第35話
ごきげんよう。
クロエ・カサブランカでございます。
本日は雪の月14日。
Cクラスの勉強合宿2日目ですわ。
今朝は身支度を整え、ダンデライオン家の料理人が作ってくれた朝食を頂いた後、それぞれグループに分かれて勉強に励んでおります。
外では昨日同様、ウィリアムがベンジャミンとルークに剣術を教えていらっしゃいます、
雪が降る中大変でしょうが、室内で剣術の練習は何かと危険ですので致し方ありません。
昨日同様、小雪なのが幸いですわね。
結界で寒さを和らげる事は可能ですが、それをしてしまえば訓練にはなりませんもの。
3人共風邪を召されませんよう陰ながら祈るしかございませんわ。
部屋の中ではベロニカが古代語を、ピーターが店舗経営学を、わたくしは数学を教えております。
わたくし、数学は選択していないのですけれど、皆んなが問題を解いている所を見ていて、どうしても我慢できなくなってしまい口を挟んでしまいましたの…
「1学年時の試験で感じましたが、数学のマグオート先生は試験時間に対してかなりの問題数を出してこられる方ですわ。
前回の中間試験でも同様でしたら、計算問題を少しでも早く、多く解ければ、その分合格ラインも見えてくると思いますの。」
数学のマグオート先生。
Sクラス担当の若い男性教師で、緑がかった黒髪に深緑色の瞳をなさっていて、色合いと眼鏡をかけていらっしゃる様がクールな印象を与えるイケメン先生です。
見た目の印象に反して生徒全員に平等に接し、授業では厳しいですが、普段は温厚で優しいと評判の男女問わず生徒からの人気が高い先生ですの。
1学年末試験の結果発表の際、ヒロインにきちんと注意をしてくださった事は記憶に新しいですわ。
先生にはとても感謝しております。
その際、ヒロインの魅了にかかりかけてしまわれましたが、すぐさま魅了解除を行い事なきを得ました。
2学年になってからは選択授業となりますので、担任の教師とは関わりが少なくなってしまいますが、ヒロインの態度を見る限り、イケメンのマグオート先生と積極的に関わりを持ちそうな事、無意識に魅了を使う事も考えられましたので、魅了解除を行った際に、魅了耐性もこっそり付与しておきました。
せっかく素晴らしい先生ですのに、ヒロインの魅了にかかって将来が台無しになってしまう事はあってはなりませんもの。
そんなマグオート先生は、2学年の中間試験ではますます問題数を増やし、さらには図形問題も最後に2問程出してこられたそうです。
………わたくしのせいではございませんことよ?
絶対に、違いますわ。
えぇ。絶対に。
気を取り直しまして、皆んなに普段どのように計算問題を解いているのかを伺ってみます。
「皆んな、計算はどのようになさっていますの?」
「え?えーーーっと…足し算や引き算なら2桁までなら何とか出来るけど、3桁になると厳しいかなぁ…」
「掛け算や割り算になると2桁でも厳しいよなぁ…」
「計算…ていうか、答えを覚えていないと…」
わたくしの質問に対して、皆んなは首を傾げたり、困ったような表情でお答えになりました。
それならば、わたくしでもお役に立てそうですわね。
「ふむ。では今日はそちらのお役に立てそうな解き方をお伝えしましょうか。
まず、足し算や引き算ですが…」
わたくしは手元にある紙に3桁の足し算と引き算の例題を記入し、皆んなに見せます。
「この例題は、そのままの状態で解いた場合、答えを暗記していない限り、早く解くのは難しいですわ。」
あと、暗算の名手でもない限り無理ですわ。
わたくしもその様な神技は持ち合わせておりません。
「ですから、このようにして、縦に書いて…」
足し算や引き算の時の縦に並べて書く計算式、いわゆる筆算を書いて、実際に解いて見せます。
「引き算の場合は、上の数字より下の数字の方が多い位は、左隣の位から1を持って来ると…」
とりあえず今は足し算と引き算の解き方に慣れていただいた方が良いでしょう。
それに慣れたら九九を、その後掛け算と割り算の筆算を伝えて、明日図形問題をお伝えすれば、覚えるのに負担にはならないのではないでしょうか。
「すごーーーい!
