188話:ボス戦
石造りで重厚な両開きのドア。
高さこそ2mを少し超えたくらいだが、幅は両方合わせて3m近くある。
表面にはルーン文字の様な文様が彫り込まれており、俺たちがその前に立つと、うっすらと、まるでドアを封印しているかのように絡みつく鎖が見えた。
「よろしくぅ。」
どこかで見ているであろうカタオカに向けて声をかけた。
ボス部屋の封印は、ゲームのプレイヤーであるカタオカにしか解除できない。
だから、ボスに挑むときは事前に連絡してボス部屋を監視していてもらわなければならない。
ドアの前で暫待つと、半透明の鎖がはじけるようにバラバラにちぎれた。
鎖は地に落ちる前に消え、全ての鎖が消え去ると、代わるようにドアに掘り込まれていた文様が輝き出した。
ズズズ・・・
重く硬いものを引きずるような音を立てて、重厚なドアがゆっくりと開いてゆく。
中は暗い。
ドアの開きが大きくなるごとに、ドアの近くから火が灯ったように明るくなってゆく。
こういう演出は割と好きだ。
ドアが完全に開き切ると、大きな円形の部屋が見えた。
中央には巨大な雄牛が、臨戦態勢で待ち構えていた。
頭から延びる一対の黒い角は、うっすらと放電しているように見える。
鎧のように盛り上がった筋肉からは湯気が立ち、まさにボスモンスターにふさわしい威容だ。
前脚を軽く曲げ頭を低くして見事な角をこちらへ向けると、後ろ脚で地を掻く。
一歩でも踏み込もうものなら、即座に突進してきそうだ。
かつて、初めてデモンエイプと遭遇した時みたいな、強烈な圧を感じる。
俺もユーシンも、あの時とは比べ物にならないくらい経験を積んで力もつけている。
それでも感じるこの強烈な圧は、あの時の俺たちとデモンエイプとの差と同等の実力差がある、ということだろうか。
ゴチャキャラゲームの発掘ダンジョン王国に登場するボスモンスターなのだから、少数では勝てない設定でもおかしくはない。
(まずいな。)
なんだかもの凄くワクワクしている。
圧倒的強者を前に緊張感が無さすぎる気がする。
この感覚は懐かしい。
ゲームに熱中していた時を思い出す。
けど、こういう時ってたいてい散々な目に合うんだよな・・・。
ゲームじゃない・・・気を引き締めなきゃな。
「やばいですって、あれ、絶対勝てないヤツ!!」
ミタライがうるさいが、なんかもう慣れた。
けど、ミタライの反応が正しいような気もしてきたぞ。
チラリとユーシンを見ると、刀をブンブン振り回してウォーミングアップしている。
だよね?
俺たちの方が正しいんだよね。
うん、そう思うことにしよう。
ミタライだってビビりだけれど、いざ戦闘に入るとノリノリで戦っていたりするんだし。
大丈夫、変に浮かれているわけじゃない。
この世界でいろいろとガッカリしてきたんだし、ゲーム仕様のままののダンジョンに心躍るくらいは有りだよね。
「どうりぃあああぁ!」
俺がなんだかんだ考えている間に、ユーシンが特攻していた。
刀がアクサスの長い角と打ち合う。
かつて、森をビクビクしながら探索していた時、巨体のホーンボアをバール一本で十数mも吹き飛ばした強力な一撃。
あの時とは比べものにならないほど実力も装備も強化されているはずだけれど、アクサスはビクともしない。
「アイシクルスキュア!」
すかさず右側面に回り込んだミタライが技を叩き込む。
鋭くとがったつららを纏った刺突武器がアクサスの首元を襲う。
が、まるで外殻の様に膨れ上がった皮膚なのか筋肉なのかに弾かれてしまう。
「突いてダメならぁあ!」
そう、堅い守りがあるなら剣より鈍器。
俺はミタライの反対側に回り込むと、ミョルニルハンマーで渾身の一撃を角の付け根付近に叩き込んだ。
ゴイン
鈍い音がして弾かれた。
さすがに嫌だったのか、ユーシンとの力比べをやめて後ずさったのものの、さしてダメージは無さそうだ。
脳震盪とはいかなくても、多少でもふらついてくれないかと期待したわけなのだが、ちょっとショックな結果となった。
ッチッ
アクサスの角に小さな光が瞬いた。
何かヤバいと感じた俺は、グレーターデーモンたちに耐性強化の指示を出す。
ガッゴッ
俺自身にもバフをかけてゆく間にも、ユーシンが果敢にアクサスを攻め立てている。
ッチッ・ジジ・・・
次第に大きくなる角の光と音。
「ユーシン逃げろ!」
の叫びとほぼ同時だった
バチンッ
「ぬぅあおぉ!」
間一髪、飛び退くユーシンがいた場所をアクサスの角から放たれた稲妻が焼いた。
「し・・・痺れたっ。」
「終わってない!」
直撃を避けて一息つこうとしたユーシンをミタライの絶叫が引き戻した。
