第62話
『あれは傑作だったな。』
「えぇ、本当に。」
ごきげんよう。
クロエ・カサブランカでございます。
現在の時刻は午後9時。
夕食を終え、わたくしはウィリアムと映像通話をしております。
話題は本日ヒロインがお店に乱入してきた時のこと。
ヒロインがレモネード伯爵と御令息から逃げるように退店した後、ピーターがお客様へ仰ったご挨拶の内容が秀逸だったというものです。
2人でひとしきり笑った後、ウィリアムが話題を変えてきました。
『ところでクロエ。』
「何でしょう?」
『俺にはアレ、くれないの?』
まるでおねだりをするような表情で仰いましたわ。
若干嫌な予感がしつつも、念のためにアレの正体を確認します。
「アレ…とは?」
『あの令嬢にあげてただろ?
透明なワイングラスに入れたヤツ。』
……デスヨネー。
予想が当たり、思わず苦笑いをしてしまいました。
実はあの後、顔色が悪くなられたレモネード様のお気持ちが少しでも軽くなるように、エヴァにお願いして急遽用意したデザートをお席へ運んでいただきましたの。
お辛い記憶を思い出させてしまったお詫びの気持ちも込めてですが。
レモネード様の様子に気づいてすぐ、お店にある物を組み合わせモモのパフェをご用意いたしました。
大きめのワイングラスを亜空間収納から出し、下からキャラメルソース、焼いて粗めに砕いたメレンゲ、カスタードクリーム、紅茶のジュレ、モモのシャーベット、一口大にカットしたモモのコンポートの順に盛り付け、層を作ります。
最後にホイップクリームを絞り、ミントを飾って完成です。
え?
焼いたメレンゲや紅茶のジュレはどこから出てきたのかって?
それは昨日試作品として作っていた物を亜空間収納に入れていましたので、亜空間収納から出しましたわ。
パンケーキでは全卵を使用しますが、カスタードクリームは卵黄しか使用しませんので、どうしても卵白が多く余ってしまいます。
(ちなみに昨年は知らない間に廃棄されていましたので、今年は初日にピーターにお願いし、余った卵白はわたくしの亜空間収納に収めています。)
そのまま亜空間収納に入れて保存をすれば良いのかもしれませんが、それでは解決策にはなりませんでしょう?
どうしたものかと考えておりましたが、昨日、ローストしたアーモンドダイスを見て思い立ちましたの。
アーモンドダイスを粉末状にし、アーモンドプードルにした物をメレンゲとさっくり混ぜて焼いてみました。
本当はマカロンに挑戦したかったのですが、マカロンは難易度が高いため、お休みの日に家でゆっくりと作る事にして、このキッチンでは比較的簡単に作れる焼きメレンゲを作りました。
アーモンドプードルを使用したのは、アーモンドの風味とサクサク感をアップさせる狙いのためでしたが、パフェに入れてもアーモンドの油分が水分の吸収を抑えてくれるため、意外とサクサクとした軽い食感を保てると思います。
紅茶のジュレはドリンクメニューの紅茶から、底に敷いたキャラメルソースとシャーベットは、同じモモのコンポートの煮汁から作りました。
急いで作りましたので、わたくしの魔法が大活躍だったことをお伝えしておきますわ。
ほほほ。
………えぇ、終始皆んなからの視線を痛いほど感じていましたけれど。
皆んなには、次のミーティングでお待ちする旨を約束し、何とか暴動を抑える事に成功いたしましたわ…
パフェを提供する際、エヴァがわたくしからの言伝を添えてくださったようで、ご令嬢が退店する際に、「シェフの心からのおもてなしに感謝いたします。お気持ちに応えるべく、必ず乗り越えてみせると誓いますわ。」と嬉しいお言葉をくださいましたの。
「あぁ、アレですわね。
次のミーティングの際にお持ちしますわよ?」
『……………今は無いのか?』
「今ーーーーー」
【ヴォーーッ!ヴォーーッ!ヴォーーッ!
パンケーキ屋の結界 で異常を検知。】
拗ねた顔のウィリアムに返事をしようとしましたら、突然、頭の中に警報音が鳴りました。
どうやらパンケーキ屋の結界に何か引っかかったようです。
「ウィリアム、ちょっと待ってくださいまし。
お店の結界で異常を検知しましたわ!」
『何だって!?』
「[観察]」
わたくしは急いで観察を展開し、映像通話とは別のモニターを表示させます。
ウィリアムも同じ映像をご覧になっているようですわ。
『マリナが燃やしたいのはこの建物か?』
『うん♡
ホント…ヒドい目に遭わされたんだから…
怖かったぁ…
レオンの強ぉい魔法で燃やして欲しいな♡お願ぁい♡』
……………バカ王子とヒロインですわ。
彼の方、まだ諦めていませんでしたのね………
モニターには、夜の学園に忍び込んだバカ王子とヒロインが親密そうに腕を組み、芝生広場にあるパンケーキ屋の前で何やら物騒な会話をしている所が映っています。
なるほど、バカ王子が悪意を持って外壁を触っているため、結界の警報システムが反応しましたのね。
『またアイツか…』
映像通話のモニターから、ウィリアムの呆れたような声が聞こえてきました。
「彼の方、平然とあちらにいるという事は、あの後追跡を逃げ切ったという事なのでしょうか。
ある意味感心いたしますわ。」
わたくし達がモニターで様子を見ながら会話をしている間に2人はお店から距離を取り、バカ王子が一歩前に出て魔力を集中させ、外壁に向けて火魔法を放ちました。
『火よ!我に力を貸せ![火球]!!』
シュッ……ゴォォォォォォォォォォッ!!
