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猫を助けたかっただけなのに  作者: めい


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第70話




ごきげんよう。

クロエ・カサブランカでございます。


本日は雪の月14日。

勉強合宿2日目、時計の針は午後2時30分を指しております。


本日は各自で朝の身支度をし、ダンデライオン邸の料理人の方が作ってくださった朝食を頂き、試験勉強や、提出物の創作に励んでおります。

昼食を挟み、現在はグループや個人で試験に向けた準備に取り組んでいる所ですわ。


わたくしはひとりで店舗経営学のレポートを作成しておりますの。


………あら?


顔を上げ、皆んなの様子を見渡すと、エヴァの様子が…少し元気がないように見受けられます。

どうなさったのかしら……。


わたくしはレポートを亜空間収納に収め、エヴァがおひとりで座っている2人掛けのソファセットへ移動しました。


「エヴァ。」


「クロエ……。どうなさいましたの?」


わたくしが声をかけるとエヴァは伏せていたお顔を上げ、笑顔で応じてくださいました。

ですが、その笑顔も、いつものエヴァと比べると元気がないように見えます。


「お邪魔してもよろしくて?」


「えぇ、どうぞ。お掛けになって。」


エヴァに断りを入れて向かい側のソファに座り、わたくしは本題を切り出しました。


「エヴァ、なんだか元気がないようですが、体調が思わしくないのならベッドでお休みになった方がよろしいのではなくて?」


わたくしは心配で、ベッドでの休養を提案いたしました。

すると、エヴァは緩く首を横に振り、ゆっくりと話し始めました。


「いいえ…。違うわ……。

実はレポートの件で悩んでいますの。」


「レポートの件?」


「えぇ。領地経営学のレポートの題材について考えていたのですが、何も浮かばなくて……。

正直に申し上げますと、わたくしは元々結婚相手を見つけるためにこの学園を受験いたしましたの。

幼い頃から家庭教師は付けられたけれど、元々お勉強が嫌いだったから、入学して最初のひと月程は講義についていくのがやっとだったわ……。

でも……クロエ。

貴女やベロニカをはじめ、自分の進むべき道を見据えて努力を重ねている皆んなを目の当たりにして……わたくしもあぁなりたいと…心から思いましたの。

それから今まで、一生懸命お勉強に取り組んできたけれど、レポートを作成するにあたって……わたくしには…何もないことに気づいてしまって……。

クロエのように新しい物を生み出す才能も無いし、ベロニカのように聡明で全体を見て統括する力もない…。

ウィリアムのような秀でた剣術も無ければ、ピーターやミア……皆んなのように…やりたいことや好きなことが明確にあるわけでもない……。

わたくしには、何もありませんの……そのことに気づいたら、まるで自分が空っぽな存在になってしまったようで……どうしたら良いのか…分からなくなってしまったわ……。」


「エヴァ………。」


今のエヴァの姿を見て、前世の自分(杏だった頃)を思い出しました。

高校生の頃、進路を考えなければならない時、特に好きなことも、なりたい職業も思い浮かばなくて……人より秀でた物もなくて……皆んなと同じようにできないことを不甲斐なく思っていた、かつての自分を。


「ねぇ、エヴァ。」


前世のわたくし(杏)は、家族や周りの人達の温かい言葉で元気を取り戻すことができました。

今度はわたくしが、エヴァにお伝えする番ですわ。


「好きなことや目標としたいことに出会えるタイミングは、人それぞれだと思いますの。

幼い頃に出会える人もいますし、もっと後に出会う人だって……それは誰にも分かりませんわ。

傍から見れば、好きなことや目標を持っている方は輝いて見えますわよね。

確かに幸せなことだとは思いますが、もしかすると、周りには分からない苦労をなさっている方もいるかもしれません。

例え出会えていなくとも、決して悪いことではございませんし、幸せに生きている方はたくさんいますわ。

無理に見つけようとする必要は無いのではなくて?」


「そう…かしら……。」


「えぇ。それにね…わたくしは貴女を空っぽな方などと到底思えませんの。

入学当初は講義についていくのがやっとだったと先程貴女は仰ったけれど、今の貴女を見れば、誰もそのようなこと、信じませんことよ?

1学年での進級試験だって、貴女はご自分の努力で9科目も合格ラインを超える点数を取っていらしたでしょう?

再試験となった古代語だって、勉強を重ねて自力で合格したことは、皆んな知っていますわ。

2学年以降だって、慢心することなく貴女は努力を重ねていますし……それに、昨年と今年の創立祭で思いましたが、貴女の接客はとても素晴らしかった。

お客様が何を求めているのかを瞬時に察し、それ以上の対応をなさっていましたもの。

わたくし、何度見惚れたか分かりませんわ。」


「クロエ……。」


「わたくしも、クロエと同意見ですわ。」


声がした方を見ると、ベロニカが立っていました。


「あら、ベロニカ。聞いていらしたの?」


「えぇ、ごめんなさい。盗み聞きするつもりはなかったのだけれど…。

エヴァ、わたくしもご一緒してよろしいかしら?」


「えぇ…もちろんですわ…。」


ベロニカが同席を求めると、エヴァが頷いたため、ベロニカはエヴァが掛けているソファの空いたスペースに座り、ご自分の意見を仰いました。


「……エヴァ、わたくし、貴女がご自分の魅力に気づいていらっしゃらないことに驚いておりますのよ?

