程度ご用意いただけましたでしょうか。」
なんでも、通常の干し肉の倍額で出した美味干し肉は初日こそ警戒されて売れ行きが良くなかったものの、翌日には初日に試した客が買いあさりあっという間に完売、5割増しで売った下のランクの旨干し肉も瞬く間に売り切れ、前回納品した分も速攻で完売となったそうだ。
「それでですね、お恥ずかしい話なんですが、私もまだ食べたことが無いものでして、できれば・・・。」
あれ?ここまでの道中ユーシン達から貰わなかったかな?
「僕たちが持ってたのは完成版なんで、マズイかなと思って道中は出さなかったんです。」
と、すかさずユーキが小声でフォローしてくれた。
あ、そうか、気が付かなかった。
ユーキについて行ってもらってよかったよ。
でもそれなら、さらにやる気を出してもらうためにも完全版をふるまってやろうではないか。
「これはまだ研究中で販売できる目途はまだ立っていないんですが。」
と前置きは忘れずに。
「これを量産できるようにすることが目標なんですよ。」
と、普段自分たちが食べている完全魔素抜き、煮込んでもいない干し肉を一枚手渡す。
どうせなんで護衛の皆さんにもちょっとずつ。
一口で完全勝利を確信する反応アザース。
売りに出す干し肉は30Kg、他には魔石やトウガラシを用意した。
交渉その他はソンチョーに丸投げして、俺は長屋でユーシンとユーキにゴブリンのことを相談した。
ユーシンは即決賛成、ユーキはちょっと考えていたけど、今日合わせる予定のオリヒメへの反応次第で賛成してくれるという。
引き合わせるための雰囲気づくりというか、そこら辺の調整はコミュ力高いユーシンと、いろいろ気が利くユーキに任せた。
仕事とゲームの話しかできない俺には無理だ。
護衛たちはスロークが相手をしている。
村産、ということにしているミード(実は買って来たものを魔素抜きしただけ)を振舞って、普段の狩りとかの話をしてもらっている。
俺は食事の準備。
完成した地下貯蔵庫には日に三回、コールドの魔法を数回ずつかけているので冷蔵庫並みに冷え冷えだ。
食事、ちょっと悩んだけど、これはもう、ガッツリ胃袋をつかんでしまうことにした。
その方がゴブリンの件もうまくいくんじゃないかと。
もったいない気もするけど、ダークブルも出そうじゃないか。
牛肉と言ったらやっぱりステーキだよな。
彼らからしたらゲテモノだろうけど、肉と言ったら干し肉か煮込みしか知らないこの世界の住人に新しい世界を見せてやろうではないか。
くそう、大根と醤油、できれば塩コショウが欲しい。
肉はおろし醤油で食べるのが最高なんだよなぁ。
巷で韓国焼き肉が流行る中、おろし醤油派の俺はゲーム画面眺めながら自宅焼肉だったもんだ。
って、一般的にはそれじゃないよね。
焼肉っぽい味かぁ、塩としょうゆとトウガラシ、酢だけじゃぁ美味い味付けできる気がせんなぁ、甘みになるものが無いと。
・・・
なんとかなった・・・さすが調理スキルの効果よ、なんか、絶妙な配合でそこそこうまくなった。
甘味はミードでなんとか・・・醤油がメインのタレができた。
残り少ないけど、キャベツとニンジン、ジャガイモに干し肉で出汁を取った具だくさんスープも作る。
あと、酢を知ってもらうためにピクルスも作る。
酢に塩、トウガラシと、砂糖が無いので煮てアルコールを飛ばし、さらに煮詰めて濃くしたミードをほんの少しいれて、キャベツとニンジンを漬け込む。
簡易貯蔵庫に入れれば夕食時には漬かるだろう。
キューリが欲しいな。
主食は麦ごはん、といきたいところだけどこの世界では一般的な食べ方ではないから我慢して、茹でた大麦を捏ねて、牛脂を敷いたフライパンに薄く広げて焼く。
具無しお好み焼きもどき再び。
麺にしなかったのは、俺のちっぽけなプライドさ
完熟ラサの実も出そう。
あぁ、食材が少なすぎる。
調理スキルが宝の持ち腐れだよ。
歓迎のお食事会、予想通りというか、ステーキを信じられないという目で迎えた一行だった。
具だくさんスープはまだいいとして、ピクルスに完熟ラサの実にも結構引いている。
が、ガッツくユーシンを見るや、カブロが意を決して一口。
さすが商人、商売のため、まっ先に虎穴に挑んだか。
ステーキをガブリとやったとたんに固まったカブロ。
あれ?
