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猫を助けたかっただけなのに  作者: めい


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第3話



「ひっく…グスッ」



……冷たい


いや…暖かい?


何だろう……


何だか濡れている?


あぁ…そうか…


私、トラックにはねられて…


雨が降っていたから、濡れているのかな…



「杏…ひっく…杏…ごめんね…ひっく」



いや、違う…誰か…泣いてる…?


誰かが私のために泣いている…


誰?


「ん…」


「杏!!!」


がばっ!!!


「ぬおっ!?」


目を開けて上体を起こしたら、とんでも美女にものすごい勢いで抱きつかれた。

受け止めきれずに地面に逆戻り。


ん?地面?

ここはどこ?私病院に運ばれたんじゃないの?

この真っ白でもあり虹のような七色でもある、なんとも不思議なこの空間はどこなんだろう?

そしてこの銀髪の美女はどちら様?



「杏!杏っっっ!ごめんね!ごめんねぇぇぇ!」


「えっ!?…失礼ですが…どちら様ですか?」


「え?」


「え?」



しーーーーーーん



「私よ。ロディよ。」


「ロディ?ロディは白猫のはずですが…?」


「あぁそうだったわね。

今は本当の姿に戻っていたんだったわ。」


「本当の姿?」


「そう。白猫のロディは、私が猫になった姿よ。」



はい?



「………詳しくご説明をお願いします。」



◇◇◇◇◇◇◇◇



さっきものすごい勢いで抱きついてきた謎の銀髪オッドアイスレンダー美女は、何と女神様でした。

どこのファンタジーかって思いながら聞いた話によると、その銀髪オッドアイスレンダー美女な女神様はアフロディーテというお名前らしく、大層好奇心旺盛な性格をなさっておいでで、ご自分が管理なさっている世界とは別の世界を見てみたくなったそうな。

そこで、全ての神様の頂点にいらっしゃる創造神様というすこぶるお偉い神様にお願いしまくって、根負けした創造神様が地球(なぜかピンポイントに日本)への見学を許可してくださったとか。

ただし、女神のままで降り立ってしまうと世界に干渉する恐れがあったので、女神の力を一時的に封印して、さらには猫の姿に変身する事が条件だったらしい。

慣れない環境で、しかも猫の姿で、生きていくことすら大変で、もう帰ろうと諦めかけた時、私と出会ったそうです。はい。

(何とか理解しようと頭をフル回転させたけど情緒が分からず言葉遣いが迷子でござる。)



「まさか…ロディって呼んだ時にご機嫌だったのって…」


「そう!私の名前を分かってくれたんだと思って!

しかも愛称で呼ばれてるみたいで嬉しかったわ!」


(いやそんな嬉しそうに言われましても…

誰がロディ=アフ“ロディ”ーテって思うのか…

少なくとも私は全っ然気付かなかったけど!)


「杏と一緒に過ごした日々はとても幸せだった。

たくさん、素敵な思い出が出来たわ。」


そう言って、女神様…アフロディーテ様はとても綺麗に微笑んだ。


「…ありがとう。

私も、ロディと過ごした日々はとても幸せだったよ。」


私はその微笑みに見惚れつつ、ロディも私と一緒に過ごした日々を幸せに思ってくれていた事が分かって胸がいっぱいになった。


しかしすぐにアフロディーテ様の顔が曇った。


「でも…本当にごめんなさい…グスッ…あの日…ひどい大雨で、あなたの帰りが遅かったのが心配で…創造神様に滞在中たった一度だけ許された(望み)を使ってあなたの家を出て…迎えに行ったの…私があの時飛び出したりしなければ…杏は…グスッ…死ぬことなんてなかったのにっ…!」


あぁ…だからあの日、きちんと鍵をかけたのに外に出て来れたのか…と納得していたら、最後の聞き捨てならない言葉でそんな事は頭から消え去った。



「え…死ぬ?…私、死んだの?」


生きてるものだと思ってた。

だって意識ははっきりしていて会話もできる。

身体も何ともない。

ここはどこだか分からないけど、何となくきっともうすぐ帰れるものだと思ってた。



「そう…残念ながらもう…死んでしまったの…

ここは神界。

事故の後、私は必死に創造神様にお願いしたの。

元の姿に戻りたい。杏を助けたいって。

そしたら、創造神様が元の姿に戻してくださった上に、お力添えをしてくださったの。

蘇生をする事は簡単だけど…そうしてしまえば世界に干渉する事になる…

だから、あなたを神界(ここ)に連れてくる事が最善の選択だったの。」


「しっ…神界?そんな……」


神妙な面持ちのアフロディーテ様が説明する事実を、私は信じたくなかった。


「もう…皆んなに…会えないの……?」


お父さん…

お母さん…

(けん)兄…

(らん)姉…

(しん)

