第43話
わたくしはCクラスの皆んなに話した内容と同じ内容をラナンキュラス伯爵御一家にお話しいたしました。
幼い頃から家族に忘れられた存在であり、王太子との初顔合わせと、創立祭の2回しか両親と会ったことがなく、兄2人とは会ったことすらない事。
公爵家でのわたくしについて。
王太子との婚約の理由。
王太子との初顔合わせでの出来事。
その後の王太子との関係について。
それを踏まえた自分の将来についての考えと現状。
皆様は真摯にお話を聞いてくださいましたわ。
そして、徐に伯爵が頷かれました。
「…なるほどね。
ではクロエさんは今の殿下についても知っているのかな?」
そのお言葉に対し、わたくしは笑顔で頷きます。
「えぇ、お伺いしましたわ。
わたくしにとって、喜ばしい展開となりました。」
「婚約を破棄した場合、クロエさんは進むべき道を見つけているようだし、その手立てもある。
貴女の事は心配いらないと思うが、国としては大きな打撃になるだろう。
なんせ王太子殿下がああだからね。
件の伯爵令嬢は殿下だけではなく、騎士団長の令息とも関係を持っている模様だ。
そんな令嬢を王太子妃、ひいては王妃になどは出来ないだろう?」
「確かにそうですわね。
正直に申し上げまして、彼の方は王妃に相応しい方とは言えません。
王太子殿下も同様ですわ。
伯爵は聞き及んでいらっしゃるかと存じますが、彼の方は未だに王太子教育を修了出来ていませんの。
教育係の話によりますと、最短で見積もってもあと3年はかかる見込みだそうです。
学園ではクラスが違うため、振る舞い全てを存じ上げているわけではございませんが、今の所、良い評判は全く聞いた事がございません。
創立祭のクレープ屋台にご来店なさった際も、生来の傲慢な態度を取られていたため驚きましたわ。
わたくしは、現在の王太子殿下より、第二王子殿下の方が王太子に相応しいと考えております。」
伯爵のご質問に、わたくしは包み隠さず自分の意見をお伝えします。
誓約魔法を使用しておりますので、伯爵はヴィクター様以外の王城関係者にここでの話を口外できませんから、正直な気持ちを伝えようと覚悟を決めましたの。
「…成程。皆んなはどう思う?」
伯爵はわたくしの考えを聞かれた後、皆様に意見をお尋ねになりました。
「私は、クロエ嬢の意見は良い考えだと思います。
立場上、お噂と父上のお話しかお伺い出来ませんが、クロエ嬢の話を加味すると、クロエ嬢の意見は最善ではないかと考えます。」
「わたくしもクロエさんの意見に賛成よ。
王太子殿下には失望しましたわ。
お相手の伯爵令嬢もお話を聞く限り王妃への適性は無いと考えます。」
「僕も王太子殿下にはガッカリしました。
学園では生徒会長を務めていますが、権力を笠に着た振る舞いばかりで、評判はとても悪いんです。
でも王太子なので、誰も何も言えなくて…
もし、このまま王太子殿下が国王陛下になられたら、この国は悪い方向に進んでいくのではないでしょうか?
それに、お相手のご令嬢はアンスリウム伯爵令嬢ですよね?
学園ではお2人の関係は有名ですよ。
ですが彼の方も評判は悪くて、王太子殿下や騎士団長令息だけではなく、見目の良い貴族令息に近づいては過剰なボディタッチをして、そのまま男女の関係を持つ事もある様です。
僕も一度狙われかけましたが、怖くなって逃げました…」
ヴィクター様、夫人とご意見をいただき、最後のマシュー様のお話にて驚きの事実が判明いたしました。
夫人がすぐさまマシュー様のお側に移動しお背中を摩り、マシュー様のお隣に座っていらしたヴィクター様はマシュー様の頭を撫でて差し上げています。
ベロニカや伯爵も、マシュー様を案じる様な視線を送っていらっしゃいますわ。
わたくしも、マシュー様のお気持ちを思うと心が痛みます。
「なんて事!
