014話:実験は失敗がつきもの
「お疲れっス。どうでしたか?」
バールを素振りしていたユーシンがこちらに気が付くと、小走りにやってきた。
「リルベアとゴブリンを封印した。」
と満足げに報告するユーキ。
そこからはちょっとした報告会に。
ユーシンは留守番しながらひたすら連続技の練習をしていたらしい。
セカンドゲームとして開放された爆裂学園は、いわゆる横スクロールアクションゲーム爆裂戦線の派生で生まれた格闘ゲームだ。
敵を含めた登場キャラ総出演で、かなり無理矢理学生時代と言う設定に押し込めて番長を決める、とかいう・・・ユーシンって、メチャクチャ系が好きなのか?
タイミングを合わせて通常技や必殺技をつなげていくとド派手なコンボ技になるそうだけど、タイミングがシビアでなかなかうまくいかないと嘆いていた。
「今んとこ3コンボがやっとっス。
10コンボまでつなげるのははまだまだ遠いっスね。」
ゲームでも実際に10コンボまでつなげられるプレイヤーはほんの一握りって聞いたな。
たしか、コントローラーを改造してボタン一つで10コンボ出せる、なんて動画が話題になっていた。
コメントの半分以上は小バカにしていたようだったけど。
当然そんなものは無いので、ユーシンには技を磨いてもらうしかない。
コントローラー一つで技が出せるゲームと違って、実際に動かなければならない上に1秒以下のタイミングで停滞なくつなげていかなければならないのだから簡単なことでは無い。
ユーシンにとってはゲーム上のレベルアップは無くても、プレイヤースキルを上げるという行為がそれにあたることになりそうだ。
俺、格闘ゲームは好きだったけど下手だったからな。
イージーモードでガチャ押しくらいしかできなかったっけ。
コンボなんて想像もつかないよ。
なんて感慨にふけっていると、隣ではユーシンとユーキがさっそく言い合いを始めている。
混ぜるな危険ってフレーズが浮かんでしまうな。
じゃれあう二人は放っておいて、俺はテントに入って簡易貯蔵庫を呼び出す。
いよいよ実験結果の確認だ。ワクワクしつつも、ダメなんじゃないかという不安感の方が多かったりする。
恐る恐る干し肉を一口。
・
・
・
どうやら簡易貯蔵庫も干し網も無関係らしい。
口直し口直し。
「ダメスか。」
「うん、普通の干し肉と同じくらいエグい、煮込んでない方は食えん、食べ物の域を出てる。」
まぁ実験だし。
とりあえず原因と思える2つが潰せたから問題ない・・・ことにしておく。
「テントの中のは確かめないんですか?」
とユーキ、そうか、説明してなかった。
「簡易貯蔵庫は俺のスキルなんだけどさ、時間経過が2倍速くなるんだ、だからテントの方はまだ1日かかるんだよね。」
「なるほど、じゃぁ、貯蔵庫の方はまた別の実験を?」
「次の実験は、テントの方が終わってからじゃないと進められないからいったん保留だよ。」
答えながら、貯蔵庫の失敗肉を集めて小箱に入れてテントに移す。
これでテントの方も変化がないとなると、貯蔵庫と何かの複合的な理由ってことになるんだよな。
不安的中だ。
面倒になってきた、なんて思ってないぞ。
ちょっとだけだよ、ほんとにね。
まぁ、結局はいろいろと実験をするために時間を消費することになるんだけど。
時間がもったいないから、順番で2人づつ組んで森でレベルアップに励むことにした。
で、森への移動時間と孤児院から探しに来られたらって問題があったので、ハンターが集うキャンプ地へ戻った。
狩りと実験を繰り返し、結局20日ほどをそのキャンプ地で過ごすことになってしまった。
かかりすぎ?
