184話:新たな住人達
「この世界って、絶対間違ってると思うんですよね。」
・・・うざい。
「どこをどう見たって爺さんなのに、しゃべり方が若い人とあんまり変わらないし、女性だって、ちょっと丁寧かなって感じはするけど、しゃべり方とかって、男と同じじゃあないですかぁ。」
何を間違ったのか、移住者の中に混ざっていたワタリビトの一人になつかれてしまった。
「ギルドも冒険者も存在しないし、魔物を倒したって、魔石以外は大した金額にならないし。」
王道MMORPG、レイクファンタジアをプレイしていたというミタライ。
移住審査でワタリビトだと判明した場合は、即座に一般人と分けてテルグリナの俺の拠点内の施設に転移させ、テルグリナ住人の誰かが対応する手はずになっていた。
で、たまたま俺がこいつの対応をする羽目になったんだけれど、コイツにとって俺が初めて接した同郷の存在だったらしく、一気に距離を詰められてしまった。
そして、これまでのうっ憤を晴らすかのように延々とくだらない愚痴を聞かされる羽目になっている。
現実を見ろ、若人よ。
「おまえなぁ、元の世界を思い出してみろよ。
一体どこに、語尾に”じゃ”をつける爺さんがいたんだよ。」
「いや、だって鬼殺の九郎爺とかキューピーのバルバロとか」
「それは漫画だろうが。
女性だって、語尾にいちいち”わ”とか、”わね”なんてつけないんだよ、現実はな。」
そうだわ とか、 いいと思うわね とか、なんとなく漫画やアニメで昔から女性キャラの言葉って感じで見聞きして来たから、自然に普通に使われているような錯覚を抱いてしまうけれど、よくよく考えればそんな独特なしゃべり方してる人なんていないんだよね。
「ん~・・・そういえばそうだったような?」
「お前、アニメ、ラノベ、マンガ、ゲームに侵食され過ぎだぞ。
冒険者だって、現実世界にはそんな職業ないだろうが。」
なんて、俺もこの世界に来たばっかりの頃に”常識”さんでその事実を知ってガッカリしたんだけどね。
現実的では無いと分かってはいても、やっぱりちょっと期待しちゃうよね。
「それは・・・モンスターなんていないし、ダンジョンだってないし・・・。」
「そうじゃないだろ、現実的に考えろよ。冒険者なんて、使い物にならないから存在しないんだよ。」
「えぇ~・・・。」
「野草や薬草を採るのだって、専門家が採る方が質も効率もいいに決まってるだろ。そもそも、そういった専門家って、自分だけの採取ポイントを持っていて、それはおいそれと他人に話したりしないもんなんだし、そのまま売った方が儲かるんだから、わざわざ冒険者みたいなのが入り込む余地なんかないんだよ。
護衛にしたって、行商を護衛するのと森の中で採取活動をする専門家を護衛するのとじゃあ全く別の職業ってくらい勝手が違うし、実際にすみわけされてるんだから。
素人同然のやつが、何でもやりますなんて言って信用されるわけないし、通信手段が手紙くらいしかないのにハイテクなギルドシステムが機能するわけないんだよ。」
なんだかすごく説教臭くなっちゃったけど、この世界に来て何年かたってるのにまだこんなこと言ってるって、ちょっと問題だ。
世間知らずってレベルを超えてる。
今までどんな生活してたんだよ。
「はぁ・・・なんか、幻滅です・・・。」
それは、この世界に来て1か月もたたないうちに通り過ぎてるはずなんだけどなぁ。
「ついでに言っておくと、この世界にお前が想像してるエルフは存在しないからな。」
「え・・・でもエルフはいるって・・・。」
「エルフはいるけど、エロフじゃないからな。」
なんて、俺が知ってる唯一のエルフは、ノエルさんだけだし、ノエルさんは厳密に言うとエルフじゃないんだけどね。
ただ、この森に暮らしているというエルフと交流のあったパルが言っていたからそうなんだろう。
いつか、探しに行きたいものだ。
「・・・・・なんか、夢も希望もないんですけど・・・。」
うっさいわ・・・。
よくよく聞けばミタライは、あちこちで問題を起こしてきたようだ。
問題と言っても、ラノベ脳が原因で起こるささやかな物ばかりだけれど、結局どこに落ち着くこともできないままみどり村の噂を聞きつけてやって来たという。
ちょっと、俺の手にはおえそうもない。
現実を見ようとしない程浸透してしまう、いわば極度の中二病患者が現実に存在していたとは。
と言うことで、ミタライは早々にミリアの部隊に放り込んだ。
根性からしっかりと鍛え直してもらうといい。
ミリアの部隊からは、パルに付き添うためにキチセとヒスイが抜けている。その穴埋めに・・・なるのは当分先っぽいけど、根性鍛え直してもらいながらしっかり成長してほしいものだ。
・・・むりかな・・・。
初日から
「あんなの押し付けてくるなんて、ずいぶんな嫌がらせしてくれるじゃない。」
って直々にクレーム付けられちゃったくらいだし。
戦闘メインのゲームだし、ポテンシャルは高いはずだから偵察系のジョブだったということも含めて大きな戦力になってくれると思うんだけど。
確か、スカウトだったっけ?
