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猫を助けたかっただけなのに  作者: めい


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第29話



ごきげんよう。

クロエ・カサブランカでございます。


本日は風の月18日。

Cクラスのミーティングの日のため、いつものダンデライオン邸の大広間にクラス全員集まっていますが…

どうしたのでしょう…?

皆んなの様子がいつもと違いますわ。

心なしか元気がないように見えますが…

わたくしは思い切って皆んなに理由を伺うことにしました。



「皆んな、どうなさいましたの?

元気がないように見えますが…」


「「「「「「「それが…」」」」」」」


「それが?」


「「「「「「「学年末試験がやばいんだよぉぉぉぉぉーーー!!」」」」」」」



項垂れていた皆んなが、泣きながら頭を抱えてしまわれましたわ…


…何という事でしょう。

聞けばベロニカやウィリアム(シクラメン様のお名前ですわ)、ピーターを始めとした10名程は学年末試験に対して何も問題はありませんが、クレア(ポピー様のお名前ですわ)やレイラ(パンジー様のお名前ですわ)を始めとした残りの面々が1科目以上の試験が合格点を取れる自信がないとの事です…


履修科目は自分で選択出来ますのに…

と、思っておりましたら、ちょうどわたくしの左隣に座っているベロニカが教えてくださいましたわ。


内容をきちんと確認せず、ただ面白そうという理由のみで選択してしまったり、苦手な科目が多すぎて、10科目埋めるために苦手科目の中でも比較的大丈夫そうな科目を選択したら、内容が専門的になりすぎて想定よりはるかに難しくなった授業についていけなくなってしまったり、家督を継ぐためにどうしても選択しなければならない科目であったり…等。

皆んな様々な理由でこういう事態に陥っているとの事です。


そしてそれは毎年の事であり、Cクラスに限った事ではないそうです。

ベロニカの2歳上のお兄様の学年でも、毎年クラスを問わず必ずそういった方はいらっしゃったそうですわ。



困りましたわね…


学年末試験は、選択した全ての履修科目で合格点を取らなければ、進級できなくなってしまいますわ。

できれば来年も、Cクラスの皆んなで揃って過ごしたいですし…


…提案するだけしてみましょう。



「皆んな、ご提案したい事がございますの。」


「どうかなさいましたの?クロエ。」


ベロニカが話の続きを促してくださいます。



「もしよろしければ、皆んなで勉強会をしませんこと?

ちょうど来月は冬季休暇に入りますし、皆んなで可能な限り集まって、得意な方が苦手な方に分からない所を教えれば、勉強もスムーズに進むと思うのですが…いかがでしょう?」



わたくしが提案し終えると、クレアが挙手をしながら、笑顔で賛同してくださいましたわ。


「私は賛成です!

苦手な共通語、誰か教えてください!」


「俺も!

王国史誰か教えてください!」


「僕もお願いします!」


「わたくしも!」


クレアの賛同を皮切りに、皆んな続々と挙手をしながら賛同してくださいました。

提案してみて良かったですわ。



「そうですわね…来年もここにいる皆んなでミーティングや創立祭も楽しみたいですし、わたくしも可能な限り参加しましょう。」


ベロニカも笑顔で応じてくださいましたわ。

1学年の成績しか存じ上げませんが、ベロニカは優秀な上に、努力を怠ることがない方ですもの。

参加してくださるだけで心強いですわ。



「ベロニカ…ありがとう。」


「そうだな。俺も参加しよう。

騎士の履修科目なら役に立てると思う。」


わたくしがベロニカに感謝を申し上げていますと、わたくしの右隣に座っているウィリアムも賛成してくださいましたわ。


「ウィリアムも…ありがとう。」


「……いや、当然のことだ。」


わたくしがウィリアムに笑顔で感謝の気持ちを伝えますと、なぜか目線を逸らされてしまいましたわ…

その事にひっそりとショックを受けておりますと、ベロニカから質問されました。



「あら?ちなみにクロエは大丈夫ですの?」


「わたくし?そうですわね。

選択した科目が相性が良かったのか、中間試験は全て合格点を超えておりましたし、今の所授業にはついていけていますので、このままであれば学年末試験も合格点は取れると思いますわ。」


正確にはかなり余裕で合格ラインを超えておりますが…何せ中間試験は全て満点で1位でしたので。

まぁ、嘘は吐いておりませんわ。



「そうでしたの。

ちなみにクロエは何を履修されていますの?

半分は同じ授業を受けていますが、残りの5科目は存じておりませんでしたわ。」


「そうですわね…

残りは地理、魔法薬学、魔法生物学、錬金術、店舗経営学ですわ。」


「店舗経営学?領地経営学ではなくて?

それに、将来必要ありますの?」


「面白そうだったから。とだけお答えしておきますわ。」



やはり頭の良いベロニカには気になる部分ですわよね…少し踏み込まれましたが、お友達になったとはいえ、今はまだ全てをお話しすべきかどうか判断できかねますので、曖昧な返答になってしまいましたわ。

貴族らしく、平気な顔で嘘を吐く事もできましたが、そのような事はしたくありませんでしたの。



せっかく皆んなとお友達になれたのだから、ここでわたくしの思いを正直に伝えて、協力を仰ぐべきなのでしょうか…

…いいえ。それは出来ませんわ。

お友達だからこそ、この思いは伏せるべきではなくて?

