第53話
ピーターが差し出されたバナナを笑顔で受け取り、わたくしは調理台へと向かいました。
この調理台は、ミーティングの時だけこちらに設置してくださっている物ですわ。
まず、バナナを縦半分にカットし、断面を上にしてお砂糖を満遍なくかけます。
そこへ、人差し指を向け、火魔法を展開します。
「[炙る]」
ボォッ…
バナナの表面に薄く塗したお砂糖がキャラメリゼされ、甘い香りが強くなりました。
所々小さくパチパチと音を立てている様子も食欲がそそられますわ。
次に、焼いておいたパンケーキを2枚程亜空間収納より取り出し、お皿に乗せます。
その隣に先程のバナナを乗せ、空いているスペースにホイップクリームを絞り、その上からキャラメルソースをかけ、ローストしたダイスアーモンドを少々かければ…完成ですわ。
(ちなみにこれらも亜空間収納より取り出した物です。何かに使えるかと取っておいて正解でしたわ。)
彩りにクリームの上に小さなミントの葉をちょこんと乗せておきましょう。
「ピーター、バナナを使用したメニューを作ってみましたわ。
試食してくださらない?」
わたくしは、即席で作ったバナナを使用したメニューをピーターにお渡しします。
本当はチョコレートを使ってチョコバナナにしたかったのですが、あいにくチョコレートは手に入れる伝手がございませんので、今回はキャラメルソースにいたしましたわ。
「ああ、喜んで。」
ピーターがお皿を受け取り、バナナとパンケーキを一緒に召し上がりました。
「っ…!美味い!」
「それはようございました…」
「クロエ。」
メニューに追加できそうかを確認しようとしましたら、ウィリアムに遮られてしまいましたわ。
「ウィリアム、どうなさいました「俺の分がない。」…」
……なるほど。
周りを見渡しましたら、ウィリアムだけではなく、皆んなもこちらを見ながら力強く肯首なさっていますわ…。
「失礼。今皆んなの分もご用意いたしますわ。」
「「「「「ぃやっほーーーーい!!!」」」」」
……………わたくしとした事が。
皆んながもれなく食いしん坊キャラになった事をすっかり忘れておりましたわ。
その後、1人1人前ずつご用意し、メニューの試食会へとシフトしていきました。
試食会後の話し合いにて、このバナナを使ったメニューも含め、パンケーキは全部で5種類提供する事が決定しましたわ。
(他の4種類も用意し、皆んな全種類を残さず召し上がったのは言うまでもありません。)
「クロエ。」
「ピーター、どうなさいましたの?」
各々パンケーキを召し上がっている最中、ピーターに話しかけられました。
「バナナを炙るあの演出はかなり目を引くんじゃないかな。
炙った後も甘くて香ばしい香りが食欲を掻き立てるし、集客効果が上がりそうだ。」
「えぇ、それはわたくしも思いました。
昨年もクレープブリュレの仕上げで炙る工程をご覧になられたお客様から度々歓声が聞かれましたもの。
今回も良い見せ場となる事でしょう。
そうそう。
店舗の案として、仕込み等を行うメインキッチンと、焼き台や盛り付け台を設けたオープンキッチンを設けてみてはどうかと思っていましたの。
そうすれば、生地が焼ける様子やフルーツを炙るパフォーマンスは見せる事ができ、反対に生地の配合等見せたくない部分は隠す事ができますわ。」
「なるほど…!それは素晴らしいアイデアだよ!」
「後程わたくしの案を皆んなにも聞いていただいて、皆んなのご意見と合わせて原案とし、会頭にご提案してみたいと考えていますが、いかがかしら?」
「賛成だよ。皆んなの意見も大切だからね。」
その後、わたくしが考えている案を皆んなにご説明し、ご意見をいただきながらイメージを決定いたしました。
「こんなお店見たことない!すごく素敵だわ!
流行間違いなしよ!」
とはミアのお言葉。
王都のメインストリートの一等地にアトリエ兼店舗を構えるラバンディン・オートクチュールの看板娘である彼女は流行に敏感で詳しいため、その様に仰っていただけると心強いですわ。
店舗について決定した後、その他の詳細や日程についても話し合いを行い、ミーティングは散会となりました。
1週間後。
わたくしは、会頭とピーターに呼ばれ、ダンデライオン商会を訪れております。
実はミーティングの後、ピーターに取り次いでいただき、会頭に調理器具の作成依頼もしておりましたの。
本日はその試作品を見せていただきます。
「クロエ。待っていたよ。」
「おお!カサブランカ様、お待ちしていましたぞ!
