193話:もう一つのダンジョン
カタオカのダンジョンでボーナスイベントが発生したのとほぼ同時期、パル達遠征スカウト組もダンジョン攻略に挑もうとしていた。
パルにバトルメイジのキチセ、ゴーストテイマーのヒスイ、オーガの戦士ガーテナの4人に、元自衛隊でカードゲームのソリティアをプレイ中に巻き込まれたというケンジと、学生でアトリエレイナードという錬金術系のRPGをプレイしていたという、アルケミストのレイオウを加えた6人のパーティで、古びた石造りの墳墓へと入ろうとしていた。
新加入の2人は、このダンジョンへの道中に立ち寄った集落でスカウトしてきた。
パルがいた世界でも、みどり村の住人として力を合わせていた仲間だった。
本来(パルの世界)であれば数年後、遠征中のカムイ達が出会い合流することになるはずだった2人だ。
ケンジは自衛隊でも特に厳しい訓練を耐え抜いたものに与えられるレンジャー資格保有者であったが、たまたま時間潰しにと、テーブルゲームの定番、ソリティアをプレイしていた。
旧型のPCなどにサービスで入っていることの多かったトランプゲームだが、この世界で役に立つとも思えず、ゲームのことはキッパリ忘れ、自衛官としてのサバイバル技術を駆使して生き残ってきた。
残念ながらこれから挑むダンジョンには通用しないのだが、パルのセカンドゲーム、ルナシークの能力で得た大量のクズカードから、使えそうなものを選別して与えまくって強化していた。
さすがに前衛をこなせるほどにはならなかったけれど、サポート役ならこなせるだろう。
いつか激レア、”成長”系のカードが出たら使ってもらうつもりでいる。
カードを経験値として食わせるかわりに、レベルアップが可能になるのだ。
レイオウは、錬金術を題材にしたゲームの金字塔、アトリエレイナードをプレイしていた。
聖女に仕立てられポーションづくりを強要されていたカナンがプレイしていた、カナンの錬金工房とは兄妹作。
初期作のアトリエクロードが好評でシリーズ化、その後女性向け派生作としてリリースされたものが、錬金工房シリーズの第一作、リュックの錬金工房だ。
共に人気を保ったままシリーズが進んだことで、アトリエシリーズは男性向けへと舵を切り、主人公自らがダンジョンに入って戦い、素材を集めて錬金術でアイテムを作るというようにRPG色の強いものへと進化していった。
そんなアトリエシリーズ最新第7作が、アトリエレイナードである。
ちなみにカナンの錬金工房は、錬金工房シリーズの第3作だった。
6人で挑むダンジョン。
もちろんワタリビトが絡んでいる、ゲーム由来のダンジョンだ。
俺の世界では、シャドウデーモンを使って世界各地に、ある魔物対策の助言をしたことに対する謝意から関係が始まった。
それもあって友好的に関係を築けたけれど、今回は全く知らない状況での対面となる。
しかも、彼がいるのはダンジョンの最奥。
そこまで攻略しないと会えない可能性もあるわけで、戦力を整えるため先に二人をスカウトしたのだ。
グリンウェル領は王家が来るとかで大変な時期だし、あの惨状を見たら、これ以上人員を回してもらうのも気が引けたんだよね。
ダンジョン入り口は俺の世界と同じ。
無理して仕上げたものの、効果はほぼ無くて勿体無かったと嘆いていたっけ。
突入前に、シンから借り受けて来た簡易拠点で一泊して英気を養う。
夕食後はダンジョン攻略のための打ち合わせだ。
「一番気を付けるべきことなんだけどな・・・まだ造られて無い可能性も高いんだけど、オールドブラッド、吸血鬼の真祖で、幹部を務めているモンスターがいるんだよ。」
「強いの?」
速攻でキチセが食いついた。
そもそもバトルメイジなんて職業選ぶくらいバトル好きなキチセ。
敵が強いほど燃える、なんて、少年王道バトル漫画の主要キャラ並みの困ったちゃんだ。
派手な魔法ぶっ放してはMP切れ起こすし、紙装甲なのに肉弾戦にも積極的な問題児。
「強いというか・・・確かに強いは強いんだけどね・・・それ以上に・・・なんというか、出鱈目に美人なんだ。」
「はぁ!?」
今度はヒスイが速攻で噛みついてきた・・・いかにも下げずんだ目で睨みつけるのはやめてほしい。
