189話:ドロップ
ダンジョン管理室。
第一階層内に存在する小さな部屋には、40インチはありそうな大きなモニターの周りに、壁一面に無数の小さいモニターがひしめいている。
ハラハラしながらモニターを見つめていたカタオカは、大きく息を吐いて椅子に座り込んだ。
ゲームの能力によりカタオカには、ダンジョン内部に限り、HPを棒グラフのようなゲージで見ることができる。
絶対値ではなく率で表示されるタイプのHP表示なので、個別のHPがどれほどあるのかまでは分からないが、ダメージによる減少幅で何となく察することはできる。
だからこそ分かった。
もし、クロウが機転を利かせてボス部屋に乱入していなければ、シンやユーシン、ミタライはかろうじて耐えられても、サポートに入っていた執事服姿の悪魔たちは確実にHPが0になって倒れていただろう。
クロウの配下にあたる悪魔たちは、力尽き倒れてしまったとしても、大幅に弱体化した上に実体を失うが、消滅してしまうわけではないらしい。
力尽き倒れるのは単純に弱いからなのだから、全く気にすることはない、というのが悪魔たち本人の見解だ。
実に悪魔らしい考え方ではある。
しかし、再び実体を持てるようになるまでに回復するには、数百年単位の途方もない時間が必要になると言う。
(それって、人の感覚からすると死んじゃうこととあんまり変わらないんだけどな)
死のリスクがつきまとうダンジョン攻略。
それだけに、カタオカも攻略を催促するようなことはしてこなかったし、参加者たちも一線を引いて無理はしてこなかった。
あのミリアですら、ボス戦に関しては入念な準備と十分すぎるほどの人員確保ができなければ挑戦しない。
それだけ危険なのだ。
シンとユーシンは、それを簡単に超えてしまった。
ボス部屋の封印解除を求められた時、シン達のことだから、きっと何か策があるのだろうと思っていたカタオカだったが、無策で無邪気に飛び込む二人の姿に、あっけにとられてしまった。
カタオカ達転生村出身者にとって、シンは救世主であり、頼れる存在だった。
絶望的な流行病から村人たちを救い、どうせ勝てるわけが無いと諦めかけていた騎士団との戦いに希望をもたらせてくれ、誰一人欠けることなく生き残ることができた。
その上、この世界の住人達も含めて転生村のすべてをこの地に受け入れてくれたのだ。
そのシンが、長く停滞していた階層攻略を申し出てくれた。
期待しないわけがない。
常々、スロークやユーキたち、みどり村を立ち上げたメンバーたちが見せるシンに対しての、(心配と諦めが混じったような)態度を訝しく思っていたカタオカだったが、なるほど!と納得してしまった。
(すごい人なのは間違いないけど・・・安心できない人でもあるんだな)
カタオカの中でシンの株がストップ安をぶち抜いて急落した。
同時にクロウたち悪魔が参加したことと、そのきっかけになったユーキ達の判断に心底ホッとして感謝したのだった。
モニターの中ではシンたちがドロップ品の確認を始めていた。
アクサスのドロップ品は、
アクサスホーン×2:黒く長い一対の角。雷属性を持つ高級素材。
霜降り肉×10:ミノタウロスロードのレアドロップと同じ物。
怒れる牛皮×5:レザー系防具の高級素材で、これを使った装備は雷への耐性をもつ。
施設の種:中身はランダム。
が固定ドロップで必ず落ちる。
他にレアドロップとして
装備品:レアドロップで出ないことの方が多いが、打撃系の良い武器が出ることがある。
輝石:(施設をランクアップさせることができる宝珠)が、極稀に落ちる。
といったところ。
施設がランクアップすれば、収穫量と収穫物の質が上昇する。
質の高い収穫物でしか作れない施設もあるので、輝石は是が非でもほしいところだ。
緊張の一瞬。
アクサスのドロップ品は・・・幻想林の種・・・残念!
