↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

208/212

190話:ぼーなすたいむ

 みどり村への移住希望者は400人を超えた。

 さすがに落ち着き始めているようなので、増えてもあと100~200人と言ったところだろう。

 その中の1割ほどがワタリビト。

 大半がテーブルゲームだったり、容姿に問題があったり、能力の発現にこの世界ではおよそ手に入らない道具や条件が必要だったり、この世界の生活水準に適合できなかったりで逃げ込むようにやってきた者達だった。

 5人ほどは犯罪組織だったり外国の諜報機関だったりに所属していることが分かった。

 移住希望の一般人の中にはその10倍ほどもいたのでもれなく収監。

 騎士団本部の地下深くに作られた収監施設は早々に満員御礼。

 急遽施設を追加することになってしまった。

 ワタリビト専用に作った収監施設はシンの設計によるもので、完璧な魔素抜きを行い、施設内には魔素が存在しない状態になっている。

 さらに両手両足に付けられた枷には体内の魔素を抜く魔導印が埋め込まれており、能力が使えないだけでなく、急速に弱体化レベルダウンなどしてゆく。

 魔素を使って機能する魔法やスキルを使おうとすれば、発動前に霧散してしまう上、弱体化に拍車がかかる。

 シンの予測では、最終的にこの世界の住人と同じ、ただのヒトになるはずだ。

 収容施設は2畳程度の独房スタイルで、床に穴が開いただけの簡易なトイレ、多少クッション性のある床が半分ほどで、そこにそのまま寝させる。

 食事は朝夕2回、基本魔素抜かずなクソまず飯で、初回と後はランダムで魔素抜きの食事。

 収監日数が増えるごとに魔素抜きメシの提供回数を減らす。

 そんなので情報を吐くはずが無いと思うかもしれないが、ワタリビトにとってこの世界の食事は耐えがたい苦痛(この世界の住人にとっても苦痛だからね)なのだ、一度でもエグみのない食事を味わってしまったら、もう抜け出せない。

 実際、最初の食事で涙を流して「全てしゃべるからここで働かせてくれ!」なんて言いだす者が続出した。

 もちろん一発で放免なんてしないので、王家の避暑問題が済むまでは放り込んでおく。

 観光や商売目的でやって来る人々も多く、全てを管理しきれているわけではないので問題は山積だけど。

 そして、ほぼ同時期に興行団時代の仲間たちを迎えに行っていた美女な兄貴、マチルダ(本名ガストン)も戻ってきた。

 各地で犯罪を繰り返していた組織の隠れ蓑として使われていた興行団。

 その興行団の花形でもあった、歌劇に歌手や楽団員として使われていた女性たち。

 彼女たちは、犯罪組織によって拉致され奴隷として働かされていた。

 スロークたちの活躍で興行団は壊滅、彼女たちは解放され、それぞれ故郷へと帰っていったのだが、奴隷として焼き付けられた焼き印が消えることない。

 メンバーを故郷へと送り届けた後、みどり村で受け入れていたミサたちに会うためにみどり村を訪れたマチルダたちは、歌劇場のこけら落としのためミサたちと共にみどり村歌劇団に所属することとなり、マナの医療ポッドで焼き印の痕を奇麗に治した。

 生涯消せることの無いはずの落胤が、痕跡も残らず消えたことに喜んだが、同時に後悔もした。

 アレが消せるのであれば、救出時スロークから提案された誘いに乗って、みんなを一度この村に連れて来てから帰せばよかったと。

 そして、シンの援助を受けて年明けから元メンバーを集めに出向いていたのだ。

 マチルダが連れてきたのは元メンバーのほぼ全員。

 ほぼ、というのは、すでに亡くなっている女性もいたからだ。

 小さなコミュニティーである寒村や集落出身者も多かったため、一度攫われているという話は周知の事実であり、腫物を触るような、中にはあからさまに侮蔑するような扱いをされた者が少なくなかったようで、気を病んで自ら命を絶ってしまった者もいた。

