185話:不満
「嫌な予感がする。」
そう言って、はるか遠い別大陸まで赴いてまでスカウトして連れてきたヤーニス達が、みどり村での生活に落ち着き慣れるのを待たずにパル達は再び旅立った。
まだ2〜3組接触しておきたいワタリビトがいるらしい。
・・・人じゃないのね・・・。
テルグリナはワタリビトとその関係者のみ限定にしているので、連れてくるのがワタリビトならまだまだ余裕はあるけれど。
いったい何人連れてくるつもりなのかちょっと不安。
しかし、いくらこの世界とパルが元々いた世界が並行世界だとはいえ、パルの記憶にあるのはあくまでもパルの世界のことだ。
しかも、この世界はパル自身の介入によって、パルの世界とはずいぶん変わってしまったのだから、記憶と違っているのは当然だと思うのだが。
それでもパルは、白い化け物、ナレハテとパルたちが呼んでいた存在の動向の変化に、底しれぬ不安を感じているようだった。
「マジでとんでもない壊し方してくれたよな。」
捨て台詞のようにそう言って出ていった。
そうとうイラついてるなぁ。
あの時は、
{目覚めたら目の前にいる奴を殺せ。}
そう言われて目を覚ましたら"俺"がいた。
なんとなく察していたから混乱せずにすぐ動けた。
だから、なるべく苦しまないように、一撃で心臓を貫いただけなのに。
まさか出戻ってくるとは思わないじゃん。
ナレハテとやらのことは、パルにとってはかなり重要なことだったようだ。
だからなのか、ナレハテ関連の記憶はコアの中心部に記録されていたみたいなんだよね。
そこを俺の絶妙な一撃がぶち抜いたと・・・俺、悪くないよね?
そもそも、目覚めに眼の前に立つ自分を殺せなんて悪趣味な指示出したパルが悪いと思うんだよね。
理由だって、俺に残機を持たせるためだったなんてね。
ワタリビトを殺すことでこの世界に魔素があふれ出すのを防ぐ、という名目で、ワタリビトを殺すと相手の魔素(魂)を丸ごと吸収する仕様になっている。
その膨大な魔素吸収によって、レベルのあるゲームをプレイしていたワタリビトは一気にレベルアップするのだ。
ではワタリビトの手による以外の理由で命を失った場合はどうなるかと言うと、丸悪魔のお部屋に行くことになる。
これも魔素が世界に放出されないための特別な措置で、丸悪魔いわく、本来この世界には神も死後の世界も無い。
俺が勝手に名付けた丸悪魔のお部屋とは、ワタリビト専用に作られた、三途の川的な場所だった。
光の無い真っ暗な世界で、丸々と太った悪魔がそこの主。
残機の無い状態でそこに行くとそのまま丸悪魔に食われて終わり。
残機があると、その魔素を使って復活できると・・・残機無くても復活させてくれればいいじゃんって思うんだけれど、丸悪魔のお部屋に行くのは俺たちの魂的なものだけで、肉体を構成するときに消費された魔素は、完全にこの世界の物質として定着してしまい魔素ではなくなっているため、その分が足りないんだそうだ。
で、一人分の魔素のうち約7割ほどを肉体の再構築に使って、残りの3割は丸悪魔の報酬になるってことみたい。
俺は、かつてみどり村を襲撃してきたワタリビト(襲撃者は自身をプレイヤーと呼んでいた)を返り討ちにしたことで、襲撃者自身と、襲撃者がそれまでに殺害して取り込んだ数名分の魔素を取り込んで保有していた。
その後、2度目の襲撃を受けた時にあっけなく死んじゃって、それで丸悪魔の存在を知ることになったわけだが。
俺たちは、魂を分けてこの世界に放り込まれており、元の世界ではそれまで通り(というわけでもなさそうだということが後に発覚したが)自分が存在している。
しかし、こちらの世界で死んだ場合、元の世界での俺自身もこちら側に引っ張られるように死んでしまう。
そのことを知った俺は、残る魔素の大半を献上して完全分離してもらった。
つまり、並行世界の俺自身と向き合ったあの夜、俺の残機はゼロだったわけだ。
