第61話
ごきげんよう。
クロエ・カサブランカでございます。
本日は土の月4日。
創立祭も折り返し、4日目を迎えました。
本日は10時から騎士系の科目を選択している皆様による剣術のトーナメント戦が闘技場にて行われ、ウィリアム、ベンジャミン、ルークが出場するため、わたくしはベロニカ、ピーターをはじめとする他の後半組の皆んなと一緒に観戦に行きました。
結果は、ウィリアムが優勝、ベンジャミンは惜しくも4位、そして何と、ルークが準優勝でした!
ウィリアムによりますと、ベンジャミンとルークは昨年の勉強合宿を機に毎日の鍛錬を欠かさず行うようになり、剣の腕前が飛躍的に向上したそうです。
特にルークは、剣の腕前も身長も成長が著しいとの事ですわ。
あ、3位は騎士団長の息子でした。
それにしても…
ウィリアムは本当に素敵でしたわ…
流れるような剣捌きで、全試合あっという間に勝利を収めてしまいましたの。
イケメンでお強いから女性陣が放っておかないのではないかと思っておりましたが、ウィリアムはクラスメイトや先生以外のご自分が許可していない方に対し認識阻害魔法を常に発動させているとの事で、意外にもファンの皆様が詰めかけるといった事態にはなりませんでした。
なるほど…だからヒロインがウィリアムに全く興味を示さなかったのですね。
余計なトラブルに巻き込まれないよう、ウィリアムは事前に手を打っていらしたようです。
勉強は苦手と仰っていましたが、ウィリアムは聡明なお方ですわ。
………失礼。話がそれましたわ。
トーナメント観戦を楽しんだ後、出場した3人を含めた後半組の皆んなで校内を見て回り、時間の許す限りお祭りを楽しみました。
前半組の皆んなと交代してしばらく経ち、現在の時刻は午後3時。
わたくしはひたすら卵を割っている所ですわ。
バンッ!…チリンチリン……
「あっ!ちょっと!?」
「ちょっと!クロエはいる!?」
突然、お店の出入口が乱暴に開かれ、招かれざる客がクレアの制止も聞かず無遠慮に入ってまいりました。
……………ヒロインですわ。
一体何の用でしょう。
昨日の御礼に来たとは到底思えない態度ですけれど。
ヒロインは他のお客様の迷惑も顧みず、店内で騒いでいます。
はぁ…めんど…げふんげふん…気が乗りませんが、わたくしが出て事態が解決するのなら、出るしかなさそうでーーーーー
「クロエ。ダメだ。ここにいろ。」
「ウィリアムの言う通りです。僕が相手をしてきますので、クロエはここにいてください。」
わたくしがメインキッチンから出ようと一歩踏み出した瞬間、ウィリアムとピーターに制止されました。
「ですが………」
「ベロニカもいる事ですし、大丈夫です。
必ず帰ってもらいますよ。」
そう言って、ピーターは笑顔でレジの方へ行ってしまわれました。
ウィリアムの方を見ますと、笑顔で頷いてくださいました。
きっと、皆んなを信じて良いという事なのでしょう。
でしたら、ここはお言葉に甘えて、皆んなにお任せしようと思います。
わたくしはウィリアムに笑顔で頷き返し、出入口の方へと視線を向けました。
「だから!クロエを出しなさいってば!」
「何故ですの?
明らかな敵意を向けてくる方をおいそれと会わせる訳がございませんわ。」
「何故、クロエに会いたいんですか?」
ベロニカが騒ぐヒロインをあしらっている所へ、営業スマイルを貼り付けたピーターが合流しました。
ピーターの存在を認識したヒロインは、面白い程に態度を急変させましたわ。
「あら♡レオンや先生達程では無いけれど、なかなかイケメンじゃない♡
ねぇ聞いてー?
クロエったら、オースティン先生とリアム先生に色仕掛けなんかしちゃって、たらし込んでいるのよ?
ヒドいと思わなぁい?
オースティン先生もリアム先生も私のモノなのにぃ…
あ、もちろん、あ・な・た・も♡」
………この方、頭沸いてますの?
以前より傲慢だとは思っておりましたが…
まるで優劣をつけるような発言も。
先生方やピーターをモノ扱いしている発言も。
失礼にも程がありますわ!
ついでに申し上げますと、わたくしは先生方に対して色仕掛けなど、ただの1度もした事ございません。
嘘も大概にして欲しいですわ。
「君…頭大丈夫?」
学園内でも顔が広いピーターはヒロインの噂話をよくご存知だからか、いち早く復活なさいましたが…
お店にいる全ての皆様が、ヒロインのあまりにも非常識な言動に引いていらっしゃいます…
心中、お察しいたしますわ。
「えぇ〜、ヒドぉい!
それどーゆー意味ぃ?