 今回マチルダに連れられてきた元メンバーと、少数だがともにやって来た家族たちは、皆みどり村への移住を希望しており、スロークも無条件で受け入れることにした。

 あの頃は自分自身の知識も配慮も足りず、彼女たちがどういう扱いを受けることになるのかにまで思いが至らなかったと悔やんでもいた。

 親元や故郷に帰れば、時間はかかるかもしれないが、きっと幸せに暮らしていけるだろう、程度にしか考えていなかったのだ。

 女性たちの多くが歌劇場で働くことを希望し、人数が多くなったこともあり、後に領営によるグリンウェル歌劇団として再編されることとなる。

 

 「ロボだ・・・」

 「いや、ゴーレムだから。」

 ワタリビトの移住者たちの中には、ロボット系ゲームのプレイヤーも含まれていた。

 有名ロボットアニメを元にした戦術シミュレーションだったり、パイロットとして搭乗して戦うバトル系だったり。

 当然ロボットアニメも大好きで、転生によってロボに乗れると意気込んでいた彼らだったが、現実は甘くなかった。

 ロボなんて存在しないこの世界に、彼らが乗れるロボがあるはずもなく・・・。

 フェンデリアのレジスタンスと行動していた芝原もその一人であった。

 傭兵として機動装甲という呼称のロボットに乗り、機体を乗り換えたりカスタマイズしたりしながら数々のミッションをクリアしてゆくというゲームであったが、ゲームスタート時点で主人公は機動装甲を所有しておらず、イベントによって敵の機動装甲を奪うまではライフルだけで戦わなければならなかった。

 欠損部位の再生を終えた芝原は、テルグリナの案内を受けている中、外壁警備に導入されたシンのゴーレムを見て、諦めていた炎を再燃させた。

 「シン様!私たちにロボを!!」

 ボスを辛うじて攻略し、ダンジョンから無事生還したシンは、真っ先に7人の男たちに囲まれたのだった。

 「いや、あれゴーレムだから。」

 「そこを何とか!」

 「何とかって、そういう問題じゃないよね。」

 そんな問答が続く日々。

 無茶な特攻でダンジョン行きを無期限禁止にされたうえ、王家をもてなすための会議に引っ張りまわされて精神的に疲れ果てていたシンも、さすがに折れた。

 というか、思いついてしまった。

 (これだからいかんのだよなぁ・・・。)

 現在稼働中、清算中のゴーレムたちは、最高級のエンジンコアとテムレイによって、超高度で超精密なプログラムで動き、パイロットなどが入る余地はないほど完璧な防衛戦力になっている。

 当然その最高級エンジンコアは全てゴーレム用である。

 しかしながら、貧乏性で捨てられない俺の悪癖ではあるのだが、錬成中に失敗したりした、中レベル以下のエンジンコアも大量に持っていた。

 テムレイの作ったプログラムを搭載できるほどの容量が無いため現在も放置されているが、攻撃、防御、移動の指示を搭乗するパイロットに任せてしまえば、必要なのプログラムはかなり圧縮できそうだ。

 精密さや判断の速度では遠く及ばないものの、柔軟な行動もできそうだし、操作はゲームに近い挙動だけをパイロットが行い、他はプログラムの自動制御にしてしまえばいいだろう。

 うん、悪くはないのかもしれない。

 こうして、搭乗型ゴーレムの開発をトールたちに依頼することになったのだった。

 

 「さすがトールちゃん。」

 そう言いつつもちょっと・・・かなり引いた。

 頼んだ翌日には試作機を完成させていたのだ。

 まぁ、プログラムも機体も製造中の物をベースにコクピットを追加しただけのVer0.1って状態だけどさ。

 「ロボ・・・というか戦車?」

 「GタンクというよりGヘッド?」

 「なんすか?それ。」

 「むか~しの和製SF映画。変形してロボになる戦車みたいな。」

 「なるほど・・・日本人の変形好きは昔からなんですね。」

 「日本人ならみんながみんな変形好きじゃないからな。」

 「え~、でもロマンじゃないですかぁ。」

 言いたい放題のロボマニアども。

 「ハッキリ言うけど、二足歩行みたいな現実的でないのは作らんぞ。当然合体も変形もしないし、空も飛ばんからな。」

 一般的な洗車でも50tくらいあるものの、あれが普通に走れるのはキャタピラやタイヤが常に地面に接していて、それが回転することで動くからだ。

 二足歩行の巨大ロボットとなると、重心などのことを考えれば、足に相当なウエイトを付けなければバランスをとるのは難しいだろうし、そうなれば足首や膝、股関節に必要なパワーも跳ね上がり、原動機も大型化してしまう。