「そうなるよね・・・いやマジでな、たぶんゲームの効果があってなんだと思うけど、男どころか女性でも見とれるくらいでね・・・それも種族問わずときたからやっかいなんだよ・・・確か、ヘルミナっていったかな。」
ダンジョンマスターやってる神崎君、元気かな。
今頃はまだ、苦労してやりくりしながらダンジョン発展させてる最中のはずだもんな。
「確か設定上オールドブラッドは絶世の美男美女で、造った段階で魅力値がカンストしているって言ってたな。魅了系のスキルもあったはずだけど、それなしでも・・・ね。」
あの時は確か、ダンジョンがもう完成していて、サンザ王国と国同士の交易になったんだ。
ヘルミナさんを見た連中がみんな使い物にならなくなって困ったもんだよなぁ。
なんて感慨に耽ったりもしつつ、はるか昔に友として語り合ったダンジョンマスター、エンバーロックこと神崎武夫から聞いていたトラップやモンスターなどの情報から、対策会議は深夜遅くまで行われた。
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豪華。
おぞましい。
骸骨を黄金や宝石で装飾された調度品が多数置かれた広間は、見る人によって印象が全く異なるだろう。
その奥に、ひときわ豪華でおぞましい、黄金の骨を組み合わせて作られた玉座があり、青白い顔の青年が座していた。
ウォーオブザダンジョン。
プレイヤーはダンジョンマスターとなり、ダンジョンを設計して、モンスターやトラップを設置して操り、侵入してくる冒険者やヒーローを返り討ちにしてゆくストラテジーゲーム。
倒した侵入者の所持品や、掘り出した財宝でダンジョンの整備やトラップの設置、補修をし、集めた魂を贄にモンスターを召喚、強化する。
召喚したモンスターの維持にも財宝や魂を必要とするため、侵入者こそが生命線ともいえるゲームだ。
この世界では、地下洞窟への侵入はタブー。
内部には魔素が実体化した魔物しか存在せず、倒しても得られる物が何もない。
洞窟の魔物に捕食されれば、受肉した魔物が洞窟から出て周囲に多大なる悪影響をもたらす。
誰も近づこうとはしないのだ。
侵入者を見込むことができない。
スタート早々積んでいた。
そんな状況から、苦労に苦労を重ねてきた。
ようやく理想のダンジョンを目指す第一歩、ランク1”初心者ダンジョン”を卒業してランク2”初級ダンジョン”に発展したところだった。
3階層までしか拡張できなかった初心者ダンジョンから、5階層まで拡張できるようになった上、召喚できるモンスターも設置できるトラップも大幅に増える。
嬉々として4階層を迷宮化し、自身の居室とダンジョンコアを5階層に設定したばかり。
そんな矢先だった。
今、ダンジョンは突然訪れた侵入者によって、大きな損害を受けている。
「陛下、侵入者は第2階層を突破、現在第3階層にてアンバーン率いるホブゴブリン部隊にて足止めを試みております。」
陛下と呼ばれた青年は、不機嫌そうに脚を組むと背もたれに寄りかかった。
「念願の侵入者がこれほどのものとはな・・・。」
冒険者も勇者も存在せず、地下洞窟に入ろうとするものなどいないこの世界で、死に物狂いでダンジョンを拡充してきたのに。
(こんなにもあっけなく崩壊することになるなんてな。)
ダンジョンマスターには戦闘能力に関するステータスが無い。
つまり、一般人並みの能力しかないのだ。
ダンジョンコアを破壊されたらゲームオーバー。
対策として、ゲームスタート時点で高ランクの幹部級モンスターを1体選ぶことができる。
迷わず女性型のオールドブラッドを選んだ。
レベルこそ低い状態からのスタートだが、魅了系の攻撃は侵入者を混乱させ同士討ちさせることができるし、自動回復やHP、MPへのドレイン攻撃など、長期戦に向いた能力がバランスよく設定されている。
最悪ここまで侵入された時は、戦っている間に戦力の立て直し(モンスター召喚やトラップ設置)を行うことができる。
何より、絶世の美女である。
選ばないわけがない。