そんな俺に再度残機を持たせるため、崩壊寸前の世界で”俺”は、パラレルワールドであるこの世界に実体化して、俺に殺させることで残機を持たせようという賭けに出た。
残念ながら賭けは失敗だったようだけど。
あの時レベルアップしてなかったから何となくそうだろうなって思っていたけどさ。
昨夜ガイゼルベルグの魔物化を防ぐための魔道具を受け取りに来たクソ悪魔にくぎを刺されてしまった。
どうやら、リムヴァでやった自爆攻撃にいたくご立腹らしい。
「「ああいうのは感心しません。自爆っていうのもはもっとこう、仲間の命を救うためとか、世界を守るためとか・・・あるでしょう、自爆のロマンってものが。」」
「ねぇよ、そんなロマン。」
どうせ、そこに至る心の葛藤とかを楽しみたいだけなんだろう。
「「あなた、今度死んだら本当に消滅ですからね、ああいった気軽な自爆はお控えください。」」
「そうなの!?・・・パルの自己犠牲も無駄だったかぁ・・・俺もあの後は結構面倒なことになったんだけどな。」
「「そもそもあの方は、他の並行世界に干渉できるに至った時点で別の存在に変わっていますので。それに、コアに入ってこの世界に渡ったつもりでいるようですが、正確には違います。」」
「ほう・・・。」
「「あなた方の表現で言う”魂”は元の並行世界に残され、コアに記録された記憶だけがこの世界に渡りました。なので全くの無駄だったのですよ。」」
と、いうやり取りをパルもしっかり聞いていたらしい。
クソ悪魔もパルが近くにいるのを分かった上で聞こえるように言ったんだろな・・・むしろ、俺の自爆云々はこの事実をパルにつきつけるための餌だった気もする。
それなりに覚悟を決めて自分に殺されたっていうのに、まったく無駄だったとは・・・だからって、俺に八つ当たりしないでほしいもんだよね、まったく。
**
俺は再びダンジョン通いを再開している。
レベルアップとダンジョン攻略以外にカード集めという目的が追加されたからね。
パルが手に入れたカードの大半を譲り受けているんだけれど、どうにも使い道の微妙な物ばかり。
"ちょっと良くないか気がする"とか、"多分向上しているに違いない"とか、そんな記述。
確かこれ、ステータスが1〜5%上昇するだけのハズレカードだ。
そういうゲームだったから俺、たった10時間で飽きたんだろうけど。
まぁゲームではハズレだったけれど、わずか数%の成長に大変な苦労と才能がいるこの世界の住人にとっては喜ばしい効能だろう。
グリンウェル領の存続に友好的なヒトにプレゼント感覚で譲り渡すって使い方をするならちょうど良いかもしれない。
と、いうことですでに何人かにこっそりと譲渡している。
テルグリナ警備兵のリッケンに譲渡した”気配察知”を皮切りに、ノイラード商会みどり村支店の店長ノブロフには、貴族とのやり取りの際にお世話になることが多いので”説得力”。
今や複数の行商隊を仕切ってカルケール伯爵領のあちこちへ商隊を送り込むカブロには、”補佐”を、といった具合に。
譲渡と言っても、カードを体のどこかに差し込むようにするだけなので、本人にも気づかれずに譲渡ができる。
俺かパルにしかできないのがちょっと面倒だけど。
譲渡された相手は、スキルに沿った行動か思考をしたときに初めてスキルの存在を感じる。
説得力を譲渡したノブロフは商談中に、補佐を譲渡したカブロなら商隊のスケジュール管理をしているときにって感じだ。
とりあえず村会の主要メンバーでもあるので、ハズレカードのなかでは割と良さそうなものを選んだよ。
極端な効果は無いと思うけれど、それでもスキルを得たヒト達は涙を流して大喜びだった。
とはいえ、あまりにも微妙の物ばかりなので俺も確保に参加しようとなったわけだ。
結果、300を超えるカードを確保しながらワタリビトが使う上でも有用だと納得できるカードが5枚だったパルに対して、俺は50枚確保した中で有用なものが15枚もあった。
ありがたいことだけど、この差は何だ?
