第63話
ごきげんよう。
クロエ・カサブランカでございます。
本日は土の月5日。
今年の創立祭もいよいよ最終日を迎えました。
わたくしは本日、後半からお店に出るため、朝からウィリアムと一緒に昨日見られなかったブースを回り、創立祭デートを楽しみました。
もちろん、わたくしも認識阻害はしっかりとかけておりましたので、正体がバレる心配はありませんわ。
そうそう。
学園内を散策している間、面白い噂を耳にしましたの。
何でも、王太子殿下がご乱心だとか。
あのバカ王子がご乱心なのは今に始まった事ではありませんのにね。うふふ。
噂によりますと、昨夜、王城勤めの方が廊下を歩いていると、国王陛下の執務室から支離滅裂な内容を訴える王太子殿下の大声が聞こえてきたそうです。
まぁ、原因は十中八九アレのせいでしょう。
つまりは、自業自得ですわ。
そしてヒロインですが、こちらもバカ王子同様本日は欠席だそうです。
本日は平和な1日となりそうですわね。
ーーーーーと、言っていたのは一体誰でしょう。
わたくしですわ………
ウィリアムとの創立祭デートを終え、交代のため30分程余裕を持って2人でお店へと向かいました。
お店の裏口から中に入り、階段を上がって休憩室に足を踏み入れ、何気なくモニターに目を向けたわたくしは、そこに映し出されていた光景に、驚きを隠せませんでした。
何と、客席には国王御一家と公爵御一家しかいらっしゃいませんでしたの!
いや、なんとなく嫌な予感はしましたのよ?
お店の外にやたらと兵士が立っていましたもの。
それにしましても…なぜ、ご来店なさったのでしょうか…
………もしかしなくとも、昨夜のアレが原因でしょうか…
証拠はきちんと隠滅しましたから大丈夫だと思いますが…
「クロエ。ここにいましたか。」
「ピーター。どうなさいましたの?」
そう考えていましたら、ピーターが休憩室へと入ってきました。
「ええ、そちらの皆様が貴女を呼んでいます。」
……………やっぱり。
わたくしが既にモニターを見ていることに気づいたピーターは、モニターの方を指しながらそのように仰いました。
「はぁ…やはりそうですのね…お噂の件かしら……」
わたくしがため息混じりにそう呟くと、ピーターは苦笑いを浮かべながら仰います。
「ご明察。殿下は何かやらかしたの?」
「えぇ、実は……」
わたくしは昨夜観察で見たことをそのままお話ししました。
「なるほど…そういう事か……納得したよ。
殿下が件の事件の後、陛下に訴えたんだろうね。
陛下はうちにお見えになってしばらくの間は何やら報告を受けていた様子だったから。
しかし、証拠となる物は何も無いため、殿下の虚言と思われた…
こんな所かな?」
「さすがピーター。
察しが早くて助かりますわ。
わたくしも同意見です。」
ピーターの推察力の高さに感心しておりますと、ベロニカも休憩室へ入ってきました。
ベロニカは本日ご家族と学園内を回られていたようで、別行動でしたの。
「あら。いかがなさいましたの?
………客席には国のトップがお越しのようですわね?」
モニターの映像を見て異変を察したベロニカに、わたくしはピーターの時と同様、手短に昨夜の出来事を説明しました。
「呆れましたわ…
彼の方、あれで諦めたわけではありませんでしたのね。
クロエ。先方は貴女の証言をご所望でしょう?
それなら、行って差し上げて。
その代わり、わたくし達はいつでもサポートできるようにカウンターで待機しておりますわ。」
「ありがとう…心強いわ。」
わたくしはそのお気持ちが嬉しくて、自分でも分かる程の満面の笑顔で応えておりました。
そして、わたくし達は時間の許す限り作戦会議を行い、それぞれの持ち場に着く事にしました。
「国の太陽にご挨拶申し上げます。
国王陛下、王妃殿下ならびに王子殿下におかれましてはーーー」
「堅苦しい挨拶はよい。楽にしてくれ。」
……この国王、人の挨拶を遮るのが趣味なのでしょうか。
……げふんげふん。失礼いたしました。
「恐れ入ります。」
わたくしは嫌々ながらも貴族令嬢としての完璧な微笑みを顔に貼り付け、御一行様のテーブルへと歩み寄りました。
挨拶の途中で遮られたため、伏せていた顔を上げ、テーブルの側に控えます。
「昨夜、うちの愚息がこの店に放火しようとした際、逆にこの店から炎や石の礫が高速で飛んできたという訴えがあってな…
聞けばこの店は其方のクラスの出し物というではないか。
何か知っている事はあるか?」
「いいえ。陛下。
残念ながらわたくしは噂以上のことは存じ上げません。
午前中に学園内を散策していましたら殿下のお噂を耳にいたしまして、わたくしも驚いているところでございます。
まさか殿下が放火などと…恐ろしい事をなさろうとしていたなんて……」
嘘ですけど。
まったく…あのバカ王子は他人に迷惑をかけることしかできないのでしょうか。
わたくしはしおらしい表情を浮かべ、当たり障りのない回答をします。
「そうか…
では何か事情を知っている者はおらぬか?」
「このお店は、クラスメイトのダンデライオン様のご実家であるダンデライオン商会が建設されたものでございます。
おそらくダンデライオン様ならば、何かご存知かもしれませんわ。」
わたくしがそう言うと、ピーターが営業スマイル全開でこちらにやって来ました。
ピーター…貴方あわよくば何か買わせようなんて思っていませんわよね?
