閑話:副隊長の秘密?
「どうだった?」
「いつも通りでしたよ。」
「見間違いじゃないの?」
「いやいや、見間違うはずないじゃん、間違いなく副隊長だったって!」
みどり村にある酒場の一つ”飲んだくれ”。
ミードを水で薄めているなんて疑惑のある酒の安い店。
食べ物はいまいち、とにかく酒だけ飲みたい人向けの店だ。
そこに集ったのは、グリンウェル騎士団所属の古株3名。
元傭兵で街道警備を経て騎士団に上がった3名だけに、副隊長ライアーのこともよく知っている・・・はずだった。
「ほんとに見たのかよ?」
スキンヘッドの優男、弓を得意とするロベルトが、長髪の青年アレクスに詰め寄る。
「間違いないって!俺が副隊長を間違えるはずないだろ!!」
ロベルトを睨みつけて凄むアレクス。
尊敬する上官を見間違えただなんて言われて黙っているわけにはいかない。
「確かになぁ。お前が一番怒られてるもんな。」
静観を決め込んでいた3人目の男、癖っ毛のジーニスは、さすがに険悪になってきたと間に入った。
が、一言多かった。
「恨みで似た体型の娘が副隊長に見えたんじゃないのか?」
すっかり出来上がっているロベルトだったが、ジーニスの余計な一言を見逃さずアレクスに絡む。
「てめぇ!」
「だいたいよぉ、あの鬼の副隊長様が、コリント領でコソコソと、何やってたって言うんだよ。」
「知るかよ!声かけたけど気づかなかったみたいで人ごみに紛れて見失っちまったんだから。」
「・・・まさか・・・女か?」
「はぁ!?まさか、そんなわけないだろ!」
「意外と男かもな。」
「な!なななに言ってんだテメェ!」
「あ~分かるわぁ、時々だけどよ、マジで女を感じることがあるんだよな、副隊長によ。」
「お前もか!俺なんか、最初の頃はマジで女の子だと思ってたぜ。」
「テメェらいいかげんにしろよ!」
アレクスがテーブルをバンと叩いて立ち上がると、ロベルトも立ち上がってアレクスを睨みつける。
「お前ら、明日は当番じゃなかったのか?」
ロベルトの胸ぐらに手を伸ばしかけたアレクスが硬直した。
後ろから聞こえたその声は・・・。
まさか、こんな場所にいるはずがない。
が、ロベルトもジーニスも直立して、アレクスの背後にいる人物に敬礼している。
恐る恐る振り返る。
誰もいない。
視線を少し下に・・・。
慌てて体の向きを変えようとして、重いテーブルに腰を打ち付けたが、その痛みも吹き飛ぶほどの鬼がいた。
「も、もうきり上げようとしていたところでした!!」
少年にも少女にも見えるが、実力はアレクス達3人が絶好調で、最高の連携が取れたとしても、何もさせてもらえずにボコられる。
恐ろしき上官、ライアー・ライル副隊長。
オーガの猛者ですら震え上がる容赦の無いシゴキに、多くの団員が震え上がっていた。
「副隊長殿は、よくここに来られるのですか?」
いつもひとこと余計なジーニスが、とんでもない爆弾を放ってしまった。
(バカか!それじゃあまるで迷惑してるように取られるじゃないか!!)
実際、来づらくなるなとは思ってしまうが、だからといって口に出してしまうジーニスの軽率さに苛立つと同時に、この後のことを想像して心底震え上がる。
「前を通りかかったら喧嘩が始まりそうだと泣きつかれてな・・・まさか貴様らだとは。」
(地獄確定。)
目の前が真っ暗になる気がした。
「とにかく迷惑をかけるな。今すぐ帰ってとっとと寝ろ。」
にこやかに告げる鬼の副隊長。
こういう時は容赦がない。
明日どころか、この先10日は地獄の特訓が続くだろう。
「オレ、近いうちに死ぬかも。」
「たぶんその時は俺も一緒だな。」
「それは最悪だ・・・まちがいなくおれもいっしょだろうしな。」
がっくりと肩を落として帰途に就く3人だった。