殿下だけでは飽き足らず、マシューにも粉をかけようとしていたなんて!」
「無事に逃げ切れて良かった…
だが、件の令嬢はとんでもない女狐だな。」
「かわいいマシューにその様な事…許すわけには参りませんわ。ねぇ、お父様?」
「あぁ、そうだね。ベロニカ。
私もそう思うよ。」
夫人が悔しそうなお顔で思いの丈を仰っている傍ら、ヴィクター様、ベロニカ、伯爵はそれはそれは素晴らしい笑顔でいらっしゃいますが…背後にブリザードが吹き荒れていますわ…
さすがは親子…怒り方までそっくりですのね…
…ヒロインは敵に回してはならない方々を敵に回してしまった様ですわね。
しかし…
マシュー様は未遂だったためか、反応を見る限りヒロインの魅了にはかかっていない様ですわね…
「マシュー様、ご無事で何よりでしたわ。
怖い思いをなさいましたわね…」
「皆んな…クロエ嬢もありがとう…
でも、ちゃんと逃げ切れたし、その後は僕の所には来なくなったから大丈夫じゃないかな。」
「…それはそうかもしれませんが、対策をしておくに越した事はございませんわ。
彼の方の固有スキルは魅了ですから。」
マシュー様が仰った事に対して、このまま放置しておくのは得策ではありません。
わたくしはヒロインの固有スキルを皆様にお伝えし、対策もご提案する事にしました。
「「「「えっ!?」」」」
「固有スキルは通常他人には明かさないものだが…
クロエさん、もしかして貴女は鑑定魔法を使えるのかな?」
わたくしの申した内容に驚かれたのか、皆様揃って驚きの声を上げ、伯爵が続けて質問なさいました。
「えぇ、先程ご説明した通り、公にしているステータスは偽りの物でございます。
本当は魔力は多い方ですし、ある程度の魔法ならほとんど使うことができますわ。
1年程前に、彼の方に対して疑問に思った事がございましたのでこっそり鑑定させていただきましたの。
その際、彼の方の固有スキルも知りましたわ。
あっ!わたくしが鑑定魔法を使用したのは今の所彼の方に対してのみですわ。
他の方に対しては使用しておりませんし、使用するつもりもございませんのでご安心くださいまし。」
わたくしが説明している間、皆様表情が固まっていらっしゃいましたが、最後の言葉でご安心いただけたのか、安堵の表情に変わられました。
「皆様、差し支えなければ教えていただきたいのですが、状態異常を回避または無効化する術はお持ちでして?」
「いや、持ってはいないな…」
伯爵が代表してお答えくださいました。
「まずは魅了にかからない様、皆様に魅了耐性を付与しても構いませんこと?」
「それはありがたいが、クロエ嬢、君はその様な事も出来るのかい?」
「えぇ、可能ですわ。」
「クロエ、貴女って本当にすごいわよね。
貴女が出来ない事を探す方が難しいのではないかしら…」
ヴィクター様がわたくしの提案にご了承くださいましたが…ベロニカ、貴女はわたくしを買い被りすぎですわ。
「そんな事はないわ。
では皆様、失礼いたします。
[魅了耐性付与]」
ふわっ…
わたくしは苦笑いでベロニカに応えた後、皆様に魅了耐性付与を行使しました。
わたくしが放った魔力は皆様を優しく包み、ゆっくりと皆様の中へと吸収されていきました。
これで、付与は完了ですわ。
「皆様、魅了耐性付与は完了いたしましたわ。
これで、彼の方の魅了は皆様には効かなくなります。」
わたくしがそう申し上げますと、皆様揃って御礼を仰ってくださいました。
その後、夕食を挟み、再度婚約破棄についての詳しい説明と確認、及びヒロインの魅了の被害者を減らすための対策等、詳細を詰め、2日目の夜は更けていきました。
翌朝、皆様に見送られながらラナンキュラス伯爵邸を後にし、マイハウスへ帰宅いたしましたわ。
今回、ラナンキュラス伯爵家の皆様を味方に付けられた事は僥倖でございました。
計画が成功するための大きな自信を得る事ができましたもの。