ファンタズムツリーの木材畑で、採集した木材は最高級素材になる。
が、この施設を作るには高級木材や高級石材など、ランクアップした施設から取れる資材が必要になるため、種が手に入ってもまだ作ることができないのだ。
期待したレアドロップ、輝石と武器は出ず。
今回出た幻想林の種は、当分倉庫の肥やしになりそうだ。
**
北川街道の最初にある宿泊地に設営された移住者審査用テント。
そこに、一風変わった組み合わせの二人組が訪れた。
ローブを着た大男と、杖をつき大男の補助を受けて歩く青年。
大男は、口元を布で覆い、ローブのフードを目深にかぶるなど、目元以外肌が露出しているところが無い状態。
青年も薄汚れたローブを纏ってはいるが、右足と左腕が欠損していることが一目で分かる。
(ワケアリか)
審査官は面倒なことにならなければいいなと思いつつ、平常を装うよう努めることに集中した。
青年は長い行列を並んでようやくたどり着いた、といった感じで、大男に支えられぐったりとしている。
その青年が、振り絞るように審査担当の係員に告げた。
「私たちは、芝原と大川と言う者です。」
かすれてはいるが、ハッキリと聞き取ることができた。
(シバハラとオオカワ・・・特殊案件の可能性か)
「以前フェンデリアでハンという方のお世話になった者です。
その方からご紹介いただいたのですが、シンという方か、クロウという方に取次ぎをお願いしたいのですが。」
言い切ると、再びぐったりする青年。
椅子をすすめたが、一度座ると立ち上がるのが辛いということだった。
(確か、ハンってシン様の偽名だったよな・・・クロウ様の名前も出ているし、やっぱり特殊案件か)
審査官は二人に少し待つよう伝えると、上司を呼びに走った。
ワタリビトの判定をするのは、彼ら審査官の上司に当たる悪魔だ。
ワタリビトの可能性を確認するための問答がマニュアル化されており、査定中それに引っかかると、悪魔による判定が行われる。
悪魔と言っても、擬態によりヒトと見分けはつかない。
ワタリビトだと判定されると、小型転移門でテルグリナへの転送される運びだ。
とはいえ、みどり村を目指すワタリビトたちはほとんどが、自らソレであることを伝えてくるので、問答で判断されるのはワタリビトであることを隠して入ろうとする者達がほとんどだ。
他にも、悪意を持って入り込もうとする者達もふるいにかける。
審査官たちは、シャドウデーモンや蠅の王が調査した犯罪歴などの資料を基に問題になりそうな移住希望者をふるいにかけている。
審査官たちは、悪魔の配下に入る という契約を上司に当たる悪魔と結んでおり、審査対象の感情を何となく読み取る能力を身に着けている。
それらに引っかかった者が見つかり次第、上司を呼び詳細な審査を行うのである。
悪意や人の心を感知・知覚できる悪魔たちだからこそ判定できる領域になるのだ。
今回審査した二人は、悪魔の審査をするまでもなく問題無しではあった。
表に出ることの無いクロウの名が出た時点で、シンとかかわりがあるということが明白だからだ。
が、それでも規定通り悪魔による審査が行われ、問題なしの判断をされた後、二人は小型転移門へと案内され、テルグリナにあるシンの拠点へと転移されることになった。
「シンさん案件かぁ・・・。」
街道からの連絡を受け、受け入れのためシンの拠点内にある小型転移門へ向かうバクス。
森の生態調査から帰ってすぐの呼び出しに、早く資料の整理に取り掛かりたい気持ちを抑えなければならなくなった。
今回は初めて調査した地区だっただけでなく、グリンウェル領にとって有用になりそうな魔虫の発見など、実り豊かな調査だっただけに、正直言って面倒くさい。
報告では直接シンやクロウの名を出しているという。