『ぎゃぁぁぁぁぁっ!!!』
『きゃー!レオン!大丈夫!?』
バカ王子が放った野球ボール程の大きさの火球が、お店の外壁(の手前の結界)に触れ、威力が100倍になって返ってきました。
火炎放射器のように返ってきた火魔法を浴びたバカ王子は全身黒焦げになり、その場に倒れてしまいましたわ。
ヒロインが慌ててバカ王子に駆け寄り、治癒魔法を行使します。
『ヒーーーール!ヒーーーーーーーール!!
…っ!何でよ!全然治んないじゃないっ!!』
が、全く効果は無いようです。
それでも、バカ王子はよろめきながらも何とか立ち上がりました。
盾で防御もせずにあの火魔法を受け、治癒魔法も全く効いていませんのに、よくこの短時間で立ち上がれましたわね!?
……………不思議ですわぁ。
『ゲホッゲホッ!……何なんだ!この建物は!』
『…レオンの魔法が何倍にもなって返ってきたってことは、もしかして私の魔法も威力が上がったりして?』
『あり得そうだな。マリナ、やってみてくれ。』
『はーい♡頑張るね♡』
ヒロインの提案にバカ王子が納得し、魔法の行使を促しました。
今度はヒロインがバカ王子より一歩前に立ち、お店の外壁に両手のひらを向けてて叫びます。
前世でああいったポーズをする芸人さんがいたような……
頭の中で元気な挨拶が過りましたわ……
『さぁ!私の聖なる力を何倍にも増やしてちょうだい!
ヒーーーーーーーール!!!』
……………しーーーーーーーーーーーーーーん
『………っ!何でよ!?』
案の定、何も起こりませんでした。
それもそのはず。先程からヒロインはただ叫んでいるだけで、魔力は込められていませんもの。
彼の方、全く成長していませんわね。
『プッ…ククッ…』
もう1つのモニターには、ウィリアムが笑いを一生懸命堪えている様子が映っています。
「ウィリアム…お気持ちは分かりますが笑っては…っ!
ふふっ!」
『クロエだって…っ!クッ…!
笑っているじゃないかっ…!』
すると、観察のモニターから、バカ王子の怒鳴り声が聞こえてきました。
『クソッ!!マリナの聖魔法は増幅しないとは!
マリナの唯一無二の力は再現できないという事か!』
すごいポジティブ思考ですわね、
言ってる事は何ひとつ当たっていませんけれど。
『そっ…そーよね!
あっ!もしかしたら、レオンの強ぉい魔法を受けて、もう何も起きなくなったとか!?
きっともう1回攻撃したらいけるんじゃないかなぁ!?』
『確かにあり得るな。やはりマリナは天才だ!』
そう言って、バカ王子は黒焦げのままヒロインの一歩前に出て再び集中し、魔力を溜めだしました。
ふーん?先程よりは大技が来そうですわね?
『土よ!我の願いを聞き、力となれ![石の弾丸]ぉぉぉぉぉ!!!』
ヒュンッ!ヒュンヒュンッッ………!……………
『やったか!?』
バカ王子の放った石の弾丸が、お店の外壁に向かって放たれました。
バカ王子は手応えを感じたのか、喜色満面でその様子を見ています。
…………が。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!!!
『『ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』』
先程と同様、威力が100倍になって跳ね返され、バカ王子から放たれた石の礫が、まるでマシンガンのような速さで2人に向かって飛んで行きました。
それに気づいた2人は必死の形相で全速力で逃げ去っていきましたわ………
『あははははははっ!』
ウィリアムは堪えきれなくなり、とうとう笑い出してしまいました。
わたくしも笑いたい所ですが…ここで笑ってしまえばこちらが悪役に見えてしまいかねませんので、ここは我慢しなくては…!
あの2人が去った後、お店の外壁を確認してみますと、バカ王子が攻撃した部分は無傷で、何の異常もありません。
バカ王子の魔法を反撃した場所の芝生が少し焦げていたり穴が開いていましたので、修理で修復し、証拠を隠滅しましたわ。
他は特に異常は見当たらず、周辺の安全を確認したわたくしは、観察を終了させました。
「ふぅ…困った方達ですこと……」
『道化という言葉がお似合いだな…
クッ…あの顔…ブフッ…!』
「ウィリアム…笑い過ぎでしてよ。
わたくしだって我慢をしておりますのに……」
『じゃあ…さっきのアレで手を打とう……フッ…』
………はぁー。仕方ありませんわ。
笑いを堪えられないウィリアムに苦言を呈しましたら、先程のモモのパフェを所望されました。
「………一人前しかございませんことよ。」
『……分かった。』
それから、ウィリアムに監視されながらモモのパフェを作って転送し、何とか笑いを収めていただきましたわ。
こんばんは。めいです。
本日もお読みいただき、ありがとうございます。
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さて、今回のお話に出てきましたモモのパフェの回想シーンですが、レモネード嬢視点のお話も鋭意製作中です。
お話が出来上がりましたら番外編として掲載しようと考えていますので、もしご興味がありましたらそちらも覗いてみていただけますと嬉しいです。
これからもポチポチ頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。




