第38話
ごきぜんよう。
クロエ・カサブランカでございます。
わたくしは今、皆んなが勉強中につまめるものを作ろうと調理台の前で準備中です。
先程皆んなが去った後、すぐさま結界と防音魔法を展開いたしました。
………同じ過ちを繰り返してはなりませんわ。
さて、今からエピパンを作ろうと思います。
初回のクラスミーティングでクレープを作った際、クラスメイト全員に食物アレルギーが無いかをこっそりと鑑定しましたが、幸いアレルギーをお持ちの方は1人もいらっしゃいませんでしたので、エビパンも大丈夫かと思いましたの。
それに、エビのすり身を挟んで揚げますので、片手でつまんで食べられるけれど、程よくお腹にも溜まるため、軽食には持ってこいではありませんこと?
材料の準備をするため、調理台の上に置いてあるマジックバッグの中身を鑑定し、リストをウィンドウで確認します。
えーと…エビ…エビ……ありましたわ。
ふむ。結構な量が入っていますのね。
しかも殻付きと剥きエビと、どちらも結構な量が。
それに海鮮系も充実しています。
これはありがたく使わせて頂きましょう。
こんなに海鮮が豊富に揃っているのであれば、アレも出来そうですわねぇ……
まぁ、今はエビパンです。
さすがに食パンはこの世界に存在しませんので(白パンと呼ばれる高級な白いパンと、黒パンと呼ばれる安価な庶民向けのパンの2種類しか存在しません。)わたくしのバッグ(の中に仕込んだ亜空間収納)から食パンを取り出します。
召し上がる量は……1人につき何人分ずつ…?
「クロエ。」
ヒィッ!
「ウィリアム…どうかなさいまして?」
召し上がる量を1人につき何人前ずつかを考えておりましたら、真後ろから声をかけられました。
結界魔法を展開していたはずですのに、一体どうやって入ったのでしょうか……
わたくしは恐る恐る振り返りながら、後ろに立っているウィリアムに応えました。
「何か手伝える事はあるか?」
あら。
今回は圧を感じる笑顔ではありませんわね。
ホッ
「まぁ…よろしいんですの?」
「あぁ、ベンジャミンもルークも、今は自主練習に励んでいるから空いているんだ。」
「そうでしたの。
それでは、お願いしてもよろしいかしら。」
ウィリアムも手が空いたようてすので、遠慮なくお手伝いをお願いする事にしました。
「あぁ、何をすれば良い?」
「まずは手を洗って、こちらの布巾で拭いてくださいまし。
石鹸はこちらですわ。」
「分かった。」
ウィリアムに石鹸と布巾を示しながらシンクに誘導します。
「ちなみに1人4人前程で良いですわよね?」
「………………………」
ヒィッ!
笑顔が怖い!笑顔なのに怖いですわ!
多めに言ったはずですのに!
先程の笑顔が怖くなかったからといって、気を抜きすぎましたわ!
「多ければ多いほどありがたいな。」
「……10人前で、勘弁して下さいまし。」
「良いだろう。」
……なんて器用な笑顔なんでしょう。
一瞬にして、キラキラしい笑顔に切り替わりましたわ……
気を取り直して、作業をお願いしましょう。
わたくしは手本を見せながらウィリアムに説明します。
「では、こちらの剥きエビの下処理からお願いします。
このように、背中側に包丁の刃を当て、少し手前に引きますと、黒い線の部分が取れます。
これは背わたというのですが、取らずにそのまま調理しますと、味や食感が悪くなってしまいますの。
ですから、この背わたを取り除いてくださいまし。」
「分かった。」
ウィリアムにエビの背わたを取ってくれている間に、わたくしはネギをみじん切りにします。
トントントントン…
「…鮮やかな手捌きだな。」
「あら。お褒めに預かり光栄ですわ。」
ただネギを切っているだけですが、褒められるのは嬉しいですわ。
ウィリアムも初めてとは思えない程手際が良くて、わたくし、内心驚いております。
「よく料理はするのか?」
「えぇ。先日お話しした通り、自作の家が学園に入学する少し前に完成しましたので、今は拠点をそちらに移しておりますの。
ほぼ毎日自炊しておりますので、料理の腕が上がったのかもしれませんわ。」
「そうか。
ちなみにその家はどこにあるんだ?」
「……今はまだ言えませんわ。
でも、計画が上手くいって落ち着きましたら、ぜひ皆んなをご招待したいと考えておりますの。」
先日お話しした際もウィリアムはマイハウスの場所を聞いていらっしゃいましたが…
残念ながらまだお教えできませんわ。
わたくしは苦笑いしながらお応えしました。
「それは楽しみだな。
計画が上手くいくように祈ってる。」
「ありがとうございます。
あ、背わた取りは終わりまして?」
「あぁ、終わった。」
ウィリアムは本当に手際が良いですわね…
あれだけの量のエビの背わた取りを、この短時間で、しかもわたくしと話しながら全て綺麗に取り終えてしまうなんて…
驚いてばかりもいられません。
次の説明に移りましょう。
ウィリアムと一緒に、開いたエビが乗ったお皿と、空いたお皿を持ってシンクへ移動します。
「では次に、背わたを取ったエビを水で洗い、水気を拭き取ります。
ウィリアム。エビをこのように洗って頂けますか?