これなら楽に早く問題が解けるよ!」
実際に問題を解き終わったクレアが感激したように声をあげていますわ。
その後、皆んなに問題を何問か解いていただきましたが、他の皆んなもだいぶ慣れてきたようで、1問を解く時間も早くなってきました。
そろそろ九九を教えても差し支え無さそうですわね。
「皆んな、その解き方に慣れたら掛け算も出来ますわ。
そして、掛け算や割り算で覚えておくと役にたつのが、九九です。」
「「「「「「「九九?」」」」」」」
あら、仲良し。
皆んな揃って首を傾げ、おうむ返ししてきましたわ。
そんな皆んなにわたくしは頷き、説明を続けます。
「えぇ。このように、1から9までの数字をそれぞれ掛けますと、必ずこの答えになりますの。
縦軸、横軸共に1から9を書き、それぞれ掛け合わせた答えを交差するマスの中に記入しております。
これは九九の表といって、覚えておくと短い時間で計算する事が出来ますの。
とても便利ですわよ。」
皆んなが足し算、引き算の筆算を練習している間にこっそり紙に書いた九九の表を皆んなに渡しながら説明をします。
まぁ実際に書いたのは1枚だけで、あとは複写魔法で増やしただけなのですが。
「えっ!?これを全部覚えるの!?」
「いや…無理だろ…」
「こんなの、一度に覚えられるはずがありませんわ…」
「私も自信ない…」
「俺も…」
「クロエ、これ、絶対覚えないとダメなのか?」
「僕も暗記はちょっと…」
皆んな暗記に自信が無いのか、さまざまな表情で訴えていらっしゃいます。
とりあえず覚えるメリットと、九九の表について詳しく説明してみましょう。
覚えるか否かは本人の意思で決めればよろしいかと。
無理強いは良くありませんもの。
「必ず覚える必要はございませんが、これを覚えておくと応用が効きますので、掛け算、割り算に使っていた時間が短縮できますわ。
やってみると思っているより簡単に感じると思いますわよ?
規則性がございますしね。
まず、一番上の段をご覧くださいまし。
左に1と書いております。
ここは一の段と言いまして、1掛ける1は1、1掛ける2は2、1掛ける3は3…と1ずつ増えております。
1を1回掛ければ1、1を2回掛ければ2…となるのです。
同じように、二の段は2ずつ、三の段は3ずつと、一番左の数字ずつ増えていくのです。」
「本当だー!」
「へぇ…すごいな…」
「これなら僕でも覚えられるかも…」
「私も頑張って覚える!」
「わたくしも!」
「俺も!」
「よし!頑張って覚えようぜ!」
「「「「「「「おー!!!」」」」」」」
「クロエ、その表、僕にも1枚くれませんか?」
「ピーター。聞いていらしたの?
もちろん差し上げますわ。」
一致団結した皆んなを微笑ましく見ていましたら、ピーターが背後から声をかけてきましたわ。
聞いていらしたのね。
別に秘密にするつもりはございませんので、喜んで表をお渡しします。
「クロエは、この表を全部覚えているのかい?」
「えぇ。ピーターも覚えておくと便利ですわよ。
特に商会経営の道に進まれるなら、素早く計算できるに越した事はございませんもの。」
表を見たピーターが、驚いた顔で尋ねてきます。
将来お父様の跡を継ぐ事を目標としているピーターも、覚えておくに越した事はない内容でしょうから、暗記のお勧めだけはしておきます。
「確かに。
ではありがたくもらっておくね。」
「えぇ。
では、わたくしは皆んなが覚えている間暇ですので、おやつでも作る事にいたしますわ。」
「「「「「「「お願いします!!!」」」」」」」
ピーターに頷き、おやつを作る発言をいたしましたら、間髪入れずに皆んなから揃ってお願いされてしまいましたわ。
「皆んな、聞いていらしたの?
ご期待に添えるかは分かりませんが、頑張って作りますわね。」
何だか…わたくしだけ料理をしに来ているような気がいたしますが…
まぁ良いでしょう。
ここで大人数分作る経験を積んでおけば、将来の役に立つでしょうから。
そう思いながら、わたくしは調理台に向かいました。




