第76話
ごきげんよう。
クロエ・カサブランカでございます。
わたくしは若干疲れておりますが、そうは言っていられませんわ。
パブロバの完成に向けて、もう一息ですもの。
準備も整いましたし、いよいよ盛り付けに入りますわ。
先程用意したお皿の中央にある13センチ平らなくぼみを満たすように、簡易冷蔵庫から取り出した深紫色のベリーソースを隙間なく、綺麗な正円状に敷きます。
うん。白いフチの中に、深紫色の正円が浮かび上がって、美しいコントラストができましたわ。
お次は………じゃーん!こちらの出番ですわ!
実は先日、星珠果というポインセチア領の固有種である果物を、ナタリーを通して彼女の父上であるポインセチア子爵にお願いし、譲っていただきましたの。
見た目はピンポン玉よりほんの少し大きい、クリスマスツリーに飾る銀色の丸いオーナメントそのものですが、パカッと割りますと、中には直径2ミリ〜5ミリ程の、大小さまざまな銀色のアラザンがぎっしりと詰まっていますのよ。
ポインセチア領ではポムの実という愛称で呼ばれ、簡単に採れることから、子供達のおやつとして親しまれているそうですわ。
わたくしは中身のアラザンを取り出した後、外側はすりつぶしてパウダー状にいたしましたの。
ボウルの中でも、シャンデリアの光を受け、キラキラと銀色に輝いていて、とても綺麗ですわ。
こちらの星珠果のパウダーを、ベリーソースの左下から右上にかけて、斜めに振りかけていきます。
右上に向かうほど幅を広くしていきますと、よりそれらしく見えますわね。
「クロエ、その綺麗な粉は何だい?」
作業を進めていると、ピーターが興味津々の様子で質問なさいました。
「これはナタリーに譲っていただいた星珠果の外側の部分を、すりつぶして粉状にしたものですわ。」
「星珠果の外側!?
あれは中の実しか食べられなかったはずだけど……。」
わたくしの答えにピーターは目を丸くなさって、驚いたように声を上げました。
まぁ……そうなりますわよね。
世間一般では、星珠果の外側は味が薄く、食べられないと認識されているようですが、譲っていただいた実を鑑定してみましたら、外側も食用可とバッチリ記載されておりましたの。
これは植物図鑑にも載っていない情報ですので、驚かれるのも無理はありませんわ。
わたくしはピーターにその旨をお伝えして、次の工程に進みます。
オーブンから天板を取り出し、庫内で冷ましておいたメレンゲの状態を確認します。
うん。きちんと冷めていますし、良さそうですわね。
美しい純白のリース状に、サクッと焼き上がっていますわ。
これをお皿の真ん中にそっと乗せ、その美しい輪の形をなぞるように、甘さを控えたホイップクリームを重ねて絞ります。
メレンゲにお砂糖が多く入っていますので、クリームはあえて甘さを抑えてみましたの。
リースの4時と5時の真ん中あたりの位置に、冷凍乾燥にして5ミリ角に刻んだ3種のベリーを乗せます。
ホイップクリームがしっかりと受け止めてくれるので、ソースの上にこぼれ落ちることはありませんわ。
そして、雪の結晶型のステンドグラス飴をーーーーー
「まぁ!なんて美しいのかしら!」
「素敵!とっても綺麗!またしても大流行の予感っっっ!!」
ーーーーー10時の位置に乗せます。
こちらもクリームがしっかりと受け止めてくれるため、安定して乗せることができますわ。
サーブした時パッと目に入るよう、こちらの飴はクリームやメレンゲに刺すのではなく、乗せた方がよろしいかと思いますの。
2色の結晶を重ねても可愛いかもしれませんわね。
こちらのお皿は3センチの透明な結晶の上に2センチの薄水色の結晶を重ねて置いてみましょう。
「「きゃーーーーー!!」」
………申し訳ございませんが、今はエヴァとミアにかまっていられませんわ。
メレンゲをお皿に乗せてしまっているため、サクサクとした食感がある内に一刻も早く仕上げて皆んなにお出ししたいですもの。
………決して、今の2人のお相手をするのがめんどくさいからではございませんことよ?
雪の結晶もバランス良く乗せ、最後にポイントとして、純銀に輝くアラザンを散らして乗せれば……完成いたしましたわ!
例に漏れず今回も、既に皆んなが調理台の前に整列していました。
今回ばかりはお早めに召し上がっていただきたいので助かりましたけれど。
「うわぁ!綺麗!」
「色合いが幻想的でカッコいいな。」
「この斜めに輝く銀色のラインが良いよな!」
「夜空を思わせるロマンチックな見た目だね!」
「はぁ……この雪の結晶…とても美しいですわ……。」
「この銀色の丸い粒…うちのポムの実ですの?
