第67話
申し訳ございません…。
とっても遅くなりました……。(土下座)
ごきげんよう。
クロエ・カサブランカでございます。
……もうカサブランカ公爵家とは事実上絶縁状態ですが、あちらが手続きに応じないため、籍だけはある状態ですの。
ですが、わたくしには魔法契約書がございますわ。
あとは廃太子のサインが入ればその瞬間契約が成立し、履行されます。
面倒ですが、折を見てサインさせましょう。
そういうわけですので、学園を卒業するまでカサブランカを名乗ることにいたしました。
急に家名を名乗らなくなれば面倒なことになりかねませんわ。
公爵家限定ですが、利用できるものは利用させていただきましょう?……うふふ。
本日は風の月29日。
明日から冬季休暇のため、本日はメインホールにて終業式が行われた後、昼食休憩を挟み、クラスミーティングをして終了となります。
今は昼食休憩の時間でして、わたくし達Cクラスは全員教室にて昼食をとり終え、わたくしがお持ちした試作品を皆んなに試食していただいているところですわ。
2学年に進級以降、わたくし達は必ず教室で昼食を頂くようになったため、この時間はいつもこの教室で過ごしておりますの。
こうして皆んなで楽しい時間を過ごせるのも、あと少しとなりましたわね……。
バンッ!!
「カサブランカさんはいますか!?」
ーーーーーーーわたくしが1人感傷に浸っていると、ケイト先生が慌てて教室のドアを開け、わたくしの所在を確認なさいました。
「わたくしでしたらこちらに。
ケイト先生、何かございましたの?」
「良かった……。
カサブランカさん、急ぎ確認したいことがあります。
皆さんにも聞いてほしい内容です。」
わたくしが席を立ち返事をすると、ケイト先生は一瞬安堵なさった後、表情を真剣なものへと変え、教室のドアに鍵をかけながら仰いました。
先生のただならぬ様子に、教室にいる全員が深刻な事態であると察し席に戻ります。
先生はそれを確認しながら教壇へ移動し……驚くべきお話をなさいました。
「先程、Sクラスのマリナ・アンスリウムさんが何者かに階段から突き落とされました。」
「「「「「「「えっ!?」」」」」」」
「幸い、階段の下にいたSクラスのブーゲンビリアさんが受け止めたため、彼女に怪我はありませんでした。」
ヒロインに怪我は無かったと聞いて、教室が安堵の空気で満たされます。
わたくしも安堵いたしましたわ。
騎士団長の息子でしたら、ヒロインを難なく受け止めることが出来そうですし、良いクッションとなったのでしょう。
「しかし、騒ぎに気づいた警備兵に呼ばれた先生が駆けつけると…彼女は号泣しながらこう訴えたそうです。」
ーーーーー嫌な予感がしますわ。
「クロエ・カサブランカに突き落とされた……と。」
「「「「「「「ありえない!!」」」」」」」
「「「「「「「ありえませんわ!!!」」」」」」」
「ですよね。
私もカサブランカさんはそんなことをする方だとは思っていません。
何かの間違いだと思って慌てて教室に来たんです。」
嫌な予感が的中しましたわね……。
ヒロインが転生者でハーレムルート狙いだと当たりをつけた時から、このようなことをしてくると予想はしておりました。
ゲームの王太子ルートでは、ヒロインと王太子の関係を知ったクロエがあの手この手でヒロインを貶めようとしたり、2人の仲を裂こうと画策します。
しかし上手くいかずに業を煮やし、最終的に、階段を降りようとしたヒロインを後ろから突き落とすのです。
それがちょうどこの時期だったと記憶していますわ。
わたくしにはそのようなことをする動機もございませんので、ヒロインに対しては何もしておりませんが。
でも……。
クラスの皆んなも、ケイト先生も、わたくしがそのようなことをする人間ではないと心から信じてくださっていることが伝わってきて、温かい気持ちになりました。
皆んなや先生と、信頼関係を築くことが出来ているから、わたくしは寂しさを感じることもなく、満たされた日々を過ごすことが出来ていますの。
本当に、感謝してもしきれませんわ。
「ケイト先生、その事故は、どちらで、何時頃起きましたの?」
教室がざわめいている中、ベロニカが挙手し、先生へ質問します。
凛とした声に、水を打ったように教室が静まり返り、皆んなの視線がベロニカへと注がれます。
「えぇ…と……時間は確か…12時のベルがなってまもなくで、場所は講義棟の中央階段と聞きました。」
「講義棟の中央階段?
