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191話:時間稼ぎと訓練と

 「クソ!10波までは潰せると思ったのに・・・。」

 悔しそうに、芝生の上で大の字に倒れこんだユーシン。

 ダメージは無いが、疲労困憊で指一本動かせない。

 ユーシンにとっては不甲斐ない限りで、本気で10波まで持ちこたえられると思っていたのに、現実は5波までを防ぎ切ったところで動けなくなってしまった。

 アオイがかかりきりになっている防壁建造の進捗はまだ7割ほどで、次の波が来る1時間後までに完成するのはほぼ不可能な状態で、次の波からアオイとゲートを守るために体力を完璧に回復させるのは絶望的な状態だった。

 全滅か撤退かの瀬戸際だった。

 「無双系じゃないんだから、無理に決まってるじゃん。」

 呆れてものも言えないといった様子でライアーが見下ろす。

 援軍・・・と言える規模ではないが、戦力的に十分すぎるほどの助っ人が間に合った。

 無数の敵に囲まれる中、一撃で多数を吹き飛ばしたり切り裂く爽快感重視の無双系ゲームとは違い、1対1での戦いしか想定されていない格闘ゲームでは、たとえ一撃で倒せるほどの実力差(オーバーキル)があろうとも、一撃で倒せるのはせいぜい一体である。

 一対一を百回繰り返す程度であれば、ユーシン程の実力があれば難なくこなしただろう。

 しかし、周囲を囲まれたり、無秩序に四方八方から攻撃されるという状況への精神的疲弊はバカにできない。

 複数の敵に対する警戒、回避、防御を同時にこなしたうえで攻撃をし続けなければならず、それが延々と続くのだ。

 しかも、どれほど実力差があろうとも、気を抜けば大怪我や、最悪死ぬこともあり得るのがこの世界である。

 4人で協力しながらゲートを守りつつ戦い、波の合間に防壁を作って時間を稼げばこれほど消耗はしなかっただろう。

 ピクリとも動かず爆睡しているミタライも、5波目の半ばで力尽きたミタライに変わって前線に出たミコトも良く付き合ったものだ。

 よほど怖かったのだろう、いつものウザいキャラを演じる余裕もなく半べそをかいてへたり込んでいる。

 明らかに戦闘メインでないアオイと乱戦に向かないミコトを前線から外し、攻撃の手が及ばないように気遣ったことで必要以上に消耗してしまっていた。

 「案外早かったスね。」

 ボーナスステージが始まると、階層間を転移する転移石は使用不能になる。

 救援にはもっと時間がかかると思っていた。

 だからこそ、多少無茶をしても防壁の完成を急いだ。

 防壁が出きれば休みつつ戦うという手も出てくるわけで、そうなれば15波くらいまでは行ける、なんて気楽に考えていた。

 足の速さが突出したユーコに伝令と救援要請を頼んだのだが、それでも地上までは相当時間がかかるだろうし、それから救援を組織して準備、出発となるのだから、こんなに早いなんて思いもしなかった。

