013話:封印
日が昇ると同時に目が覚めた。
なんか、すごくよく寝た気がする。
今日は予定通り、ユーキの手伝いでモンスターの封印だ。
荷物もあることなので田辺く、ユーシンに留守番を任せて森へ向かう。
森へは2時間ほどの行程だ。
万が一魔物の氾濫が起こった時の対策で、村は森と距離がある。
そのわずかな距離で避難できるか、と言うとはなはだ疑問ではあるけれど、これ以上離れたらハンターたちの活動に支障が出る。
結果があの防壁だ。
まぁ、砦が壊滅するくらいなんだからあまり効果は無さそうだけど。
「最初のモンスター封印は師匠のモンスターを借りて戦う仕様になっているんです。
だから単独では封印できるようになって無いんで、本当に封印できるのかちょっと不案なんですよね。」
森に近づくにつれ、表情が硬くなるユーキ。
こればっかりは答えようがないんだよなぁ。
あ、そうだ、肝心なこと聞いとかなきゃ。
「マジモンはやったことないんだけど、魔物を瀕死にすればいいのかな?倒しちゃまずいんだよね?」
それもなかなか難題なのだ。
手加減できるほど戦闘慣れしてないし、下手すると反撃されて封印どころじゃなくなるかもしれない、と心配したけど、
「倒しちゃっていいんです。
倒した後に運がいいとモンスターが光の玉になって封印できるようになるんです。」
「光の玉・・・。」
なんだそりゃっ・・・て、ゲームだもんな。
どうなるんだ?とりあえず倒せばいいのか。
「難しいですかね。」
おずおずと聞いてくる。
うん、女の子だ、じゃない。
「とりあえずいろいろやってみよう。
とどめはユーキ君がやらなきゃダメな可能性もあるから覚悟してね。
あまり深くにはいかないけど、勝てない相手もいるから逃げるときは従ってね。」
「了解。うん、大丈夫。」
顔はとても大丈夫そうじゃないよ、ユーキ君・・・まぁそうだよね。
とりあえずはこっちで倒しちゃってみよう。
戦闘の雰囲気くらいは感じてもらった方がいいだろうけど、危険は冒せない。
簡単に死ぬんだからな・・・この世界は。
あと問題なのは、俺たちをパーティ認識してくれるのかってことだ。
「マジモンって、3人パーティーだったっけ?そんな感じの記事見たような気がするけど、俺、パーティーの一人ってことになるのかな?」
ならないんなら、俺が倒しちゃうと封印できないことになるけど。
「どうなんでしょう・・・なんか、変な所でゲームに忠実だったり、いい加減だったりするんですよね。」
クソ悪魔め・・・
それにしても光の玉か。
運次第ってのが難問だな。
俺がパーティ認証されているのかってことも確認しづらいもんなぁ。
なんて思ったものでした。
最初に出会った魔物、ハリラビからあっさり出ました、光の玉。
あ、“強運(MAX)”の影響か?ドロップじゃないけど。
「こんなにあっさり。」
うん、同意見です。
拍子抜けです。
「でも、こいつスッゲー弱いよ。」
「カワイイんだけどなぁ。」
ユーキは少し考えた後、スルーすることにしたようだ。
「まだ1匹しか封印できないから、使えなかったら即終了だもんね・・・カワイイケド。」
あ、後ろ髪惹かれてる。
カワイイに引かれてるのはユーキ君かい?それともレイナかい?それとも・・・
その後ハリラビ、ビルラッツと、駆け出しハンターでも苦戦しないレベルの魔物が続いた。
光の玉は5割程度出ている。
ユーキの話だと2~3割出ればすごく運がいいってことなので、“強運(MAX)”の影響が出ているようだ。
これからは敬意を表して"強運"先生と呼ぼう。
結局魔石とトゲだけが増えた。
皮は時間がかかるからあきらめた。
あ、肉も食えるんじゃね?と思ったけど、今回はユーキに経験を積ませることも考えて、時間をかけずに数をこなすことを優先したよ。
俺が押さえつけてユーキがとどめ、って感じで何匹か倒したけど、やっぱり"強運"先生が機能するのは俺が倒した時だけっぽい。
ユーキがとどめを刺した時の光の玉発現率は、ザックリ1割半程度。
どちらがとどめを刺した場合でも、ユーキにはいっさい経験値にあたるものが入ることは無かった。
能力を上げるにはゲーム通り封印した魔物を使わないとダメみたいだな。
魔物とはいえ生き物を殺す、という行為に動揺とかしないかなって心配は無用だった。
この世界では保存技術が未熟なので、食材として生きたままの鳥や、大型のトカゲ、ネズミから豚などまで、弱い魔物が市場で売られている。
それを自分たちで絞めて加工するというのはよくあることのようだ。
孤児院でもよくやらされていたそうだし、ある程度は慣れていたみたい。
ひょっとすると、“常識”さんの影響もあるような気がする。
知識として以外にも、こういった拒絶感とかもやわらげてくれているのかもしれない。
俺も初めての解体で気分が悪くならなかったのもグロホラー好きが影響、というよりこちらの要因が大きかったのかも。
ん?でも奴隷に関しては全然やわらいでなかったな。
嫌悪感が強すぎたからか?よくわからん。
わからんことは後回しだな。
ということで、昼食後は強めの魔物を探すため少し深く入ることにした。
ホーンボアに出会わないことを祈りながらの探索だ。
若干濃さを増した森の中を進む。
とりあえずハリラビとかはスルーだ。