俺もパルも同じ存在。
なんなら、レベルはもう既にパルに追い越されてる。
となると・・・やっぱり、考えられるのは一つしかないだろう。
ウシオと出会ったあの洞窟で初めて着けて以来、常に着け続けている俺のラッキーアイテム、異世界のお守り。
”強運を呼び込むお守り”と言う説明があるだけのネックレスで、”運”と言うステータスの無かったエイルヴァーンにおいては売却用アイテム扱いだった。
ただ、これを付けた直後にウシオやノエルさんとの出会いがあったり、何となく良いことがおきているような気がして着け続けていたんだよね。
しかしこれは、明確な効果の証明と言えるのではないだろうか。
1個しか無いからパルに渡したりはしないけどね。
パルの従魔復活は無いだろうと思っていたけれど、まさか貯蔵庫内まで空だったとは、少し・・・かなり期待外れだったよ。
ダンジョンには単独で行くこともあれば、その場で即席チームを組んで入ることもある。
最悪だったのは双子の悪魔、レンとユイを連れて行った時だ。
もうね、俺、何もすることなかったよ。
クソ悪魔が、パルのコアを参照して作った双子専用コアの影響でかなり能力が減衰してるはずなんだけれど、それでも桁違いの戦力。
俺たちだとチームを組んでも苦戦するレベルのモンスターを飛び蹴り一発で倒したり・・・過剰戦力。
双子にとっては良い発散の場になったようだけれど、他の者の訓練にならないのでご遠慮願うことにした。
見返りがえげつなくて破産しそうだけど。
カタオカのダンジョン、発掘ダンジョン王国は、スマホのゲーム。
異世界物で定番化しつつある、ダンジョンの中なのにまるで外の様、的な要素の無い、由緒正しき(?)ゲーム用ダンジョンだ。
残念ながら岩肌だけなので景観は飽きるが、マッピングしやすい統一サイズの通路に部屋。
登場モンスターも馴染みのあるものが多く、現在最前線の68階層ではミノタウロスの上位種、ミノタウロスロードが度々出現する。
コイツのドロップ品、霜降り牛肉がテルグリナとみどり村のワタリビトに大人気なのだ。
68階層から攻略が進まない原因にもなっちゃってるんだけれど、テレビで見る最高級和牛って感じのお肉がブロックで出るのだ。
マスターいわく、5ランク相当の霜降り肉でステーキにしたら最高だ、と言うことで、これが出た日から数日、マスターのひので食堂では、メニューにダンジョンステーキ定食が追加されるのだ。
元の世界でもめったに食べられないような上質で分厚いステーキは大人気で、あっという間に完売してしまう。
もちろん提供されるのはヒノデ食堂のみ、ワタリビトだけが食べられる特権だ。
ここでもお守り効果なのか、30Kgのブロックが5つもドロップ。
魔素抜きをしたら、自分用に一つだけ残してマスターの元へ献上するとしよう。
肉もいいけれど、一番の目的はレベルアップと、ヤーニスから手ほどきを受けた剣技の習熟だ。
朝のうちに傭兵の戦い方ってやつを教えてもらっているんだけれど、スキル、魔法無しの上、新規開発中のステータスを減衰させる魔道具で一般人並みに能力を低下させて、純粋に剣での戦い方を習ってるんだけれど・・・お粗末にもほどがあるらしいからね。
これまでのステータスとスキル・魔法でゴリ押しか騙し討ちみたいな戦い方からランクアップしないと、マジで近いうちに、死ぬか地獄に落ちるか逝ってしまう・・・全部同じか。
この階層周辺ではデカいけど人型のうえにハルバートを使うミノタウロス系や、小型でやたらと素早い軽戦士タイプのハイコボルト・ソルジャーがよく湧くので、ヤーニスに習った剣技の習熟練習にちょうどよい。
今日は、街道工事後の休養を終えたユーシンと、休暇なら鍛えて来いと言うミリアの提案でやって来たミタライの3人で牛狩りである。
土方ぁ~ずの輸送担当として連日忙しくしていたユーシン。
一緒に狩りに出るのは実に久しぶりだ。
なんだけどね・・・。
「酷いんですよ、あの鬼婆ぁ・・・せっかくの休みなのにダンジョン行けとか・・・帰ったらレベルチェックまでされるんですよ!」
と、ミタライの愚痴が止まらない。
「指南役だか何だか知らないけど、あの爺さんも、苦労して金貯めてやっと手に入れた刀の使い方教えてくれって言ったら、一目見ただけでそれは俺には使えんって・・・ひどくないです?」
「あ~、ひょっとすると、オレのせいかもしれないっスね、それ・・・じつは、オレも一応日本刀使うもんだからちゃんとした使い方も知っておいた方がいいかなって見てもらったんスけどね。」
「ユーシンのはゲーム補正入るんじゃなかったっけ?」
ユーシンのキャラが元々使う武器は金属バットだ。
しかし、隠しコマンドを入力することでバットよりリーチが長く、威力も高い日本刀にチェンジすることができる。
しかし、ゲームでの処理は武器のグラフィックが変わっただけで、キャラの動きはメイン武器のバットのままだった。
そこら辺が影響しているようで、刀を意識した使い方をするよりバットのように使った方が威力が増す。