ジッ・・・バチチッ・・・
角から激しい放電が縦横無尽に放たれる。
と、視界が真っ白になるほど強烈な光と、鼓膜に痛みが走るほどの轟音。
そして、弾かれるような強烈な衝撃と激痛。
「ウソツキー!」
少し後ろからミタライが怨嗟の叫び声を上げている。
チラリとみると、片膝をついたミタライの目の前に、剣の柄を天に向けた状態で切っ先を床に突き立てているじゃないか。
どうやら、雷撃対策の定番ネタ、剣を地面に突き刺して避雷針代わりに、を実演しようとしたらしい。
石って絶縁体だから、剣をちょっと突き刺したところで避雷針になんてなりっこないのに。
たとえ土の地面だったとしても、電導率の低い鉄の剣を十数センチ刺した程度では何の意味も無い。
鉄の5倍の電導率を持つ銅の棒を地中深く埋め込んだうえ、地上側の先端が稲妻の発生源の方向を向いていなければ避雷針にはなりえないのだ。
しかも、その近くにいれば地面や空気中を伝って側撃雷に襲われる。
要はあれ、ただの自殺行為なんだよね。
耐性強化が間に合ったおかげで大事には至らなかったようだけれど、ドア付近にいたグレーターデーモンたちも被弾していることから、アクサスの電撃はかなり広範囲で強力な範囲攻撃であることが判明した。
入室していないクロウを除く全員が食らっているから、有効半径は10mといったところか。
光の1/3から半分程度、秒速10万から15万Kmなんて速度の稲妻からこの範囲内で避けるなんて物理的に不可能なので、これはもう我慢するしかない。
耐性強化が有効で、威力を弱められたのがせめてもの救いだ。
と、痛む箇所がほのかに光ると、すぅっと痛みが消えた。
悪魔の1人が回復魔法を使ったようだ。
さすがにそつがない。
そして次々にバフがかけられてゆく。
グレーターデーモンなのに範囲回復とかバフ各種とか、ちょっと優秀過ぎません?
確かゲームでは攻撃魔法しか使ってなかったはずなのに。
ガッ! ゴッ!
ユーシンが再び果敢に攻めるも、アクサスは器用に角で弾き返してしまう。
そのたびに角からの放電が強くなってゆく様に見える。
なるほど、角に攻撃を受けると蓄電していって、一気に放電するのか。
・・・さっきの放電って、ひょっとして俺のせい?
手持ちの武器の中でもかなり上位に位置する破壊力を持つミョルニル。
打撃系武器に限定すれば最大火力を誇るコイツをフルパワーで角の根元付近に叩き込んだせいで、一気に充電されちゃったのかも・・・。
「頭はダメだ!角への攻撃がさっきの放電を誘発しているみたいだ。」
かといって、それ以外は強固な外殻に覆われている。
「了解っス・・・けど!クソッ!コイツ以外に器用っス。」
角以外を攻めようとするユーシンだが、アクサスは器用にもユーシンの攻撃を角で弾き返す。」
ミタライがアクサスの隙を突いて側面や背後から攻撃しているが、効果はなさそうだ。
おそらくミタライの攻撃力では脅威にならないと察したであろうアクサスは、意識をユーシンに集中して角への充電を進める算段なのだろう。
ユーシンも理解してるのか、それとも感なのか、威力を抑えて手数とトリッキーな技で隙をついて本体に攻撃しようと躍起になっている。
俺も武器をミョルニルから大剣ウリエガノフに変えて、スキルを多用しながら挑んだものの効果はいまいち。
アクサスの動向を観察しながらだったので手数は少ないものの、何となくわかったことがある。
どうやら、俺たちの攻撃が効いてないわけじゃなさそうだ。
たぶんだけど、HPの設定が馬鹿みたいに高いんだ。
見た目まったく変化が無いように見えるが、ミタライが集中していた右前脚への攻撃で、若干だけど足運びに変化がみられた。
とはいえ、このまま続けてもジリ貧である。
(やっぱり腹しかないか・・・う〜ん、自力で探り当てたかったなぁ。)
弱点を先に聞いてしまっているというのは、なんだかネタバレをされたようで・・・昔はそんなこと無かった・・・よな。
むしろ、攻略系情報サイトをよく利用していた。
エイルヴァーンと出会って、メインシナリオをクリアして、シナリオやアイテムの取り残しに気が付いてセーブデータをリセットしてやり直し・・・するも、当時のネット上には、取れないはずのアイテムをゲットしたっていう自慢はあっても、取り方まで書いているところはほとんど無くて・・・なんだか悔しくなって、いろいろと試しているうちに、何が何でも自力で見つけてみたいと思うようになっていったんだった。
それだけ隠しシナリオだとか、通常では入手できないアイテムのといった開発陣の悪戯が盛りだくさんのゲームだったからっていうのもあったけどね。