まずは1匹、封印して使える魔物を探す。
1時間ほどの探索。
そして出会ったリルベア。
逃げ回ったのは過去の話、マジックミサイル倍化で瞬殺である。
あぁ、俺、強くなったよ。
さらに、推定1/2の確率に恵まれて光の玉が出た。
「こいつは結構強いよ。
堅いし、爪の攻撃力も高い、ただ動きが遅いのと見た目より相当重いかな。
弱点は腹と喉、重いから弱点を突くためにひっくり返すのはかなり大変だと思う。」
ちょっといいショートソードと補正付きの斧を無くすことになったんだよな。
もったいなかった。
「瞬殺だったのは、今俺が出せる最大火力だったからだよ、それ以外はいまいち効く気がしない。」
使いどころは壁役か。
最初の魔物としてどうか、というと若干問題はありそうだ。
できれば最初は万能型がいいと思うんだけど、今まで出会った中で思い当たるのは、人の装備が使えるゴブリンくらいかな。
う~ん、あいつら群れるからなぁ。
なんて考えてるうちに、
「封印できました!」
あれ?
ユーキの手には、リルベアの姿が描かれたページを開いた魔本が。
封印できたのはいいけど、ちょっとは悩もうよ。
俺が垂れ流していたリルベアうんちくはスルーですか。
「ってか、その魔本はどこから出た?」
「そう言われれば・・・」
首をかしげるユーキ。
「封印しようとしたら出て来たけど、冷静に考えれば意味不明だよね。」
「まぁ、ゲームだしね。」
「なるほど、一応忠実に再現しようとしてるんだね。
封印のことばっかり考えて魔本のこと忘れてた。」
忘れてたって、魔本が出なかったら封印もできなかったんじゃ?
意外と抜けてるのか?この子は。
「このリルベアって、マジモンにも出てきそうな魔物だよね。」
ニコニコと魔本を眺めているユーキ。
まさかひょっとして・・・基準はカワイさか?そういえばハリラビの時もかなり悩んでたな。
それでいいのか、ユーキよ。
どっと疲れた気がしたけど、とりあえず無事魔物をゲットできて何よりだ。
「すごい、リルベアってレベル12もある!僕のランクも2に上がったよ!すげぇ、これでもう1匹封印できる。」
そうか、封印するとレベル1からじゃないんだね。
って、無茶苦茶レベル上げ楽なんじゃないの?ズルい。
なんか、釈然としないなぁ。
っていうようなことを考えてる時って、良くないことが起きるよね。
警戒が反応する。
今の有効範囲は自分中心に28m、そのギリギリの位置に複数の魔物反応。
「静かに!何かいる、リルベア出して身を守って。」
この周辺で群れて生息する魔物は・・・今の“常識”さんならある程度分かってるはず。
ゲドリザー、ゴブリンは遭遇済み、あとは。
コボルト、2足歩行の犬。
身体能力はゴブリンより劣るものの、鋭い嗅覚と聴覚があり、連携しての狩りに秀でている。
ヒエン、体長40cmほどで樹上を飛び回るようにして活動する猿。
単体では弱いが、集団での集中攻撃で格上の魔物も積極的に狩る森のハンター。
機動性に優れ獰猛。
グロウフォミカ:体長30㎝ほどの巨大な蟻。
非常に硬く、数千から数万の大軍団で森の中を移動しながら生息している。
グロウフォミカの通った後はあらゆる生物が消滅するとまで言われるほど獰猛。
と、こんなところか。
動き方や規模からヒエン、グロウフォミカは除外できる。
ゲドリザーも無いかな、前遭遇したときは、最初はジッとしてほとんど動いてなかった。
コボルトでも無い気がする。
この距離なら臭いで気が付かれてると思うし。
ってことでゴブリン予想だ、何とかなる?。
ユーキの様子を見ると、しっかりリルベアを呼び出してジッとしている。
「たぶんゴブリンだと思う。
こっちには気が付いてないみたいだけど、8匹いるからちょっと手が足りないな。」
「リルベアじゃ勝てないです?」
う~ん、ゲドリザーがマジックミサイル2本で1匹倒せたってことは、ゴブリンは1本でも倒せる可能性がある。
でも試してないからな、倒せなかったら、手負い5匹も含めた8匹を一度に相手しなきゃならない。
倍化したマジックミサイルなら5匹同時に倒せるだろう。
残り3匹、1匹を俺が、リルベアが1匹を瞬殺できたとしても、1匹がユーキに行く可能性がある。
う~ん、マジックミサイル直後に単体スリープで1匹でも落とせばリスクはあるけど対応できるか?難しいな、どうしたものか。
「リスクを考えると避けた方がいいかもしれないな。
うまく運べば何とかなるかもしれないけど、ユーキ君が危険にさらされる可能性が高い。」
少し考えた後、ユーキは攻撃を選んだ。
「リルベアもいるし、できれば積極的にいきたいです。
ゴブリンなら戦闘以外にも使えると思うんです。
カワイくないけど・・・あっ、もちろん、シンさんの指示に従います。」
そうか、生産とか建築もできたんだよね、マジモン最新作って。
だとすると、やっぱりゴブリンはとっておいた方がいいか。
う~ん、しょっぱなで範囲スリープかけて、寝てる間にリルベアでみんな倒してもらった方がいいかな?リルベアの攻撃力なら一撃で倒せるだろうし、リルベアの経験値にもなるし。
前回は走ってくるところにかけたから、倒れた時の衝撃が強くて瞬間に目を覚ましちゃったみたいだけど、静かに近寄って不意打ちでかければ、多少の物音なら目を覚まさないかも?