洗い終わったものはこちらに置いてくださいまし。
わたくしが水気を拭き取りますわ。」
「ああ、分かった。」
この工程は、ひとりで作って食べる時は洗浄で済ませますが…今日は皆んなで食べますのできちんと手をかけます。
「ウィリアムこそ、手際がよろしくて、とても助かりますわ。」
ウィリアムが洗ったエビを受け取り、乾いた清潔な布巾で水気を取りながら、ウィリアムに感謝の気持ちを伝えます。
「そうか?
クロエの役に立っているなら嬉しい。」
「ウィリアムもお料理がお好きなんですのね。」
「いや…料理というより…」
「?」
何でしょう?
珍しく歯切れが悪いですわね?
まぁ、あまり深追いしては可哀想ですわ。
丁度、水気を拭き取ったエビをお皿に並べ終えましたので、調理台に移動し次の工程に移りましょう。
「では次に、このエビを細かく切ってペースト状にします。
まずはエビの尻尾を取り、身をこのように細かく切っていき…そして…包丁で叩くようにして…」
タタタタタタタ…
お手本のためにエビを何本か取り、説明をします。
「…見事だな。」
ウィリアムは褒め上手ですわね。
ますます笑顔になってしまいますわ。
「ウィリアムは褒め上手ですのね。
では、後はウィリアムにお願いしますわ。」
「分かった。」
ウィリアムにエビを叩いて頂いている間に、わたくしは食パンの耳を切り落とし、十字にに切ります。
あ、あとニンニクをすりおろさなければなりせんわね。
「クロエ、終わったぞ。これで良いか?」
どれどれ…おおっ!
「えぇ。完璧ですわ!
ウィリアム、ありがとう!」
「……………あぁ。」
エビが綺麗なペースト状になった事に感激し、勢いよく御礼を言ってしまいましたわ…
はっ…恥ずかしい……!
ウィリアムも引いていらっしゃいますわ…!
気を逸らすために、次の作業をお願いしましょう!
「…それでは、次にこのニンニクを、このようにすりおろしてくださる?
