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192話:想定外の移住者たち

 ダンジョンでボーナスイベントが発生する中、みどり村へ移住イベントのメインコンテンツ、貴族令嬢令息たちの移住が始まった。

 すぐに王族が避暑のためにやって来るので、ダンジョンの方は騎士団の訓練も兼ねた時間稼ぎに入っている。

 第一騎士団2個中隊、第二騎士団一個中隊の3中隊がそれぞれ8日間ずつ現地に滞在し訓練。

 第二騎士団の訓練まで全て終わり、帰還後2日間の休養が明けると王族が街道入りする予定となっており、南北の街道警備隊によって護衛されつつ、3日間をかけてみどり村に入ることになる。

 騎士団はその移動中の3日間で護衛と警備のための準備を行い王族を向かい入れることになる。

 騎士団と入れ替わるように、騎士団とは別枠で組織されたグリプス戦闘団(仮称)が現地に入りボーナスイベントの攻略を行いつつ時間稼ぎに入る。

 グリプス戦闘団と言えば聞こえはいいが、要するにシンの従魔とその配下達のことだ。

 戦闘能力が高いこともあるが、ワタリビトを除く騎士団員がレベルアップの恩恵にあずかれないのとは別に、ゲーム由来でもある従魔と配下達はレベルアップすることができるため、無理ない範囲で経験値を稼がせるという狙いがある。

 主であるシンとは正反対に、真面目で熱心な従魔たちはすでにレベルがカンストしているのだが、その配下達は未だその域には達していない。

 ボーナスイベントはレベルアップと訓練には格好のイベントと言える。

 

 みどり村には続々と移住希望の令嬢令息が集まり始めた。

 しかし、驚くべきはその規模だ。

 せいぜい本人と従者1~2人程度と考えていた受け入れ側(役人たち)は、暫し呆然となってしまった。

 本人、執事、侍女、従僕、護衛と、平均すると一人の令嬢令息につき、10名以上もお供に着いてきたのだ。

 移住してくるのは、第三子以下で、婚約適齢期を逃してしまった令嬢や、家督を継ぐ見込みの無い令息たちで、親の爵位もせいぜい子爵までのはずだった。

 なぜなら、伯爵家以上の上位貴族ともなれば、適齢期を過ぎてしまったとしても、よほど問題が無い限りはより上位の貴族家(頼親だったり王家だったり)の侍女として仕える道があるし、家督を継ぐことができない令息であっても、騎士や文官、上位貴族とのつながりを求めて下位貴族や小家などの富豪たちの家へ養子として入るという道もある。

 視察会にも上位貴族はいなかった。

 それなのに、いざ蓋を開ければ、視察会に参加していなかった家(主に伯爵・侯爵と言った上位貴族)の関係者までいるではないか。

 「面倒になって来たな。」

 とため息交じりに呟くスロークに、

 「それだけグリンウェル領との結びつきを強めたいと願う方々が多いということでしょう。まずは喜ばしいことと思うべきではないでしょうか。」

 と、燕尾服を着た老紳士が声をかけた。

 今回の移住にあたって、スロークの補佐として着任したロイド・ロイルは、冷静にこの事態を処理していた。

 街道入り口の詰所から、規模が予定より大幅に大きくなりそうだとの連絡を受け、ロイドは迎賓館の一部とホテルを一時的な受け入れ先として確保し、用途が確定していなかった更地を確保、そこに共同住宅や屋敷を建造する予定だとして説明会を行う準備に入っていた。

 元々の受け入れ先だった施設では、スロークたちの予想を元に3~4人での入居を想定した作りだったためだ。

 子の代で爵位を失う可能性のある準男爵や爵位の継承を認められていない騎士爵ともなれば、道中の護衛や世話人がいたとしても、移住するのは本人だけであってもおかしくはない。

 十分に足りるはずだったのだ。

 「施設はそのまま利用するとして、足りない分として別に増設する共同住宅と屋敷の建造はダンジョンから帰還後、ヒロ殿にお願いする予定です。

 屋敷の方は少々高額の設定で、10棟もあればかなりの収益を見込めそうです。」

 ロマンスグレーの紳士な姿とは裏腹に、上位貴族相手には見栄と外聞を存分に刺激して、相当な利益を上げるつもりでいるようだ。

 (さすがは悪魔か・・・どうにか不手際を晒さなくて済みそうだな。)