 戦闘を想定するならば装甲も分厚くする必要があるし、たぶんだけど、15m級のロボでも数百トンにはなるだろう。

 それが、重量に対して小さすぎる接地面積で立つわけだ。

 歩くとなれば、地面に接する時の負荷は体重の5割り増し、走るとなると5倍以上がかかるわけで、地面が無事で済むはずもないし、関節も長くはもたないからしょっちゅう交換する必要があるだろう。

 なんてことを矢継ぎ早にまくし立てて黙らせた。

 問題は、試作機をどこでテストしようか、ということだ。

 そんな時だった。

 良いのか悪いのか微妙な報告が上がってきたのは。

 

    ****

 

 68.5階層。

 通常存在しない〇〇.5階層は、階層ボスを攻略し新たな階層へ最初に踏み込んだ時にランダムで発生する激レアイベントだ。

 ただっぴろい平野の階層で、ダンジョン内で唯一、屋外のような構造をしている。

 そのど真ん中には、上層階へと続くゲートが存在している。

 「こりゃ、完全に外だよな。」

 この階層に足を踏み入れたのは、ユーシン、アオイ、ユーコ、ミコト、ミタライの5人だった。

 「なんか、ワクワクするな。」

 「やっと来たーって感じだよな。」

 ラノベでよくあるダンジョン仕様に湧きたつミコトとミタライ。

 「それより、なんなの?ここ。」

 見渡す限り何もない平原。

 下層への入り口を目指そうにも、見える限り何もない。

 「ピクニックでもするぅ?」

 すでにユーコは大あくびをし出している。

 そんなのどかな階層。

 「ん~、確かこれ、ランダムに起こるなんかのイベントとかって言ってたような気がするんだけどなぁ。」

 だいぶ前に聞いた話だったのでよく覚えていないユーシンは、なんとか思い出そうと天を仰いだ。

 空が青い。

 なんだか眠くなりそうなほどポカポカしている。

 (やべぇ、考えるのがバカバカしく思えてきた。)

 「あれ、何だろう?」

 あまりの心地よさに挫けかけていたユーシンを呼び戻したのは、ミタライの一言だった。

 指さす方向を見ると、遠くに何かが見える。

 「ちょ!なに、あれ!!」

 手持ちの小型望遠鏡を覗いていたアオイが、焦った表情で望遠鏡をユーシンに差し出した。

 「あ!」

 望遠鏡で見た光景に、この階層が何なのかを思い出した。

 「ユーコ!、チョッパヤでカタオカとシンさんかユーキに連絡!ボーナスステージだ!!」

 「ら~じゃぁ~!」

 ユーシンの声が終わるより早く、ユーコはゲートに飛び込んでいた。

 

 ○○.5階層。

 それまでに登場した全モンスターが、階層ごとにランダムで、100体ずつが1つの波として、直前の階層分まで中央のゲートに押し寄せてくるという、タワーディフェンス的なイベントである。

 68.5階層ということは、1階層から68階層まで68波、合計6800匹のモンスターと戦わなければならない。

 ボーナスという表現は、ドロップ率が通常より30%ほど高くなることと、ドロップアイテムが自動回収されるということ、1波ごとに経験値が、倒した者ではなく参加者で頭割りさせるということ、さらには、登場する全モンスターからランダムに現れるということからくる。

 全モンスターからランダム。

 そう、そこには当然ボスモンスターも含まれる。

 施設の種といった、ボスモンスターからしかドロップしないアイテムが、運がよければ一つの波毎に10個以上取れるのだ。

 ウハウハである。

 ゲームなら。

 ゲームなら、敗北して倒れても救助されて復活できる。

 このダンジョンではどうなるのか。

 誰も試してはいない。

 試そうと考える者はいても、自分で試したいとは思えない。

 当たり前ではある。

 

