012話:少女?
10歳くらいに見える赤毛の少女がじっとこちらを見ている。
異様な光景だ。
ここは駆け出しのハンターや行商人用のキャンプ地。
こんな場所に子供がいるはずがないんだ。
けどなんか、見たこと有るような無いような・・・なんか引っかかる。
う~ん、何だろう。
対応に困っていると救世主、コミュ力エリートの田辺君が、
「ガキんちょが何でこんなとこにいるんスか?」
と、颯爽と登場。
「ガキじゃない!これでも大人だ。」
田辺君をキッと睨む少女。
いや、どこをどう見ても子供なんだが。
「はいはい、ガキんちょほど大人ぶるんスよね。」
と歯牙にもかけない田辺君を鬼の形相で睨みつける少女。
女の子がそんな顔しちゃダメだって。
田辺君も、女の子からバリバリと歯ぎしりの音が聞こえてきそうだからそのくらいでからかうのやめなさいって。
そう思っても言葉には出せない。
情けない話だけど、同年代の同僚や取引先のオジーちゃんオバーちゃんならまだしも、若者と接する機会が全くなかった俺にはどう入ったらいいのかが分からない。
○○ハラスメントなんていう言葉にビクビクしながら生きている中間管理職の悲しい習性・・・というと世の中間管理職に悪いか。
ただ単に俺が対人ビビリなだけだ。
「で、何の用スか?」
田辺君はあっさりと切り替えに成功してしまった。
あ、そんな感じで返していいんだ。
「ねぇ、あんた、ハンダって言ってたよね。」
少女は田辺君をスルーしてこっちに来た。
あ、そうか、つい向こうの名前で呼び合ってたけど、この世界じゃ珍しい名前かもしれない。
マズったな。
「僕はカトリ・ユウキっていうんだ。」
ん?なんか聞きなれた響き。
しかも名字持ち?
子供が?
「飯田さん、僕っ娘っスよ、僕っ娘!現実にいたんスねぇ。
痛いアイドルのキャラづくりだけじゃなかったんスね。」
キラキラした目ではしゃぐ田辺君・・・いや、そこじゃないから。
「僕は女じゃない!」
顔を真っ赤にしながら食ってっかる少女。
ほら、火に油を注ぐからぁ。
「くぅ~~~~!まさかの男の娘って奴っすか!この世界にもいるとは!!」
「田辺君、ちょっと落ち着こう、論点が明後日の方に行ってるから。」
さすがに割って入ったよ。
内心ドキドキしながら。
「お前脳みそ入ってんのかよ!察しろよ、僕はお前らと同じだ!無理やりこの世界に連れてこられたんだ。
この姿はゲームのキャラなんだよ!」
あぁ、違和感の正体はこれか!
ゲームキャラとして見たことある気がするんだ。
こんな感じのキャラが出てるゲームって・・・
「まさかだけど、マジモンのレイナ?」
「それ!!」
ビシッって擬音が聞こえてきそうな勢いで指をさして肯定する自称大人男子のカトリくん。
「なぁ~んだ、ただのネカマか。」
そしてとたんに興味をなくした田辺君。
いや、火に油注いだ分くらいは責任取ってよ。
「ちがう!マジモン13はユキトとレイナで最初に使えるモンスターが違うんだよ!だからレイナを選んだだけだ!だいいち、ネトゲじゃないからネカマじゃない!」
うん、正論だ。
カトリ君の勝ち。
しかし、完全にアニメ顔のキャラが実物になるとこうなんだなぁ。
確かに何となく特徴は残ってるけど、言われてよく見ないとわからないな。
「やったことは無いけど、超が付く有名ゲームだよね。」
マジカルモンスター、通称マジモンは、モンスターを魔本に封印して使役するテイマー系ゲームで、13作まで発売されている。
コミカライズ、アニメ化、映画化もされて大ヒットしている超有名タイトルだ。
メインターゲットが小中学生なので主人公も12歳設定だったか。
子供のころからプレイし続けるシリーズプレイヤーも少なくないらしいけど、世代的に俺は縁が無かったな。
カトリくんもご多分に漏れずのシリーズプレイヤーで、最新作を手に入れて起動、チュートリアルを終えていよいよ最初のモンスターの封印、という直前に巻き込まれたらしい。
「チュートリアルの最後に最初のモンスターを封印するまではただの子供なんだよ。
なのにお手伝いクエストも修行クエストも始まらないんだ、何にもできないんだよ。」
必死に訴えかけてくるカトリ君。
みんな何かしら問題抱えてるんだね。
一応は超ビッグタイトルだから関連記事や紹介サイトを見たことはある。
確か、マジモンはプレイヤーレベルにあたる術士ランクが上がっても、封印できるモンスターの数が増えたり一度に召喚できる数が増えたりするだけで主人公自身は強くなったりしなかったんじゃなかったっけ?
