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猫を助けたかっただけなのに  作者: めい


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19/31

第18話



ごきげんよう。

クロエ・カサブランカでございます。


本日は花の月18日、第3安息日のため学園はお休みです。

王宮でのお茶会も、王妃殿下よりご招待を受けておりませんので、予定しておりません。

ただし、今後第3安息日にご招待いただいた場合はお断りさせていただきますけれど。



時刻は午後12時。

わたくしは今、クラスメイトのダンデライオン様のタウンハウスにお邪魔しております。

本日は、先日のホームルームで決定したクラスの皆んなで集まる日です。


王立学園の生徒数はひと学年120名の4クラス。ひとクラスの生徒数は各30名でございます。

わたくし達Cクラスは誰1人欠けることなく2学年に進級することができましたので、今ここに集まっているのは30名。

応接室ではもちろん入りきらないため、前世でいう学校の体育館程の広さがある大広間の手前3分の1程のスペースに、ソファやテーブルを設置しての話し合いになります。


さすがは国内最大手商会会頭のタウンハウス。

タウンハウスと言っても、貴族の邸宅に引けを取らない規模のお屋敷ですわ。

この大広間も、ソファやテーブル、シャンデリア等、調度品も全て素晴らしいものばかり揃っており、下手な貴族の邸宅よりよっぽど豪奢でセンスの良い空間となっております。


そして時間がお昼時ということもあり、皆で持ち寄った軽食やお菓子を頂きながらの話し合いとなります。



「それでは皆さん、第1回のCクラスミーティングを行います。

まずはダンデライオン様、このような素敵な場所をご提供頂きまして、本当にありがとうございます。

そして皆さん、本日はお集まり頂き、ありがとございます。

素敵なお土産もご提供頂き、併せて御礼を申し上げます。」


パチパチパチパチ


ラナンキュラス委員長のご挨拶に、クラス全員が笑顔で拍手をして応えます。


「それでは早速、土の月に行われる学園祭の出し物について、何かご意見がある方は挙手をお願いいたします。」


「はい!」


「はい。ポピー様。」


「去年と同じで、レモネードの屋台が良いと思います!」



委員長の進行に対し挙手をなさったのはポピー様。

明るい茶色のセミロングペアに、赤みがかった茶色の瞳、少し小さめの身長がとてもお可愛らしいご令嬢です。

ご実家は男爵家でございますが、とても気さくな方で、Cクラスの元気印ですわ。

今も元気いっぱい、積極的にご自分の意見をおっしゃっています。



そうそう。

今更ですが、このフローレン王国はその名の通りお花が有名な国ですので、国民の家名は全てお花や植物の名前か、それに関連する名前になっております。

わたくしの家名もカサブランカ、百合の品種でございますしね。



「はい!」


「ベルガモット様。どうぞ。」


「去年と同じじゃつまらないし、俺は別の出し物が良いと思います!」


ポピー様の意見に反対するのはベルガモット様。

こちらは子爵家の御令息。

深緑色の短髪に茶色の瞳が特徴の、潑剌とした方ですわ。



「確かに…じゃあベルガモット様は何か案があるのですか?」


「うっ…そっそれは…」


ポピー様が納得しつつもベルガモット様に案をお聞きしましたが……何もなかったのですね…



「他の皆さんはいかがでしょう?」


「去年と一緒は嫌だけど、他のって言われると…」

「確かに…」

「浮かばないよね…」


しーーーーーーーーん


あらあら。

皆さん黙ってしまいましたわ。

皆さん意外と案は無かったのですね…

採用されるかどうかは分かりませんが、わたくしが考えた案を言うだけ言ってみましょう。

場が静まり返る中、わたくしは挙手をします。



「委員長。」


「はい。カサブランカ様。どうぞ。」


「ひとつ確認したいのですが、クラスの出し物はテイクアウトの屋台が望ましいのでしょうか?」


「そうですわね…別の形でも良いとは思いますが、何か案があるのでしょうか?」


「えぇ。2つ案を考えて参りました。


一つ目はクレープ屋台です。

クレープは片手で食べられますので、これは去年同様テイクアウトの屋台でできるかと思います。


二つ目はパンケーキ屋です。

パンケーキはプレートで食べる物ですので、こちらはテイクアウトはできません。

食べるスペースを確保し、テーブルと椅子を設置し、当日は注文を受け、調理し、提供、下膳まで分担して行います。」


「くれーぷ?ぱんけーき?初めて聞く物ですが、それは食べ物…という事で合っていますの?」


わたくしの提案に、委員長をはじめ、皆さん不思議そうな表情をなさっています。

それもそのはず。

この世界に、クレープとパンケーキは存在しておりませんもの。

委員長が未知の物の正体を確認するため、わたくしに質問なさいましたので、わたくしはクレープとパンケーキを調理してお見せできればと思い、ダンデライオン様に尋ねてみることにしました。


百聞は一見にしかずと言いますしね?



