第55話
さて、パンケーキ屋が開店しましたが、まだお客様は1組もいません。
やはり未知の食べ物だからでしょうか?
店内はゆったりとした時間が流れております。
チリンチリン…
「お客様ご来店でーす!」
呼び込み役のクレアが出入口を開けながら、お客様のご来店を告げます。
「「「「「いらっしゃいませー!」」」」」
「あっ!クロエお姉さん!」
「あら。ブルーノ様、サーヤ様、いらっしゃいませ。
夫人も本日はご来店ありがとうございます。。」
今年も、最初のお客座はキャロットシード伯爵家の皆様でした。
およそ1年ぶりにお会いするブルーノ様とサーヤ様は身長が伸びたようで、雰囲気も少し変わられた印象ですわ。
前世では、親戚の子供の成長は早いとよく聞きましたが、今なら何となくその気持ちが分かるような気がいたします。
「クロエさん、ごきげんよう。
とても素敵なお店ですわね。
昨年のクレープ屋台が素晴らしかったので、今年はどの様な出し物なのか3人で楽しみにしておりましたのよ。」
「クロエお姉さま。こんにちは。」
今年も変わらずお美しい夫人がにこやかにご挨拶された後、サーヤ様が可愛らしい笑顔でカーテシーを披露してくださいました。
挨拶もそこそこに、わたくしはお3方にご注文の流れとメニューについてご説明をします。
「メニューはこちらです。
ふわふわのパンケーキに、クリームやフルーツを合わせてお召し上がりいただけます。
お席でお待ちいただく間は、ゆったりと庭園をご覧いただいてもよろしいですし、パンケーキが焼き上がる所や、盛り付けをしている所をご覧いただく事もできますよ。」
レジに置いているメニューを見せながら、どのような味なのかも併せてご説明します。
メニューは昨年同様、完成した絵も一緒に描かれていますので、パンケーキがどのようなものかを想像していただきやすいと思いますわ。
ちなみに、メニューと料金は以下の通りです。
【パンケーキメニュー】
・パンケーキプレーン 1,500フロール
・パンケーキイチゴ 2,000フロール
・パンケーキバナナ 2,300フロール
・パンケーキモモ 2,500フロール
・パンケーキリンゴ 2,500フロール
【ドリンクメニュー】
・ピオニー領産茶葉の紅茶 500フロール
・アイスティー 200フロール
・レモネード 200フロール
・ジンジャーエール 200フロール
今年は昨年以上に手が込んでいるため、少しお高めの料金設定となりました。
もちろん、昨年同様ダンデライオン商会が大量に安く仕入れてくださる品質にこだわった食材を使用しておりますので、味は一級品ですのにこの価格でも利益はきちんと出ますのよ?
(味に関しましては、誰が作っても一級品になるよう、皆んなで練習を重ねましたのであえて言わせていただきますわ。)
実を言いますと、わたくし、料金を決める際に会頭と少し揉めましたの。
パンケーキは1皿3枚ですが、プレーン以外のパンケーキメニューの価格につきまして、わたくしは少し高いと感じております。
本当はもう少し価格を抑えたかったのですが、会頭はこの倍以上の価格をご提案なさいましたの。
……………1皿3枚で5,000フロールのパンケーキって、高すぎませんこと?
しかもプレーン以外は1皿10,000フロールと仰っていましたのよ?
会頭は世界初というプレミア感を全面に押し出したいとの事でしたが、そんなに高い価格ですと、富裕層か貴族しか食べられませんわよね?
