015話:パーティ結成?
「うげ、レベル30だよグレイウルフ、やたら強いはずだ。」
そう、やたらと強かった。
ゆえにユーキが封印できたのは僥倖だ、大幅な戦力アップになるのは間違いない。
しかも、グレイウルフ封印によってユーキのランクが一気に5に上がったので、3匹同時に呼び出すことができるようになったのだ。
アオンと名付けられたグレイウルフの嗅覚、聴覚はかなりのもので、索敵にも期待できる。
俺の“警戒”いらなくなるかもな。
しかしな、ユーキよ、もうちょっと名前は考えた方がいいんじゃないか?
本人(本狼?)が気に入ってるならいいけど・・・わからん。
尻尾振ってるからいいのかな・・・。
その後何戦かしてみたけれど、戦闘力も申し分なく狩りが一気に楽になった。
というか、俺らいらなくね?
いやいや、俺のレベルアップが目的だった。
マジモンだと、パーティメンバーの最大数はキャラが3、モンスターが3だった。
奇しくも同じ状況になったけど、特に変化は感じないな。
そもそもユーシンのゲームはパーティ制じゃないし、俺はMODの導入でNPCを最大9人、自キャラ入れて10人編成が可能になっているわけで、システム的にパーティが導入されているとしても、どれが有効なのかは全く見当がつかない。
ちなみに、バニラ(MODを入れていない状態)ではNPC2人までだった。
確か、最大100人まで導入できる変態的なMODもあったっけ・・・実際に100人引き連れる動画見たけど、キャラ同士が重なっちゃって笑うしかなかった。
そんなことはどうでもいいとして、パーティとかあまり意味は無いのかもしれないな。
なんか、そう言った面倒事はスルーしそうな性格だよね、あの悪魔。
まぁ、深く考えるのはよそう。
時間の無駄無駄、なるようになるさ。
なんて、しばらく探索をしていると、ある問題が発覚した。
アオンが優秀過ぎる。
つい頼りすぎになってしまう。
魔物と遭遇してもアオンだけで対処できてしまうのだ。
考えてもみれば、この森の中単体活動の魔物なんだから当然ではある。
しかしこれでは、経験値は入ってもそっちじゃない方の経験ができない。
連携とか、いろんなタイプの敵との戦いとかさ。
重要だもんね、そういった種類の経験値って。
ということで、
索敵兼遊撃役にアオン(グレイウルフ)
壁役にクマ(リルベア)
近接攻撃役にユーシン
遊撃役にゴン(ゴブリン)
補佐兼モンスター回復役にユーキ
遠距離兼補佐兼回復兼後方警戒諸々が俺
という役付けを行った。
アオンはメンバーの中でも別格の強さだけど、いずれアオンだけでは対処できなくなることも想定して、索敵とかく乱攻撃に徹してもらう。
それでも経験値は入るからね。
クマは、レベルが上がったことで結構素早く動けるようになった。
短距離なら一般人の全力疾走程度、異次元の速さだ。
リルベアとしてはだけど。
ユーシンにはコンボの成功率を上げるため攻撃の中心についてもらった。
3コンボのタイミングは問題無くても、素早い相手だと躱されてしまうことが判明した。
コンボを確実に決めてもらうには、実戦でのさらなる習熟が必要だ、と判断したからだ。
ゴンはかなり器用なようで、記憶を頼りにスリングを作って与えてみたら器用に、というか、かなりの命中精度で使いこなしてしまった。
動きも素早いので中距離~近接までこなしてもらえる。
スリングを作ったといっても、ゴムを使ったいわゆる現代のスリングショット、日本風に言うとパチンコ、とは違う。
細長い布の片側に持ち手になる輪を、反対側に手首に着けられるように短いロープをつないだだけの簡単工作だ。
布が手のひら側に来るようにロープを手首に縛り、布の真ん中に石を置いて、その石を包むように布を折って輪を握る、それを振り回して、輪を放すと石が飛んでいくという原始的な投擲具だ。
近接なら振り回した石でそのまま殴りつけるブラックジャック代わりにも使えるのだ。
石の補充用に、俺が最初持っていたバッグを渡した。
目いっぱい詰め込まれた石がゴンにとって攻撃の要だ。
ユーキはモンスターに対して効果のある魔法(スキル?)があるので、モンスターへの指示とサポートに集中。
俺はいろいろできるけど、どれも中途半端なので副業兼務だ。
ただし、全員一致で調理スキル開放を熱望しているため、可能な限りとどめを刺す役どころだ。
ユーキが封印しているモンスターと俺しか経験値を獲得できないので定かではないけど、パーティー認定されている(らしい)メンバーには、経験値が割り振られることが分かっている。
特にとどめを刺したものに多く入るようなので俺に、ということなのだ。
なんか、こうなってくるとゲームの感覚を思い出すようでワクワクしてしまう。
まずは目指せ15レベル、である。
よく見かける魔物を倒しながら森を進むと、”常識”さんが最大級の警報を出す魔物を発見した。
人のように二足歩行の魔物だが、明らかに人とは異なる。
全身が真っ黒な体は細かい鱗に覆われていて、顔は昆虫に近い。
腕も異様に長く、直立しているのに地面に届きそうだ。
指は無く、一本の鋭い爪が見える。
ヴォーライル。
森の掃除屋と呼ばれるやっかいものだ。
”常識”さんによると、鱗がかなり固く剣で切るのは至難、ただし突きならばある程度有効らしい。
個体の戦闘力はゴブリン程度だが、仲間を呼ばれると大変なことになる。
なんせこいつら、1匹見つけたら100匹は覚悟しなければならないほどいっぱいいるのだ。
とても魔力も体力も持ちそうにない。
経験値もしょぼそうだし、正直戦いたくない。
戦っちゃいけないと、”常識”さんも警報を鳴らしている。
ここはスルーしよう・・・と思ったけど。
「おるぁあ!」
ユーシンんんんんん!
