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猫を助けたかっただけなのに  作者: めい


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第59話



サンダルウッド先生が帰られた後、2階の休憩室に上がったわたくしを待ち受けていたのは、とても良い笑顔のウィリアムでした。



「クロエ。」


なぜでしょう…今、猛烈に回れ右をしたくなってまいりましたわ。

しかし、すかさずウィリアムに左腕を取られ、それは叶いませんでした。



「……ウィリアム。何かしら?」


圧に耐え、何とか言葉を絞り出したわたくしをどなたか褒めてくださいまし。


「さっきのアレ。何?」


そんなわたくしの心の内を知ってか知らずか、左腕をガッチリと掴んだまま、ウィリアムは尚も素晴らしく圧のある笑顔で質問なさいます。

不思議な事に、掴まれている腕は全く痛みを感じませんのに、ビクともしません。



「アレ…とは?」


とりあえず、アレの正体を確認してみないことには何とも言えませんわ。


「先生に出していた小さい器の中に入っていた赤いアレ。」


やっぱり………

わたくしは思わず苦笑いになりながらも、ジェラートについて説明をすることにいたしました。



「アレはジェラートという冷たいお菓子ですわ。

イチゴを使って作りましたので、あのような色になりましたがーー「俺のは?」………。」



………デスヨネー。

説明をぶった斬ってウィリアムが催促して来ました。

もうお約束の展開ですわ。


「ございますわよ?

試作品ですのであまり数はございませんが、皆んなの分もお持ちしております。」


わたくしがそう言うと、ウィリアムは満足そうな笑顔に変わり、今度は視線で催促してきました。


わたくしはテーブルの一角に結界(バリア)を展開し、中の温度をマイナス15度まで下げ、即席冷凍庫を作成し、ジェラートが入っている容器を中に置き、隣に器とスプーンも置きます。

(器とスプーンはお店に余剰に置いている分をお借りしておりますので、問題ありませんわ。)