「えぇ。どちらも甘い食べ物ですわ。

そうですね…説明するより実際にご覧いただいた方が早いかと思いますので、ちょっと作ってみましょうか。

ダンデライオン様、調理台をひとつご用意頂くことは可能でしょうか?

それと、可能であればこちらの材料のご準備もお願いしたいのですが…」


「分かりました!

家の者に用意させます。

ちょっと待っててください。」


わたくしがクレープとパンケーキ、それぞれの材料を書いたメモをお渡しすると、ダンデライオン様はメモの内容に目を通し、そのまま家令に指示を出してくださいました。


程なくして、調理台と調理器具、そして材料が大広間の一角に運び込まれました。


わたくしはマイ道具を鞄の中(に、仕込んだ亜空間収納)から取り出し、まずはクレープ用の丸い鉄板を魔導コンロの上に乗せます。


なぜ道具を持っているのかと申しますと、実は前世のわたくし()は、甘い物が大好物でしたの。

ロディに記憶を持ったまま転生させていただきましたが、どうやら食べ物の嗜好もそのまま引き継がれたようです。

転生した今(クロエ)でも、甘い物が無性に食べたくなってしまいますの。

マイハウスが完成してからは前世で食べたスイーツを食べたくて、インターネットで作り方を調べ、ネットショッピングで道具を揃え、作って食べての至福の時間を過ごしておりますわ。


ほほほ。



頂いた材料で生地を作り、トッピング用のカスタードクリームを作り、ホイップクリームと合わせます。

鉄板が適温になりましたので生地をお玉一杯分乗せ、トンボで薄く伸ばします。


「わぁ!」

「すごいな…」

「甘い香りがしますわ…」

「すごく良い匂い…」


皆んなの反応も上々ですわね。


生地が焼けましたので、絞り袋に入れたクリームを三角に絞り、三つにたたみ、扇状にします。

ワックスペーパーで巻き、固定しましたら、生地上部の重なった部分を開き、またクリームを絞り入れます。

クリームの表面を平らに均し、表面にお砂糖を少々振りかけます。

いつもはグラニュー糖を使用しているのですが、この世界にはグラニュー糖が存在しませんので、お砂糖で代用します。

これを、30個作ります。



「ふぅ…どなたか、火魔法が得意な方はいらっしゃいますか?」


「はい!」

「俺も。」

「わたくしも得意ですわ。」

「僕も得意です!」


何名か立候補してくださいましたわね。


「それではこの表面に、小さく火魔法をかけてください。

軽く炙るイメージです。

表面にお砂糖をまぶしておりますので、色が変わりますの。

あまり強くやりすぎると炭になってしまいますので、本当に軽くで大丈夫ですわ。」


「はっはい!」

「分かった。」

「分かりましたわ。」

「軽く…軽く…」


本当はわたくしも火魔法を使えるので、自分で作って食べる時は自分で火魔法を使って炙っておりますが、一応水魔法しか使えないという事にしておりますので、ここはクラスメイトにお願いします。