(れん)


今年の母の日もお母さんすごく喜んでくれて…父の日もお父さん喜ばせたいからって…そろそろプラン決めないとねーって…蘭姉も新も蓮も張り切ってたのに…


健兄はこないだ結婚式を挙げたばっかりで、これから子供だって産まれて…産まれたら抱っこさせてねって張り切って言ったらまだ気が早いって言われて…笑い合ったばかりなのに…




里奈(りな)


ずっと一緒だと思ってた…

明るくて社交的で男の子にも女の子にもモテるのに…でも幼稚園から一緒の私もすごく大事にしてくれる。世界で1番大好きな親友…


「…っ!……っっっ!!」


もう、会えないの?


「嫌ぁぁぁぁぁ!!!」


「お父さんっ!お母さんっ!健兄っ!蘭姉っ!新っ!蓮っ!里奈ぁぁぁぁぁ!!」


大好きな人達にもう会えないなんて!!!


「私はここにいるっ!ここにいるよっ!!助けてっ!家に帰りたいっ!!お母さんのハンバーグが食べたいっ!お父さんと晩酌したいっ!健兄に勉強教えてもらいたいっ!蘭姉とショッピング行きたいっ!新とバッティングセンター行きたいっ!蓮とゲームしたいっ!里奈とお酒飲みながら他愛のない話がしたいっ!!!会いたいっ!皆んなに会いたいっ!!!会いたいよぉぉぉぉぉっ!!!」




うわぁぁぁぁぁぁん!!!




「うぅっ…杏っ…ごめん…本当にごめんなさい…」



慟哭する杏を見ながら、アフロディーテは自責の念に駆られ、涙を流しながら謝罪するしかなかった。





◇◇◇◇◇◇◇◇



杏が泣き疲れて寝てしまった後、どこからか髪の毛も肌の色も身につけているもの全てが白く、瞳の色のみ金色の男性とも女性ともつかない存在が現れた。



「泣き疲れて寝てしまったか…」


「創造神様!?

っ…この度は…私の不注意で人間を死なせてしまった事…誠に申し訳ございませんでした…」


「そう畏まらずとも良い。

…そうだな。起きてしまったことはもう変えることはできない。

だから、次の生ではこの御子が健やかに、何不自由なく暮らしていけるようにお主が加護を授けると良い。

これはあくまで我の予感ではあるが…

この御子はいずれ、その大好きな人達とやらと何らかの繋がりを持ちそうだな。」


「それは…」


「まぁいずれにせよ、まずはその御子が気を取りなおすまで、お主が支えてやると良い。

そして、次の生ではお主が管理する世界へ転生させ、この御子が思うままに生きられるよう、お主が存分に甘やかすのだ。

この御子は恐らく、悪しき事にその力を使わぬであろうからな。」


「はい。微力ながら精一杯努めます。

大好きな杏に、報いるためにも。」


「そうすることだな。」



杏の今後の処遇についてひと通り話せて満足したのか、アフロディーテがお辞儀をすると、創造神と言われる存在はその場から姿を消していた。




◇◇◇◇◇◇◇◇




「ん…」


「杏…」


杏が目を覚ますと、アフロディーテが心配そうに名前を呼ぶ。



「ロディ…さっきは取り乱してごめんね…私…」


「いいえ。杏が謝る必要なんてないわ。

杏に謝らなければならないのは、私の方だもの。

あの時、杏の姿を見て安心しきってしまって、周りが見えていなくて…それが原因で…こんなことに…

あなたの大切な人達と突然お別れすることになってしまって…本当にごめんなさい。

許してもらえるだなんて思ってない。

私が謝ることすら押し付けになるかもしれない。

それでも、私はーーーーー」


「ロディ。あなたが私のことを心配してくれてあの場に来たことは…ちゃんと伝わったよ。

だからね…私はあなたを許したいの。

ううん。そもそも、許すとか許さないとか、そういう事じゃなくて、きっとこれはタイミングが悪かったって事だったんじゃないかな。

ロディは私を心配してくれた。私はロディを守りたかった。お互いがお互いを思っての行動が、不幸にも事故になって、私は命を落とした。

本当は、すごく悲しい。

両親よりも、兄弟よりも、親友よりも、ずっとずっと早く死んでしまって…きっとまだまだ皆んなと楽しく過ごす日常が続くと思ってたから。

もう皆んなに会えないのは悲しいけど、私にとって松岡杏として生きた28年間は、かけがえのない、幸せな時間だったよ。

皆んな仲が良い素敵な家族と、一生に一度出来るか分からない大好きな親友だってできた。

周りにいた人達にも恵まれて、私は、とても幸せだった。

きっと、考えが甘いって思う人もいるかもしれないけど、それが、今の私の正直な気持ちなの。」


穏やかな笑顔でそう言い切った杏を見て、アフロディーテは次の人生も素晴らしいものとなるように力を尽くそうと再度心に誓った。



「杏…ありがとう…」

(なんて…なんて優しいの…!