索敵や調査系のスキルが充実しているだけでなく、射撃系武器使用時の補正やスキルもあったり、中レベルまでに限定されるものの、攻撃魔法と回復魔法が覚えられるという。
戦力的に問題無かったんで気にしてこなかったけれど、偵察系の職を取っているワタリビトって少ないんだよね・・・俺とスロークがスキルを取っているけど、本職ではないし。
ミタライの登場でハッと気が付かされた。
テルグリナはワタリビトや俺の従魔たち中心の編成だから問題無いだろうけれど、みどり村の方は多くがこの世界の住人や魔者だけでの編成だ。
いずれ問題が起こるかもしれないので、索敵の対策は早く進めた方が良いだろう。
ミタライが索敵系のエースとして活躍できる日が来ることを祈ろう。
・・・無理かもしれないから2の矢3の矢は準備しておかないとな。
そう思って、ミタライをミリアの元へ連れて行くとき、ついでにパルがダンジョンで獲得してきた”気配察知”のスキルカードを、(コッソリと)ミリア隊副隊長のリッケンに譲渡してみた。
まぁ、俺が10時間で飽きたってだけあって、パルが獲得した300枚を超えるスキルカードの中でも、索敵と呼べるカードは極わずかで、しかも、何となく近くにいるモンスターの気配を感じやすくなるという、索敵と言うにはちょっと心もとないスキルだった。
もともとこの世界の住人だったリッケンだけれど、ミリアの指揮する部隊の副隊長と言う立場でテルグリナの周辺警備をこなす中、ミリアのセカンドゲーム、ファンタズマフォールの影響でかなり強化されていた。
それもあって、突然スキルが生えても不振に思われないだろう、と思ったんだよね。
本人も守護神像からのギフトを得られたって狂喜乱舞していたから問題無いさ。
「あるでしょ、問題。」
さっそくスロークから呼び出されました。
「ユーキ隊長自ら呼び出しに来ていただけるとは。」
「たまたま非番だったんですよ。シンさん、僕らじゃないと適当なこと言って逃げるでしょ。」
・・・お見通しでいらっしゃる。
「まったく、一言言ってからやってほしいんだけど・・・すでに噂が広まって、次はだれだって、けっこうな騒ぎになってるんだが。」
執務室に通されると、開口一番領主様からムスッとした表情で、正式にクレームをいただきました。
タイミング悪く、スキル譲渡してすぐに街道警備に来ていたらしい。
有頂天だった彼はみどり村の警備兵に自慢しまくったらしく、瞬く間に噂が広がり、次はだれかと持ちきりになってしまったとか。
「あ~、でもさ、守護神像が気まぐれに超能力を与えるっていう話に真実味を持たせられたんじゃないかな。」
と、一応反論してみた。
「そうか・・・そんな設定もあったか・・・。」
お、良い反応、このままうまく逃げ切れるかな?