 伝令に発ったユーコは、カナンから購入していた疲労回復ポーションを使いながら、68.5階層から地上までを休息無しで一気に駆け抜けていたのだ。

 「お猫様に感謝するんだね・・・管理室で平べったくなってたから。」

 プッ

 昔ネットで見た、真夏の猛暑の中、冷たい床にベタッとへばりついた猫の動画を思い出して吹いてしまった。

 転移石を使わなければ、いっさいモンスターと出くわさないという幸運に恵まれたとしても地上まで20時間はかかる。

 その距離をユーコは、わずか5時間で踏破した。

 高速移動を得意とするユーコの能力でもあり得ないほどの速さで、かなり無理をしただろうと推測できる。

 ライアーはカタオカ、ユーキ、ミリア、シンの連名で立案された作戦に従い、中隊への出動命令を発すると、先行してカムイの馬に同乗して共に駆け抜けてきたのだ。

 「さすがのカムイでも、僕が同乗する分だいぶスローペースになっちゃったみたいだけどね、それでもユーコの走りを絶賛してたな。」

 「今度ケーキでも・・・って、あそこはユーコの店か・・・自分の店の物貰ってもしょうがないよな・・・オーノさんのコンビニってケーキとかあったんだっけ?」

 「・・・さぁ?エナドリくらいしか買わないからな。」

 「うっわ、ゲーマーっぽい買い物だ。」

 などと、つい気も緩んでしまう。

 ライアーとカムイが来てくれたのだ、このまま寝落ちしてしまってもよさそうだ。

 

 「やっと帰れる~。」

 ライアーから今後の説明を受けた途端に声を上げて喜ぶミタライ。

 一瞬前までピクリとも動かず寝ていたのだから現金なものだ。

 「第一中隊ねぇ・・・ここまで来られるんスか?」

 「また戻ってるぞ。」

 そう言ってユーシンを睨む。

 面倒だが、ユーシン敬語の使いどころを間違えた時は注意するようアオイから言われている。

 (そもそもユーシン敬語って敬語じゃないんだけどな。)

 ユーシン独特の ○○っス という癖。

 本人からすると敬語のつもりだという。

 元の世界では同級生や後輩には使っていなかったのだが、この世界では見た目と実年齢がかなり違う(ワタリビトは特に)ため、年上なのか判断が付かない上、たとえ年下でも貴族なんてやっかいな存在もいることから、面倒だからみんな同じようにしゃべろう、と安直に考えた結果、誰に対しても語尾に っス が付くようなしゃべり方になってしまっていた。