もっと罵られると思ってた。

ううん。むしろ、杏にはその権利がある。

私が神だってことを差し引いても、そんなつもりはかけらもなくても、自分の命を落とす原因にもなったんだもの。

幸せだと迷いなく言える人生だったのに!

なのに…許すとまで言ってくれた!

なんて…なんて優しい子なの!愛しい子なの!

次の人生で杏が健康に、何の不自由もなく、生きていけるように、私…頑張るわ!)



「杏…あのね。これから、どうしたい?

元の世界に戻る事はできないけれど、私が管轄する世界に転生させることは構わないって、創造神様が仰ってくださったの。

もちろんここにいたいと思ってくれるなら、好きなだけいて欲しいな。

でも転生したいって思うなら、私が出来る限りの加護を授けるから、杏には好きなように生きて欲しい。

今度は絶対、天寿を全うできるようにするからね!」


「ぷっ…何それ…天寿を全うできる加護とか…ふふっ…説得力ありすぎるよ…あははっ」


「でしょっ!?女神の強力な加護だよ〜!

絶対、死因は老衰ね!」


「自信満々すぎる…!もうダメっ…あははははっ!」


アフロディーテは杏が笑ってくれたことを嬉しく思った。



「あーー笑った…ねぇロディ。

ロディが管理する世界って、どんな世界なの?」


「私の世界に興味湧いてきた?

嬉しいな〜!

私の世界はね…」




その後、杏はアフロディーテから彼女が管理する世界について教えてもらった。


アフロディーテが管理する世界はフロンティアという名前で、魔法が使えるファンタジー世界。

[花盛りの君に愛を捧ぐ]という乙女ゲームの世界であり、舞台となったフローレン王国、アクアシャイン皇国も存在する。

大小様々な国があり、いちばんの大国は竜人が治めるというアクアシャイン皇国であるとのことだが…


「えーっと……そのゲーム、やったことあるわ…」


「そうなの!?」


杏の一言にアフロディーテの方が驚く。


「うん。うち、5人兄妹なんだけど、姉の蘭と妹の蓮がそのゲームすごくハマってて、私も誘われて始めたんだよね…

やってみたら楽しかったから、空き時間とかにプレイして楽しんでたけど。」


「えっ嬉しい!

好きなキャラクターとかいた?

やっぱりヒロイン?

それとも攻略対象者の誰かかな?」


「ううん。私はクロエかな。」


「クロエ?あの悪役令嬢の?」


杏の回答が意外だったのか、不思議そうな表情(かお)をしながらアフロディーテが訊ねる。


「そう。家族にも婚約者にも愛されなくて…愛されたことがないから愛情表現が分からなくて。

それでも自分なりに一生懸命婚約者を愛したのに結局蔑ろにされて、最後は国外追放されてしまうのは見ていて辛かったな…

もし私が彼女に近しい人間だったら、彼女が幸せになれるように何かできることはなかったのかなって、切ない気持ちになったよ。」


「そっか…ちなみにヒロインは好きじゃないの?」


「そうだね…クロエとは正反対で、無条件で周りの人達に愛されるのはすごいと思うけど、所々それを当たり前に思っているように見えてしまって…それが少し苦手かな。

私も周りの人達に恵まれていたから、おかげさまで人間関係にはあまり苦労はしたことないけど、それでも当たり前じゃない、幸せなことなんだって分かっていたから、毎日感謝の気持ちでいっぱいだったよ。」


「そっかあ…じゃあ、転生するとしたら、クロエに近しい人が良いのかな?」


杏の思いを聞いて、アフロディーテが提案する。


「えっ?選べるの?」


「もちろん!それに、私が全力で、地球で言うチート能力を付けちゃうよ!

だから、杏は物語に左右されることなく自分が好きなように生きて良いんだからね!」


「ロディ…ありがとう。」


「どういたしまして!というか、このくらい当然よ!

杏がフロンティアに転生したら、私が思いっきり杏を甘やかすって決めてるんだから!」


片目を瞑りながら茶目っ気たっぷりに言うアフロディーテに、自分のことを思ってくれていることが伝わってきて、杏は胸が温かくなった。


「ふふっ…頼もしいな。」


「ねぇ。杏はどういう能力が欲しい?

何でも、お望みを叶えちゃうよ!」


「そうだね…私はーーーーー」



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