第32話
ごきげんよう。
クロエ・カサブランカでございます。
本日は雪の月13日。
本日より、5泊6日の日程でダンデライオン邸にてCクラスの勉強合宿を行います。
と、言いましても泊まり込んで皆んなでワイワイと分からない所等を教えあって勉強する会なのですが。
場所はいつもクラスミーティングを行なっている大広間でございます。
毎月のミーティング時は大広間の出入り口側3分の1程のスペースをお借りしておりますが、今回は大広間全部をお借りして、出入り口側のいつもクラスミーティングを行なっているスペースで勉強をし、真ん中3分の1程のスペースは食事をするために食卓テーブルとなぜか調理台が置いてあります。
そして奥3分の1程のスペースには何と、天蓋ベッドが30台、並べてありますわ!
しかも天蓋ベッドのカーテンが厚手のカーテンですので、きちんとプライベートスペースも確保されておりますし、1台1台に結界が付与されていて、ベッドを利用する方以外は入れない仕様になっているようですわ。
何て手厚い…ありがたいですわぁ…
ちなみに、この世界ではお風呂は贅沢品になりますので、各自クリーン魔法を使います。
わたくしは個人的にお風呂が大好きですので、今日から5日入れないのは辛いですが、この合宿が終わりましたらマイハウスでまた入れますので、そこは我慢いたしますわ。
今月の雪の月と来月の氷の月は名前の通り冬の季節で、雪の月は連日雪が降っておりますし、氷の月は地面が凍っている事が多く、どちらも日が短い上に寒さが厳しい季節でございます。
フローレン王国では、土の月に作物を収穫し(春や夏に実をつける作物も多いので全ての作物というわけではございませんが。)、風の月が終わるまでに冬の季節を乗り越える準備を整えます。
そして、雪の月と氷の月は極力家から出ずに過ごします。
当然王侯貴族も家から出ずに過ごしますので、社交界は完全にオフシーズンでございます。
それなのに、その期間もわたくしは公爵家の皆様と顔を合わせる事がありませんでしたわ。
不思議ですわね。うふふ。
失礼。話が逸れましたわ。
しかし、王立学園では翌月である光の月に大切な学年末試験を控えておりますので、氷の月は授業が行われます。
貴族籍の生徒の殆どは馬車で通学しておりますのであまり無いケースですが、普段徒歩で通学している生徒でご希望の方は、氷の月のみ学園の寮に住む事も可能です。
特待生や王都に邸を持たない貴族籍の生徒は学園の寮に入っていらっしゃいますが、部屋数は全校生徒と同じ数だけございますので、こういった措置ができる模様ですわ。
(ちなみに、先生方も同様です。)
王城に勤めている方々は交代で長期休暇を取得なさるそうです。
普段家から出仕されている方はこの季節のみ城内に設けられている寮で暮らし、そこから出仕なさるそうですわ。
国境警備隊や詰所の騎士の方々も交代で長期休暇を取得し、専用の寮から出仕なさいますので、完全に国全体の機能が停止するという事はございません。
ですので、冬の間は王妃様からお茶会のお誘いは来ません。
冬季休暇は自由に過ごす事が出来る最高の休暇ですの。ほほほ。
昨年の冬季休暇は朝晩の決まった時間のみ公爵家の自室に転移し、それ以外の時間はひと月まるまるマイハウスに篭り、色々なスイーツを作ったりととても自由に過ごしておりましたわ。
今年の冬季休暇は、今週1週間はこちらで皆んなと過ごす予定ですが、それ以外は基本的には昨年と同じ様に過そうと考えております。
「クロエ。」
「ウィリアム。ごきげんよう。
剣術を教えていらしたの?」
わたくしが魔法生物学の勉強をしておりましたら、庭で稽古をしていたウィリアムが大広間に戻っていらっしゃいました。
「あぁ。
ベンジャミンとルークに剣術を教えていたんだ。
2人ともなかなか筋が良いと思う。」
「そうでしたの。
きっと、ウィリアムの教え方が良いんですのね。」
「…………………」
あら?急に黙ってしまわれましたわ。
どうしたのでしょう?