口に合わなかった?
「こ、これは、購入することはできるんでしょうか?」
この一言、というか、ただならぬ様子に何かを察した護衛たちの手が伸びた。
結果、護衛たちもステーキの魅力に取りつかれることになったのだった。
「これは販売できません。
町に着くまでに傷んじゃいますから。」
あからさまにガッカリしてたけど、ここでしか食べられないものを作っておけば、いずれそれを目当てにやってくるハンターや商人、ひょっとすると旅行者も出てくるかもしれない。
まだまだ先だけど、みどり村のランクアップ条件に住人以外の来訪者数ってのがあるってソンチョーが言ってたことだし、種まき種まき。
「ところでなんですが、干し肉、今日いただいた試作品はまだ無理にしても、前回下ろしていただいたレベルの物30Kgはどの程度の期間で作れるでしょうか。」
ん?
やってくるのは50日に1回じゃなかったっけ?
「干し肉だけじゃなくいただいた野菜も素晴らしいです。
それにこの、酸味の効いたもの、同じ野菜のはずなのに全く違っていて素晴らしいですし、魔石の量も質も申し分ない。」
圧がすごいよ、デカいだけに。
たしかにガツガツいってたから作った本人として悪い気はしなかったけど。
「もし定期的に卸していただけるなら、1か月、いや、半月に一度は仕入れに伺わせていただきたいのです。
仕入れだけじゃなく日用品から魔道具、食材までご入用なものは何でもご用意いたします。
もちろん誠心誠意特別価格で。」
悪くない話だとは思うんだけどなぁ。
「うちとしてはありがたい話ですけど、そんなに頻繁に来られたら、いままで巡回されていた他の村は困るんじゃないでしょうか。」
興奮気味のカブロにソンチョーが冷静に応じる。
ここら辺はさすがだなぁ。
俺はそのことまで頭が回らんかった、確かに困るよなぁ。
恨まれる可能性も無いとは言えない。
「問題ありません。巡回は部下に任せて、自分が専属として回らせていただきます。」
「いや専属て・・・カブロさん、商隊の代表でしょ。
護衛がいるとはいえ危険じゃないんスか。」
行儀悪く、なんちゃってピクルスを指でつまみながらユーシンがつっこむ。
「まったくですぜ、俺らも街道で野盗相手なら、まぁ倍以上人数差が出なければ対処可能ですが、森の中で魔物相手となると分が悪い。
魔物除けに魔石をいくら使ってもいいっていうなら別ですがね。」
と、護衛のリーダーらしき男もくぎを刺す。
「正直ここに来たいってのも分かりますがね。」
そう言って空になった皿を物欲しそうに見た。
ふふ、リーダー君もステーキの虜かね。
それでもゴニョゴニョと、自分がここに来るべき理由を取り繕おうとするカブロ氏。
追い打ちを掛けるようにソンチョーが。
「安定供給できるかは現状ではお約束できないんです。
種類を問わないのであれば、干し肉は森で魔物を狩れれば何とかなると思うんですが、それでも我々の一存では即答できないんです。」
「それは、協力者という方たちのことですか?」
さすがユーシン、この辺りまではちゃんと伝えてくれていたようだね。
まるなげ・・・じゃない、任せてよかった。
「ゴブリンだということには正直驚きましたが、森にすむ魔物は外とは異なる生態になることもあると聞いています。
協力者という部族も特別な存在なのかもしれませんね。」
へ?