こんなに素敵な飾りになるなんて……!」
「ナタリー、良かったね!」
「それでは皆んな、本日も美しい甘味を作ってくれたクロエに感謝して、頂きましょう。」
「「「「「「「頂きます!!!」」」」」」」
ベロニカの号令で皆んながスプーンを手に取り、一斉に口に運びました。
サクッ…パクッ……
「「「「「「「!!!!!」」」」」」」
「美味い!!!」
「この白いの、メレンゲとホイップだー!とっても美味しい!」
「メレンゲの外側はサクッとしているのに中がモチッとしてる!すごく美味しい!」
「この甘酸っぱいソースがアクセントになって美味いな!」
「この可愛いの、昨日のハートのキャラメルに似てる!」
「でも色が違うよな?どうなってるんだ??」
「この刻んだベリー、サクサクなのに噛むと爽やかな果物の味がジュワッと広がって……不思議な食感だけどすごく美味しい……!」
「ポムの実のカリッとした食感も良いアクセントになっていますわ!」
ホッ……皆んなの反応も上々ですわね。
頑張って作った甲斐がありましたわ。
それでは、わたくしも頂きましょう。
スプーンでメレンゲを崩し、ソースとクリームを絡めて口に運ぶと、甘味と酸味が絶妙に広がって………
「クロエ。」
パブロバをひと口いただいたところで、右隣に座っているウィリアムに話しかけられました。
「ウィリアム。いかがなさいまして?」
そちらを向き、笑顔で応えたわたくしの右頬に、ウィリアムの左手がそっと添えられました。
すると、親指がわたくしの口端を優しくなぞり、離れていったと思ったら、わたくしと視線を合わせたまま妖しく微笑み、指先についた深紫色のソースをウィリアムがペロリと舐めて……なっ……!?
「ついてた。」
なっ……!なっ……!?
いきなり壮絶な色気を放つのはやめてくださいまし……!!
しっ……心臓が……!
まるで早鐘を打っているかのようにドキドキしていますわ……!
「あ……ありがと…ござい…ま…す……。」
あまりの破壊力に、わたくしは顔に熱が集まるのを感じながら、壮絶な色気の主に御礼を返すので精一杯です……。
イケメンオソルベシ。
わたくしが高鳴る心臓を落ち着かせるのに必死になっていますと、ウィリアムのお顔が近づいてきてーーーーー
「パブロバ、昨夜の空みたいで綺麗だ。」
ーーーーーわたくしの左耳に艶のあるお声で囁かれました……!
くっ……唇が……!耳を掠めましたわ……!
「〜〜〜〜〜〜〜っっ……!!」
ウィリアムのお顔が離れたと同時に、わたくしはとっさに、熱を帯びた自分の左耳に手を当てながら抗議の視線を送ります。
……が、元凶のイケメンは素知らぬ顔で笑っていますわ!
わたくしばかりがドキドキさせられているようで、何だか悔しいですわ……!
……………けれど。
………本当のことを言えば、まさにその通りです。
昨夜ウィリアムと一緒に見たあの美しい星空を忘れたくなくて、このパブロバで表現しましたの。
気付いてくださって、とっても嬉しいですわ……。
「……一生忘れることのない、素敵な思い出ですもの。
昨夜は本当に……ありがとう……。」
きっと、今のわたくしは顔だけでなく、耳まで真っ赤になっているに違いありませんわ。
それでも、意地を張りたくなくて……素直な気持ちを伝えることにしましたの。
昨夜の星空をモチーフにしたこと。
一生忘れることのない素敵な思い出になったこと。
そして、ウィリアムに心から感謝していること。
鼓動が早まって、顔も耳も真っ赤で格好はつきませんが、嘘偽りのないわたくしの思いを、ウィリアムの目を見て、心からの笑顔で、お伝えしました。
「っ……!そうか……。喜んでくれて俺も嬉しい。
……俺も、一生忘れない。」
その言葉に、わたくしはウィリアムの優しさに包まれたような気がいたしました。
心なしか、ウィリアムの端正なお顔もほんのりと赤く染まったように見えましたが……もしそうだったら嬉しいですわ。
こんばんは。めいです。
本日もお読みいただき、ありがとうございます。
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
以前、誤字があったら教えてくださると嬉しいですと言っておきながら、作者の設定ミスにより誤字報告を受け付けない状態になっていたことに今気が付きました……。
もし誤字に気が付かれて報告しようとしてくださった方がいらっしゃいましたら、大変失礼をいたしました……!(土下座)
設定を修正しましたので、もし見つけた際は優しく教えていただけますと嬉しいです。
(作者がお豆腐メンタルという一身上の都合により、ご配慮いただけますと救われます……。)
また、これを機に勇気を振り絞って、皆様からの感想欄も解放してみようと思います……!
ログインなさっている方限定の設定ではございますが、よろしければお気軽に一言いただけますと作者はむせび泣きます。
執筆を最優先にさせていただくため、基本的に個別のお返事は難しいかと思いますが、いただいた感想は全て大切に読ませていただきます!
これからもぽちぽち頑張りますので、温かく見守っていただけますと嬉しいです。