なぜ彼女がそのような場所に?」
ケイト先生が仰った内容に違和感を覚え、わたくしは思わず聞き返しておりました。
「クロエの言う通り、講義も無いのにSクラスの生徒が中央階段にいるのはおかしいですね。」
「確かに!
メインホールからSクラスがある特別棟に行くのに中央階段は通らないもんね!」
「ましてや2階に上がる必要もないしな…」
わたくしの疑問に、ピーター、クレア、ジョンが同意してくださいましたわ。
「クロエはずっと俺たちと一緒にいたから不可能だな。」
「えぇ、終業式が終わった後、皆んなで教室へ移動して、そのまま昼食を頂きましたわ。」
ウィリアムがわたくしのアリバイを仰ってくださったので、わたくしはそれに頷き、自分の行動を証言します。
「そうですか……。良かった……。
その時間を含め、ずっとこの教室に皆んなと一緒にいたということですね。
それならカサブランカさんの無実は証明されます。」
先生は安堵した様子で仰いました。
わたくしの無実を願ってくださっていたことが伝わってきて、嬉しく思いました。
「無論ですわ。
ちなみに、件の方は他に何か仰っていることはありますの?」
「私も対応なさったステラリア先生からお伺いした情報しか知りませんが…確か……彼女を受け止めたブーゲンビリアさんが、『犯人は髪が長い女で、マリナを突き落とした後左に走っていった。』と言っていたそうです。」
ふーん……髪が長い女が左に…ねぇ……?
「「「「「「「あはははは!!!」」」」」」」
ベロニカの質問に対する先生の回答を聞いた皆んなは、堪えきれずに笑い出してしまいました。
皆んなが笑った理由をご説明しますと、髪が長い女はこの学園にわたくしだけというわけではございませんし、ヒロインが突き落とされたという中央階段は、文字通り講義棟の中央にあります。
実は講義棟の階段はこの中央階段しか存在せず、なかなかに不便ですの。
つまり、騎士団長の息子の証言通りに犯人が逃げたとなると、犯人はこの教室とは反対方向の2階の教室のどこかにいることになります。
わたくし達が今いるCクラスの教室は講義棟3階の犯人が逃げたとされる方向の反対側の一番奥に位置しております。
もしわたくしが犯人だとして、ヒロインを突き落とした後左へ逃げ去ったのだとしたら、その直後に上の階の反対側奥にあるこの教室にいることはできませんわよね?
結論として、ずっと皆んなと一緒にこの教室にいたわたくしには、物理的に不可能ですわ。
はぁ……。
正直に申し上げますと、ヒロインはゲームのシナリオに沿ってことを起こしたとしか考えられませんわ。
こんなことをしても、完全にシナリオ通りになることはありませんのにね。
………シナリオ通り…ですか。
「他に目撃した者はいなかったのか?」
「直接見た人は他にはいなかったそうです。
ステラリア先生が駆けつけた時には多くの人だかりができていたそうですが、その場にいた生徒によると、悲鳴が聞こえたので慌てて来てみたら、階段から落ちた様子の女性が、下にいた男性に受け止められていたとのことで……。」
「では他に目撃した方はいらっしゃらない…と。
それにしましても…おかしいですわね?」
ウィリアムの質問にケイト先生がお応えになり、ベロニカが更に疑問を口にし、再び皆んなの視線がベロニカに集まりました。
「何故彼女は、クロエが犯人だと分かったのでしょう?
突き落とされる前に何か揉めたのでしょうか?
そうでなく突然後ろから突き落とされたというのであれば、そのまま前を向いて落下していきませんこと?
途中で振り返って後ろを見ることは難しいのではなくて?」
「確かにそうですね…。
突き落とされる前に顔を見ていなければ、犯人を名指しすることは不可能では?」
「ブーゲンビリア殿は髪が長い女とだけ証言していたし、落下後に見上げても個人を特定できるほど詳細には見えないんじゃないか?」
ベロニカの意見に、ピーター、ウィリアムが同意なさいました。
状況からして、ヒロインが嘘をついていることは明らかです。
皆んなの証言や意見を受け、ケイト先生はヒロインが嘘をついていると察知し、そのまま職員室へと向かわれました。
これから先生方の緊急ミーティングが行われるそうで、終わり次第クラスミーティングを始めるため、わたくし達生徒はそれまで休憩時間という名の待機時間になりました。
わたくしの無実はケイト先生が証明してくださると思いますので、信じて待つしかありませんわね。




