第36話
ごきげんよう。
クロエ・カサブランカでございます。
Cクラスの勉強合宿2日目、わたくしは空き時間が出来ましたので、これからおやつを作ろうと調理台で思案しております。
何を作りましょうか…
うーーーーーーーん…
鑑定魔法で食材が入っているマジックバッグの中身のリストをウィンドウ表示させながら何を作るか思案します。
ちなみに、このウィンドウは他の人には見えないようですわ。
ただ、インターネットやネットショッピングを使用するる時は指で操作しますので、人前で使用するのは危険かと思いますの。
人前で使用できるのはこれが限度かもしれませんわね。
…あら?
イチゴがたくさんありますわね…
というか…ありすぎのような気もしますが…
それならイチゴを使ったものにしましょう。
タルトならばワンホールで8人分出来ますし、4ホール作れば良いでしょうか。
…いいえ、待って。
何だか視線を感じますわ…
ひっ!?
視線を感じた方におそるおそる顔を向けますと、皆んながこちらを凝視していました…
わたくしは何とか笑顔を保ちながら、思い切って皆んなにお伺いする事にしました。
「皆んな…どうかなさいまして?」
とりあえず聞いてみない事には、このプレッシャーに耐えられませんわ。
「クロエ。」
「ウィリアム。何かしら…」
「まさか1人1人前で済むとは思っていないよな?」
…………………………思っていました。
だなんて、口が裂けても言えませんわ。
そんな事を言ってしまえば……命の危険を感じます。
命、大事に!!!
そしてイケメンの笑顔は本来ならば眼福のはずですのに、圧が強すぎて怖すぎますわ…!
わたくしは震える唇を叱咤し、最大限に平静を装ってお応えします。
「……出来る限り多く作りますわ。」
「「「「「「「ヒャッホー!!!」」」」」」」
なんて事。
クラスメイトがもれなく食いしん坊に変身いたしましたわ。
これは4ホールだなんて悠長な事は言っていられません。
20ホールは作らなければ、わたくしの命が危ないですわ。
もし余ったら亜空間収納に入れておけばノープロブレムです。
「頑張ります…」
その言葉だけ絞り出して、わたくしは即座に調理台の周りに結界を展開し、急いでネットショッピングを開きます。
タルト作りに必要な道具を購入し(タルト型は20個も買いましたわ…)、亜空間収納から取り出したマイ道具達と一緒に並べたら準備完了です。
それでは、生地とクリームを作りましょう。
休ませなければいけませんしね。
まずは生地から作ります。
20ホール分まとめて作ってしまうと、後程偏りが出る可能性がございますので、手間ですが1ホール分ずつ仕込みましょう…
偏りが出れば血が流れるかもしれません…
平和を保つために必要な努力は惜しみませんわ!