 思わず顔をしかめてしまうほどの額をはじき出したロイドに引きつつも、クロウの配下であるアークデーモンを借りられたことに心底感謝した。

 「しかし、もう一つ困ったことがある・・・これで事前調査が無意味になってしまった。」

 スロークの懸念は、いわゆる派閥の問題だった。

 視察会に参加した令嬢令息は皆意欲にあふれていた。

 それでも親が所属する派閥に気を使い、住居や職場の配置を割り振ったのだ。

 それらの苦労が水の泡だ。

 「どうやら、上位貴族共は視察を頼子にさせて判断していたようです。

 本人自体は問題なさそうですが、取り巻きには良からぬ目的の者も含まれているようです。

 いかがいたしましょう。」

 淡々と告げるロイド。

 「さすがだな、もうそこまで把握したのか。」

 悪魔達はアイテム、囁く肖像画によってスキル”念話”を会得しており、悪魔同士での意思伝達が高速かつ秘密裏に行える。

 それにしても、入領してみどり村に到達するまでのわずかな期間にそこまで把握できるものなのか。

 「最優先事項として蠅の王と闇影の王に調査を命じております。」

 スロークの疑問を察したように補足された。

 どうやら、街道に入ったあたりから調査を開始していたようだ。

 (執事が優秀過ぎるな。)

 「視察に参加していない者たちはそれを理由に拒否することもできますが。」

 確かに、視察に参加していない者たちは就きたい職種の希望すら確認ができていない。

 人員的に足りている業種もあるので、貴族の権力を利用して強引に、となられるかもしれないし、そもそも視察を受けていないのだから、就いたら就いたで思っていたのと違うなどとクレームをつけられても困る。

 いったいここに移住してきて何をする気なのか、から話し合わなければならない。

 面倒ではあるが、本人達は意欲をもってやって来ているようだとも言うし、突っぱねてしまうわけにもいかないだろう。

 「いや、そこまでしなくていいだろう、視察前に秘匿するべき施設はテルグリナに移設してあるし、転移門周辺の警備を厳重にすればいい。

 問題を起こせばそれを理由にして追い出した方が角も立ちにくいだろうしな。」

 ()()()()は意欲的である、というロイドの見立てを信用するとしよう。

 「承知しました。」

 「すまないが、仮の居室や館の配置も任せていいか?」

 頭の痛い問題だが、ロイドの本来の主にあやかって丸投げした。

 「承知しました。とりあえずは派閥ごとに纏めてあぶり出したいと思いますが、よろしいでしょうか。」

 ロイドは即答でスロークの期待以上の回答を出してきた。

 少々危うさも感じたので

 「あぁ・・・やりすぎないようにな。」

 と釘をさした。

 信頼はしているが、やりすぎてしまわないか若干不安もある。

 何せ悪魔である。

 必要以上に追い込みをかけたりしないように気を付けておかなければ。

 「承知しました。」

 今度は望み通りの回答なのに、あまりの即答ぶりに不安が増してしまった。

 ロイドはそのまま一礼して退室していった。

 「本当に頼むぞ。」

 スロークの小さなつぶやきは、願いというより祈りに近かった。

 

 ロイドが退室すると、待っていたかのようにドアがノックされた。

 「ユーキだけど。」

 と、なじみの声。

 しかし、面会の予定はなかった。

 それに、カトリではなくユーキと名乗った。

 はぁ・・・

 用事に察しがついたので、小さくため息をついた。

 「どうぞ。」

 とはいえ、断る理由もないので受け入れた。

 「ハッキリ言っておくが、()()フラれたわけじゃないからな。」

 ユーキが入室すると同時に先制攻撃を浴びせた。

 「あぁ、もちろんそうだろうね、大丈夫、まだハッキリと断られたわけじゃないもんね。」

 スロークの傍らに歩み寄ると、肩を数回叩いてなだめるようにウンウンと数回うなづいた。

 スロークがマナに告白して玉砕したらしい。

 そんな噂がまことしやかに囁かれている。

 伯爵ともなれば、立場上平民との婚姻は認められない。

 だからこそ旗爵に上がることを受けてほしい、と伝えたのだが、マナは答えを保留していた。

 女性貴族の前例がなかったわけではない。

 伯爵と旗爵家令嬢との婚姻も数例だがある。

 しかし、自らの頼子である女性旗爵との婚姻ともなれば、周りから眉を顰められることになるのは間違いない。

 平民と結婚したければ、その相手を旗爵に叙すればいい、という悪しき前例になってしまうからだ。 

 しかし、いったいどこからそんな噂が立ってしまったのだろうか。

 