ささ、どうぞ。おかけください。」
「会頭、ピーター、本日はお忙しい中お時間を頂戴し、ありがとうございます。
失礼いたします。」
商会の受付の方に会頭とお約束している旨を申し上げると、会頭室までご案内してくださいました。
受付の方が扉をノックし、わたくしの来訪を告げると、入室の許可を得てから、扉を開けてくださいました。
部屋の中はとても広く、素敵な調度品や執務机、応接セットがあり、瀟洒な雰囲気ですわ。
ダンデライオン邸の大広間や応接間も瀟洒な空間ですし、恐らく会頭の趣味なのでしょう。
わたくしが入室すると、会頭とピーターが出迎えてくださいました。
ご挨拶をし、勧められたソファに着席します。
会頭の秘書の方が淹れてくださったお茶を一口頂いたところで、会頭が話を切り出されました。
「カサブランカ様、クラスのミーティングにて決定した内容は全てピーターから聞いております。
店舗の案が描かれた原案も拝見しましたが、こちらも素晴らしく、我が商会は喜んでご協力いたしますぞ。
それと、貴女がご希望の調理器具ですが、試作品が出来上がりましたので、ご確認をお願いします。」
「会頭、今回も無理を申しまして申し訳ございません。
ですが、ダンデライオン商会の皆様がご協力してくださるからこそ、このアイデアは実現できておりますの。
心より感謝しておりますわ。
調理器具に関しましても、従来のお仕事でお忙しいでしょうに、こんなに早く試作品をご用意してくださった事に感謝いたします。
本当にありがとうございます。」
会頭が合図をなさると、数名の方が入室され、テーブルの上に試作品を置き、壁際に移動なさいました。
「カサブランカ様。こちらが試作品でございます。
どうぞご確認ください。」
「ありがとうございます。拝見いたしますわ。」
会頭に御礼を言い、試作品のひとつを手に取ります。
こちらにある調理器具は、卓上ミキサー、アイスディッシャー、金属製とシリコーン製のヘラですわ。
銅板と大きな蓋もお願いしましたが、そちらは店舗の建築に合わせて製作なさるそうです。
ヘラに関しましては、木ベラとゴムベラが存在しており、昨年のクレープ屋台でもゴムベラを使用しておりましたが、実は先日、ピーターが仰っていたレインフォレスト共和国からのお土産の中に、シリコーンも含まれていましたの。
レインフォレスト共和国にはシリコーンの木が存在し、昨年発見したプラの木同様、樹液がシリコーンでして、こちらはどんどん生成されてしまうため定期的に取り出してあげなければ幹に亀裂が入ってしまいます。
現地では漏れ出た樹液を取り出すだけ取り出して、そのまま廃棄されているとの事です。もったいない。
昨年サンダルウッド先生にお借りした貴重な植物図鑑に掲載されていましたが、レインフォレスト共和国にしか自生していないという一文を見て、諦めておりました。
しかし、こんなに早く本物を目にする機会が来るなんて、思ってもいませんでしたわ。
ご都合主義万歳!
アイスディッシャーは生地を銅板に乗せる際、同じ量で均等に乗せる事ができる様に、卓上ミキサーはキメの整った丈夫なメレンゲを素早く作る事ができる様に、作成をお願いした物です。
ちなみに卓上ミキサーの動力源は魔石です。
わたくしがイメージ図と魔石による動力回路の設計図を描き、ダンデライオン商会お抱えの優秀な魔道具職人が作成してくださいました。
錬金術を取得しておいて本当に良かったですわ。
もちろん、今回の調理器具も完成次第商業ギルドに申請する予定です。
………会頭の圧に負けたとも言いますが。
ふむ。
見る限りは良さそうですわね。
卓上ミキサーの動作確認もしましたが、そちらも問題は無さそうです。
ただ…
「会頭。こちらを使用して実際にパンケーキを作ってもよろしくて?」
使い心地も確認したいですわ。
「もちろん、よろしいですぞ。
こちらをご利用ください。」
そう仰いながら会頭が指し示した先には調理台が。
………先程までありませんでしたわよね?