そんなにうまくいくか?
念のため、スリープ直後にマジックミサイル準備しといたほうがいいな。
起きちゃったのはそれで倒せば何とかなるか。
「うん、やってみよう、俺が先行するから、ユーキ君はできる限り静かについてきて。」
「はい。」
簡単に作戦を打ち合わせて、“静動”を発動してみる。
効果があることを祈りたい。
慎重に進み、ゴブリンを視認する。
どうやら鹿のような魔物を狩って運ぼうとしているようだ。
大きすぎて四苦八苦している。
運がいい。
ゴブリンたちの意識は推定"鹿"に集中している。
ならば、今がチャンスだ。
ゴブリン全員が範囲に入るように集中、そしてスリープを発動。
一瞬ふらつき、パタパタと倒れるゴブリンたち。
推定“鹿”を運び出す前でよかった。
持ち上げて運んでいる最中だったら、推定“鹿”に潰されて起きられたかもしれない。
マジックミサイルを準備して、狙いをつけるとハンドサインでユーキにGOを出す。
動かない相手に対して、リルベアは極めて優秀なハンターだった。
確実に1匹づつ、一撃で仕留めていく。
移動速度の遅さが難点だけど、静かに動きたいときは問題にならない。
5匹を片付けて、6匹目にかかった時、近くで獣の叫び声が上がった。
リルベアに驚いた小型の魔物が逃げていったのだ。
何とも間が悪い。
声に飛び起きたゴブリンたちは、まだ状況を理解できていない。
準備していたマジックミサイルを放つが、推定"鹿"の裏にいた1匹は死角に入って外してしまった。
倒れた2匹を見て状況が分かったのか、ゴブリンは脱兎のごとく逃げ出した。
あ、まずい。
仲間を呼ばれると手に負えなくなる。
ショートソードを抜くと、急いで後を追う。
後を追いながらマジックミサイルを放つ。
狙いもつけずに放った5本の矢は外れたが、ゴブリンの足を一瞬止めることはできた。
一瞬あれば十分、一気に迫ると、バッサリと背を切り裂いた。
ちょっと焦った。
ウソです、だいぶ焦った。
戻ると、すでにユーキが封印に成功していた。
最初にリルベアが倒したうちの1匹から光の玉が出ていたようだ。
ミッションコンプリート、無事2体の封印に成功して、現状では満枠となった。
魔石と、封印したゴブリン用に使えそうな装備品を確保してから森の外へ向かう。
推定鹿の魔石もちゃっかりゲットしたのは言うまでもない。
できれば肉と皮も欲しかったけれど、周囲がざわつき始めたので退散した。
道中見つけたハリラビやビルラッツをゴブリンで仕留めて経験値を稼がせながらの帰路だ。
2匹ともレベル10になれば、ユーキのランクが3に上がって封印数+1、同時呼び出しも+1になるので、活動がずいぶん楽になると言っていた。
まぁ、元々がレベル3のゴブリンなので森を出るまでにレベル10は全然届かなかったけど。
しかし、いいなぁ。
俺の従魔たちはどうなってるんだろう。
テイムスキルが解放されたら呼べるんだろうか。
それとも、ユーキみたいにこの世界の魔物をテイムしなおさないといかんのかな。
う~ん、バニラ(MODなどを導入していない状態のこと)枠に登録していた焔竜、氷結竜、暴風竜は消えちゃってたら辛いな。
テイムするのにとんでもなく大変だったし強かったんだよな。
あの3体だけで無双確定だったのに。
レベル20になればMODで拡張した従魔枠が3つ解放されるはずだけど、そこに残ってれば焔竜たちも期待できるよね。
楽しみなようで不安なようで。
とにかく俺はレベルを上げなきゃな。
キャンプに戻るころには日も傾き始めていた。