「そうなんスけどね、やっぱり、バットみたいにぶんぶん振り回すだけじゃなんかカッコ付かないなって思うようになっちゃって・・・。」
すでに8連コンボを鼻歌交じりに成功させるユーシンは、ゲームの技以外での戦い方を取り入れるべきだと考えていた。
「で、日本刀渡してみてもらったんスけどね・・・
「ずいぶん変わった剣だな・・・サーベルにしては反りが小さいし重い・・・ん?これ、柄が木か?・・・大丈夫なのか?途中でガタついて使い物にならなくなったりしないのか?」
「日本刀って言うんスけどね。ガタつきは気になったことないっスね。」
「ちょいと借りるぞ。」
そういうと、ヤーニンは日本刀を持って素振りを始めた。
素振りと言っても、ただ同じことを繰り返すのではなく、様々な振り方を試すように振り続けた。
「すまん、無理だな、これは。」
あっさり刀をユーシンに返してきた。
「今まで使ってきたどのタイプの剣とも違う。
直刀の剣は、剣自身の重さと腕力で叩き切るか切っ先で突き刺すかだ。
動きも単純だし、刀身も重量があって分厚い分剣と剣で打ち相いながら力で押し切るか相手の姿勢を崩して突き刺すかってのが基本だ。
まぁ、俺は貧乏だったからな、刃が傷むんで極力打ち合うような戦い方はしなかったが。
で、サーベルのような曲刀の剣は、薄く軽い。湾曲した刃で切り裂くように使う。
打ち付けるんじゃなく滑らせるような感じだな。
鎧でガチガチに固める騎士には通じないんで戦場ではほとんど見かけなかったな。
見栄えがいいんで儀礼用とか、そんな扱いだった。
あとは刺突専用の剣か・・・やたらと細い刀身で、熟練者になると振り方ひとつで刀身をゆがませて軌道を変えたりとかするようだが、これも戦場ではめったに見かけなかった。
鎧の継ぎ目をピンポイントに突けるってメリットはあるが、激しく戦う戦場じで、狙って急所を突くことなんかよほどの熟練者でもなければできん。
で、この日本刀とやらだが、コイツは直刀のように使うには軽いし、曲刀のように使うには重く厚い。
おそらくだが、直刀のような使い方と曲刀のような使い方、両方を合わせたような独特の使い方をせにゃならんのだろうが・・・すまんな、コイツを効果的に使う方法を教えられる自信は無い。」
「ってことだったっス。」
ユーシン自身はきっぱり諦めて、ゲームの軌道をなぞるように戦うことに意識を集中させることにしたようだ。
「え~、じゃぁ、ひょっとしてこの世界に刀は使えないってことです?」
先に師匠を決めてから買えばいいものを、未練タラタラな感じのミタライ。
しかし、刀を見て数分振ってみただけでそこまで理解できるってことは、ヤーニンの経験と言うものは相当なものと言えるだろう。
「シンさんも使わないっスよね、日本刀。」
「ん?あぁ、日本刀ってのはさ、ヤーニンが言っていた通り独特なんだよ。」
とそう言って、まずは今使っている剣を振ってみる。
上段から真っすぐ弧を描くように振り下ろした剣の切っ先は、自身の正面、地面をさしている。
「で、次は日本刀。」
そう言って、貯蔵庫から日本刀を取り出した。
「持ってたんですか!」
飛びつくミタライを無視して鞘から抜くと上段に構えた。
「まず叩きつける。」
敵が目の前にいると想定して、敵に多少切り込む程度まで振り下ろす。
「そして引き切る。」
日本刀を、切っ先を振り下ろしながら引いた。
動作が終わった時、俺の上半身はハン身になり、切っ先は俺自身の右横の地面をさしていた。
正確な弧を描くような直刀の軌道とは異なり、刀身が水平に近づいたあたりから急激に軌道を変えるのが日本刀の動きだ。
「剣道の素振りとは違うんスね。」
感心したように見ていたユーシンだけれど、何かに気付いたような表情。
「俺も意識して真似すれば何となくそれっぽい動きはできるけど、これを当たり前にできるようになるにはかなりの練習が必要だと思うよ。」
俺は咄嗟に迎撃ミサイルを配備した。
「そっスか・・・シンさんに教えてもらうのも無理っスか。」
迎撃成功である。
「それに、ヤーニンが危惧したように、手入れを怠るとガタつきが出る。ユーシンが気にならなかったのは、アオイがちゃんとメンテナンスしてくれてたってことじゃないかな。」
俺が持っていても日本刀を使わない理由だ。
難しすぎるし、めんどくさすぎる。
「モモはどうなんだい?ゲームが基盤だけど、おとぎ話の桃太郎が元ネタのゲームなら、剣技も割としっかりしてると思うけど。」
素人目にそう見えただけなんだけど、それでも一番ちゃんと教えてくれそうではある。
「モモさんに頼むと、自動的に鬼婆が付いて来るじゃないですか。」
思いっきり顔で”嫌”を表現するミタライ。
「んなこと言って、ミリアに聞かれたら地獄を見るんじゃないんスか?」
「やめてくださいよぉ、あの人本当に鬼なんだから・・・。」
危うく面倒事が追加されそうな危機を無事乗り越えた俺は、話題を変えるべく階層越えの提案をするのだった。




