第60話
ごきげんよう。
クロエ・カサブランカでございます。
本日は土の月3日。
創立祭は3日目を迎えましたわ。
現在の時刻は午前11時30分。
わたくしは今、中庭にてSクラスのクレープ屋台をお手伝いしております。
昨日の閉店後にご来店なさったマグオート先生は、それはそれは落ち込んでいらっしゃいました。
ケイト先生によりますと、昨日の午後3時頃職員室で書類仕事をなさっていた所、突然ヒロインが現れ、マグオート先生と創立祭を一緒に回るべく誘いに来たそうです。
当然先生には相手にされませんでしたが、その腹いせなのかクレープ屋台の現状を何故か上から目線で話していったそうです。
その後、真偽を確認するためにマグオート先生がクレープ屋台に向かい、現状を把握なさった…との事ですわ。
彼の方って…本当に頭が悪いですわよね…
だからこそバカ王子とお似合いなのですが。
失礼。つい本音が抑えきれませんでしたわ。
話を戻しまして。
事態を把握なさった後、マグオート先生はヒロインと生徒会メンバーである攻略対象者以外のSクラスの生徒全員に声を掛けられたそうですが、皆様のヒロインに対する不信感や日頃の行いに対する不満、初日のトラブルに関しての憤りといった感情が根深く、その場で屋台に戻ると約束なさった方は1人もいなかったそうです。
イチゴのパンケーキを召し上がり、美味しいと仰ってくださいましたが、マグオート先生の表情は沈んだままでしたので、サンダルウッド先生の時と同様にイチゴのジェラートをお待ちしたわたくしに対して、ケイト先生が経緯を教えてくださいましたの。
その場には閉店作業と終礼を行うためCクラス全員が集まっており、皆んなもお話の内容をはっきりと聞いていたようです。
「……何か僕に出来る事はないのかな。」
カウンターに戻ると、ジェームズが先生を案じるような面持ちで言葉を絞り出しました。
ジェームズの優しさは美点ですが、ジェームズ1人でどうこうできる問題ではございませんし、Cクラス全員でお手伝いするにしても、おいそれと手を貸す訳にも参りませんわ。
Cクラスの皆んなもご家族やご友人等大切な方々と学生として最後の創立祭を満喫なさったり、選択授業やクラブ活動等の出し物に顔を出さなければならなかったりと各々予定を合わせてこのお店に出てくださっていますもの。残りの3日間、Cクラスの出し物であるパンケーキ屋と、クレープ屋台のお手伝い両方を熟す事は難しいのでは………
「じゃあ、こういうのはどうだろう?」
すると、ピーターがご自分の考えを仰いました。
「僕らが手伝うのは明日の朝10時から昼12時までの2時間だけにして、その間に生地の焼き方や盛り付け、接客等、屋台での業務をその場にいるSクラスの全員に教えるんだ。
それ以降は彼らだけで運営してもらう算段だよ。」
ちなみに仕込み等のバックヤード業務は、明日から最終日まで終日ダンデライオン商会の飲食部門の方数名にフォローに入ってもらうよう、ピーターが手配してくださるそうです。
「しかし、たった2時間で覚えられるのかしら。」
「そうだよ。
僕達は時間をかけて何回も練習したから覚えられたけど…」
ここでベロニカとジェームズから待ったがかかりました。
わたくしも同意見ですわ。
「申し訳ないけど、無理にでも覚えてもらうさ。
僕達だって暇じゃないんだ。
長時間この店の運営と並行してあちらのフォローに入るのは、皆んなの負担が増えてしまうだろう?
それじゃダメなんだよ。
明日はお客様が来ようが来まいがとにかく練習して、短時間で自立してもらわないと。
…まあ、無理ならダンデライオン商会の人間にフォローさせるから心配はいらないよ。」
ピーターのご意見はごもっともですわ。
わたくしも先程同じ事を考えていましたもの。
2時間のみのお手伝いでは、中途半端になるのではと思いましたが、もしもの時はダンデライオン商会の方にフォローしていただけるのであれば安心です。
人材が豊富なダンデライオン商会には、本当に感謝しかございませんわ。
「僕らはフォローと称してやり方を教えて、表面上だけでも彼らだけで何とかなるようにすれば良い。
あくまで手伝いだからね。」
話し合いの結果、3日目の後半組で行ける人だけお手伝いに行くという事で意見はまとまりましたわ。
そして、お手伝いに来たのはわたくし、ウィリアム、ベロニカ、ピーター、ジェームズの5名です。
開店前、わたくし達はマグオート先生のご紹介にてSクラスの方々とご挨拶をいたしましたが、意外な事に皆様に感謝されましたわ。
お話を聞くと、昨日まで頑張っていらした皆様は精神的に参りながらも、責任感から本日もこちらの屋台にいらっしゃったそうです。
そこに、先生の説得を受け戻っていらした皆様が加わり、本日は25名が屋台の運営に携わる事となりました。
25名もいれば、順番に何名かずつ休憩を取りながら運営する事ができますので、気持ちにも余裕が生まれると思いますわ。
閑話休題。
「「「「「ありがとうございましたー!」」」」」
お客様がご注文のクレープとドリンクを持って、屋台から遠ざかって行かれました。
本日戻っていらした皆様は、最初何をすべきか分からないといった様子で、動きもきごちなかったのですが、それぞれの役割について説明をし、実践を通して少しずつ慣れていらして、今ではだいぶ板についてこられましたわ。
リーンリーン…リーンリーン…
「あら。12時のベルが鳴りましたわね。」
ベロニカが時間を告げたのを受け、わたくしは頷きます。
「皆様の動きも板についてこられましたし、わたくし達のお役目は終わったのではなくて?」
「そうだな。」
「ええ。僕もそう思います。」
「僕も賛成です。」
わたくしの見立てにウィリアム、ピーター、ジェームズが賛同してくださいました。
「わたくしもよろしいと思います。
それではSクラスの皆様、わたくし達はそろそろ失礼いたしますわ。」
ベロニカがお暇する旨を告げたため、わたくし達は皆様に向かってご挨拶をいたしました。
「クロエ様、ベロニカ様、ウィリアム様、ピーター様、ジェームズ様。
貴重なお時間を割いていただき、本当にありがとうございました。
皆様のおかげでこの屋台の運営を続ける事が出来ますわ。
感謝してもしきれませんことよ。
これからは、ここにいる全員で力を合わせ、最終日まで頑張って参りますわ。」
代表してそう仰ってくださったのはソフィア・モーニンググローリー様。
青く美しい瞳を潤ませながらも、笑顔で御礼を仰ってくださいました。
ソフィア様は初日よりずっと店頭に立っていらしたとの事で、これで少しでもお気持ちが楽になる事を祈っておりますわ。
「ソフィア様、今までよくお励みになりましたわね。
これからは皆様もいらっしゃいますし、きっと大丈夫ですわ。」
「クロエ様…ありがとう……
えぇ。これからは皆んなで力を合わせて頑張りますわ。」
そして、わたくし達は後半からのシフトに備えて昼食を摂るべく、屋台を後にしました。
その日の閉店後、ご来店なさったマグオート先生にもわたくし達は感謝されました。
先生の表情からは昨日のような悲しみが消え、いつもの穏やかな笑顔を見せてくださいましたわ。
終礼後はピーターのご厚意で先生方とご一緒にCクラス全員で好きなパンケーキとドリンクを頂き、急遽パンケーキパーティーが開催され、帰宅時間ギリギリまで楽しい時間を過ごしました。
またひとつ、大切な思い出が増えましたわ。
「…え…っ!?…………どういうこと!?」