このダンジョンに入ってから、その感覚が呼び起されたというか、ゲームでムキになって模索していた頃に戻ったみたいで、楽しくて仕方なくなってきていた。
なのでネタバレされたのがちょっとだけ残念。
攻略法丸々ネタバレされたわけじゃないからまだ模索の余地はある。
アクサスは牛系のモンスターというだけあって足が長い。
地面から属性付きのトゲを生やす魔法、トーン系では腹に届かないから、足にダメージを与えて膝をつかせるかしたいところだが、足にも鎧のような外殻がガッチリと覆っている。
ミタライがムキになって集中攻撃してもようやく微妙な変化が出始めたほど固く高いHP設定。
膝をつかせる前にスキルも魔法も尽きそうだ。
となると・・・危険を冒してでも足の間を潜り抜けて直接腹に攻撃するしかないか。
武器を大剣のウリエガノフから、刺突系のショートソード、イグニスとフロストバイトに変更する。
イグニスは炎を纏ったスティレットで、フロストバイトは凍結効果のあるダガーだ。
もちろんゲーム時代強化しまくった逸品である。
右手にイグニス、左手にフロストバイトを持って、意を決すると一気に突っ込む。
「ぬおりぃあ!」
俺の動きを察してくれたのか、ユーシンがひときわ大きな叫びをあげて下から斬り上げるようにアクサスの顎下へ刀を叩き込み、アクサスの注意を引き付けるという有難いサポート。
「うげ!」
邪魔しようとする足の攻撃をかいくぐりアクサスの真下に滑り込んだが、そこは細かい放電攻撃のビリビリ地獄だった。
「なろう!」
痛みを我慢してアクサスのデカい腹を数回突き刺すと、地面を蹴って脱出する。
間一髪。
ドスンという音と共に、腹で押しつぶすように座り込んだアクサス。
あの巨体に押しつぶされたらたまったもんじゃない。
けど、好都合だ。
すかさずアイストーンを発動させる。
アクサスの腹に、氷のトゲが突き刺さり、初めて苦悶の声を上げさせることができた。
イグニスとフロストバイトによる炎と凍結の追加効果もしっかり植え付けた。
どちらも30秒間、持続ダメージでジワジワとHPを削る・・・こいつには焼け石に水かもしれないけど。
「あれ?」
ミタライの素っ頓狂な声。
「なんか、攻撃通りやすくなってない?」
の声にミタライの方へ目をやると、ミタライが切りつけた場所は確かに出血していた。
再び武器をウリエガノフにチェンジすると、スキル“大切斬”で立ち上がろうともがくアクサスの背に上段から振り下ろした一撃を加える。
ガツンと来る手ごたえとともに、バキンという音が響いた。
一瞬ウリエガノフが折れたのかと思ったけれど、折れたのはアクサスの背骨の方だったようだ。
ヴモォオオオ!!
地響きのような叫びをあげたアクサスだが、それでも立ち上がろうと前脚でもがくが、背骨を砕かれた後ろ足はピクリとも動かない。
「前脚に集中するんだ!立ち上がるとまた硬くなるぞ!!」
ダウンした状態だと防御力が大幅に減少する。
それが、攻撃が通るようになった理由だと判断した。
ゲームの敵キャラである以上は何かしら弱点が設定されていなければ。
「おおっしゃあ!ツヴァイトスラァッシュ!!」
すかさずミタライのスキルが左前脚にヒット、派手に血しぶきを上げた。
ユーシンも右前脚へ強烈な一撃を食らわせたようで、アクサスの頭越しに飛び散る血しぶきが見えた。
俺も負けてはいられない。
再びスキル”大切斬”で首元を狙う。
ガッ
「あ!!」
アクサスは首を振り上げて俺の一撃を角で・・・
「すまん!放電来るぞ!!」
ッチッ・・ジジジ・・バチ
角からまばゆい光が
バチン!!!
激しい衝撃が全身を襲う。
ん?
きついのは確かだけど、最初ほどの衝撃じゃない。
と、思いながら、全身を回転させて三度”大切斬”。
重い手ごたえとともに、肉に食い込む感触。
ドスンという音とともに、アクサスの首が落ちた。
最初の放電で、放電直後に数秒の硬直時間があるのをしっかり観察していたのだ。
ホッとすると同時に回復魔法が飛んできた。
マジで優秀ですな、グレーターデーモ・・・ン?
回復魔法を飛ばしてきたのは、いつの間にか部屋に入っていたクロウだった。
(あ!!)
なるほど、2発目に耐えられたのはクロウのおかげだったのか。
アクサスの放電は、どうやら威力が対象人数で割られる仕様だったようだ。
知っていたのか察知したのか、クロウがピンチに入室してダメージを減らしてくれたのだろう。
ユーシンもミタライも何とか耐えられただろうけれど、グレーターデーモンはどちらも虫の息・・・クロウの乱入が無ければ逝ってたな・・・ホントすんません。




