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187話:ダンジョン

 カタオカのゲーム、発掘ダンジョン王国。

 テルグリナに隣接するシンの拠点地下に作られた大扉から入ることのできる巨大なダンジョンは、最下層がいったい何層なのかも分からないまま、資源確保と、ワタリビトたちのレベルアップや訓練のために解放されている。

 いったい、最下層は何階層なのか、ゲームの開発メーカーからは公式な発表が無いままだった。

 無限に続くのではないかとの見解もあったが、スマホ用のゲームなだけに、無限に続くダンジョンなどは現実的に不可能である。

 シンたちが転生した時点で確認された最高到達点は213階層。

 ダンジョンに挑むNPC冒険者たちの最高レベルは99で、モンスターのレベルは階層と同じ設定になっていた。

 200階層を超えると、モブモンスター一体を倒すのに最高レベルのNPC冒険者たちが大量に戦闘不能になるようになり、ボスなどは最大で100を超える数のNPC冒険者たちが総出でもアタック>戦闘不能>救出>再アタックを何度も繰り返さなければならなくなり、実時間でも相当な時間を消費するようになる。

 そのような非現実的な状況からも、大半のプレイヤーが25階層か50階層か100階層のいずれかでゲームから去っていった。

 大方の予想として、255階層が最下層ではないかと言われている。

 255とは、8ビットで表現できる最大数だからだ。

 入り口のある地上部分を0とすれば、最下層は255となる。

 最下層にたどり着いてもたいして大きなイベントは起きないだろう。

 何せ、25階層到達時点で一度エンドロールが流れるのだ。

 以降もゲームを続けられるというだけで、メインストーリーは終わっている。

 それでも挑戦し続ける猛者(ヘンタイ)が存在する。

 ゲームだったからこそ到達できた213階層だが、それが現実となるとそうはいかない。

 現在カタオカの能力で作られたダンジョンの最前線は68階層。

 ゲームの様に倒されても戦闘不能になるだけで、他のNPC冒険者に救助されて地上で復活!なんてできるわけではないので、攻略速度は階層が深くなればなるほど時間がかかるようになる。

 わけなのだが、68階層で攻略がピタリと止まっているのだ。

 この階層には、ミノタウロスの上位種、ミノタウロスロードが登場する。

 このミノタウロスロードを倒した時、稀に落とす霜降り牛肉がワタリビト間で大人気となり、それを求めてもう半年近く攻略がストップしている。

 数日に一個出れば良い方というレアさもあって、みんながこの階層に集中してしまっているためだ。

 なにせ、霜降り牛肉をマスターのヒノデ食堂に持ち込むと、買取料の他にステーキ定食無料券が10枚も付いて来る。

 一日5食限定なうえ予約を受け付けていないので連日争奪戦になるのだが、無料券を使うとその日の限定数を超えていても無条件で食べることができる。

 その特権を求めてさまようのだ。

 食の力は恐ろしいものだ。

 ダンジョンを巡りながら、シンもその恩恵にあずかることができていた。

 アラフィフだった元の世界の(シン)は、5ランクの牛肉なんてあまり食べることは無かった。

 資金的な問題ではない。

 あの頃にはもう、和牛と言ったらA5ランクが当たり前のようになっていて、価格もちょっと贅沢すればなんとか、というレベルになっていた。

 俺だって、たまの贅沢にいい肉買って家で焼いたりしたもんさ。

 おろし醤油で食べるのが好きだったんだけど、外に食べに行くと無いじゃん。

 プロの料理人や研究者が考え抜いたタレとかソースも美味いんだと思うけどね、俺は大根おろしと醤油だけで食べるのが好きだったんだよ。

 だからいつも焼き肉やステーキは自分の家で食べていた。

 量が食えないのがちょっと寂しかった。

 胃に来るんだよね、脂がさ。

 脂がうまいのにさ。

 200gで ウッってなった時は、マジで落ち込んだもんだよ。

 ありがたいことにこの体だと、胃もたれとか気にしなくていいからガッツリ食える。

 ということで、今回のもドロップしたブロック肉の内一つは自分用に確保するつもりなのだ。

 

