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猫を助けたかっただけなのに  作者: めい


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第26話



ごきげんよう。

クロエ・カサブランカでございます。


本日は土の月5日。

創立祭5日目、最終日でございます。


わたくしは今日も後方係として、食堂の厨房にて材料の下拵えをしております。



先日作ったカレーはクラスの皆んな(と、ダンデライオン会頭)に大変好評で、あの時作ったカレーライスはものの見事に空になっておりました。

それはようございましたが、こんなに好評ならば、メニューにカレー味も入れて練習しておけばと後悔いたしました…

カレークレープなど、おかずクレープも美味しいので、きっと人気が出た事でしょう…

わたくしとした事が…惜しい事をいたしましたわ……

しかし、急にメニューを増やすのは皆んなのペースを乱してしまいますし、今でさえ、お店の人気がありすぎて注文を捌くのがやっとの状態ですので、ある意味良かったのかもしれません。

良い様に考えましょう。


ついでと言っては何ですが、本日、ダンデライオン会頭はこちらにいらっしゃっていません。

先日のカレーライスをいたくお気に召した会頭は、その日商会に戻られた後、カレー屋台のオープンに向けて準備に入られました。


その日、わたくしはカサブランカ公爵家の自室に入った後、商業ギルドへ出向き、急いでカレー及びカレーライスの権利登録を行いましたわ…


クレープ屋台は以前より開店が決定していましたので、予定通り明日からオープンとなりますが、カレー屋台も出来る限り早く開店なさりたいとのことで、一昨日より現在まで、クレープ屋台(ここ)はある意味平和ですの。



それはそうと、今はフルーツをカットしなければ…!

わたくしはリンゴのスライスに集中します。


タタタタタタタタタタッ



「ねぇレオン、何にするー?」


食堂の中庭側にある大きな掃き出し窓を開放し、その前に屋台を設置していますので、屋台のカウンター越しの声ならばある程度厨房(こちら)まで聞こえてきます。

一際間延びした大きな声が聞こえましたので、そちらに視線を移してみますと…


おや。ヒロインと攻略対象者御一行ですわ。

そういえばいましたわね。

存在をすっかり忘れておりましたが。


どうやら、今から注文する様です。

まぁ、わたくしにとってはどうでも良い事ですので、そのままリンゴのスライスに集中いたします。



「そうだな…マリナは決まったのか?」


「私はねー、モモとクリームにするー!」


「そうか…キース、カルロス、ルイ、お前たちは何にするんだ?」


「そうですね…私はシュガーバターを。」

「俺はクレープブリュレにする。」

「僕はキャラメルリンゴカスタードで!」


「じゃあ俺はイチゴクリームにするか…」


「レオン、シェアしよーよ!」


「しぇあ?とは何だ?

どの道、自分で頼んだ物は自分で食べ切らないとな。

おい、モモとクリームとイチゴクリーム、シュガーバターにクレープブリュレ、キャラメルリンゴカスタードをひとつずつだ。」


「かしこまりました。

お飲み物はいかがなさいますか?」


「アイスティーを5つくれ。」


「かしこまりました。

お会計4,400フロール頂戴します。」


「なっ…金を取るのか!?」



……はぁ?

何を言っているのでしょうか。このアホ王子は。


あまりに常識のない発言に、思わず手を止め、そちらに視線を移します。


どうやらわたくしだけではなく、後方係全員が驚いて作業の手が止まってしまった様ですわ。

つい先程まで全員が慌ただしく作業をしている音や声がしていたと言うのに、うって変わって、食堂内はしんとしています。



「えぇ…!?もちろんです。

皆さんお金を払って召し上がっておりますが…」


本日の接客係であるダンデライオン様がいち早く立ち直り、驚きながらもきちんと対応してくださっていますわ。

そりゃあ驚きますわよね……

わたくしも、仮にも王太子が、こんなに常識の無い人間だったと言う事に驚きを隠せませんわ。



「俺は王太子だぞ!なぜ金を払う必要があるんだ!!!

俺が食べてやるんだから、喜んで献上すれば良いものを!!」


わー出ました!傲慢王子!

こんなのが王太子だなんてこの国も末ですわね。

王太子だからこそ、国民の模範となるべく、常識のあるスマートな振る舞いが求められると言うのに…

王太子教育の成果が全く出ておりませんわ。

王太子教育は、学園のお勉強しか教えないものなのでしょうか?

日頃の振る舞いがこれ(・・)では、無意味ではなくて?



「そーよ!レオンに食べてもらえるだけありがたいと思いなさいよ!」


おおーっと!ここで傲慢ヒロインも参戦ですわ!

なんて常識に欠ける発言なのでしょうか!

傲慢同士でとてもお似合いですわ!!


……なんて、遊んでいる暇はありませんでしたわ。

よりにもよってこんな忙しい時に、迷惑な方達ですこと。

後ろにはまだまだたくさんの方が並んでくださっているというのに…

仕方がありません。

めんど…げふんげふん…止めに参りましょう…


わたくしが重すぎる腰を上げようとしたその時ーーー



「まぁ…レオン…このような所で何を騒いでいるのです?

はしたない。」


えっ!?