なんだかお顔も赤いような?
「ウィリアム?
寒い中外で稽古をなさったから風邪でも召されましたの?」
「…いや、問題ない。」
わたくしがウィリアムの体調を心配していましたら、赤いお顔のまま、素っ気なく顔を背けてしまわれました。
問題ないとはおっしゃいますが…
食事のご用意を提案してみましょう。
温かいご飯を召し上がれば元気になれるのではなくて?
「そうですの?なら良いのですが…
差し支えなければ、何か元気の出る食べ物でも用意いたしま「それは是非お願いしたい。」」
食っ…食い気味に…
今、ものすごい勢いでお顔がこちらを向きましたわ…
そして、なんだか目が怖いですわ…
そしてウィリアムからだけでなく、その後ろからもプレッシャーを感じるのはなぜでしょう…
「………分かりましたわ。
寒いですし、何か身体が温まる物を作りましょう。」
「「「「「「「ヒャッホー!!!」」」」」」」
ヒャッホー…
わたくしが何かご用意すると申した瞬間、皆んな揃って椅子から立ち上がりましたわ。
そんなにお腹が空いていらしたのかしら?
「クロエ、ありがとう。楽しみにしてる。」
ウィリアムもキラキラしいイケメン爽やかスマイルで御礼を仰ってくださいます。
そう言って頂けるなら、頑張りませんとね。
というか、あの調理台って、このために用意された物ではありませんわよね?
ですよね?
ですよね?
どなたか違うと言ってーーーーー!
はぁ…気を取り直しまして。
何を作りましょうか…
元気が出て温かい食べ物…
うーーーーーーーん…
あ、そうですわ。
そろそろ夕食の時間ですし、ハンバーグなんていかがでしょう?
この世界ではお肉はたっぷりの香辛料をまぶしてステーキとして頂くのですが、この香辛料、貴族は富の象徴としてとんでもない量をまぶした物を食べていますの。
そしてスープといえばお出汁もへったくれもないただ塩と少量の野菜を入れて煮ただけの物で、野菜からの旨味や甘味は多少出ていたり出ていなかったりしますが、味の濃いお肉と一緒に頂くので、味は全く感じませんわ。
わたくしはマイハウスが完成してからは公爵家の料理は頂いておらず、自炊しておりますので最近の食事情は分かりかねますが。
…スープはオニオンスープにしましょうか。
単純にわたくしが今食べたいからという理由ですが、身体は温まります。
それだけでは栄養が偏りますので、野菜も欲しいですわ。
本当はサラダが簡単で良いのですが、生野菜を出しても好き嫌いが分かれそうですし…
野菜のテリーヌにしたら、皆んな召し上がってくださるかしら?
そうと決まれば…
わたくしは調理台の前に移動し、亜空間収納からエプロンを取り出します。
エプロンを着け、手を洗います。
「ピーター。
このバッグに入っているのは食材ですの?」
「えぇ。
好きに使って良いと父上から許可を得ていますよ。
父上が張り切ってものすごい量の食材を入れていたので、好きなだけ使ってください。」
調理台の上にマジックバックが1つ置いてありますので、近くにいるピーターに中身を確認しましたら、食材で間違いございませんでしたわ。
会頭は、創業祭で作ったカレーを余程お気に召してくださったのか、張り切って食材を大量に入れてくださったようです…
ありがたいですが、ちょっと怖くもありますわ…
わたくしはなんとか笑みを崩さずに御礼を言いました。
「ありがとう。
それでは、調理台もお借りしますわね。」
「是非。
出来上がりを楽しみにしています。」
「あまり期待されすぎると、プレッシャーなのだけれど…」
「期待をするなと言われても期待してしまいますよ。」
わたくしはやんわりとプレッシャーを訴えてみましたが、笑顔で押し切られてしまいました。
「おーい!ピーター!」
「あぁ、今行く。
ではクロエ、よろしくお願いします。」
ピーターの笑顔のプレッシャーに耐えていますと、ピーターはジョンに呼ばれてそちらに行かれましたわ。
………兎に角作りましょう。




