閑話:着々と
リタの能力、ミーティングルームでは、今宵もイェン包囲網の打ち合わせと情報のすり合わせが進められている。
王女の殺害未遂から国の簒奪まで、イェンが起こした証拠集めは順調に進んでいるものの、そのまま公表すれば彼らも責任を追及されることになる。
特にイェンは、自身は決して表に出ず、マサトシらを目立たせるように活動してきた。
ここで俺たちは知らなかった、悪いのはイェンだけだ、は通用しない。
彼らが生き残るためには、シンの提案に乗るしかなかった。
王女の暗殺は反王家派の貴族たちが主導しており、その証拠を固めるために仲間になったフリをしていたと。
証拠をつかんだ後はそれをもって反王家派を一掃し、その上でファーレン王家に返上する。
かなり無理があるが、それでもその方向で進めるしかなかった。
そのために絶対必要なのが、裏社会でも通用する交渉能力を持つリヒトの存在であった。
シンの扮するキツネ目の男ハンが進める話を蹴って逃げる手もあったが、リヒトは同郷の者達を救うべく乗った。
彼の能力は子の悪だくみにはうってつけで、早々に裏社会を牛耳り、貴族達にも支配力を強めている。
それによって、彼らの目論見を強力に後押しする情報と証拠も手に入れた。
王女暗殺は、イェンが確殺するより前から、腹違いの兄の手によって進められていたのだ。
王族の中に主犯がいるから簒奪して動きを封じるしかなかった。という大きな言い訳を手に入れることができたのだ。
これで後は、邪魔されないようにイェンの動きを封じるだけだ。
表立って動かず裏から手を回してきたことを逆手にとって、調査中返り討ちにあった、などとして退場願うことになるだろう。
そのためには、イェンが従える従魔という強力な兵力を抑えなければならない。
レベルもアイテムも無い状態でスタートしたにもかかわらず、シンやイェンがアイテムや従魔を持ち越せた大きな理由は、エイルヴァーンというゲームの特殊性にあった。
転職によってレベルが1に戻ってしまう状態がシステム化しているエイルヴァーン。
その際従魔関係のスキルや貯蔵庫などは一時的に使用不能になるが、スキルを使用できるようになるレベルに達すると中身がそのまま利用できるようになった。
また、MODなどの改変プログラムもそのまま組み込まれたため、レベルが1になりその状態で装備したり所持していたアイテムは消えてなくなったが、そうでないものはそのままデータとして残ったのだ。
エイルヴァーン以外にも、イベントやアイテムの入手によってインベントリなどのアイテム保持枠が増えるタイプのゲームはある。
が、レベルが1に戻るような状態がシステム化され、さらにアイテム保持枠が戻ればそのままアイテムを取り出せるようになるゲームでなければ復活することはない。
そういった意味でも、高レベルのゲームモンスターを従魔としてそのまま使えるイェンの存在は厄介だった。
イェンの隠れ家を見つけ出し、合流させないように従魔たちを殲滅、その後イェンを拘束するか亡き者にしなければならない。
そのための情報収集と意見交換が主な議題となっている。
至極真面目な話をしているのだが、三頭身にデフォルメされた姿なのだから何とも緊張感に欠ける。
しかし、いまだに発見できないミクロンマン、ユータの存在がある以上は表立って動けないのだ。
米粒サイズの優秀なスパイがいては、イェンに怪しまれずに事を進めることができないからだ。
「忌々しい野郎だ。」
リヒトのアバターが可愛らしく憤慨する。
「米粒サイズだからねぇ・・・さすがに表示されないんだよなぁ。」
耳がとがったエルフのアバターが、困った表情でお手上げだとばかりのジェスチャーをする。
「アッキーのミニマップにも表示されないんじゃぁ、どうにもならないんじゃないの?」
「アッキー言うな。」
リタがつまらなそうにアッキーと呼んだエルフ、アキヒロの尖った耳をツンツンとつつく。
「耳もつつくな。」
停滞気味のミーティングは、こうやって脱線しがちだ。
「バンバンジーさんの方は進捗どう?」
「残念ながら、有力な情報は無いかな。」
困った表情のバンバンジーは、ドワーフのアバターだ。
「この間の集会で、個人でやってるような職人にも挨拶がてら、それとなく聞いてみたんだけどさ、誰もイェンからの接触は無さそうだったよ。反社を間に入れてたらわかんないけどな。」
「それは、無いな、そういった連中を使えば、俺の耳に入ってくるはずだ。」
シミュ―レーションゲーム、クラフトマンをプレイしていたバンバンジーは、王都の職人組合に加入して情報収集に当たっていた。
イェンが王城以外にもどこかに拠点を構えているのではないかという疑念があったため、その位置を特定するうえで建設に携わった職人を探していたのだ。
建築そのものはエイルヴァーンの拠点作成用建築系スキルで作業できると協力者から情報を得ているが、そこに整地などの土木機能は含まれてはいないらしい。
イェンの有する従魔たちや騎乗モンスターなどを住まわせる拠点がどこかにあるはずで、生活空間だけではなく運動や訓練等にも使用するわけで、それなりに大きな土地が必要なはずなのだ。
広大な農地がある地域は平地が多いものの、そういった場所にあればすぐに当たりを付けられる。
見つからないということは、それ以外の地域に隠されている可能性が高い。
が、そういった地域は起伏が大きく、大掛かりな拠点を作るのであれば現地職人による整地作業が必要になるはずで、大量の使途不明金はそのための資金だったのではないか、というのが現段階での推測となっていた。
「感なんだけどさ、あいつ、国外で動いてるんじゃないかな。」
ヒノモトの北側に位置するゼナなどは、西にノスサンザ大森林と隣接する小国で、政治情勢も良いとはいえず、隠れて暗躍するにはうってつけとも言えた。
「確か、そっちにも手を伸ばしてる組織があったな・・・探りを入れさせてみよう。」
リヒトはそう言うと、ミーティングルームからアバターが消えた。
「相変わらずせっかちだなぁ。」
「3頭身でいるのが嫌なんでしょ。」
「なるほどね・・・じゃ、とりあえず今日はお開きかな?オレも落ちま~す。」
「乙~。」
「また明日~。」