4人とも得意なだけあって、全てのクレープを綺麗にキャラメリゼしてくださいました。


「さぁ、こちらで完成です。

皆さん、どうぞ召し上がってみてくださいまし。」



無事にクレープは完成し、全員にひとつずつ行き渡った頃を見計らい、皆んなに声をかけます。



「「「「「頂きます!!!」」」」」


揃って元気に挨拶をし、皆んな一斉に食べ始めました。


カリッ…もちっ…


「うっまーーーーー!」

「何これ!?美味しい!」

「美味いな。」

「こんなに美味しいお菓子、初めて食べましたわ!!」

「甘いのに上のカリカリした所がほろ苦くて、アクセントになってますわ!」

「外側の部分もパリッとしているのにもちもちしていて美味いぞ!」

「この黄色いクリームも滑らかで風味が豊かだよ!」


ほっ。

皆んなの反応は上々のようですわね。


今回は材料の関係と個人的主観により、クレープブリュレを作りましたの。


実はこの世界、お菓子といえば簡単なクッキーかケーキくらいしか存在しておりません。

しかもケーキはふわふわのスポンジではなく、よく言えばしっとり、悪く言えばねっちょり…な食感の、わたくしから言わせていただくと、謎のケーキのみなのでございます。

使っている材料は前世と変わらないはずですのに…

しかもケーキにはホイップクリームではなく、ジャムを塗って食べるのが主流です。

生クリームは存在はするのですが、牛乳が悪くなった物というイメージが強く、捨てられている事が多いのが実情です。もったいない。

ちなみに前世での生クリームは、生乳から遠心分離機で乳脂肪分を分離、濃縮し、殺菌、均質化して作られるそうですが、この世界では、牛の乳を搾ると二層に分かれまして、下の層が牛乳、上の層が生クリームという、なんともありがたい仕様になっておりますので、比較的入手は簡単ですの。

よって、先程ダンデライオン様に材料の調達をお願いした際、スムーズに揃えて頂けたというわけです。


「今回は取り急ぎ作りましたので、この味になりましたが、例えば果物等を入れても美味しいですし、味も変わってバリエーションが広がりますわよ?」


本当はチョコレートやバナナなんかも入れたい所ですが、チョコレートはこの国から遠く南西にあるサンドデザート国で収穫できるカカオを入手し、加工しなければなりませんし、バナナも遠く南に存在するレインフォレスト国でしか栽培されておりませんので、正攻法での入手は難しい上、創立祭で提供するのはーーーーー


「それは素晴らしい!!!」


ーーーーーん?


「父上!!!勝手に入らないでくださいよ!」



急に入ってきたおじ様に対し、ダンデライオン様が焦ったように制します。

父上…ということは、ダンデライオン様のお父様、ダンデライオン商会の会頭ですか。


「ピーター、これはビジネスチャンスなんだよ。

このくれーぷとやらは確実に売れる!

上手くやればこの世界で一大ブームを起こすことだって出来るかもしれないんだ!

この機を逃しては商人の風上にも置けんぞ!」


確かに、今までに無かった斬新なスイーツですものねぇ…

そう思われるのも仕方ありませんわ。


ちなみに、ピーターというのはダンデライオン様のお名前です。とても今更ですが。

そんな全く関係のない事を考えていましたら、ダンデライオン会頭が目にも止まらぬ速さでわたくしの目の前にやってきました。


「お初にお目にかかります。レディ。

私はダンデライオン商会の会頭を務めておりますトーマス・ダンデライオンと申します。

貴女が作ったこのくれーぷという菓子について、是非ご相談したい事がございます。

宜しければ別室で席を設けますので、お話いたしませんか?」


すごい勢いですわね…

クレープにビジネスチャンスを見出してくださっているのは嬉しい事ですが、今じゃないんですよねぇ…


「ご丁寧にありがとうございます。

わたくしはカサブランカ公爵家令嬢のクロエと申します。

以後お見知り置きを。

せっかくのお誘いではございますが、生憎今はクラスのミーティング中でございますの。

後程席を設けて頂けますと幸いですわ。」


会頭の勢いに押されそうになるも何とか耐えつつ、商談のタイミングは今ではない旨をお伝えします。


「これは大変失礼を。

非礼をお詫びいたします。

では後程改めてご相談の席を設けますので、その際は是非よろしくお願い申し上げます。

ミーティングが終了後、ピーターにお声がけいただければ応接室まで案内させます。」


「かしこまりました。

ではミーティングが終わりましたらダンデライオン様にお声がけいたしますわ。」


「ありがとうございます。

心よりお待ちしております。

ピーター、ご案内を頼んだぞ。」


「はい、父上。」


「それでは私はこれで。

ミーティングのお邪魔をして申し訳ございませんでした。

皆様も、貴重なお時間を頂戴しましたこと、心よりお詫びいたします。

どうぞごゆっくり。」


そう言って、ダンデライオン会頭は大広間から出て行きました。

嵐の様な方でしたわね…


「皆んな、父上が迷惑をかけてすまない。

ミーティングの続きしようぜ!」


「「「「「「「おー!」」」」」」」



ダンデライオン様は、ご自分のお父様の非礼を皆んなに詫びましたが、皆んなも特に気にしていない様で、そのままクレープの試食に戻りました。


「カサブランカ嬢も、父上が申し訳ない。

ミーティングが終わったら応接室に案内するよ。」


「いいえ。大丈夫ですわ。お気になさらず。

こちらこそ、ご案内よろしくお願いいたしますね。」



ダンデライオン様はそのままご丁寧にわたくしにもお詫びしてくださったため、わたくしは笑顔で応えておきましたわ。




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