高い観察力を持ち、改善意識を持って行動でき、ご自分を高めるための努力を惜しまず、相手を思いやる心に溢れた気配りができる貴女は、才能にあふれた魅力的な方ですわ。

どうかご自分を空っぽなどと仰らないでくださいまし。」


「それにエヴァ。貴女は気づいていないかもしれませんが、貴女は目の前にいる相手を喜ばせるのがお上手ですのよ?

それは意識しておもしろい言動や、ご機嫌をとるという意味ではなく、相手をよく観察し、求めていることを瞬時に察し、それ以上のことを自然と行動に移せるという意味ですわ。

そのようなことをされたら、誰だって嬉しいでしょう?」


ベロニカに続いてわたくしも言葉を重ねると、ベロニカが笑顔で頷きながら続けました。


「エヴァは、観察力に長けていますから、人の美点を見つけるのもお上手ですのよね。」


「えぇ、本当に。

簡単にできることではございませんわ。

それほど見事な天賦の才をお持ちですのよ?

うらやましい限りですわ。」


「……クロエ…っ……ベロニカっ……!

……っ!………ありがとうっ!!」


エヴァがはらはらと泣き出してしまいましたわ……。

どうしましょう…泣かせたいわけではございませんのに……。

思わずベロニカと顔を見合わせてしまいました。


「エヴァ、わたくし達は本心をお伝えしただけで、貴女を泣かせたかったわけではございませんわ。」


ベロニカもわたくしと同じことを思っていらしたようで、慌ててハンカチを差し出しています。


「エヴァ……泣かないでくださいまし…。

そっ…そうですわ!気分転換におやつはいかが?

本日も新作をご用意しておりますのよ?」


「「「「「「「新作!?」」」」」」」



ハイエナ達(皆んな)が目の色を変えてこちらを見ていますが……もう少しだけお待ちになって?



「クロエ、わたくしも頂きますわ。

泣いたらお腹が空いてきましたの……。」


ハイエナ達(皆んな)の突き刺さるような視線を無視してエヴァを見れば、恥ずかしそうに笑いながら涙を拭いていらっしゃいました。

エヴァの涙も止まったようですし、良しとしましょう。

わたくしは亜空間収納より新作を取り出し、ハイエナ達(皆んな)の分を食事用のテーブルの上に置いた後、エヴァとベロニカ、わたくしを含めた3人分のおやつとティーセットをローテーブルの上に並べました。


「本日のおやつは【ラングドシャ】と、【紅茶のフィナンシェ】ですわ。

ラングドシャは軽い食感のクッキーで、生地を鉄板の上に薄く伸ばして焼き、温かいうちに成形しましたの。

サクサクとした軽い食感を楽しんでいただけると思いますわ。」


「素敵…バラの形をしていますのね……。」


ベロニカがラングドシャを1つ手に取り、手のひらに乗せてうっとりと眺めながら仰いました。


「フィナンシェは生地に紅茶の茶葉を混ぜ込み、ダイヤモンドの型に入れて焼きましたの。

ねぇエヴァ、このお菓子はまるで貴女のようですわね?」


「それは…どういう意味ですの…?」


わたくしがフィナンシェを1つお皿に取り差し出すと、それを受け取りながらエヴァは不思議そうに尋ねられました。


「ダイヤモンドの原石は、一見すると他の石と区別がつかないほど地味ですが、丁寧に磨けば、他のどの宝石よりも美しく輝きますわ。

わたくしには、進むべき道を模索する今の貴女と、ダイヤモンドの原石が同じように感じましたの。

今はまだ光が見えなくとも、探し続ければきっと、貴女が心から好きだと思えることや目標とすることに出会えるはずですわ。

今の貴女は一生懸命努力を重ねていますもの……信じて真摯に励み続ければ、貴女が求めているものを見つけた時、自信を持って最初の一歩を踏み出せるのではなくて?

目標が見つかって研鑽を積む貴女は、誰よりもまばゆい輝きを放ち、憧れの眼差しを持って見られる存在になると、わたくしは信じております。」


「……わたくしが…ダイヤモンド……。」


エヴァは、お皿からフィナンシェを手に取り、何かを噛み締めるように呟きました。

その横から、ラングドシャを手のひらに乗せたままのベロニカが、茶目っ気のある笑顔で仰いましたわ。


「クロエ、貴女って結構ロマンチストでしたのね?」


「あら、お褒めに預かり光栄ですわ?」


「「ふふっ。」」


「クロエ…ありがとう……。

今は目標がなくとも、これから見つかるように探していけば良いのね。」


ベロニカと2人で顔を合わせ笑っていたら、エヴァが吹っ切れたような笑顔でお礼を仰ってくださいました。


「えぇ、焦る必要は全くありませんわ。」


「クロエの言うとおりですわ。

わたくし達の人生はまだまだこれからですもの。

気長に探しましょう?」


ベロニカも笑顔で賛同してくださいました。


「ベロニカ…えぇ、そうね。ありがとう。」


「ささ、お茶が冷めないうちに頂きましょう?」


「「えぇ、頂きますわ。」」


それから3人でガールズトークをしながらゆっくりとお茶会を楽しみました。

エヴァの笑顔にも元気が戻り、わたくしもベロニカも嬉しく思いましたわ。




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