最近あちこちで面倒に巻き込まれているらしいと噂の絶えないシンが関わった相手が来た、ということは、きっと厄介ごとを持ち込んでいるに違いない。
(よりによってこんな時に帰ってきちゃうなんてなぁ。)
普段であれば、警備隊の誰かが担当することが多いのだが、今日は新装備のお披露目会とやらで大半がみどり村に出向していて、その補佐としてヒロやシュン達といった、ワタリビトの対応をしたことのあるメンツもあらかた出払ってしまっていた。
最悪、悪魔たちの誰かが担当してもいいのだが、それを判断する立場にあるクロウもまた、ユーキからの伝言を持ってシンの元へ、ダンジョンへと向かってしまった。
最悪のタイミングに、ワケアリらしい二人組がやって来たのだ。
誰が担当するか悩んでいたところにバクスが帰って来た。
飛んで火にいる夏の虫である。
(一応やることは覚えてるけど・・・武闘派だったら対応できんぞ)
事故により鬱蒼としたジャングルに一人取り残された主人公が、猛獣や好戦的な原住民、飢えや渇きと戦いながら脱出を目指すサバイバルゲーム、フォレストをプレイしていたバクス。
手製の武器で猛獣や原住民と戦うこともあるゲームではあったが、その本質はクラフトと観察を基本とした謎解きであり、戦闘能力自体は一般の非戦闘員よりはマシといった程度でしかない。
戦闘系ゲームのプレイヤーが暴れだしたら何もできない。
「あの、付き添ってもらえる?」
面会室のドアの前、案内してきたメイドさんに付き添いを頼んでみた。
見た目は可愛らしい少女だが、その実態はヒトに擬態したグレーターデーモンである。
「承知しました。」
無表情のまま応じたメイドさんだが、ビクついていたバクスはホッと胸を撫でおろした。
心強い味方を得たのだ、後は覚悟を決めるのみ。
ドアをノックして、返事を待ってノブを回す。
室内には、ソファにぐったりともたれていたらしい青年と、青黒い肌、額に角を生やした大男だった。
(やっぱり・・・オーガだよな・・・あの人)
入室したバクスを見て姿勢を正そうとした青年だったが、体が傷むのか顔をしかめた。
「あ、そのままで結構ですよ、楽になさってください。」
バクスは規定通り二人の素性やゲームの話を聞き取ると、ようやく安心することができた。
二人とも穏やかで好印象を持てる人物だったのだ。
「芝原さんは早急に治療を始めた方がいいですね大川さんは・・・」
「あ、できれば、治療に付き添いたいんだけど・・・無理でしょうか。」
そう言われて、メイドさんを見た。
自分には判断できない。
いかに魔者の暮らすみどり村とはいえ、大川の青黒い肌と巨体で診療所に行くというのは問題無いのだろうか。
「医療ポッドはこの拠点内にもありますので、問題ありません。」
即答だった。
そう言えば、そんな話も聞いていたな。
確か、ダンジョンで重傷者がでた時のために一台設置されていたんだった。
今までのところお世話になったことが無いので忘れていた。
「感謝します。あと、ハン殿にお返ししなければならない物があるのですが。」
そう言って、大川は着ていたローブを脱ぎ、宝飾の付いたネックレスや指輪などを取り始めた。
「こで・・・ハンどのがらおガリしていたダ・・・です。」
突然たどたどしくなった物言いに、何となくピンときた。
「あぁ、とりあえず着けときましょうか、シンさんはダンジョンに入っているので、戻ったら直接渡してください。」
「しん・・・ドノでズか?・・・・これらをお借りしたのはハン殿なのですが。」
指輪をはめ直しながら首をかしげる大川。
(極端だなぁ、一つつけただけでもこんなに変わるんだ)
大川は、シンが変装したハンと別れた後も、知力を上げるために文字の勉強に励んだり、レベルアップによるステータス振りを知力に集中させたりしてきた。