プレイヤーの能力は封印しているモンスターの種類や数で変化する仕様らしく、モンスターが封印できなければ、たとえ術師ランクが高くてもただの子供と変わりない。
封印の上限が決まっているから、上限に達しているのに強いモンスターを封印しようと思ったら、封印済みのモンスターを開放しなければならず、場合によっては主人公の能力が下がってしまうこともある。
この世界ではなかなかの難物だ。
「モンスター封印すりゃ良いじゃないっスか。」
にべも無し。
田辺君よ、それができてればこんなとこにいないと思うよ。
「封印どころか、村から出してもらえないんだよ、子供が危険なことするんじゃないってさ。」
頭をかき上げて苦い顔をしながら愚痴る。
なんか調子狂うな。
子供だけど、仕草も言ってることも子供じゃない。
「あの白い部屋の後、気が付いたらこの村にいてさ、知ってる人誰もいないし、何していいかもわからないしでウロウロしてたら、夜中に子供が何してるって警備兵に捕まって、親もいないなら商隊に厄介払いされたんだろうって孤児院に入れられちゃってさぁ。」
ああ、それは災難、というか孤児院でも安全な所で食事つきなんて、ある意味すばらしい環境では?
なんて思ったんだけど。
「そこがまたひどいところなんだよ、刑務所と変わらないね。」
いや、刑務所なら自由に出歩けないと思うんだけど、と思っても口には出さないよ、大人だからね。
「露店通りであんたらのことに気が付いて、仲間のフリして一緒について出なかったらここに来ることもできなかったくらいだよ。」
ややこしいなぁ、子供にしか見えないのに仕草も言葉遣いも大人。
大人ぶってる子供とはなんか違うんだよな、ホント調子狂う。
っていうか、大人といっても彼はまだ18歳、高校卒業して就職、研修中だったそうだ。
大学生の田辺君とほぼ同年代とはね。
どっちも子供じゃん。
君たち足してもおっさんの方がおっさんだからね。
おっさん舐めちゃいかんよ、無駄に長生きしてるだけなんだから、過保護なくらい労わってくれてもいいんだからね。
なんて馬鹿なこと考えてたら、まじめな顔したカトリ君が
「一生のお願いです!僕にモンスターを封印させてください。」
直角に腰を曲げて頭を下げてきた。
「月一くらいであるんスよね、この手の一生って。」
「うっさい、そのくらい笑って見過ごせ。」
「あ、これ週一だ。」
そこそこ、漫才始めない。
対若者コミュ障なオッサンでは対応できないから。
この村の孤児院はあまり良い環境とは言えないらしく、奉仕といわれる内職が割り当てられていて自由になる時間はほとんど無い上、ノルマを果たせないと食事の質と量が落ちるどころか、暴力まで振るわれることもあるとか。
カトリ君は、どうしてもその環境に馴染めずよく抜け出しているらしい。
ただ、自立しようにもモンスターを封印しないと先に進めないと。
多くないか?レベルアップできない問題。
レベルアップしにくいだけの俺って、かなり優遇されてるような気すらしてきたよ。
「手伝うのはいいけど、今すぐは無理かな、やらなきゃいけないことがあるから。」
と言って、作業台で肉をさばき始める。
「あ、水汲んできまス。」
と言って田辺君も仕事に戻る。
意外とドライね、キミ。
「ありがとうございます。
待つのは慣れてるんで、手が空いたらでいいんでお願いします。
もし手伝えることがあるならなんでも手伝いますので。」
手伝い確約がよほどうれしいのか、それとも田辺君が去ったからか、急にしおらしくなる。
オッサンの実年齢を知ったからかもしれないけど。
「そう言えば、なんて呼べばいいかな。」
肉を切りながら聞いてみる。
「ユーキでお願いします。飯田さんはそうお呼びした方がいいですか?」
「いや、田辺君とは何となく向こうの名前で呼び合っちゃってたけど、この世界だとかなり珍しい名前みたいだからやめた方がいいかなって思ってたんだ。
シンって呼んでもらえるかな、一応ゲームで使っていた名前なんだ。
田辺君は聞いてみないとだけど、ゲームではユーシンって名前だったそうだよ。」
その後水を汲んできた田辺君にもユーシン呼びの確認をとって、3人で黙々と準備を進めた。
スライスした大量の肉のうち半分を大鍋に入れて煮込む。
残りの半分は別の大鍋に水、塩、香辛料を入れた調味液に漬け込む。