なかなかにめんどくさかったんだよね、手探りはいかんな。
途中成功したんだけど、そこからいろんなパターンで実験して原因を完全に特定しなきゃ、そのあと確実に成功させられないでしょ。
ユーシンの軽トラをテントの中に出して、荷台でやってみたりとか、思いつく限りやりつくしましたとも。
頑張った。
うん、俺頑張ったよ。
アルファベット書けなくても入学できるような低レベルな高卒の俺でも、世界の謎を解いて見せたよ。
結果、エグみの原因は魔素である、という結論に達したのだった。
空気の中に、酸素や二酸化炭素、窒素なんかのように混じっている魔素は生物や植物が呼吸する時に取り込まれて溜まっていく。
と思う。
同じ食材でもエグみの少ない高級品があるっていうのは、要するに魔素の薄い地域で作られたものってことなんだろう。
それを食べるときにエグみとして感じるのではないか、という推論だ。
この結論にいたる原因になったのが、処理を頼まれた空の魔石だ。
何度も実験を繰り返しているうちに、小さな魔石がほんのりと、単体だったら絶対気が付かない程度に色づいた。
魔石は取った魔物の種類によって色が違うが、処理に出される物はガラス並みに色が抜けている。
それだけ魔石は貴重で、完全に使い切ってから交換するってことなんだけどね。
まとめてバケツに放り込んでいたため色の濃さの”差”に気が付けたんだ。
一般的な魔素濃度の地域では、色づくほど回復するまで年単位の時間を要する。
それが数日で色づくのは異常なことだ、ということで、魔石を使った実験を繰り返して、最終的に結論付けた。
まだ憶測だけどね。
生物は生きているうちは魔素を吸い込みため込んでしまうもの。
でも死んだ後は吸い込むことは無くなる。
逆に周囲の魔素濃度と同程度になるまでゆっくり放出するようだ。
ぶっちゃけ、収穫後長い時間放置しておけばそれなりに魔素濃度は低くなる。
食材が傷む方が早いだろうけど。
魔石はそれとは違い、周囲の魔素をゆっくりと吸収し続ける。
保有魔素量を超えても吸収し続け、やがて魔物として復活してしまう。
とはいえ、人の生息域で魔石が吸収できる魔素はたかが知れているし、キチンと処理されているので問題になることは無い。
つまり、食材と空の魔石が近くにあったので、干し肉が放出した魔素を魔石が吸収した、ということだったのだ。
煮ることでエグみが薄れる理由も分かった。
水は周囲より魔素濃度がかなり薄いようだ、空気の半分程度といった感じで、そこに食材を入れることで食材から魔素が抜けて水と同意程度の魔素濃度になるからエグみが和らぐのだ。
ただ、水のままつけておくと非常に時間がかかり、食材が傷んでしまった。
過熱した方がよく魔素が抜けたので、食材の温度が高い方が早く抜けるらしい、ということも分かった。
ただこれだと、完全に魔素が抜けきることは無い。
周辺と同じ程度にしかならないからだ。
長時間煮込むことで魔素の抜けが早く、痛みを防げるが、それでも水と同程度までにしか薄くならないからエグみは残る。
魔素がちょっとでも残ると、エグみをかなり強く感じてしまうのだ。
ではなぜ、奇跡の干し肉がエグみを全く感じないほどに魔素が抜けたのかというと、貯蔵庫の特性が関係していることが分かった。
貯蔵庫の中は魔素が存在しない、というかできなかったのだ。
ゲームでは魔素といった要素は存在しなかったから、それが原因なのかもしれない。
食材だけが貯蔵庫にある状態では、抜けた魔素は少しすると再び食材に押し込まれてしまうようなのだ。
というのは、最初の成功例だった貴重な旨干し肉1号(ユーシン命名)を、うっかり数枚貯蔵庫に落としてしまい、実験中、心なしかエグく変化していることに気が付いて判明した。
貯蔵庫+空かそれに近い魔石のコンボが正解だったんだ。
魔素が存在できないなら、そもそも食材から抜けないのでは?と思ったけど、抜けるより吸収する量の方が少ないようで、その差みたいだ。
思い出してみれば、肉を干した網と空魔石の詰まった寸胴はすぐ近くに置いていた。
食材から抜けた魔素は、貯蔵庫内では存在できないから、存在できる食材へと戻ろうとする、でも、食材からも魔素が出ようとしているので入りにくい。