 「本当に・・・うちの男連中ときたら・・・。」

 恒例のワタリビト女子会で、珍しく酒に酔ったマナが、ユーコやアオイたち女子会メンバーにグチを吐いていた。

 「だめよぅ~、領主様にムードやロマンチックを求めちゃぁ~。」

 「所詮はゲームが趣味のオタクどもなんだから。」

 と、辛辣なユーコとアオイ。

 「やっぱり、そうなんですかね・・・。」

 2人の辛辣な評価に、うつむいて噛みしめるようにつぶやいたミサ。

 「なになにぃ?ミサちゃんもぉ、誰か気になるオタクがいるのぉ~?」

 ユーコがからかうようにミサに詰め寄ると、

 「ち、違います!私はみんにゃのアイドル何でうから!」

 顔を真っ赤にしたミサが顔をブンブン横に振って否定した。

 「カミカミってことはいるのね!」

 アルコールの入った女子会メンバーたちが、その慌てっぷりを見逃すはずもなかった。

 「だぁれぇ~?」

 「吐きなさい。」

 「マナさんまで・・・悪乗りしないでください!」

 というやり取りから、スロークとマナのやり取りは最後まで正確に伝わることなく、スロークがマナにフラれたらしい、という”噂”だけが瞬く間に拡散されたのだった。

 問題は、誰も本人たちに真偽を確かめようとせず、本人たちの知らぬまま拡散されてしまったことだ。

 「いや、伯爵に聞けるわけないだろ?無礼打ちされちゃうし・・・マナさん怖いし・・・。」

 というミタライの一言が、真偽を確かめようとされなかった理由を如実に語っていた。

 最近になってようやく、スロークの耳に”噂”が届いたところだった。

 

 「とりあえずもう終わりだろ?久しぶりにマスターの店で飲もうよ。」

 「慰めようってつもりなら不要だぞ。」

 普段ならユーキの誘いには乗るところだが、酒の肴にされるつもりはない。

 「まぁまぁ、そんなつもりは無いって・・・事もないんだけどね。」

 「オイ!」

 要職に就いてからはめったに見せることの無くなったユーキの素に、つい以前の様にツッコんでしまった。

 伯爵という立場になってしまったものの、気心の知れた仲間と言う物はありがたい存在だ。

 「残念だけど、もっと重要な案件ができたんだ・・・最大限に警戒しろって言われていた、米粒男が捕まった。」

 「ついにか。」

 旧ファーレン、ヒノモトでは、米粒男ことユータの捜索にてこずっており、そのせいでシンが持ち掛けたという計画が頓挫しかけている、と聞いていた。

 「本当にさ、疑ってたわけじゃないんだけどね・・・最大限に、なんて言葉の重みを再認識したよ。」

 表情が一変したユーキに、スロークも意識を切り替える。

 「それほどの相手だったのか?」

 ユーキをしてこれほど言わせる相手とは、いったいどれほどの手練れだったのか。

 「捕まったのが、シンさんの拠点の中だったんだ。」

 「な!」

 ユーキの答えは、スロークの考えとはだいぶ方向性が違っていたが、それ以上に大きな衝撃を与えた。

 徹底的に秘匿してきたテルグリナを嗅ぎつけられ、侵入されただけでなく、その中にあって、スロークが考えられる中でも最も侵入困難な場所、シンの拠点内に侵入されていたという事実。

 背筋に冷たいものを感じたスロークは、取る物もとりあえずユーキと共に屋敷を出た。

  

  ****

 

 崩れかけた古い石造りの建物。

 度重なる内乱によって崩壊した都市の中心部にそびえる教会だった物だ。

 徹底的な破壊と略奪によって、原形をとどめている建物が何一つない瓦礫の中から、黒に近い紫色のローブを着た人物が一人、教会の門だったであろう瓦礫の隙間へと入っていった。