確かにプレミア感を好む層ですので、それでも良いのかもしれませんが、わたくしの意見は違います。
以前、前世のわたくしの好物が甘い物だった旨をお話ししたかと思いますが、特に好きだったのがパンケーキです。
前世では専門店がたくさんありましたので、お気に入りのお店によく食べに行ったものですわ。
親友の里奈とも行きましたし、兄妹や家族でも行きました。
大きな仕事を無事にやり遂げた時は、頑張った自分へのご褒美に1人で食べに行った事も何度かあります。
パンケーキは、味や見た目のかわいさ、お店の雰囲気ももちろん好きですが、1番の理由は、幸せな時間を過ごしたという大切な思い出をたくさん作る事が出来たからです。
わたくしにとってパンケーキは、幸せの味ですの。
ですから、特定の方だけではなく、できる限りたくさんの方にパンケーキと共に幸せな時間を過ごしていただきたいと思っております。
自分へのご褒美だったり、大切な方と一緒に食べたりと、思い出となる時間を過ごしていただけるように、少し高いけれど頑張ったら食べられる価格にしていただきました。
創立祭後は少し価格が上がる可能性もありますが、会頭の当初の案程までは上がらない事を期待しております。
「僕、全部食べたいです!」
「お兄さまずるいわ!わたくしもぜんぶたべたいです!」
「そうねぇ…悩ましいわねぇ…」
どうやらブルーノ様もサーヤ様も、全種類召し上がりたいご様子。
夫人もどれにするか悩んでいらっしゃいますわね。
………そうだ。
「それでしたら、全種類1皿ずつ頼まれて、皆さんでシェアしてはどうですか?」
わたくしの提案に、お3方の目が点になりましたわ…
それも仕方ありません。
この世界ではシェアという文化は存在しませんもの。
(Cクラスの皆んなはミーティング時によくシェアしておりますが。)
「パンケーキは意外とボリュームがあるので、3人とも全種類を1皿ずつ食べると、途中でお腹いっぱいになってしまうと思います。
1皿を3人で分ければお腹の負担は減りますが、全種類食べられるので、味は楽しめます。」
「まぁ!それは良い考えだわ!
ブルーノとサーヤはどう思いますの?」
「僕もそれが良いです!」
「わたくしも、お母さまとお兄さまと3人で分けてたべたいですわ。」
受け入れていただけて良かったですわ。
「かしこまりました。
ではパンケーキは全種類を1皿ずつですね。
お飲み物はどれにしますか?」
「紅茶はピオニー領産の茶葉ですのね。
わたくしはそれを頂くわ。
ブルーノとサーヤはどうしますの?」
「僕はジンジャーエールでお願いします!」
「わたくしも、ジンジャーエールがいいですわ。」
ブルーノ様もサーヤ様も、すっかりジンジャーエールがお気に召したご様子ですわね、
ブルーノ様は元気いっぱいに、サーヤ様は可愛らしい笑顔でそれぞれお答えしていますわ。
「かしこまりました。
では先にご精算をしますね。
11,700フロール頂戴します。」
わたくしはタッチパネルでレジを操作し、夫人に合計金額を伝えます。
「まぁ…もっとお高いかと思っていたけれど、意外と価格が抑えられて驚きましたわ。」
夫人は驚きを隠せないといった表情をされながら、大銀貨1枚と銀貨2枚を差し出されました。
わたくしはそれを受け取り、笑顔で応えます。
「ありがとうございます。
創立祭後はダンデライオン商会がパンケーキ屋をオープンしますので、引き続きご愛顧をお願いします。
12,000フロールをお預かりしましたので、300フロールのお返しです。」
ちゃっかり宣伝を入れながら夫人におつりの大銅貨3枚をお渡しした後、キャッシュドロアの下の引き出しからプレートとスタンドを8つ取り出し、スタンドにプレートを挟んで専用の小さなトレーに乗せます。
「出来立てをご提供するために今からご用意しますので、お好きな席におかけになってお待ちください。」
「えぇ。ありがとう。」
「お母様!この席にしましょうよ!」
「わたくしもここがいいですわ。」
夫人が精算なさっている間、目を輝かせながらその隣で待っていたブルーノ様とサーヤ様は、早歩きでオープンキッチン側のテーブル席へと移動なさいました。