ユーシンを見ると、ビッと親指を突き上げて、やってやりましたぜアピール。
ゴブリンだってことまで話が通ってるなんて思ってなかったよ、感触も悪くなさそうだし。
自分の中のユーシン評価が5ランクくらい上がったよ、さすがユーシン。
さっそくということでトウリョーとオリヒメを呼んで顔合わせ。
緑色のゴブリンということで驚いていたけど、逆に特別感を感じてくれたようだ。
流暢にしゃべることからも、かなり知性が高く高位のゴブリンとして認識してくれた。
部族の集落もかなりの損害で、技術交流の意味も含めてこの村に移住させてくれないかと相談されていることも話しておく。
これでまぁ、とりあえずは問題ないだろう。
「これから冬ですからね、うちも備えが必要ですし。
野菜の方はまだ自分たちで食べる分しかないんで難しいです。
でも、ピクルスというんですが、これを作る調味液なら近いうちにお譲りできるかもしれません。」
サラっと酢の売り込みもしてみる。
実際、たくあんやらっきょうと違って浅漬けやピクルスはあまり日持ちしないのでここで売るのはマズい。
ならばレシピと一緒に酢を売ってしまえばいいや、ってことだ。
トウガラシと酢が売れるならガチャももっと回数増やせるし、調味料や香辛料が増えれば食生活ももっと多様化するし、種ガチャで何としても米が欲しい。
食べられるようになるのに年単位で時間がかかるだろうけど。
格安スーパーの弁当レベルまではまだまだ遠いのだ。
「なるほど・・・しかし、外にはこの野菜は見たことが無いのですが、他の野菜でもできるのでしょうか・・・それに、正直野菜自体旨くない。」
ああ、その問題があったか。
「まぁ、冬の間は行き来もできないでしょうから、その間に何か考えてみますよ。」
といったら、何を言ってるんだ、なんて顔をされてしまった。
「もちろん冬も来ますよ。行商用のソリがありますので、ご安心ください。」
ニカっと笑う笑顔の圧がすごいよ、カブロ氏。
「あぁ~、でも、冬の間は狩りの方が難しくなると思うんですよね。自分たちの食い扶持もあるので。」
圧に押され気味の俺に代わってソンチョーの援護射撃が、
「なるほど、村の整備も重要ですね、わかります。
ではどうでしょう、腕利きのハンターをご紹介します。
もちろん、腕利きなだけじゃなく、村の秘密を守れる口の堅い、信用できる者を。
彼らからすれば、これだけ森の深い場所で安全に滞在できるなら喜んで来るでしょう。
10人程住める小屋だけご用意いただければ、それを条件に肉も回収させられるでしょうし、彼らの取った素材は私が買い取りますのでご負担はおかけしません。
あ、もちろんご入用の素材があれば優先的に皆様へお売りするように伝えます。」
と、まくしたてられて不発に終わった。
結局押し切られて、ハンターの常駐を許可することになってしまった。
村の発展には悪いことじゃない、と、前向きに考えよう。
色々と規格外な村(実際はまだ集落)だからかなり気を使わないとな。
ソンチョーよろしくお願いします。
なんて考えてたら、ソンチョーにジト目されてた。
顔に出てた?
翌朝、出発の準備を終えたカブロ一行と朝食を取りながら談笑していると、もじもじとカブロが、
「出発前に、ぶしつけではあるのですが守護神様にご挨拶させていただけないでしょうか。」
ときた。
守護神?
なにそれ。
「まて、ユーシン。」
スロークが、静かに逃げ出そうとしていたユーシンの首根っこをつかんでいた。
肩を組むようにしてゴニョゴニョと何やら話している。
はぁ~。
深いため息を吐くと、ユーシンを放してカブロに、というか、俺たちに
「守護神像はここの安全を守る重要な像だ。
それを発見できたからこそ我々も安心して暮らしていけるわけだが、いつ、悪意を持った者に狙われるとも限らない。
だから我々以外が立ち入れない場所に祭壇を作って祀っているのだ。
いくら安全を信用してもらうためとはいえ、そのことを部外者に話してしまったユーシンは厳罰に処するべきだ。」
と、厳めしく説明してくれた。
なるほど、めんどくさい嘘ついてきたね。
しかもそれ、俺たち聞いてないよ。
自分の中で、昨夜急上昇したユーシンの株が大暴落した。
ストップ安なんかぶっちぎりで急降下だ。
「いえいえ、私が無理を言って聞き出したのです、まさかこれほど深い場所に人が暮らせる場所があるはずが無いと。」
あわててユーシンをかばうカブロ。
とりあえず、数日は3食魔素抜かずメシの刑に処そう。
で、どうしようか?とソンチョーを見る。
何とかして!という念を込めて。
「・・・分かりました。
ただ、現在守護神像は無防備な状態で祀っています。
我々だけの秘密としていましたので、申し訳ありませんがまだ、我々の命に直結する重大な存在を無防備なままお見せできるほどカブロさんとの信頼関係は深くありません。
次回お越しの際に何らかの対策をさせていただきますので、今回はご容赦ください。」
とっさに繰り出されたソンチョーの先送りスキル、素敵です。
そうまで言われて引き下がったカブロは、次回の来訪を約束して出発していった
はぁ、どうすんだよ守護神像なんて