ランクも上がり、現在配下になっているモンスターたちの中から新たに幹部モンスターを一体選ぶことができるようになったのだが、残念ながら、現在幹部を任せられるほど将来性のあるモンスターがいなかった。
モンスターの召喚には魂が必要だ。
強力なモンスター程大量の魂が必要になる。
が、ダンジョンの維持を優先してきたため、ダンジョンの戦力はコストパフォーマンスの高いゴブリンばかりだった。
しかも、魔者どころか魔獣ですら忌避する地下洞窟に侵入者があるはずもなく、苦肉の策で古代遺跡を装ったりと、大量に財宝もつぎ込んできた。
遺跡ならば、学者などと一緒に護衛の傭兵が調査隊として訪れるのでは、と期待してだ。
ダンジョンの入り口は険しい山の中腹にある。
古代遺跡とか、そんな雰囲気の大きな門にした。
豪華であれば、財宝があると思わせて盗掘目的の野盗も呼び込めるのではないか、なんて・・・。
が、残念ながら、あまりにも立地が悪すぎた。
ヒトがダンジョンを見つけることもないまま時は流れる。
強力なモンスターの維持には財宝も必要になるのだが、浅い階層では質の悪い鉱石しか取れず、侵入者がいないため財宝の確保もできてはいない。
現在魂を稼ぐ唯一の方法は、おとり部隊で周囲の魔獣を誘導し、ダンジョンの中で仕留める、という地道な活動。
ダンジョンのモンスターがダンジョン外で活動できる仕様でなければできない手段だった。
しかし、ダンジョン周辺の魔獣は強く、モンスターの損耗を穴埋めしながらでは、なかな幹部級のモンスターを召喚できるほど魂を確保できないでいた。
侵入者を浅い階層で倒しても得られる魂の量が少ないのだ。
同じ侵入者でも、深い階層で仕留めるほど大量に獲得できるような仕様だった。
が、そんな余裕があるはずもなく。
「何もかも間違っていたのか・・・。」
モンスターたちは蹴散らされ、トラップも効果無く、瞬く間に侵攻されてゆくダンジョン。
待ちに待った、初めての侵入者たちがこんな化け物たちだなんて、誰が想像できる?
こんなことなら、入り口の改装に資金を使わずトラップや兵器開発に使うべきだった。
モンスターもゴブリンばかりでなく強力なモンスターを揃えていれば。
ネガティブなタラレバばかりが頭をよぎる。
「第3階層突破されました!」
追い打ちをかけるような報告が突き刺さる。
「なんか、しょぼくない?」
キチセの言葉通り、第3階層のボスモンスターはオーガだった。
いくら何でもボスがただのオーガというのは貧相すぎる。
ここまでも、パルの指示通りモンスターたちは殺さず無力化してきたが、ここでも大した手間も無く簡単に無力化できてしまった。
「まぁ、今の時期は侵入者もなく苦労している頃だろうからね。」
4階層は予想通り迷宮構造だった。
が、以前この階層の構造を聞いていたので迷うことなくズンズン進む。
トラップも無く、モンスターもいない。
そんな余裕が無かったのだろう。
狭く複雑な迷路にすることで時間を稼ごうという目論見だと言っていたが、答えを知っているとただの通路と同じだ。
「どういうこと!?」
苦労して設計した自慢の迷路。
迷いに迷ったあげく、無理して召喚したボスモンスター、オーガ(維持に財宝を必要としない最上位モンスター)を配置、もし倒されても5階層への階段は隠蔽機能付きのドアで隠してあったのに、迷うことなく迷宮を踏破され、オーガもあっけなく倒され、隠しドアまで、探すそぶりすら無く開けられてしまった。
「へ、ヘルミナ・・・。」
傍らに控える腹心。
いざ召喚したものの、想像をはるかに超える美しさに、今でも緊張する。
「お任せください。身命を賭して侵入者を撃退して見せます。」
予想通りの回答。
でも、そんなことは望んではいなかった。
「いや・・・逃げろ・・・。」
「な!?」
「まだ命のあるものを連れて、今すぐ脱出しろ!」
高ランクのモンスター、オールドブラッドであるヘルミナだが、ここまで侵入してきたものは皆無で、戦闘経験は無くレベルも1のままだ。
オーガを一蹴するほどの手練れ相手に通用するはずもない。
「お待ちください!」
「命令だ。」
ただのNPC。
それでも、苦楽を共にしてきたかけがえのない家族だ。
生きてほしいと思った。