 攻略が進まない理由はいくつかあるのだが、その最も大きい理由は、この先は霜降り牛肉が出ない可能性が高いからだ。

 カタオカからの情報では、69階層からは様相がガラリと変わるということなので、ミノタウロスロードが出なくなるのではないか、という憶測が流れている。

 と、いうのもこのゲーム、プレイヤーが操作してダンジョンを攻略するわけでは無い。

 なのでモンスターの出現階層など、細かい情報をカタオカが把握していなかったためだ。

 「解放される施設のこととかは覚えてるんだけど、モンスターは冒険者たちが勝手に狩ってくるかから、覚えてないんだよね・・・。」

 カタオカも申し訳なさそうに謝っていたけれど、ダンジョン攻略に前情報など不要!初見ビックリを堪能したい俺としてはむしろありがたかった。

 ボスは階層ごとに存在し、そのボスを倒すと次の階層への階段が現れる。

 ボス戦に挑むにはカタオカにボス部屋の封印を解除してもらわなければならないのだが、一度ボス部屋の封印を解くと、ボスを倒すまでモンスターが湧きまくる状態になってしまう。

 その状態で長時間放置すると、湧いたモンスターたちが上の階層へと進行を始め、地上に達するとゲームオーバーと・・・。

 なので、階層更新は慎重にならなければならない。

 ボスモンスターを倒すと平常に戻り、さらにボス部屋を浄化封印すると、その階層が安全地帯になりモンスターが湧かなくなる。

 逆を言うと、ボスを倒してもボス部屋を浄化封印しなければモンスターはそれまで通りに湧き続け、レベルアップやドロップ品の回収ができるということになる。

 何ならボスとも再戦できるのだが、ボスはかなり強力な設定のうえHPが桁外れに高いので、戦闘狂のミリアとか以外はまずやろうとしないのだ。

 本来ゲームでは、プレイヤーはダンジョンから発掘された施設の種と素材を使ってダンジョンに様々な施設を建築し、収入や特産品で冒険者を雇ったり、冒険者が倒したあと一定確率で出現する白旗を上げたモンスターをテイムしてダンジョンに挑ませるわけだが、ここでは冒険者を雇う必要もないので、ドロップした素材はそのまま獲得者の物になる、というルールを設けた。

 ドロップ品の中でも、ダンジョンでしか使えない施設の種などはカタオカが買い取りダンジョン内の施設増設に使い、施設で生産された素材はカタオカの物としてグリンウェル領に売却される。

 ワタリビトたちは訓練になる上ドロップ品が収入になり、カタオカは施設を作ってその素材売却で収入を得ることができ、グリンウェル領としては入手困難な貴重な素材を購入することができるといった流れが完成していた。

 しかし、施設の種はボスからの初回ドロップ限定なので、攻略が進まないと新しく施設を作れない。

 霜降り肉フィーバーのおかげで68階層に集中してしまい、ボス部屋に挑もうとするとモンスターが大量発生して霜降り肉狙いの探索がしづらくなると、ボスを攻略しようという参加者が現れず、施設の増設もストップしたままになってしまっていた。

 半年ぶりのボス戦ということで、カタオカの期待も高まっている。

 68階層の施設の種はランダムなので、最悪余り気味の木材畑や採石場になってしまうかもしれないが、常に不足している金鉱脈や希少金属鉱脈、宝石鉱脈が出れば一儲けできそうだ。

 カタオカは連絡を受けるとすぐにダンジョン地下1階に設けられた管理室で、68階層ボス部屋の大扉を映したモニターの前に陣取り、シンたちの到着をドキドキしながら待っていた。

 

    **

 

 カタオカのダンジョンは一階層ごとがかなり広い。

 ザックリと2㎞四方だと予測されているが、俺の拠点地下に入り口を設けているので物理的にあり得ない。

 現在はトール一家もガンガン地下を開発中だから絶対ぶつかるはずなのに全く影響が出ていないので、どうやらダンジョン内は異空間らしいと考察できる。

 同じ階層内の様式(テクスチャー)はほぼ同じデザインで構成されている。

 まぁ、低容量のスマホゲームが元なんだから仕方がないだろう。

 とはいえ、迷路状になっていることと相まってマップを見ながらでも迷いやすい。

 いちおうオートマッピング機能があるんだけれど、自分のいる位置が表示される機能までは無い。

 俺の魔導地図が機能してくれれば自分のいる位置が分かるのだけれど、カタオカのダンジョン内では、発掘ダンジョン王国由来以外のマッピング機能は全て停止してしまうらしい。