材料の計量を終え、スペースの都合上、19個分は亜空間収納に入れておきます。
ボウルに、小麦粉200gをふるい入れ、砂糖50g、卵1個、バター100gを加えて練り、ひとまとめになったらラップに包んで簡易冷蔵庫スペースに置いて30分程寝かせます。
これを、あと19回繰り返します。
生地を全て簡易冷蔵庫スペースに置いたら、アーモンドクリームを作ります。
砂糖100g、バター100g、卵2個をミキサーで回して撹拌します。
滑らかになったら、アーモンドパウダー100gと小麦粉20gを加えて混ぜ、ラップに包んで簡易冷蔵庫スペースへ。
もちろん全部で20ホール分作りましたわ。
命大事ですから。
皆様、もうお気づきかと存じますが、ラップやミキサーはこの世界に存在しません。
ですが、ラップはラップーの木という毎度お馴染み大変都合の良い木が存在しまして(先日、魔法薬学のサンダルウッド先生に貸していただいたプラの木が掲載されていた本に、こちらも掲載されていましたの。)、実を収穫し、果汁を搾り、薄く伸ばして乾燥させるとラップが出来上がっちゃいました…
なんてご都合主義なファンタジー…ありがたいですが。
ミキサーは、マイハウスに置いてあるものはネットショッピングで購入したものなのですが、皆んなの前で料理をする機会が度々出てきましたので、このままだと不便かなーと思い、錬金術で作ってみました。
マイハウスのものもそうですが、動力源は魔石です。
こちらもご都合主義で助かりましたわ。
閑話休題。
あ、オープンを予熱しておきませんと…
温度は180℃です。
次に、休ませていた生地を取り出して、3ミリ程の厚さに綿棒で伸ばし、タルト型に敷き詰めます。
はみ出した分は、切り取ります。
そうしましたら、フォークで生地に穴を開けて…
20個分終わりましたら、ひとつだけ手元に残してあとは簡易冷蔵庫スペースへ。
次に、タルト生地にアーモンドクリームを乗せて、敷き詰め、表面を平らに均します。
あ、予熱が完了しましたわ。
このオーブンはタルト型が4個入りますので、急いであと3つ分にもアーモンドクリームを敷き詰め、表面を均します。
そうしましたら、最初の4つをオーブンで1時間焼きます。
残りの分がまだ終わっていませんので、それまでは普通にオーブンで焼きましょう。
「ふぅ…」
残りの16個にもアーモンドクリームを全部敷き詰め終えましたわ。
オープンは…
まだ30分程焼かなければならないようですね…
それならば…
([30分…早送り])
オープンに手をかざしつつ、心の中で詠唱します。
【オーブンの中のタルト生地とアーモンドクリームをさらに30分焼いた状態にしました。】
よし。
ではオーブンを開けて、状態を確認してみましょう。
ふむ。
底の部分も綺麗に焼けていますわ。
型から外して、調理台の邪魔にならないスペースに置きます。
残りの16個も、4つずつ焼いていきます。
最後の4つをオーブンから取り出した所で、シロップを用意します。
砂糖500gと水500mlを鍋で煮詰めて、ラム酒を大さじ10加えます。
…多く作るとなかなかの量になりますのね。
きちんとアルコールも飛ばしまして、完成ですわ。
イチゴジャムは、先日作った自家製のものがまだたくさんありますので、それを使いましょう。
イチゴも準備して…
土台にシロップ、イチゴジャムを順に塗り、その上にイチゴを乗せます。
真ん中辺りはカットしたものを使って、仕上げにイチゴジャムを少し塗れば…
うん。良い感じですわ。
前世でいう所の「映え」ですわね。
あと19個分も同様にして…完成ですわ!
皆んなを呼ぼうと結界を解除しましたらーーーーーーー
お皿とカトラリー、紅茶も準備し終えて、調理台の前に全員待機していました……
勉強会とは。
わたくしは何とか気を取り直し、皆んなにイチゴタルトの完成を伝えます。
「おやつが出来ましたわ。
1ホールをこのように8等分に切って、それぞれ取り分けて召し上がってくださいまし。」
1ホールを8等分にカットしながら説明します。
「「「「「「「はーい!!!」」」」」」」
揃って笑顔で返事をし、皆んな素早くタルトを運び、着席しました。
わたくしも昨日と同じく調理台に一番近い席に着席します。