 しかし、アオイから他人行儀だとクレームが入ることになり、改めようとしている最中なのだ。

 他人行儀もクソも、そもそもが敬語ですらないのだが、残念ながらそこら辺の常識はユーシンもアオイも持ち合わせていなかった。

 王族も来るのにさすがにまずいと感じたソンチョーが直々に敬語やマナーの授業を始めようとした途端に、二人そろってダンジョンに逃げ込んできたのだ。

 「騎士団副隊長様には良いんじゃないん?」

 いちおう目上の立場へなら、敬語はセーフだろうとの抗議だ。

 「おまえ、自分が輸送隊隊長だってこと忘れてないか?」

 「・・・騎士団と輸送隊ってどっちが偉いんスか?」

 騎士団の方が重要だから、ライアーの方が偉いに違いない、との抗議である。

 「同格だろ?」

 速攻で反撃された

 「じゃ、オレの方がライアーより格上?」

 隊長と副隊長なら、というせめてもの反撃だった。

 「申し訳ございませんでした、ユーシン・タナベ輸送隊隊長殿。ご無礼を謝罪いたします。」

 「やめ!トリハダ!!」

 「一応お前も王族に挨拶することになるんだから、いい加減ちゃんとした敬語くらい覚えろよ。」

 「・・・忘れたかったのに。」

 「冗談じゃなく首が飛ぶぞ。」

 「わーかったよ!で、第一中隊がここまで来る算段は?」

 かないそうにないので無理やり話を戻すことにした。

 ボスは無視すればいいので、おそらく新装備を使って20階くらいまでは何とかなるだろう。

 しかしそれ以降は、現状の騎士団の戦闘能力では苦戦を強いられるだろう。

 30階クラスになれば、無傷のまま当たったとしても数匹のモブモンスターによって全滅しかねない。

 「コクエン達が先導してくるから問題無い。」

 「なる。」

 コクエンやカムイをはじめとしたシンの従魔たちは、騎士団には所属していない。

 戦闘能力の桁が違うというのが大きな理由で、カルケール領やコリント領の騎士団やドワーフ戦士団との合同訓練に支障が出かねないためだ。

 コクエン達の戦闘力はユーシン達と比べてもそん色ないレベルで、モブモンスター相手なら何の問題もなくこの階層まで到達できる。

 中隊は戦闘を経験することなく無傷で到着できるだろう。

 「お前は帰って敬語の勉強でもしてろ。」

 「うへぇ・・・」

 顔面全体で”嫌”を表現したユーシン。

 帰れと言われても中隊が到着するまでは引く気はない。

 防壁を作るアオイを置いて帰るつもりはないのだ。

 「なぁ、ライアーはコリント領に行ったことってあったっけ?」

 ふと思い出した。

 南街道整備中に、仕入れで出向いたコリント領でライアーらしき人物を見かけたことを。

 「は?そんな時間あると思う?」

 「そうだよなぁ・・・いや、たぶん見間違えだな。」

 一瞬だったし、確信があったわけでも無かったのでライアーの返事で納得した。

 

 ライアー到着から22時間後、ようやく第一中隊を伴ったコクエン達が到着した。

 予想通り、道中の中隊の役割はもっぱらドロップアイテム集めであった。

 コクエンと配下のブルーオーガ5体でモンスターを薙ぎ払い、彼らが戦闘に参加する余地は一切なかったためだ。

 中隊と共にカイトとヒロも到着し、防壁強化のための作業を開始している。

 すでにアオイの手によってゲートをグルリと囲う防壁と頑丈な門は完成しており、カイトとヒロはそれを強化することが任務だ。

 アクサスの突撃にでも耐えられるようにという無茶な指令が出ているので、カイトのインベントリーにはガッツリ資材を詰め込み、ヒロもテルグリナでランクアップのために作ってあった不要な建造物を解体、ポイントに還元してからやってきた。

 第6波。

 中隊が到着するまでの間はカムイとライアーが3体いたボスを殲滅して、残りは適度にダメージを与えて時間を稼ぐことに徹した。

 休息を取り余裕を取り戻したユーシンやミタライ、ミコトも参加したため、これまで6波を壊滅させることなく時間をつぶすことができた。

 モンスターの攻撃は1時間攻めて1時間引くという繰り返し。

 ダメージは全回復してくるので、動けない程度にダメージを与えてしまえば中隊の訓練相手を減らさず、ライアーたちの邪魔にもならないのだ。

 中隊到着後、モンスターたちが引いている1時間の間にライアーは中隊へと指示を飛ばし、野営のためのテントなどが設営されてゆく。

 そう、これは実践訓練だ。

 中隊規模の集団戦闘をこなしつつ、野営やサバイバル訓練も行う。

 残念ながら現地で食材を入手するわけにはいかないので本当の意味でのサバイバル訓練にはならないが、食材を持ち込んで現地で調理するなど、できる限り実際の戦闘を模して行われる。

 一中隊ごとに8日間、往復の移動時間を入れると、本格的で命がけの10日間を体験できるという素晴らしい訓練だ。


 「では、これにて失礼いたします。」

 カムイが中隊を指揮するライアーに挨拶しに来た。

 一刻も早くユーシン達をサポートするため、神速を誇るカムイがライアーを連れて先行したが、本来であればカムイは騎士団ではない。

 中隊が活動を開始した段階で、ユーシン達と共に帰途につくことになっていた。

 これまで防壁の作成にかかり切りだったアオイも、カイトとヒロに後を任せて地上へと戻る。

 荷物をまとめて向かったゲート前には、カムイが召喚したヘルホースが4頭待機していた。

 「馬・・・乗れないんだけど。」

 アオイはこれまで、長距離の移動はユーシンの車に同乗していたので、一度も乗ったことが無かった。

 「それは失礼いたしました。」

 ダンジョン内ではユーシンの能力、クラッシュレーサーの車召喚が使えないため、移動手段として利用するつもりだったのだ。

 「オレと乗ればいいだろ。」

 そう言ってユーシンは、馬上からアオイに手を伸ばした。

 「乗れんの!?」

 車があるのに馬に乗れるとは思ってもいなかったようだ。

 「シンさんのハヤテで練習させてもらった。」

 ドヤ顔に少しムッとしながらユーシンの手を掴んで馬上に引き上げられた。

 「リア充氏・・・ね。」

 ミタライの呪いが聞こえたような気もしたが、無視することにした。

 が、やっぱり気が収まらないので「だからモテないんじゃない。」と反撃だけはしておいた。

 