「失礼いたします。
ただいまカサブランカ様にご紹介いただきましたピーター・ダンデライオンと申します。
父がダンデライオン商会の会頭職をしております。」
「ふむ。其方が…
して、何か知っておるのか?」
陛下の質問に答えるべく、ピーターは伏せていた顔を上げ、一歩前へ出ます。
「実は、こちらは我がダンデライオン商会にて明日開業予定の最新の店舗でございます。
ただ、パンケーキは開発したての新しい甘味ですので、昨年のクレープ屋台同様、市場調査と宣伝を兼ねてこちらの創立祭に出店しております。
私どもの商会といたしましては自信作でございますので、ライバルからレシピや設備等を盗まれないよう、現在開発中の最新の魔道具を使用して防犯体制を整えておりました。
その魔道具を設置すると、店の外壁や出入口に結界魔法を展開し、外敵からの攻撃を受け流し、それによって被害が生じた部分の修復機能も付与している…というものでしたが…
おそらく、魔道具が暴発して攻撃を受け流さずに跳ね返してしまったと考えられます。
今朝店に来ましたら、その魔道具が木っ端微塵になり使えなくなっておりましたので、私どもも不思議に思っていたところです。
まさか王太子殿下ともあろうお方が放火など…信じがたい事をなさろうとは……!
私は一国民として深く衝撃を受けております…!」
いよっ!名俳優!!
……などと合いの手を入れている場合ではございませんでしたわ。
どうやらピーターの証言に国王ご一行様は納得なさったようです。
陛下に至ってはご自分の失言にお気づきになったのか、気まずそうな表情をなさっていますわ。
それにしましても…
これは国王ご一行様がチョロいんですの?
それともピーターの方が上手ですの?
……どちらにせよこちらとしては都合がよろしいですわ。
「ねぇ、クロエさん。
こちらのお店の内装、とても見事ね?
それに皆様が着ているお洋服もとても魅力的だわ!
貴女が考えましたの?」
静まり返ったこの空気を打破しようと、王妃殿下が興味津々といったご様子でお尋ねになりました。
わたくしは軽く首を振りながらお答えします。
「いいえ。王妃様。
お店の内装につきましては、クラスメイトのラバンディン様が中心となってクラス全員で相談して決め、ダンデライオン様を通じてダンデライオン会頭に提案し、採用していただきましたの。
衣装につきましては、ラバンディン様のお母様であるマダム・ラバンディンと、ラバンディン・オートクチュールの皆様にデザインと製作をご協力いただきましたわ。」
「まぁ…!あのマダム・ラバンディンが!?
うらや……失礼。
確かに、クラスメイトにお嬢様がいるのなら協力なさるわよね…」
わたくしの返答に、王妃殿下が残念そうに言いました。
途中で濁しましたが、今羨ましいと言いかけましたわよね?
確かに、マダムは少し気難しいところがおありのようで、どんな権力者でも、ご自身が気に入った相手でなければ、たとえ高い報酬を提示されても決してデザインをしてくださらないそうです。
気に入らなかった相手に対しては、ご自身のお店で育てている若手のデザイナーに担当させたり、既製品を依頼主のサイズに合わせて納品なさるとか……
まぁ、丁寧な対応は怠らないからか、お店の評判を落とすことなく、マダムの価値は上がる一方のようですが…
失礼。話が逸れましたわ。
「あの…クロエ……」
……………ん?
こんばんは。めいです。
本日もお読みいただき、ありがとうございます。
お楽しみいただけましたでしょうか?
今回の裏テーマは、『ピーターの名演技』です。(笑)
個人的にはクロエの合いの手が気に入っています。←
さて、創立祭最終日、これからどうお話が進んでいくのか…続きは次回、楽しみにしていただけると嬉しいです。
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