バールがヴォ―ライルの肩を抉る。
「ゴン、いつでも投擲できるように準備、クマとアオンは警戒しながら攻撃だ。」
ユーキまでぇえぇぇ。
俺は忘れていた。
”常識”さんは、知識のステータスによって”知っている”ことが変わることを。
この時、ヴォーライルのことを”知って”いたのは俺だけだったんだ。
「シンさぁ~ん、とどめとどめ。」
「ユーシン!すぐとどめ指すんだ!」
「へ、俺っスか?」
なんて、のんきなことを言うのも”知らない”からだ。
グギァアアアアアア!
瀕死のヴォーライルがあげた鳥肌が立ちそうな叫び。
「警戒しろ!仲間を呼ばれた、とんでもない量が来るぞ!」
そう言い終わらないうちに、四方八方から草木が騒ぎ出す。
続々と集まってきているのだ。
「え・・・俺、やべぇ事しちまったんスか?」
青ざめるユーシンの背中を叩く。
「俺のミスだ、こいつらのことを、俺と同じくみんなも”知ってる”と思い込んでた。」
剣を抜きながら、戦えないユーキを中心にして、それぞれが背を預けるように円形に並び立つ。
「たぶん100は来る!みんな、自分の目の前の敵を倒すことに集中するんだ、ユーキはクマたちのサポートに徹してくれ。」
「はい!」
敵はゴブリン程度の強さだ、同じゴブリンとはいえ、ゴンはレベルが上がった分強くなっている、一匹一匹は対処できない強さじゃない。
問題は、こちらのスタミナがもつかどうかだ。
「鱗が硬い、突きと打撃を中心に戦うんだ。」
そう伝えると、俺はマジックミサイルを用意する。
一度に5匹は仕留められる、それと剣で、1匹でも多く削っていくしかない。
ギアァアアア!
けたたましい雄たけびとともに、黒い魔物たちが一斉に草むらから飛び出してきた。
狙いをつける必要もないほどひしめき合って押し寄せるヴォーライルに、マジックミサイルを放つ。
広がるように放った5本の矢は、5匹のヴォーライルを仕留めた。
が、それにどれほどの意味があるのか。
何の感慨も無く絶命した仲間の死体を乗り越えて、次々に襲い掛かってくる。
必死に剣で突きまくり、リキャストタイムが切れると同時にマジックミサイルを放つ。
右隣ではユーシンが、バールをめったやたらと振りまくっている。
ワザとかコンボとか言っていられる状態ではない、とにかく殴り続けなければ飲み込まれてしまう。
左隣ではクマが爪をふるい続けるが、いかに強力であってもクマの動きでは押し寄せる黒い波には追いつかない。
上を乗り越えられてユーキを狙われないないように、後ろ足で立ち上がりながら戦っているためバランスを崩しやすい上に、弱点の腹と喉ををさらけ出したまま戦っているのも問題だ。
俺がかけたボディプロテクションが切れたらすかさずユーキの魔法、鉄壁をクマにかけるように言ってあるけど、うまくスイッチできればいいが。
俺が補助に入ることも視野に入れて、クマにも注意をはらわなければ。
アオンは能力的に問題無いとして、ゴンは隣のユーシンに気をかけてもらうしかない。
いくら強くなっていても、ゴンの武器はナイフとボーラだ、一撃で倒すことはできないだろうから、スタミナが尽きるのも早いだろう。
目の前に死体の山が築かれてゆく、その死体を乱暴にかき分け、新たなヴォーライルが襲い掛かってくる。
あっという間に魔力が尽き、剣でめったやたらと突きまくるしかなくなると、それまで無視し続けてきた絶望感が大きくなってゆく。
スタミナより先に心が擦り切れるなんてな・・・。
一向に終わりの見えないヴォーライルとの戦いに、クマもゴンも肩で息を切らし、動きの精彩さが失われてゆく。
ユーキもMPが尽きたようだ、クマへの支援が途切れている。
全身どす黒い体液まみれになりながら切りまくる。
クマをカバーしながらでも何とかなる。