「だからって、事前に連絡は欲しかったよね。」
水を差すなユーキよ、せっかくスロークが納得しかかってたのに。
「こうなった以上は仕方ない、適度にスキルを配ってもらうしかないだろうが、やりすぎないように注意してくれよ。」
ため息交じりだったけれど、許可が出たので一安心。
「スキル欲しさに、守護神像に何かする輩が出ないといいけど。」
心配しすぎだよ、スロークさん。
「出るだろうな・・・。」
再びユーキが水を差すし。
「不壊設定だから俺以外移動もできないし、もしそんな輩が現れたらマイナス効果のカードもあるから、良くないことが起こるって事例を作るさ。」
感覚系にマイナス補正が入る”鈍感”とか、スタミナにマイナス補正が入る”息切れ”とか、嫌がらせみたいなカードも結構ある。
クズカードにも使い道ができたってことで良しとしようじゃないか。
**
「おはようございます。」
朝絞ったばかりの牛乳を詰めたボトルを持ったウシオが、ノエルの家の庭で小さな葉っぱの人形たちと水やりをしている少女へ元気に挨拶を送った。
「ぁ・・・ぁ・・・ぉはょぅございます・・・。」
びっくりしたようにビクンと体を震わせ、ウシオの姿を確認すると、おずおずと返事を返したのは、長年にわたりパレオルトリス枢機卿やリンファレイオ枢機卿といった一部の教会関係者によって、リンデール聖王国の聖都リムヴァの教会で軟禁され、リムヴァを包む結界の動力源にされていた女性だ。
名前すら思い出せないほど長い時を、世界を崩壊させる魔女だと信じ込まされてきた。
シンが、自身の名前を思い出すまでの繋ぎにと、エーテルという仮りの名をつけていた。
生まれの特殊さから膨大な魔素を身に宿したエーテルは、幼少期の教会とのかかわりから、自身を守るため無意識に膨大な魔力を放出し、それにより全身が、恐ろしい化け物に見えるほど歪んで見えていた。
長年そんな生活を送っていたことで自身ではコントロールすることができなくなっていたエーテルは、シンのアイテムと、パルのスキル”ボディプロテクション”を譲渡されたことで魔素により歪んだ姿ではなく、エーテル本来の姿で生活できるようになっていた。
しかし、常にボディプロテクションを使い続けたり、複数のアイテムを身に着け続けなければならない負担を無くすため、魔素や魔力のコントロールに長けたノエルの元で手伝いをしながらコントロールの訓練を続けていた。
ウシオは3日に一回ほどの頻度で訪れるのだが、だいぶ慣れてきてもいまだにまともな挨拶ができるほどにはなっていなかった。
エーテルにとってはまだ、一緒に暮らすノエルや、みどり村までの旅路を共にし、いろいろと世話を焼いてくれたシン以外は怖かった。
長年にわたって刷り込まれてきた、結界の外には魔物や悪魔に支配されているという嘘は、エーテルの心の奥底でくすぶり続けている。
頭では、あれは嘘で、外の世界には危険もあるが、普通に暮らす人々もたくさんいると理解できている。それでも、心に染みついた恐怖は簡単に取り払えるものではなかった。
「ノエルさんはご在宅ですか?」
エーテルの様子を気にも留めずに話しかけるウシオ。
最初は対応に困ったが、何度か訪問するうちに、普通通りに接した方がいいのではないかと思うようになり、どうやらそれは間違いでは無かったと実感できている。
なにせ、悲鳴を上げて逃げられなくなったうえ、たどたどしくはあるが挨拶を返してくれるようになったのだから。
「ぁの・・・ぅら庭・・・に・・・。」
「ありがとう。」
ウシオが育てている乳牛は、魔物化を防ぐため魔素を吸着する魔道具をつけられており、餌なども魔素抜きを済ませた物だけを与えるなど、徹底的な管理下で飼育されている。
そのため、採れる牛乳は魔素の影響がなく、エグ味がまったく無い。
いずれは乳製品に加工して新たな特産品にする計画だが、現状はまだ飼育数も少なく、テルグリナとみどり村のレストランで消費されるだけだ。
牛はみどり村のシステムで購入できるものの、購入できるのは子牛だけ。
成牛になるまで2~3年かかるため、一気に増やすことができないのだ。
その貴重な牛乳を、ウシオは欠かさずノエルに送っていた。