あ!入りやすい魔石がこんな近くに~、と魔石に吸収され、魔石に吸収された魔素は出ていかないから溜まっていくと。
食材は貯蔵庫内の魔素濃度まで放出し続けることで魔素がほぼ0に、エグみの無い食材へと変化したのだ。
さらなる実験の結果、全ての食材、食料は貯蔵庫+空魔石のコンボに1日(簡易貯蔵庫は時間が倍速なので、48時間程度ということになる)ほど入れておくことで、魔素抜きが完了することが分かった。
勝利だ。
大変だったけど、20日間は無駄じゃなかった。
煮込みも不要なんだから手間も省けるし、捨ててしまっていた旨味もそのまま使える。
まさにパーヘクツだ。
これで、激安ス-パー弁当に一歩近づくことができた。
この日は麦もどきのセパをそこいらの石で粉にしたセパ粉で作った“具無しお好み焼きもどき”、何の肉だったか忘れたけど塩味だけの“謎肉スープ”、“謎肉ステーキ”で祝勝会となった。
もちろん全部魔素抜き済みだ。
食事風景を見て、ゲテモノを見るような目でチラチラ見てくるハンターどものことなんか知ったこっちゃないのである。
彼らからしたら、煮込んでいない肉を焼くだけで食うなんて、さぞおぞましく無謀な行為に見えたことだろう。
ぬははは、無知とは罪よ。
例の二人組ハンターは実験中一度も見かけることが無かった。
狩場を移動したのかもしれない。
お礼に振舞おうかとも思ったんだけど、いないのだから仕方がない。
セパ粉は荒いし、そもそも小麦じゃなく麦もどきだし、味もほぼ塩味だけだし、肉は堅いしクセも強めだったけど、おそらくこの世界では王族ですら食べることのできない超美味な食事だったに違いない。
これで調理スキルが解放されればもっといろいろできるはずだ。
食材がゲームと全然違うのがかなり不安だけど。
きっとなんとかなる。
よね?
期待してるぞ"調理スキル熟練MAX"よ。
これは何としても開放しなければなるまいて。
ちなみにこの期間、それぞれ交代で森に入り続けてのレベルアップも余念がない。
ユーシンはレベルアップこそないものの、3割程度だった3コンボを完璧に使いこなし、さらに5割程度の確率で4コンボも成功させられるようになっていた。
火力では一番頼りになる。
リルベアも敵ではないというんだから頼もしい。
ただ、剣や斧といった武器を装備すると技が全く出せなくなり、盾も装備すると使える技が極端に少なくなることが分かってあきらめざるを得なかった。
武器に関してはバールのままだ。
ゲームでは金属バットが武器だったから、刃の無いこん棒系の方がいいのかな?
隠し武器で日本刀もあったらしいから、似たようなものがあったら使ってみてもらおう。
鎧も、レザーアーマーですらコンボがつながらなくなり、最初着ていたツナギに戻していた。
そういえば、学ラン試してみたいな、などと言っていたな。
服飾系のスキルが解放されたら作ってみようかな。
学ランは無理でも、似たようなものはできるかもしれない。
それでコンボがつながりやすくなるなら立派な装備だ。
キャラのあるゲームの場合は、そのキャラに近い装備を身に着けることで能力が変化するのかもしれないな。
要検証だ。
ユーキは早々にゴブリンが10レベルを超え、ランクが3に上がったことでリルベアとゴブリンを同時に呼び出せるようになった。
壁役リルベア、攻撃役ゴブリン、補佐役ユーキで連携しての戦いをみっちりと特訓していた。
すでに独り立ち・・・3人立ち(?)しても十分なレベルだ。
3人体制になったことで効率も上がり、すでにリルベアはレベル22,ゴブリンもレベル19になり、ランク4まであと一歩というところまで到達している。
ユーキは装備の制限は無さそうだけど、子供の体なので良い装備が無い。
せいぜいがレザーアーマーとショートソード程度で、体格が近いゴブリン(ゴンと命名)とおそろいの装備だ。
服は男物に取り換えた。
子供のハンターってだけでも目立つのに、女の子(具は男だけど)だと良からぬことに巻き込まれかねないし、ユーキ自身も女の子の格好はしたくないようだったし。
リルベア(クマと命名)にはそもそも防具がいらないくらい堅いので、右の前足に目印の赤い布を巻いている。
しかし、ユーキのネーミングセンスよ・・・。
で、俺はというと。