大切な皆んなをわたくしの勝手に巻き込むべきではありませんわ。

何も言わずにこの国から去るのは簡単ですが、それは皆んな(友達)に対して失礼ですし…


皆んなと出会って1年半程経ちましたが、お友達になれたのはつい先日のお話ですわ。

わたくしが将来この国を出て、自由に生きたいという夢を皆んなに聞いていただけるのであれば、自ずとわたくしが育った環境もお話する事になるでしょう。

わたくしが育った環境は、決して良いとは言えません。

身分は高いですが、家族からの愛情はおろか、会う事すら数える程で、必要なドレスの用意や家庭教師の手配、学園の入学の手配まで全て自分で行っていた16年だったなんて…

押し付けで着けられた侍女が1名いただけで、その侍女も公爵(父親)の命で退職し、その後は侍女が着けられず、日替わりで使用人が朝晩2回挨拶に来る程度で、食事の提供すら無いなんて…

突然その様なお話をされても、皆んなを困らせてしまうとしか思えませんわ。

やはり、話を聞いていただくのは時期尚早ではなくて?

それに、このタイミングで本当の事を話したとしても、皆んながどう感じるのか、わたくしには分かりませんわ。

もしも受け入れてもらえたなら嬉しいですが、受け入れてもらえなければ…その時はーーーーー



「………エ……ロエ…クロエ。クロエ!」


ーーーーーはっ!

気付けば、ベロニカに肩を揺すられておりました。

わたくしは出来る限り心を落ち着かせてベロニカに向き合います。



「ベロニカ、どうなさったの?」


すると、ベロニカは心配そうな表情で仰います。


「わたくしではなくて貴女よ。

顔色が少し悪いわ。大丈夫ですの?

先程の事が気に障ったのなら謝るわ。

ちょっと疑問に思ったから聞いてみただけで、特に深い意味はありませんでしたのよ。」


「いいえ、貴女の疑問は最もよ。

友達である貴女に嘘を吐きたくないの。

わたくしの話を聞いて欲しいと思うわたくしと、まだお話しすべきではないと思うわたくしがいて、中途半端な…心が弱い自分が…不甲斐なく…思ってしまうの…」



いけませんわ…

頭の中がぐちゃぐちゃで、整理がつかなくなってまいりました。

わたくしは気持ちを抑えながら、ベロニカにお応えするのが精一杯です。


本当は、話を聞いてほしい。

この世界で、やっと出来た友達、暖かい場所。

だからこそ、壊したくない。

わたくしは、どうしたら良い?

話すべきなのかしら…

いいえ…まだ…


わたくしを心配してくれるベロニカの優しさに触れ、嬉しくて、暖かい気持ちになります。

しかし同時に、この場所を失いたくないという思いが溢れて、怖くもなってきます。


どうすれば良いのか決めかねているわたくしに、ベロニカが何かを決意したような瞳でわたくしをまっすぐ見つめながら仰いました。



「………ねぇ。クロエ。」


「?」


「わたくしは、貴女と出会ってまだ1年と半年程ですわ。

それに、勇気を振り絞って、先日やっと貴女とお友達になる事ができましたの。」


「えぇ。」


「貴女が恐れている事はどんな事なのかしら…

わたくしがその不安を解消するのにお役に立てれば良いのだけれど…

例え力になれなかったとしても、今のわたくしが貴女に対して自信を持って言える事は、貴女を絶対に裏切らないという事と、何があっても貴女の味方である事、それに、貴女を信じる事だけだわ。」


「ベロニカ…」



ベロニカの言葉が嬉しくて、我慢していた気持ちが涙となって落ちていきます。

すると、ウィリアムも真剣なまなざしで、気持ちを伝えてくださいました。


「クロエ。俺だってベロニカと同じ気持ちだ。

今まではクラスメイトだったが、今は違う。

クロエは大切な友達だ。

辛い事があるなら力になりたいし、味方でありたい。

どんな話でもクロエの事を信じているし、例えクロエの味方となったことで俺が不利な状況に追い込まれようとも、絶対に裏切らないと誓う。」


「ウィリアム…」


「「「「「「「クロエ…」」」」」」」


「皆んな…ありがとう。」



周りを見ると、皆んながわたくしを気遣うように見つめながら、声をかけてくださいます。



ねぇ。クロエ。

貴女は1人じゃなかったね。

こんなに優しい人達が側にいてくれる。

これほど幸せな事はないわ。


今まで1人でも上手くやれていると思っていた。

家族(松岡家)の事を思い出して、寂しくないって思っていた。

それでも、楽しい事、嬉しい事、悲しい事、辛い事…感情を共有できる人は誰も側にいなかった。

今思えば、心のどこかで寂しいと思っていたのかもしれない。



皆んなの優しさに、一歩踏み出す決意が固まりましたわ。



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