 ハーフビューの俯瞰で勝手に動く冒険者やモンスターたちを眺めるゲームと違って、実際にダンジョンに入って活動すると非常に厄介だ。

 モンスターと戦いながら変化の乏しいダンジョン内で自分の位置を把握し続けるのは中々難しい。

 それだけに偵察系職の能力は重要なんだけれど。

 肝心のミタライが・・・。

 「露出が少なすぎるんだよね、真夏でも長袖に(くるぶし)まで隠れる長いスカートって、無くない?」

 緊張感もなくやたらとしゃべりまくるのだ。

 しかも未だにラノベ脳から脱却できていないようだし。

 虫ですら魔素の影響で魔物化している世界なのだから、肌の露出を極力避けるのは(女性は特に)当たり前のことなんだが。

 こんなんで本当に偵察なんてできるのかよ、と何度も思うのだが、

 「あ、そこの角にホーンブル3頭。」

 と、一応ちゃんと索敵をこなしている・・・しかも正確に。

 残念ながらしゃべりまくっているおかげでモンスターにもこちらの存在を検知されていて不意打ちがまったくできない・・・能力はあるのに使えない・・・誠に残念な偵察兵と言わざるを得ない。

 「それにしても、シンさんと潜るとドロップ品が豪華っスよね。」

 複数のワタリビトが潜っても数日に1つ出るかどうかという霜降り牛肉が、一日で7つもドロップしていた。

 「ゲームには幸運系のステータスなかったから、異世界のお守りがこんなに強力だとは思わなかったよ。」

 ボス戦に挑むことを決めてからさ迷うこと半日。

 おしゃべり(グチ)に夢中で迷子になった使えない偵察士ミタライ君のおかげで、ダンジョン内で一泊することになってしまった。

 カナンが作った魔物除けの試作品で簡易セーフゾーンを作って簡単な夕食。

 ミタライへのお説教タイムを経てしばしの談笑。

 「そう言えば、南街道の整備中に何度かコリント伯爵領の村とか町に行ったんスけど、ライアーを見かけたんスよね・・・なんであんな所にいたんだろう?」

 「人違いじゃないの?いつも忙しそうにしてるけど。」

 「ッスよねぇ・・・なんかキョドってる様子だったし、他人の空似って奴だったんスかねぇ。」

 なんて雑談を交わしながら夜はふける。

 迷子になって無ければ今頃ボス戦終えて帰ってたのに。

 

 「ここのボスってなんでしたっけ?」

 ボス部屋まであと少しというところで、急にミタライがそう言ってきた。

 「え?」

 何言ってんの?こいつ。

 「確か、牛系のなんかだったんじゃなかったかな。」

 良かった、ユーシンも事前に細かく調べてから挑む派じゃないようだ。

 牛だらけの階層なんだし、たぶんそうだって予測できちゃうけどね。

 「ちょ、ちょっと待ってください、ボスの情報ないまま突撃する気!?」

 こいつ(ミタライ)は・・・ダンジョン攻略を作業だと思ってるタイプに違いない。

 知らないまま突っ込むのが礼儀ってもんだろうに。

 「まぁ、何とかなるっしょ。」

 いちおう返事はしておく。

 「そうそう、ダメそうなら出直せばいいし。」

 さすがユーシン、分かってらっしゃる。

 「いやいやいや、出直せないでしょ、倒すまでボス部屋出られないじゃないですか。」

 慌てているミタライ・・・なんて肝っ玉の小さい奴なんだ。

 「このゲームってそうなんだっけ?」

 封印といたらモンスター湧きまくりってのは聞いてたけど、ゴチャキャラ系のゲームだし、それは無いんじゃないかなぁ。

 「さぁ?・・・ワープゲート使って直接この階層来たんで分かんねぇっス。」

 ユーシンは初見で倒す気満々のようだね。

 それでいいのだ。ダメならダメで、トライしまくってデータ集めればいいのさ。

 だって、ゲームのダンジョンだもの。

 「やめましょう!せめてボスの情報確認してからやりましょう!!」

 縋り付いて来るミタライが何とも・・・いっそ二人でいくか?