 礼拝所だったらしい室内を進むと、奥の祭壇の前で止まる。

 高い天井にはいくつもの穴が開き、太陽の光が差し込んでいる。

 「異常はあったか?」

 瓦礫でできた影に向かって声をかけた。

 「無イ・・・デス。」

 影から、凹凸を一切感じさせないほど、完全に真っ黒な人影が現れて答えた。

 1mほどの身長で、フリルの付いたドレスを着ているようなシルエット。

 イェンの従魔、MODによって姿を変え、会話ができるよう改造された真なる闇であった。

 「開けろ。」

 ズ

 ひときわ大きな瓦礫に真なる闇が触れると、スライドするように横にずれ、その下に地下へと続く階段が現れた。

 人影が階段に消えると、瓦礫は再び元の位置に戻り、真なる闇も影に消えた。

 

 人影に付き従うように灯る小さな魔法の光だけを頼りに薄暗い階段を降りると、その先は広いホールになっていた。

 ホールには多数の魔物が微動だにせず直立している。

 人影がホールに入ると、魔物たちはいっせいに膝をついた。

 「イェン様、ご命令でしょうか。」

 ドラゴニュート3体、グレーターデーモン5体、ヘルナイト2体、フェンリル2体、グリフォン2体、バンパイアロード、バンパイアブライド、デモンスパイダー、オーガキング、オーガクイーン、オーガナイト10体、オークキング、オーククイーン、ゴブリンキング、ゴブリンクイーン。

 これに門番を命じている真なる闇を加えて35体。

 MODを導入したうえで上限まで揃えられた従魔たち。

 皆、ゲームでテイムした時の状態からレベルアップしてはいない。

 ファーレン王家軍との戦いで呼び出したものの、ヒトから得られる経験値は非常に少なく、多くの敵兵は従魔たちの異形を前に、戦うより逃走を選んだためだ。

 「待機だ。」

 「はっ。」

 ゲームの中であれば皆カンスト(レベル100)まで育て上げていただけに腹立たしい。

 一度呼び出してしまった以上は収納や送還ができないため使い続けるしか無いのだが、イェンにとっても最大戦力である従魔たちはできる限り秘匿しておきたかった。

 ヒノモトの仲間たちには、召喚を解除したと偽って隠してきた。

 ヒノモトにエイルヴァーン経験者はおらず、シンやスロークは隣国の貴族であり、召喚解除などできないという情報が伝わることもないだろう、と踏んでいた。

 食材購入のための偽装商人につく護衛として仲間たちがみどり村を訪れるようになっていたが、この国同様、サンザ王国でも簡単に平民が貴族と接触できるものではない。

 たとえワタリビト同士であってもそれは変わらないはずで、不安は無かった。

 つい数日前までは。

 

 ユータが捕まった。

 みどり村のあるノスサンザ大森林は危険な魔物が多く、仲間たちが護衛につくとはいっても、まさかの事態が起こらないとも限らない。

 しかも、交渉事の素人だと、かなりボッタくられている可能性がある。

 そう言いくるめて、行商に紛れ込ませて調査に向かわせたまでは良かったが、プツリと消息を絶ってしまった。

 死んでいる可能性もないとは言えないが、ゲームの特性などもあってかなり頑丈でしぶとい。

 ちょっとした不運や事故で死ぬとは思えない。

 米粒大の存在など、ユータの存在をあらかじめ知っていなければ警戒しようが無いはずだが、捕まったと考える方が可能性は高い。

 危機感を持ったイェンは、即座にヒノモトを発ち、隠れ家ともいえるここへとやって来たのだった。

 ゼナの最東部、ノスサンザ大森林に近い廃村。

 かつて、森を飛び出した魔獣一頭に襲われ、一夜にして全滅した村だ。

 ファーレンを簒奪した直後からこの村を隠れ家として、教会地下の部屋で待機を命じていたため、従魔たちは直立不動のまま長い時を過ごしてきた。

 所詮はゲームのNPCだ。

 ”待機”の命令一つで隠しとおせるのならば、レベルが上がらないくらいは仕方がない。

 ユータが捕まった可能性が高い以上、ヒノモトに戻るのは危険だ。

 「いまいましい・・・」

 これまでの計画を諦めるしかなさそうだ。

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