    ****

 

 「順調?」

 ダンジョン内地下演習場。

 10階層に作られた何もない空間だ。

 ゴーレムの試作段階でテストに使うために作られた場所で、高さこそ10mしかないものの、壁などを取り払った、ただっぴろい空間に訓練用の標的や小さな丘、塹壕のようなものが作られている。

 ここでは、芝原改めヒーロ(好きなロボアニメの主人公の名らしい)達ロボマニアどもが試作機で訓練に明け暮れている。

 機体名GT-01α(ジーティーゼロワンアルファ)。

 ガン()ターレット(砲塔)搭載01号モデル、アルファテスト機の略だ。

 その名の通り、近距離用に銃火器、中長距離用に砲塔を装備したタンク型の機体。

 前後左右4台のキャタピラは短いアームによって、前部は1mほど、後部は40cmほど上下させることができ、森の中のような複雑な地形でも安定して射撃姿勢が取れるように工夫されている。

 脚部の上には短い胴体があり、左右にガトリングガンと一体化したアームが装備、その上にはかつての戦艦に搭載されていたかのような2連式の砲塔がある。

 操縦士兼ガンナー1名と砲手1名の二人乗り。

 「やっぱりこれ、Gタンクだよな。」

 「惜しいな、胴体が3倍は欲しい。あとキャタピラがな・・・これだとGヘッドになっちゃうんだよな。」

 「どっちもGだから良いコラボってことで。」

 「足が無いではないか。」

 「あんなもん飾りです。」

 「あ~!僕が言いたかったぁ!」

 (相変わらずうるせぇ。)

 ダンジョン立ち入り禁止を言い渡されている俺だけど、試作機とパイロットの状態を確認するため、ここだけは例外になっている。

 候補が7名で二人乗りだから、最終的に一人補欠になるわけで、第一騎士団の2個中隊、第二騎士団1個中隊の訓練が終わった後にこいつらと俺の従魔たちを投入することになるので真剣に選別しなければならない。

 テスト機はまだ2台だけど、全員総当たりで操縦士か砲手か、パートナーをだれにするかを見極めなければならないわけだ。

 じきにベータテスト用の機体も搬入される予定なので、アルファテスト機2台とベータテスト機1台でボーナスイベントに挑んでもらうことになる。

 問題は、どいつもノーコン過ぎて的に当たらないことだな。

 ゲームだとオートで照準の微調整はいるし、風とか距離とかの影響ってほぼ無いから、実戦で命中させるのってかなりの集中力と技術がいるんだよな。

 おまけに操縦士との意思疎通が未熟だとまともに撃てなくなるし。

 ドオォン!

 (この爆音もどうにかならんかなぁ。)

 術式杖の応用で済んだガトリングガンと違って、砲塔に使う弾頭は実弾だ。

 魔素を使った魔法砲撃だと、長距離砲撃の場合、威力がガタ落ちになってしまうのだ。

 なので火薬の代わりに魔法で爆発を起こして弾頭を飛ばすようにしたわけだけれど、そのせいで射出音や反動が本物の大砲並みになってしまった。

 当の本人たちはなんだかすごい喜んでいるみたいだけど、騒音で難聴になりそうだから最優先事項としてトールに改善を求めよう。

 「あ~、とりあえず、直前に総当たりのテストをしてパイロットを決めるから、それまで訓練に励むように。」

 それだけ伝えて逃げるように帰った。

 良い耳栓用意しなきゃな。


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