「あら、いつもありがとう。」
ノエルは、裏庭で植木の手入れをしていた。
この世界独特の、香りの強い低木で、その若葉はハーブの様に食材として利用される。
「ちょうど、食事の支度をしようとしていたところなの。ご一緒にどうかしら。」
「ありがとうございます。」
ノエルの家に入ると、まるでここが自宅かの様にくつろいで眠りこける二匹の猫がいた。
完全に本来の姿に戻っているケット・シーのミーアと、シンが召喚したという妖精スィムンだ。
エーテルの心を落ち着かせるためと、ノエルの手伝いのためという理由で小人の精霊レプランと共に暮らすことになったのだが、いつの間にかスィムンがミーアのお気に入りになっていた。
猫同士だし、妖精だし、何か惹かれるものがあるのだろうか。
部屋の奥からメイド服を着た幼女姿のレプランが、大きな器に盛られたサラダを運んできた。
「ご飯なん?」
目をこすりながら起き上がるミーア。
賑やかな朝食が始まる。
**
パルがスカウトして来たヤーニス。
遠い大陸で長年傭兵として戦ってきた彼は、足の負傷から現役を引退していた。
「おかしいんだよな、俺の世界だと、彼は戦争中に騎士の剣で負傷したことが切っ掛けで引退したはずなんだ・・・そもそも、まだ怪我して無かったはずだし・・・。」
パルが言うには、ヤーニスはドワーフたちと出会うきっかけになった、あの白い化け物の亜種によって負傷していたらしい。
ナレハテと呼んでいたらしい白い化け物についても詳しく聞きたいところなんだけれど、パルの記憶が断片的で誤解を生みかねないということなので、記憶の回復待ちなのだ。
マナさんの医療ポッドを使って足の負傷を完全回復させ、ソンチョーの特別授業で言葉とグリンウェル領のルールを覚えてもらってからは警備兵たちの指導を任せている。
一緒に移住してきたエドガー、イネセ親子もヤーニスと同じ家で暮らしてもらっているが、父親のエドガーは農具や日用品の補修を仕事にしていたらしく、鍛冶職人の元に見習いとして通い始めている。
娘のイネセはソンチョーの学校へ。
今のところ生徒がゴブリンやオークの子供ばかりなので最初は怖がっていたみたいだけれど、元々人懐っこい性格だったらしく打ち解けるのは早かった。
パルが太鼓判を押しただけあって、ヤーニスの指導力はかなりの物で、ゴブリンやオークたちの実力も順調に向上している。
オーガ達は、最初は人間などに教えを乞うことなどって態度だったけれど、ルールを決めた試合でコクエンが負けたことで態度がガラッと変わった。
もちろん、コクエンはスキル等の使用禁止、武具は市販の剣と革鎧のみで、ヤーニスには警備兵の新装備として内定している、魔導甲冑を参考にしたブレスレットを装備、互いに寸止めするという制限付きでだ。
それでもステータスの差でコクエンが圧倒する。
と、オーガ達は思っていたんだろう。
戦いはあくまでも立った状態で剣を振るうものであり、つばぜり合いでの力比べや激しい打ち合い等、華麗で見ごたえのある戦い方だった騎士たちとは違って、転げようがお構いなしに土にまみれて戦うヤーニスの戦い方は、とにかく相手の攻撃を受けないことに注力しているように見えた。
泥臭く、いかにも実戦で磨き上げたって感じだ。
打ち合えば剣が傷むし、力負けすればその場で痛手を受ける。
以外にも、打ち合うことより避けることに徹する方がスタミナを消耗する。
特にヤーニスの様に転げまわることもいとわないような戦い方は体力の消耗も激しい。
コクエンの力任せな剣を躱し、転げまわりながら足を狙った低い攻撃に長身のコクエンが対応しきれず、5本中4本をヤーニスがとった。
さすがに5本目には体力が尽きたようでコクエンに軍配が上がったが、この事実はオーガ達に少なからぬ衝撃を与えたようだった。
まぁ、命の奪い合いであったなら、同条件でも100本中100本コクエンがとっていただろうけどね。
コクエンの皮膚は下手な鎧より防御力が高いし。
とにかく、この一件でヤーニスは指導員としての立場を確立し、正式にスロークから武術師範と言う肩書を与えられることになったのだった。