それでも、切っても切っても目の前の光景が変わらない。
もうどれだけ戦っているのか・・・剣が体液で滑りそうになる。
チラリと目に入ったユーシンは、バールを逆にもって突いていた。
なるほど、戦いにくそうだけど、あれならすっぽ抜けることは無いだろう。
剣に気をとられた。
疲労が思考力を奪ったのか、ただ単に俺が間抜けなのか、クマをカバーしようとして踏み込んだ先には、飛び散った体液にまみれたヴォーライルの腕が転がっていた。
「しまっ」
た、を言うことができなかった。
バランスを崩しながらも、かろうじてクマに襲い掛かろうとしていたヴォーライルを突き刺して目的を果たした俺だったが、踏ん張りがきかずに膝をついてしまった。
その俺を乗り越えた別のヴォーライルがクマに迫った。
そしてついに、クマの腹をヴォーライルの爪が切り裂いた。
「クマ!」
ユーキの悲痛な叫びが聞こえる。
「シンさん、ユーシン、ゴメンナサイ!一か八かにかけます!!」
意を決したように叫ぶと、ユーキはクマを魔本に戻した。
防御の輪が崩れる。
マズい、ユーキが無防備になってしまう。
「出ろ、ヴォーライル!何とかしてくれ!!」
?
そうか、この戦いでモンスターのレベルが上がってユーキのランクも上がり封印数が増えたんだ。
大量に転がる死体の何割かからは、例の光の玉が出ていた。
混乱の中、ユーキはヴォーライルを封印していた。
とはいえ、一匹召喚したところで事体が動くとは思えない、戦力的にもほとんど意味がない、何か秘策が・・・え?
ユーキが召喚したヴォーライルが、天を向いてクルルルルと言った鳴き声を発している。
なにそれ?
酷く場違いな、きれいに澄んだ鳴き声。
その声の影響なのか、殺気立っていたヴォーライルたちの手が止まった。
気が付けば、数が減っている。
次々とヴォーライルたちは茂みの中に消えていった。
「マジか?」
召喚したユーキ自身も信じられないような顔でクルルル、と鳴き続けるヴォーライルを見つめている。
「助かった・・・で、いいんスよね?」
大の字に倒れこんだユーシンに、
「たぶんね、まさか鳴き声一発で追い返せるとは・・・」
そう答えることしかできなかった。
「はは・・・ヴォーライルのスキルに”同種扇動”っていうのがあったんで、一か八か、別のヴォーライルを呼んで混戦になれば脱出のチャンスがあるかなって思ったんですけど・・・まさか追い返せるとは。」
なるほど、確かに危険な賭けだったけど、ユーキでもこの展開は予想できなかったのか。
「疲れてるところ悪いけど、休む前にここを離れよう。あれだけハデにやらかしたんだ、他の魔物が近寄ってくるかもしれない。」
そう言って、重い体を引きずるように移動を開始した。
ユーシンが軽トラを出そうか、と提案してくれたが、この周辺は植物が入り組んでいて走行不能になる可能性が高いため断念した。
「にしても、知ってることに差があるって詐欺もいいとこスよね、あのクソ悪魔。」
ようやく森を脱出しようか、と言うあたりでユーシンの口から不満が漏れた。
「確かに差があるよね、レベルが上がるごとに”知っている”ことが増えていくから、知識系のステータスが影響してるっぽいんだけど。」
「それって、ステータスに知識とか知力とかない上レベルアップしない俺は恩恵無しみたいなもんじゃないっスか。」
「僕も難しいな、どの魔物を封印したら知力が上がるか分からない。」
「そうだよねぇ、ごめん、俺がしっかり認識して情報共有しなきゃいけなかったのに。」
「いえいえ、俺も考えもせず行動しちまったのが行けないんス、次からはもっと慎重に行動するっスよ。」
森を出て気が緩んだのか、帰途はすっかり反省会になってしまった。