おろし金の刃が指に当たると怪我をしてしまいますので、気をつけてくださいまし。」
「…分かった。」
手本を見せながら説明し、ニンニクとおろし金をウィリアムにお渡しします。
ウィリアムにニンニクをすりおろして頂いている間に、揚げる油をフライパンに入れ、マヨネーズを用意して…
食パンの耳…もったいないですわね…
そのままでも良いのですが、縦に3等分に切って…
「出来たぞ。」
ニンニクのすりおろしも完了しましたわね。
わたくしはボウルをウィリアムの手前に置きながら次の工程を伝えます。
「ありがとう。
では、このボウルに先程叩いて頂いたエビと、今すりおろして頂いたニンニクを入れてくださいまし。」
ウィリアムにエビとニンニクを入れて頂いて、わたくしは横からネギと塩、コショウ、片栗粉を入れ、混ぜます。
ボウルの中身が綺麗にまとまりましたので、四つ切りにしたたくさんのパンが乗ったお皿と、マヨネーズが入ったボウルを前に置きます。
「では、このパンにマヨネーズと今作りましたエビのタネを塗ります。
まずはマヨネーズを2枚に薄く塗って、タネはこちらの1枚に…そして、マヨネーズを塗ったもう一枚をこのように重ねます。」
「おおっ…」
「ウィリアムにはマヨネーズを塗って頂きましょうか。
わたくしはタネを乗せて重ねますわ。」
「分かった。」
こうして分担して行うと、かなりスムーズに出来てありがたいですわね。
ウィリアムが異常に手際が良いというのもございますが…
ひとりで黙々と料理をするのも好きですが、話しながら楽しく料理をするのも良いものですわね。
「ふぅ…出来ましたわね。
それではこれを揚げていきましょう。」
「え?これで完成じゃないのか?」
ウィリアムはこれで完成だと思っていらしたようで驚いていますが、初めて見る食べ物ですから驚くのも無理はありません。
「えぇ。エビやネギが生のままですし…
それに、揚げた方がもっと美味しくなりますわよ?」
「すぐに揚げよう!」
「ふふっ。はいはい。」
わたくしの説明を聞いたウィリアムが、間髪入れずに返事をなさいましたわ。
こういう所、可愛らしいですわね。
ん?可愛らしい?
……………ま、いっか。
出来上がったエビパンを170℃の油で狐色になるまで揚げれば完成ですわ。
揚がったエビパンはバットへ上げて余分な油を切ります。
「これで全部揚がりましたわね…」
「完成か?」
「ええ。これで完成ですわ。
お皿に盛り付けましょう。」
………そして結界の外を見れば、皆んなすでに調理台の前に並んで待っていますわ。
わたくしの結界って、ちゃんと展開されていますわよね!?
…何だか自信を失いそうですわ。
しかし、そうも言ってはいられませんので、結界を解除し、1人10人前ずつお皿に盛り付けて渡していきます。
「ウィリアム。あとはお任せしてもよろしくて?」
「それは構わないが…どうかしたのか?」
「ええ。ちょっと追加でこちらも揚げたくて。」
パンの耳を指しながら答えますと、
「任せろ。」
…食い気味に了承してくださいましたわ。
あとはウィリアムにお任せして、先程使用した油に浄化魔法をかけ、揚げカスやエビの匂いを取り除きます。
油を温め直し、先程縦に3等分に切っておいたパンの耳を投入し、カリッとするまで揚げます。
揚がったら余分な油を切るためにバットに上げて、お砂糖と合わせたきな粉を振りかけて、完成ですわ。
じーーーーーーーーーーーーーーーーっ
………皆んなの視線が痛いですわ。
一応お勧めしてみましょう。
「…エビパンだけでも良いかと思ったのですが、パンの耳が余ってもったいないので甘味にしてみましたの。
よろしければーー」
「「「「「「「頂きます!!!」」」」」」」
安定の…ですわね。ほほほ…
揚げたてのパンの耳スティックも皆んなに配り、全員が着席し終えると、ベロニカの号令がかかります。
「では皆さん、食材を用意してくださった方々と調理してくださったクロエとウィリアムに感謝して頂きましょう。」
「「「「「「「頂きます!!!」」」」」」」
サクッ…
「「「「「「「!!!!!」」」」」」」
「何だこれ!?美味い!」
「美味しいですわ!」
「このサクサクの食感がたまらない!」
「エビの風味がとても美味しいですわ!」
「このスティックも甘くて美味いぞ!」
「おいしーーーい!私これ好き!」
あら。クレアはエビパンがお好みのようですわ。
そして右隣に座っているウィリアムは、相変わらずの速さで召し上がっています。
「ウィリアム。」
「クロエ、エビパンとやらもスティックも最高に美味だ。」
「それはようございました。
よろしければこちらもどうぞ。
手伝ってくださった御礼ですわ。」
わたくしはエビパンは3個で十分ですので、わたくしの分の残りのエビパン7個を乗せた別皿をウィリアムの前へ置きます。
「…良いのか?」
「えぇ、お気に召していただいたのならどうぞ召し上がってくださいまし。」
「では遠慮なく頂こう。
クロエ、ありがとう。」
!!!
ウィリアムが笑顔で感謝を伝えてくださいました。
………ちょっとドキドキしたのは内緒ですわ。
イケメンの爽やかスマイル、いただきました。合掌。