「皆んな………」


………を呼ぼうと思ったら既にテーブルの前に整列しておりました。

こちらもお約束の展開でしたわ………





「ねぇ皆んな。Sクラスの屋台もう行ったー?」


皆んなにイチゴのジェラートを配った後、ソファに座り昼食のサンドイッチを頂いていると、ジェラートを食べ終えたクレアが徐に話を切り出しました。


「まだ行っていないな。昨日遠くからなら見たけど。」


いち早くジェラートを食べ終えたジョンが、ご自分が使用なさった食器に洗浄(クリーン)魔法をかけながらお応えになりました。

他の皆んなもまだ行っていないようで、首を横に振っています。

もちろん、わたくしも行っておりませんわ。


「そっかー。

呼び込みをしている時、様子を見たんだけどね……」



クレアによりますと、昨日の午前中は多くのお客様がいらっしゃったそうですが、午後には人が少なくなり、今日は朝から閑散としているそうてす。


「それって、何か問題があるんじゃないの?」


最後のひと口を食べ終えそう仰るミアに、クレアは頷きました。


「だよねー。

遠くから見てても険悪な雰囲気感じたもん。

何かトラブルでもあったのかなぁ?」


トラブル…ねぇ……


「それなら、今から偵察に行ってみない?」


「おっ!良いなそれ!」

「私も行きたーい!」


ミアの提案に、ジョンとクレアが即座に賛成なさいました。


「皆んなも一緒に行かない?」


「申し訳ありませんが、わたくしはこの後選択授業のブースに行かなければなりませんのでご一緒に行けませんわ。」

「僕はクラブ活動の出し物に行かないといけないから…申し訳ない…」

「わたくしはあまり興味がありませんので、申し訳ありませんがパスしますわ。」

「俺もパス。せっかく誘ってくれたのに悪りぃな。」


クレアが皆んなもお誘いになりましたが、ナタリー、ジェームズ、エヴァ、ルークがそれぞれの理由でお断りなさいました。

クレアは残念そうな顔をなさいましたが、まだお返事をしていないわたくしとウィリアムの方を向き、視線で問いかけてこられました。


「俺もパス。」

「せっかくのお誘いですが、わたくしは昼食を頂いている途中ですので…

偵察はお任せしてもよろしくて?」


わたくしのお願いを快く了承してくださった3人は意気揚々と偵察に向かわれ、およそ30分後にお戻りになりました。


「おかえりなさい。いかがでしたの?」


「なんか…色々とヒドかったよな…」

「うん…あれじゃあねぇ…」


お話を聞こうと3人に声をかけましたら、ジョンとクレアが疲れ切ったようにお互いの顔を見合わせ、ため息混じりに呟かれました。

ミアも心なしか疲れたご様子ですが、ソファにかけた後、偵察の結果を教えてくださいましたわ。


ミアによりますと、問題だらけで屋台自体の運営が成立していなかったそうです。

まず、バックヤードを含めブースにいたのはたったの6名。その上、連携がまるで取れておらず、口喧嘩が絶えない状態だったとか。

おまけに、時間をかけてやっと出て来たクレープは生地が所々焦げていて、トッピングもぐちゃぐちゃ。味もイマイチだったとのこと。


あまりの惨状に3人は同情し、他にお客様もいなかったためお話を聞いてみた所、事の発端はヒロインでした。


「クレープ屋台の発案者はアンスリウム様だったんだけど、彼女が屋台にいたのは最初の30分だけだったそうよ。

その間も接客を担当すると言っておきながら接客とも呼べない男性客への露骨なアピールを繰り返して、相手にされないと分かるやいなや、どこかへ行ってしまったんですって。

皆んな彼女の態度に呆れて、何かと理由をつけては1人、また1人と屋台から去っていったみたい。」


また、昨日の開店前に起こったトラブルもクラスの雰囲気を悪化させた大きな要因の1つだそうで、ヒロインは自分で発注したクラス全員分の衣装を、開店直前に渡してきたそうです。

それだけでも困りますが、皆様をさらに困惑させたのが衣装そのものでした。

男子生徒には身体のラインが強調される衣装を、女子生徒に至ってはブラウスは胸のラインが強調され、スカートの丈は膝上20センチとかなりの短さだったようです。


前世ではミニスカートはファッションの1つとして捉えられていましたが、この世界では、過度に身体のラインを強調した服を着る事や、足首より上の部分を露出する事は破廉恥な行為とされ、良しとされていません。


衣装を受け取ったSクラスの皆様はその場でヒロインに抗議し、渡された衣装を着用せず制服のまま店頭に立ったそうです。

唯一衣装を着たヒロインはそれに激怒し、クラスの皆様に対して罵詈雑言を浴びせ、そこから険悪な雰囲気が続き今に至るそうですわ。



………自分勝手にも程があるのではなくて?


言いたい事ばかり言って責任を果たさなければ、皆様が怒るのも無理はありません。


わたくしもCクラスの皆んなに対してわがままを申し上げる事はございますが、皆んなの意見を確認したり、自分でできうる事は最大限しているつもりですわ。

実際に出来ているのかは皆んなにお伺いしてみなければ分かりませんが、わたくしが間違っていれば皆んなは指摘してくださいますので、今の所は大丈夫かと思います。



しかし、この事態をマグオート先生はご存知なのでしょうか?

ご存知なければお知らせするべきでしょうが、そうしますと先生の精神的負担が復活してしまいかねません…


困りましたわね……



「この事態をマグオート先生はご存知ですの?」


奥のソファで読書をなさっていたエヴァが手を止め、ミアに質問なさいました。


「どうだろう…屋台にいた子達は報告していないって言ってたけど…」


ミアもそこまでは確認できなかったようで、申し訳なさそうに応えられました。


結局、閉店後にケイト先生、ペチュニア先生とご一緒にご来店予定のため、様子を見てお尋ねするという事で意見がまとまりましたわ。



………彼の方、トラブルメーカーも甚だしいですわね。






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