水で煮込むのと煮込まないのでどれだけ差が出るかを調べるためだ。
煮込まなくてもよいなら大幅に手間を省けるし、料理の幅も広がるに違いない。
手伝ってもらうならと、ユーキにも奇跡の干し肉を試食してもらっているので、手伝う手つきも真剣そのものだ。
フフフ、こいつは(悪だくみにも)使えるな、食べきらないで少し取っておこう。
2時間ほど漬け込んだら取り出して、煮込んだ肉と入れ替えて漬け込み2時間。
待ってる間に色々話してみたけど、マジモンのモンスターはいろいろバラエティーに富んでいて、魔法まで使ったりしたらしい。
レベルアップに進化、合体と成長もいろいろで、やりこみ要素が多いそうだ。
待ちに待った新作を手に入れて、始めた途端に引っ張り込まれたんだそうだ。
それは悔しいよね、なんて話で盛り上がった。
煮込んだ肉も漬け込みが終わったら、簡易貯蔵庫を開く。
まずは荷物を運び出して貯蔵庫を空にしないとね。
空にした簡易貯蔵庫に、煮込んだ肉と煮込まない肉を、自家製網と市販の網で干す。これで網の違いなのか、煮込まないでもエグみがとれるのかが分かるはず。
同時に、運び出した荷物を置いてあるテントにも同様に干す。
これで貯蔵庫の影響か、荷物による影響かがわかる。
どちらも失敗なら、貯蔵庫と荷物のどれか、さらには網の違いの複合的な影響の可能性となり、とてもメンドクサイことになってしまう。
「でもすごいですよね、悪魔に植え付けられた知識だと、この世界の食事は全てエグいって・・・大発明じゃないですか?」
「そうそう、飯田・・・シンさんマジパネェっスよ。これ、間違いなく世界を変えますって。」
盛り上がる二人には悪いけど、そもそもがどうしてこうなったのかが分からないんだよなぁ。
「この実験がうまくいけばいいんだけどねぇ、とにかく、どうすればエグみを取り除けるかが分からないといけないから、長期戦も覚悟しておいてね。」
自分で言っておいてなんだけど、途方もないなぁ。
こういう実験には縁が無かったから、手当たり次第思いつく限り試してみるしかない。
あぁ、学生時代もっとちゃんと勉強して、大学くらい行っておけば良かったなぁ。
行ったことないからわからんけど、こういった実験とかの方法も、もっと理論立てて効率的にとかさ、あぁ、数十年前の自分に言ってやりたい。
無駄だと思った勉強も、いずれ役立つことがあるって。
干し作業が終わるころには、もうすっかり暗くなっていた。
あぁ、なんか、たぶんこの一回じゃ解決しない気がする・・・イカン、ぽじてぃぶぽじてぃぶ。
「やべ、送らないと村に入れないっスよね。」
すっかり忘れていた、ユーキを孤児院まで送らないと。
「もう帰らないからいいですよ。」
最初から決めていたようにサラっと言うユーキ。
「それはさすがにまずくないかい?」
心配して探しに来るだろうし、ひょっとすると誘拐犯なんて勘違いされたら面倒だって、不安を感じていると、
「急に誰かいなくなるのはしょっちゅうだし、だからって探そうとしたことなんかないんだ。
みんな逃げだすんだよね。
そもそも今日の作業して無いから、帰ったら飯抜きで殴られるだけだし。」
なんてことを言いだした。
「奴らからすれば、労働力が一人減るだけで、すぐ次が来るからね。
どうせ逃げても野垂れ死ぬか泣いて戻ってくるさって言ってるの聞いたこともあるんで。」
なんともドライに言うユーキだけど、教会とか、しっかりしたバックボーンの無い孤児院ってほとんどそんな感じらしいと“常識”さん、世も末だな。
今のところ、この世界に共感できることが無いんだが。
こんな世界で何をしろと?
自由を満喫しろって言ったって、全然モチベーション上がらんぞ、どーなってんだ。
責任者出てこい。
どん底のモチベーションを上げるためにメシのことを考えよう。
貯蔵庫側の検証結果が出るのは明日の今頃なので、帰るつもりがないなら、明日はユーキのモンスター確保を手伝うのもいいな。
そのことを伝えるとすごく喜んでくれたけど、チョット涙ぐんでもいた。
それだけ辛かったんだな。
うん、明日は頑張ろう。
最初に使っていた一人用のテントを組み立ててユーキに使ってもらうことにして、この日は就寝した。
実験、うまくいきますように。