が、オーガという特性や、ハンと出会い、知力値の影響を再認識させられるまではゲームの時のまま、筋力と耐久力に極振りしていたことが祟って、アイテム無しではまだ会話がたどたどしくなってしまう。
それでもかなり良くはなったが。
「ん~とだね・・・ハンってのはシンさんの変装なんだ。一応この国の貴族だから、外国に行くときは変装して偽名を使うんだよ。」
「え・・・それ、聞いちゃっても良かったんです?」
「・・・ここに住むんでしょ?ならいいんじゃない?」
一瞬マズかったかな?とは思ったが、言ってしまったものは仕方がない。
面談は終了して、彼らの希望も聞き、とりあえず治療を優先するということで話がまとまったのだ。
バクスとしては早く戻って調査結果の取りまとめを始めたかった。
「じゃあ、後はよろしく。」
そう言って部屋を出た。
まずは、今回採取してきたサンプルをトールたち研究チームに渡さなければ。
**
ドロップ品の回収を終え、帰り支度をしながら・・・じゃないな、ミタライのエンドレストークに辟易しながら合間に帰り支度をしている、が正しい気がする。
主と従が逆だ。
「そー言えば、シンさんの魔法とスキルって変じゃない?」
「??」
「何がっスか?」
こんな感じに、ただ右から左に聞き流せない話題がチラホラと混じるので、帰り支度が雑談のついでみたくなってしまうのだ。
帰り支度って言っても、これまでのドロップ品の分配程度なんだけどね。
戻ってからやればいいんだろうけど、クロウまで送り込まれてきたってことは、戻ったら分配どころではなくなりそうな予感がするので先に済ませてしまうことにしたのだ。
「魔法は英語なのにスキルはモロ日本語とか。」
またどうでもいいことを。
「あ~・・・そう言えばそうっスね。」
そしてうっかりユーシンも引っかかるのだ。
そのせいで何度も中断する。
「ん~、確か、開発陣に相当な日本かぶれがいたらしいって聞いたよ。
スキル名に漢字を使いたかったらしくて、他の開発メンバーの反対を押し切って使ったらしいんだけどね、日本語が得意じゃなかったそうなんだ。」
「うわぁ~・・・。」
初回ロッドのスキル名は本当にひどかったらしい。
当時の自動翻訳はかなり怪しいもので、日本人にも半分以上意味不明。
で、アップデートで英語表記に戻ったんだけれど、開発者の心意気に感銘を受けた・・・のか、面白半分だったのか、日本人のMOD製作者が正しい日本語でスキル名の日本語化MODを作成。
即座に日本かぶれの開発者が反応して正式に採用しようとしたけれど、やっぱりほかのメンバーに反対されて、すったもんだ。
折衷案で、日本語版のみの限定で正式採用された。
ちなみに、それほどの日本かぶれがいるのに製品版に日本刀が存在しない理由は、やっぱりその開発者のわがままが原因だった。
日本刀専用のモーションを作ろうとしたらしいけど、開発費とか容量とか、いろいろな問題があって採用は見送り。
ロングソードと同じモーションで振るわれる日本刀なんて見たくないとか言い出して、その結果日本刀そのものが不採用になったのだとか。
まぁ、いるんだよね。
中途半端な知識でゴリ押しするかぶれってさ。
PCゲームとしてRPGの基礎を築いたともいえる超名作疑似3DRPGでも、妖刀村正に感化されて登場したらしい武器は、発売当初は”Murasama Blade”と表記されていた。
里見八犬伝の村雨と混同したという説もあったけど、それでも間違っていたし、真相はよくわからないが。
後にMuramasa Bladeと正式に変更されていることからも、村正を誤表記したという方が有力そうだ。
ということで、ニンジャやサムライの影響か、怪しい日本は海外製のゲームではよくあることなのだ。
なんて脱線を乗り越えてようやく分配も完了し、俺たちはボス部屋にだけ現れる帰還用転移魔法陣からダンジョンを脱出した。