王妃殿下…と、国王陛下もいらっしゃいますわ。


アホ王子御一行の後ろから現れたのは国王陛下と王妃殿下でした。

なぜここに……


あぁ、なるほど。

お2人の後ろにうちの両親(仮)がいらっしゃいますわ。

それと8歳位の男の子が2人。

1人は見事な金髪に碧眼、王家の色を持つ男の子。

恐らく第二王子殿下でしょう。

もう1人は銀髪に青眼の男の子ですわ。

この面子から察するに、戸籍上のわたくしの弟でしょうか。


それにしましても、不思議ですわよね。

同じ家に住んでいたはずですのに、一度もお会いした事がありませんでしたもの。

まぁ、わたくしは学園に入学する少し前にマイハウスを完成させましたので、学園入学後、ナーシャの退職を機にマイハウスに拠点を移し、必要そうな時にのみカサブランカ公爵家の自室で過ごしておりますので、ここ1年半程は特に…ですが。


弟は末っ子だからでしょうか。両親や上の兄2人にもそれはそれは可愛がられて大切に育てられている様子を何度かモニターで確認しておりますのでご安心くださいませ。

わたくしの様にほったらかしになんてされていませんわ。

ゲームの設定なのか何なのか、クロエ(わたくし)だけが他の家族と疎遠というだけの事でございます。


閑話休題。



「母上!?父上もいらっしゃったのですか!?」


ざわ…っ!ざわざわ……


王太子が大きな声で国王夫妻(両親)を呼ぶものですから、周りの皆様がざついていらっしゃるではありませんか。

本当に…王太子教育を受ける事が出来る身でありながら、この10年、何をしていたのでしょうか。

ちなみにアホ王子は、未だに王太子教育の真っ只中であり、下手をしますと学園卒業後も続いてしまう可能性が出てきたそうですわ。

(これは先日のお茶会の際に、王妃殿下よりお伺いしましたの。)

王太子教育が終わらなければいつまで経っても1人で公務を担う事は出来ません。

その期間が長くなれば長くなる程、国民からは素質を不安視され、そこで挽回できなければ、廃太子となる可能性も出てきます。

その場合、第二王子殿下が立太子され、王太子教育をする事になるそうですわ。



「僕もいますよ。兄上。」


「アーサー。お前もいたのか。」


第二王子殿下が笑顔でご自分の存在をアピールなさっているのに対し、アホ王子は苦虫を噛み潰したような表情をしています。


あーちなみに、王家には3人の王子がおりまして、王太子だけが年齢が離れているせいか、第二王子と第三王子はとても仲が良いのに対し、王太子だけ他のお2人の王子と仲がよろしくありませんの。

正確には、お2人の王子はアホ王子に歩み寄ろうとなさっておいでですが、アホ王子がお2人を見下している…もしくはライバル視しているため、一方的に当たりがキツいのです。

やれやれ。

これではどちらが年上か分かりませんわ。


「今回の創立祭で、この屋台が新しい菓子を販売していると聞いたので、こうして皆で来てみましたのよ。

アーサーも8歳になりましたし、王立学園の雰囲気を知っておくのもよろしいかと思って、連れて参りましたの。」


「そうだ。くれーぷという新しい菓子がどのような物なのか、視察に来たのだ。」


「うちのクロエのクラスがこんなに斬新な事をしていたとは、親として誇らしい限りですね。」


陛下が王妃殿下のお言葉に同意した直後、10年ぶりに聞く父親(仮)の声がしました。


なーにが誇らしいのでしょうか。

正直に申し上げて、何故かクロエ(わたくし)だけあの家で忘れられた存在なのですよ?

部屋は一応ございますが、侍女は子供の頃からついてくれていたナーシャが公爵の命令で結婚したため、今は手が空いた者が様子を見にくる程度で食事すら用意されておりません。

わたくしとしましてはとても都合が良いのですが、こんな扱いを他の貴族令嬢が受け続ければ、耐えられないでしょうし、性格も変わってしまうのではないでしょうか?


もちろん、両親とまともに会話をしたのも6歳の誕生日の、あの時のみですわ。

それ以降は会ってすらいません。

弟が生まれたのはカサブランカ家を出る前でしたが、他の家族は出産の立ち会いを許されたのに、わたくしは呼ばれすらしませんでした。

後日、侍女のナーシャから弟が産まれた事を聞き、会いに行こうと試みましたが、何故か使用人を介して家族からやんわりと断られ続けましたため、もう諦めましたわ。


「カサブランカ嬢、行かなくても大丈夫なのか?」


隣でジンジャーエール用のショウガをスライスしていらしたシクラメン様が心配そうにそうおっしゃいましたが…


「えぇ。大丈夫ですわ。

あの場は自ずと収まるでしょうし…

…心配してくださって、ありがとうございます。」


きっと、わたくしの表情から何かを察してくださったのでしょう。

心配してくださっている事が感じられて、とても温かい気持ちになりました。


Cクラスの皆さんのおかげで学園生活が思いの外楽しくて、この楽しい学園生活を邪魔されたくないという思いから、基本的にわたくしが関わりたくないと思っている方に対しては、学園内ではわたくしの存在を認識できない認識阻害が自動でかかるようにしております。

ですので、件の集団はわたくしが目の前に現れたとしても、わたくしの存在を認識できない、というわけです。


そうこうしている間に、国王陛下御一行はクレープとドリンクを注文し、お付きの侍従長に精算させ、ご自分達はとっとと席に着いています。



「カサブランカ様。」


「委員長。どうされました?」


「えぇ。貴女のお父様である公爵閣下が、貴女を呼んで来て欲しいと仰っているのですが…」



はぁーーーーーっ………めんどくさい。




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