やっとこレベル10になりました。
魔法を新しく
ウインドボイス(遠距離(熟練+レベルm)の任意の場所に声を届ける)
マジックレイン(半径熟練mの範囲に、上空から無数のマジックミサイルを降らせる)
ホーリーライト(ライトと同じような光源を作る。光はアンデッドを弱体化させる)
アーストーン(地面から無数のトゲを生えさせて、ダメージ+移動疎外)
スピードアップ(対象の速度を若干上げる)
キュア(致死性以外の毒を治療する)
リカバリー(体力の回復速度を速める)
の7種、スキルを
連撃(1撃の時間で2回攻撃。2回目は命中アップ)
罠感知(パッシブスキル、罠の発見率が上がる)
パリィ(武器による攻撃をそらして回避し、相手のバランスを崩す)
鑑定(見立ての上位スキルアイテムの名称、ざっくりとした性能、価値を正確に知る)
採集(パッシブスキル、採集による取得数アップ)
聴覚向上(パッシブスキル、不意打ちを受けにくくなる)
視力向上(パッシブスキル、遠くのものもはっきり見える)
の7種を開放できた。
とはいえ、20日でたったの2レベル。
やはり厳しい。
「分かってはいたけど、レベル15は遠いなぁ。」
これからはもっと経験値が必要になるから、さらに時間がかかるなぁ。
なんてボヤいてみた。
「なんかあるんスか?」
ユーシンが興味深げに聞いてきた。
レベルアップで色々使えるようになるのがうらやましいらしい。
「調理スキルが使えるようになるんだ。
熟練はMAXまで上げてあるからいろいろ作れるようになるんじゃないかな。
食材が違いすぎるから期待しすぎるのは危険だけど。」
いかん、想像してたらよだれが。
「ユーキ!」
頬張っていた具無しお好み焼きもどきを一気に飲み込むと、立ち上がって両こぶしをガっと握りしめたユーシン。
「明日からはシンさんのレベルアップ最優先でいきましょう!」
「一刻も早く15っスね。」
さすが食の力。
二人のやる気がすごい。
いや、ほどほどにね、頑張るのは君たちじゃないから。
「したら、一度町にゼノに戻ってガッツリ準備してきたいっすね。」
というユーシンの提案で、その日はゼノへ戻って食料その他を購入、再びハンターの集まるキャンプ地へUターン。
ユーシンとユーキは、すでにあれを食べたい、これもいいなどと浮かれているけど・・・いや、頑張るの俺だし、俺のレベルアップ速度をなめるなよ。
レベル15まで何日かかるかなぁ・・・。
移動中の軽トラ、ユーキに助手席を譲ろうとしたけど、ゴンとクマを呼び出して一緒に荷台に乗り込んでしまった。
子供はそういうの好きだよね。
口が裂けても言えないけどね。
「ガキは荷台好きっスねぇ。」
あ、言いやがった。
「はぁ?こんな狭い車じゃゴンとクマ乗せられないだろ!」
「出さなきゃいいじゃないっスか。」
「連携上げるためにも出来る限り召喚してた方がいいんだよ!」
あ~、もう、この二人は仲がいいんだか悪いんだか・・・。
このまま雰囲気が悪くなるなら考え物だけど、この二人の場合は一通り言い合いが終わるとスッキリサッパリしちゃうんだよね。
本気で言い会っているわけじゃないんだろうな。
ちょっとうらやましい関係だ。
俺、友達とかいなかったなぁ・・・。
しんみりしちゃった。
森の中ではいつもより深く入る。
レベルアップが目的だから積極的に行かないとね。
ハリラビやビルラッツなど小型の魔物は、簡易貯蔵庫で魔石と内臓を取り出し、大きめの樽の上に吊るして、血抜きっぽいことをしてみる。もちろん貯蔵庫には空の魔石も一緒に入れてある。
で、取り出した内臓はというと、貯蔵庫内の樽に集めている。
チョット思いついたことがあるんだよね。
うまくいくかは全然わかんないけど。
ある程度集まったところで、開けた場所の中心に積み上げた。
そして、それぞれが20mほど離れた場所に生える別々の木に登って息をひそめる。
餌付け待ち伏せ作戦だ。
うまくいくといいんだけどな。
程なく、潜んだ木の反対側にある茂みから二足歩行の犬、コボルトが顔を出した。
慎重に近づくと、しきりに周辺の臭いをかいでいたが、こちらを見ると一目散に逃げだしていった。
「鼻がいいんだなぁ。こりゃ失敗かな。」