 「ん~、でもテンションがなぁ・・・もう完全にボス戦って感じになっちゃってるんだけど。」

 「牛ってことだけわかってればいいんじゃないっスか?」

 「なわけないでしょう!」

 なんだよ、攻略本無しじゃゲームしないタイプか?

 「この階層のボスはアクサスです。巨大な牛のモンスターで、頭部に生えた一対の角からは強力な電撃を放ちます。前身を鎧のような外殻が覆い、腹以外は鋼の鎧を凌ぐ高い防御力を持ちます。」

 背後から聞きなれた声がスラスラと・・・

 「さすがクロウ・・・って、何でいるの?」

 詳細な情報なんて聞きたくなかったんだけど。

 「ユーキ様より伝言を仰せつかりました。新装備の説明を放り出して遊んでられては困ると。」

 2体の悪魔を従えたクロウ。

 封印がとかれる前とはいえ、ここまで来ておいて戦闘の痕跡すら見えない。

 ここ程度のモンスター相手に息を乱すまでもないってか。

 確か、ずいぶん前にレベルカンスト(100)したって言ってたもんな。

 「・・・今日だったっけ?」

 「はい。」

 やべぇ。

 完全に忘れてた。

 「シンさん・・・。」

 ユーシンにミタライまでもが呆れている。

 いや、出発前に言われたとき君たちもいたはずでは?

 「ま、しょうがないよね、今から戻っても間に合わないだろうしさ。」

 ここはもう、開き直ってしまおう。

 なんなら籠ってしまおう、ほとぼりが冷めるまで。

 「変わりの者を手配しましたのでご安心ください。」

 安心しました。

 さすがですクロウ様。

 「じゃ、心おきなく突っ込も」

 「ちょ、対策とか作戦とかもっと練らなきゃダメでしょう!?」

 俺の声を遮るようにミタライが割り込んできた。

 この期に及んでまだビビっているようだ。

 「僭越ながら、私共もお手伝いさせていただければと。」

 クロウの申し出に速攻で喜んだのはやっぱりミタライだ。

 「クロウが入ると速攻で終わっちゃうからなぁ。」

 悪魔のお家芸ともいえる魔法を使うまでもなく、スキル”煉獄の檻”一つで終わってしまうだろう。

 超高温の檻に敵を閉じ込める煉獄の檻は、中にいるだけでじわじわとスリップダメージを受けるのだが、檻に触れてしまうと防御無視で生命力の10%分ダメージを食らってしまう。

 コイツにハマると、檻が自壊する30秒間、怒涛の魔法攻撃に耐えるしか無い。

 回復のために大量の魔力やポーションを消費さえられる羽目になるのだ。

 強いだけの牛にじっと我慢するなんて無理だろうから、暴れまくって10回接触で即落ちってパターンになりそうだ。

 「では、戦闘に参加するのはこの者達だけ、私は最悪のケース以は外見学させていただく、ということでいかがでしょうか?」

 クロウにしては珍しく食い下がってきた。

 お付きの2体はどちらもグレーターデーモンで、執事服を着ていることから俺の拠点で仕事をしてくれていたのだろう。

 クロウが執事服を着ることを許した悪魔たちは、ヒトへの擬態や理解力の高い個体に限定されており、戦闘力は二の次になっている。

 それならば強すぎるということもないか。

 武器を所持していないことからも魔法系のようだし、魔法を使ってくれるなら俺は肉弾戦に集中できる。

 ヤーニンから習った剣技がヒト型以外にどれだけ通用するかも確認したいところだし、悪くない話だ。

 「じゃ、そういうことで行こうか。」

 ミタライが不服そうだけど、気にせずツッコむことに決めた。

187話ですが、閑話含めるとこれが200話になるようです。



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