全員着席した事を確認して、ベロニカがご挨拶なさいます。
「それでは皆んな。
見た事のない美しいお菓子と、それを作ってくれたクロエに感謝して、頂きます!」
「「「「「「「頂きます!!!」」」」」」」
昨夜のデジャヴでしょうか…
何だかこのクラスのデフォルトになってきた気がしますわ。
「美味い!何だこれ!?」
「イチゴが甘酸っぱくて美味しい〜!」
「生地もサクサクしてすごく美味い!」
「このアーモンドの風味がする所も、香ばしくてとても美味しいですわ!」
お口に合ったようで何よりですわ…
目の前のベロニカはキラキラとした目でイチゴタルトを召し上がっているし、右隣のウィリアムに至っては通常運転(無言且つ、ものすごい勢いで食べています)ですわ。
早くも2個目を召し上がっていますし。
でもそこはさすがは貴族というべきか、食べるペースは早いのですが、所作はとても綺麗なのですよねぇ…
器用すぎて感心しますわ…
「クロエ。」
「ウィリアム…おかわりでしょうか?」
「あぁ。この菓子は美味すぎる。
これはなんていう名前なんだ?」
わたくしが呆れ…げふんげふん…感心して見ていたからでしょうか。
ウィリアムが話しかけてこられましたわ。
相当お気に召していただけた様で…(見ていて分かりましたが。)何よりですわ…
お菓子の名前を聞いていらしたので、わたくしはおかわりのイチゴタルトを乗せたお皿をウィリアムに渡しながら、笑顔でお応えします。
褒めていただいて嬉しいというのもございますけれども。
「あら。お気に召して頂けて嬉しいですわ。
これはタルトです。
イチゴを乗せておりますので、イチゴタルトですわ。」
「イチゴタルト…とても美しいお菓子ね…」
わたくしがウィリアムにお菓子の名前を伝えていたのをしっかりと聞いていたベロニカが、イチゴタルトに視線を向けながらうっとりとした表情で仰いました。
ベロニカもお気に召してくださってなによりですわ。
ガシッ!!!
「クロエ!」
「!!?」
いきなり手を握られ、身体ごと強制的に左に向かされて何事かと思ったら、そこにはピーターが立っていらっしゃいましたわ。
「ピーター…いかがなさいまして?」
わたくし、顔が引き攣っていないか心配ですわ。
ピーターの圧が凄すぎて、笑顔を保てているのか不安になってまいりました。
「このイチゴタルトは、発明品だよ!!!
こんなに美味いお菓子を生み出せるなんて!
君は天才だ!!!」
「あ…ありがとう……」
ピーター…貴方お父様の事は言えないのではなくて?
とてもそっくりですわ……
わたくしはもう…御礼を言うので精一杯です……
「これは是非世界に広めるべきものじゃないか!?
昨日の夕食もそうだよ!
君が作るものは全て、斬新で美味いものばかりだ!
是非ともーーーーー」
「ピーター。落ち着け。
クロエがお前のプレッシャーに引いているぞ。」
わたくしが引き攣った笑顔のまま硬直しておりましたら、後ろからウィリアムがピーターを制止してくださいました。
「………っ!失礼…
すーはーすーはー…
ごめん。興奮しすぎたみたいだ。」
「大丈夫よ。
ちょっと勢いがすごくて驚いただけですわ。
よろしければ、おかわりはいかが?
まだございますけれど。」
「「「「「「「是非頂きます!!!」」」」」」」
ウィリアムの制止でピーターは落ち着きを取り戻した様で、わたくしに謝罪してくださいましたわ。
そんなピーターにおかわりを勧めたつもりでしたが、なぜか皆んな揃って返事なさいましたわ……
わたくしは亜空間収納に入れておいた出来立てのイチゴタルトを取り出し、各テーブルにおかわり分を配り終えて席に戻り、ウィリアムに御礼を言います。
「ウィリアム。先程は助けてくださってありがとう。
助かったわ。」
何故だかウィリアムの顔を見るだけでホッとしてしまい、気の抜けた笑顔のまま御礼を言ってしまいましたが、まぁ良いでしょう。
わたくしもイチゴタルトの続きを頂きます。
「…………………」
わたくしは気づきませんでしたが、顔を真っ赤にし、硬直したウィリアムと、それに全く気付かずにイチゴタルトを頂くわたくしを、ベロニカが呆れたように見ていたそうです。
なぜそれを知っているかって?
後日ベロニカに聞いたからですわ……