風は無風に近いけど、残り香的なものでもあるんだろうか。
しばらく待ってみたけど、手ごたえも無く諦めかけたとき、新たなターゲットが茂みから出てきた。
“グレイウルフ”、単独で活動する狼の魔物だ。
名前の通り灰色の毛並みで、普通の狼より一回り大きい。
当然というか、こちらのことには気が付いているみたいで軽く威嚇してくるけど、躊躇いもなく内臓にかぶりつく。
「俺たちは敵じゃねぇってことスか。」
隣の木に潜むユーシンがグレイウルフを睨みつけていた。
この周辺では割と上位種、強い方の魔物だ。
機動力のある魔物なので、まずはそれを奪おう。
「とりあえず先制して機動力を削いでみる。」
言うと、グレイウルフを中心にアーストーンを発動した。
突然地面から鋭いトゲが飛び出す。
グレイウルフはとっさに反応して飛び退いたけど、さすがに地を蹴った後ろ足2本はダメージを受けたようだ。トゲにははっきりと血の跡が付いている。
「うっしゃ、行くっスよぉ!」
木から飛び降り、グレイウルフに突進するユーシン。
ユーキ達も木から飛び降りている。
俺はマジックミサイルを倍化させて狙いを集中、グレイウルフの意識がユーシンに向いているうちに放った。
左に飛んで躱そうとするするグレイウルフ、5本のうち2本が外れ、3本は右足に命中した。血飛沫が飛ぶけど、動きを止めるほどには至らない。
タフだな。
「ぬわりゃぁ!」
ユーシンのバールが、地を抉るようにグレイウルフの腹めがけで振り上げられる。
グレイウルフの横腹をかすめたバールがユーシンの頭上に差し掛かると、そのまま反転、再びグレイウルフの腹を真上から襲う。
ドスッ
ユーシンのバールが地面を抉った。
グレイウルフは再び左に飛んで躱していた。
そこにゴンが切り込む。
が、難なく交わされ反撃にあってしまう。
右ふくらはぎにかみつかれ、そのまま投げ飛ばされてしまった。
「モンスターヒール」
すかさずゴンに回復魔法をかけたユーキ、連携訓練の成果だ。
クマはグレイウルフとユーキの間に入り威嚇してグレイウルフの気を引く。
「せいやっ!」
間髪入れずにユーシンのバールが襲う。
地面を削るようにして振り上げるバールは、グレイウルフの肩口を掠った。
その瞬間、俺はユーシンに”スピードアップ”をかけた。
頭上で反転したバールは、先ほどと同じくグレイウルフを襲う、ただし今度は、スピードアップでより速くなっている。
ユーシンのバールは避けられることなくグレイウルフの肩を砕いた。
そのまま止まらず左回転、遠心力で威力を増したバールがグレーウルフを吹き飛ばした。
「いよぉっし!3コンボぉ!」
ガッツポーズでドヤるユーシン。
その体が勢いよく後ろに吹き飛ばされた。
グレイウルフは、吹き飛ばされた先で反転、弾丸のような速度でユーシンの脇腹に体当たりしていた。
「マジックミサイル!」
声に出す必要なんてなくても、無意識に叫んでしまっていた。
とっさに撃ったマジックミサイルは倍化していなかったが、ユーシンへの体当たり直後で体勢の整っていないグレイウルフは避けられず、5本全てが命中した。
「アーストーン!」
続けざまに放った魔法は、グレイウルフの足を完全に貫いた。
それでも威嚇の姿勢を崩さないグレイウルフ。
ショートソードを抜いて駆け寄り“強撃”を使う。
全身に力がみなぎる。
クマが襲い掛かるが、3本の足で器用に飛び上がり交わすと、クマの背を踏み台にして襲い掛かってきた。
ショートソードを頭上に、飛び掛かってくるグレイウルフに深々と突き刺し、やっと息の根を止めることができた。
「ユーシン!」
振り返ると、脇腹をさすりながらユーシンが立ち上がったところだった。
「すんません、3コンボ決めて調子に乗っちゃったっス。」
出血はしていないようだけど痛そうだ、内臓にダメージが?とにかくライトヒールをかけて手当てする。
「シンさんのサポート無かったらまた空振ってたんじゃない?」
「うっさい、分かってるっスよ。シンさんカンシャっス。」
すごい勢いで吹っ飛んでいったんで心配したけど、無事なようでよかった。
「あ!」
と言ってユーシンが指さす先には、光る玉が。
「マジか、さすがシンさん。」
グレイウルフという強敵を封印できたのはこの上ない幸運だった。