 「アオイ!壁作ってくれ、できるだけ頑丈なやつ!!ミコトはアオイの護衛、ミタライは俺と突っ込むぞ!」

 素早く指示を飛ばし刀を抜くユーシン。

 「な、無茶でしょ!あのかずぅ!」

 前線行きに指名されたミタライは慌てて剣を抜く。

 「最初は1階層に出てくる雑魚だけだ!お前なら敵じゃないだろうが!!」

 「まぁ・・・僕が最前線でも・・・いいんでゃがね。」

 「あ、嚙んだ。」

 「か、噛んでなんかいにゃいぞ!」

 似ているようで真逆と言っていいミタライとミコト。

 どちらもビビリで空気を読まないキャラとみられがちだ。

 ビビリであることを隠しもせずにさらけ出すミタライと隠し通そうとするもバレまくりのミコト。

 天然でおしゃべりなミタライと、俺様キャラを演じて自分を隠そうとするミコト。

 そんな二人だが、やる時はやる点だけは共通している。

 ミコトの能力は強力だが乱戦には向かない。

 敵は今のところ雑魚だが、もしユーシン達が抜かれた場合、敵をバトルフィールドに固定するミコトの能力は、クラフトに集中するアオイを守るにはうってつけともいえる。

 逆に乱戦となれば、最大でも3体までしかバトルフィールドに取り込めない上、ターン制のミコトの能力は扱いにくいことこの上ない。

 バトルフィールド解除の瞬間に殺到されたら、防ぐ手段がミコトの身体能力だけになってしまうからだ。

 ミタライは偵察系の職業で専門の戦闘職ではないものの、範囲攻撃のできる魔法や弓術スキルなども持つため乱戦にも対応できる。

 「気合入れろよ!10波くらいまでは俺らだけでもたせるぞ!!」

 「ジュ、10波って、1,000匹ももつわけないでしょうがぁ!」

 

    ****

 

 「68.5・・・まいったなぁ・・・。」

 管理室でユーコから報告を受け、頭を抱えるカタオカ。

 普段であれば施設の種大量ゲットの可能性があるウハウハイベントのはずだが、王家がやって来る直前での発生は最悪のタイミングと言えた。

 すぐさまシンとユーキ、ミリアを招集、スロークへも報告を上げた。

 

 「とにかく、援軍を送らないといけないと思うんだけど。」

 「まったく・・・ろくなことしないんだから。」

 そう言ってチラリとシンに目をやるミリア。

 確かに68階層を攻略したのはシンだが、68.5階層を出現させてしまったのはユーシン達なので完全にとばっちりである。

 「現状は?」

 「現在は第二波を終えて、1時間のクールタイム中です。アオイさんがゲートの周りに簡単な防壁を組んでいますね。」

 ユーキの問いにそう答えたカタオカは、一番大きなモニターにゲート周辺を真上から見た映像を表示させた。

 「あ~、カイトとヒロを招集して防壁を強固にしよう。」

 「籠城戦ってこと?」

 シンの案に反応したユーキだったが、声のトーンからは乗り気ではなさそうだ。

 ボーナスステージはタワーディフェンスの要素が強いステージではあるし、ゲートから物資を補給できる分有利ではあるが、ボーナスステージ発生中は攻略済み階層をショートカットできる転移石が機能しなくなるため輸送には膨大な時間と人材が必要になってしまう。

 「ちょっと違うかな。」

 そう言うと、シンはモニターに映し出された防壁を指さして、

 「アオイが作った防壁を強固にしてゲートを囲ったら、経験を積ませたい騎士団の訓練に使おうよ。

 物資は部隊の入れ替えの時に、次の部隊が必要な分だけ持ち込めば輸送いらないし。」

 「なるほど・・・訓練しながら時間稼ぎするんだね。」

 シンの意図を理解したユーキは大きくうなづき、ミリアは天井を見上げた。

 「できれば、王家が帰るまでは15波か20波くらいまでに抑えたいかな、それくらいなら俺たちが出張らなくても、魔導甲冑と新型術式銃で対応できるでしょ。」

 「う~ん・・・確かに、1中隊ずつ順番で回せば、何とかなるかもしれないけど、後に行くほどきつくならない?ボスも沸くよ?」

 「それはコクエンとかを送っておくよ。」

 シンの提案を元に作戦が詰められ、防壁強化のためカイトとヒロが、モンスターに対応するため、第一騎士団副団長ライアーと、第一騎士団第一中隊がダンジョンへと出立した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。