こういう場で走らないのは、きちんとマナーを身につけている証拠ですわ。
マナーは1日にしてならず。
毎日の積み重ねが出来ているからこそ、洗練された振る舞いが出来る様になりますの。
元気いっぱいのブルーノ様も、可愛らしいサーヤ様も、毎日きちんとお勉強を頑張っていらっしゃるのですね。
誰かさんとは大違い。
お2人共とても素晴らしいですわ。
お3方が着席されたタイミングで、ホール担当のエヴァがトレーをテーブルの上に置き、説明してくれています。
先程、キッチンで使用する魔道具についてはご説明させていただきましたが、今回開発した魔道具はそれだけではございません。
タッチパネル式のレジもそうですが、先程のプレートも魔道具ですの。
プラスチック製のプレートの大きさは直径5センチ程で、中に光属性の魔石を入れています。
デザインは、パンケーキ、イチゴ、バナナ、モモ、リンゴ、紅茶のポット、アイスティー、輪切りのレモン、ジンジャーエールの9種類をご用意しました。
ご精算後、ご注文されたメニューのプレートを数量分出し、メモスタンドに挟んで専用のトレーに乗せ、お客様が着席されたテーブルに置きます。
すると、わたくし達全員がつけている腕時計型の魔道具にリアルタイムで情報が反映されますの。
表示と言えば、10センチ四方の画面が時計の上に現れ、客席のレイアウト図が表示されます。
お客様が着席している所は赤く光り、そこをタップすると着席時間、待っているメニューが表示されます。
ちなみに、レジと壁の隙間にはタブレット型の魔道具を置いていますが、こちらも同様の画面を見る事ができ、さらに表示切替と言えば、お客様の着席時間順に、テーブル番号とお待ちのメニューが上から箇条書きで表示される仕様となっております。
この腕時計型の魔道具は30個製作し、1人1個支給しております。
それぞれが誓約魔法を交わしているため、他の人には画面も見えませんし、使用する事も出来ませんわ。
この魔道具につきましては、わたくしがアイデアを出しましたら、ダンデライオン商会お抱えの優秀な魔道具職人さんが苦労の末実現してくださいました。
魔道具職人さんにはいつも苦労をかけておりますわね………
せめてもの罪滅ぼしに今度何かつまめる物を差し入れに行くことにいたしましょう……
閑話休題。
本日は初日という事もあり、わたくしはお昼休憩以外はお店に出る予定です。
皆んなの動きを確認したり、手が足りない所に加勢する役割ですの。
明日以降はメインキッチンでひたすら生地やクリーム作り、フルーツの下拵えに勤しみますわ。
カチャカチャッ…カチャカチャッ…
出来上がった生地が焼き台の隣の転送台に送られ、焼き台担当のウィリアムがアイスディッシャーを使って生地をすくい、温度調整がされた銅板の上に乗せ始めました。
焼き台と盛り付け台の間のテーブル席でお待ちのお3方が、焼き台に注目なさっています。
ブルーノ様とサーヤ様は目を輝かせながらご覧になっていますし、夫人はそんなお2人の様子もご一緒に微笑ましく見守っていらっしゃいます。
ウィリアムが焼けた生地を一皿に3枚ずつ乗せ、隣の盛り付け台へ置いていきます。
盛り付け台では、ミアとナタリーが一皿ずつ盛り付けをしています。
この盛り付け台は、昨年もお世話になった特別なプレートで出来ており、更にはタブレットが1台ずつ設置されております。
タブレットにはご注文メニューが箇条書きされていて、上に表示されている物から盛り付けをしていきます。
メニューによってトッピングの内容が変わってきますので少々大変かと思いますが、2人は声を掛け合って担当を割り振っている様ですわ。
シンプルなプレーンは、ホイップクリームを添え、ミントの葉を乗せるだけですので、取り分け用のお皿とカトラリーと一緒に、一足先にテーブルに運ばれました。
テーブルに運ばれたパンケーキは、ホール係のレイラの手によって取り分けられ、お3方の前に置かれましたわ。
「わぁ!すごく美味しそうな匂いがします!」
「とてもかわいくて、あまいかおりがしますわ。」
「そうね。出来立てのうちに頂きましょう。」
さぁ、お3方の口に運ばれましたわ。
お味はいかがでしょうか?