ここは私が中心の、私のために存在している世界なんだから、この世界のオトコはみーんな、私に夢中なの♡
私はその中から私好みのイケメンを選んであげているんだよ♡
一応本命はレオンだけど、イケメンだったら私の周りにはべるのを許してあげちゃうってわけ♡
私ってば優しー♡聖女みたーい♡」
どなたか、この未確認生物をどこかへ連れ出してくださいまし…
思わずそう願ってしまったのはきっとわたくしだけでは無いはずですわ…
しかし、これでヒロインの行動の謎が解けましたわ。
彼の方が、ここが乙女ゲームの世界であり、自身がヒロインだと認識している事、世界は自分を中心に回っていると勘違いしている事は把握しておりました。
その上、現時点で王太子と騎士団長の息子、魔法師団長の息子を攻略できていますので、ペチュニア先生に関わるのはてっきりハーレムエンド狙いと予想しておりましたが……
どうやら彼の方、元々気が多い性質なのかもしれません。
攻略対象者であるペチュニア先生だけならまだしも、対象ではないマグオート先生にまでコナをかけていたのは、おそらくそういった理由からでしょう。
「聖女…?あなたが?冗談はおよしになって。」
ベロニカが憐れんだ視線を向けながら、ヒロインに仰いました。
「はぁっ!?何よあんた!
あ…まさか嫉妬?
あたしが可愛いから嫉妬してるんでしょう!
きゃはは!可愛くてごめーんね♡」
その発言に怒ったかと思いきや、勝手な妄想を展開し態度を急変させ、最後は小首を傾げながらウインクしたヒロインに、またもや皆様引いていらっしゃいます。
ヒロインには残念なお知らせですが、少なくともこの場にいる皆様はあなたよりベロニカの方が圧倒的に美人で可愛いと思っているはずですわ。
そんなヒロインに臆する事なくベロニカは続けます。
「あなたが聖女なら、世界中の皆様が聖女になれますわ。
ご自分が以前なさった事、お忘れになったとは言わせませんことよ?」
「何よそれ。あたしは何もしてないわよ。」
「ああ確か。
1学年での体術の学年末試験のトーナメント戦で、武器の使用は禁止されていたにも関わらず、お相手のご令嬢のおでこを隠し持っていた小刀で切りつけて大怪我させましたよね?
幸いな事にご令嬢は治療の甲斐あって今はご健勝ですが、当時は意識も朦朧となさる程の重症で、お辛い思いをなさった事でしょう……
しかし君は、お相手のご親族から学園を通して自宅に正式な抗議文が送られたのに謝罪すらしなかったとか。
当時は学園中に噂が広まり、全校生徒がこの事件の詳細を知っていますよ。
そんな人が優しい?聖女?あり得ませんね。
笑わせないでください。」
「試験の場で反則行為をした上に、お相手のお顔に痕が残る程の傷をつけるなんて、卑劣極まりない行為ですわ。
この事件は今の在校生にも語り継がれ、詳細を知らない者はこの学園には誰1人として存在しませんことよ。」
ベロニカの指摘にヒロインは不機嫌になっただけで、身に覚えがないといった表情をしました。
彼の方…ご自分がなさった事を本当に忘れたのでしょうか…
しかしすかさずピーターが事の顛末を説明し、ベロニカの追撃が展開されましたわ。
「はぁっ!?
それ、あたしじゃなーーーーーー」
ガタンッ!!!
「………え?」
ヒロインが否定しようとした矢先、突然奥のテーブル席にいらした体格の良い男性お2人が立ち上がりました。
同じテーブルには…あの時のご令嬢と、ご婦人も座っていらっしゃいます。
なるほど、あのテーブル席では被害者であるレモネード様がご家族と一緒にパンケーキを召し上がり、食後にお茶を楽しまれていたようですわ。
「ほう…?娘に危害を及ぼした俗物が聖女?
巫山戯た事を。
反省どころか自分の行いすら忘れているとはな。」
「良くもうちの可愛いミーナに酷い仕打ちをしてくれたね?
お前も同じ目に遭わないと分からないのかなぁ?」
………予想通り、お2人はご令嬢のお父様とお兄様でいらっしゃいましたわ。
ご自分の大切な家族に大怪我を負わせた人物が、反省どころか自分のした事すら忘れているとなれば、レモネード伯爵家の皆様のお怒りもご尤もですわ。
お席に座ったままのご婦人も笑顔を保っていらっしゃいますが、握りしめている扇子が悲鳴を上げていますもの。
そのお隣に座っていらっしゃるご令嬢本人は、あの時の苦しみを思い出してしまわれたのか、顔色が悪く、震えていらっしゃいます。
立ち上がった男性陣お2人はゆっくりとヒロインがいる方へ歩いていらっしゃっています。
そういえば……
確かレモネード伯爵家って…武人の家系だったような……
「ひぃっ!?」
そんなお2人のプレッシャーに呑まれたヒロインは、事態の重さを悟ったのか恐怖に慄きながら後退りし、ついには店から逃走して行きました。
「待て!逃すか!」
「その女を捕まえろ!警備兵を呼べ!!」
そしてお2人もヒロインを追って出ていかれました。
思いがけず武人親子に頭のおかし…げふんげふん…未確認生物を追い払っていただいた店内に平和が戻ってまいりましたわ。
「皆様、大変お騒がせいたしました。
勇敢な御仁方のおかげで頭のおかしな俗物が追い払われ、無事に店内に平穏が取り戻されました。
お詫びといたしまして、皆様にはお好きなドリンクをお1人につきお1つ、サービスさせていただきます。
どうぞ引き続き楽しい時間をお過ごしください。」
ピーターがお客様に向かってご挨拶をすると、張り詰めていた空気が安堵のそれへと変わり、店内に拍手が湧き起こりました。
………ピーター、貴方結構言いますわね。
ナイスですわ。




