第14話
ごきげんよう。
クロエ・カサブランカでございます。
現在の時刻は午後1時。
ダンスホールにて、マナーの試験が始まります。
ダンスの授業用の正装に着替えた1学年の生徒全員がダンスボールに集合し、マナーの先生より試験の概要と注意事項について説明を受けた後、Sクラスの皆様はダンスホールに待機、その他のクラスの皆様はそれぞれのクラスの控室へと移動します。
マナーの試験はペアを組みダンスを行います。
エスコートからダンスを終了するまでの間、ダンスのみならず、所作も見られます。
また、控室での態度、所作も採点の対象となります。
試験監督として数名の先生が、ダンスホール、各クラスの控室にそれぞれいらっしゃいますが、先生方のみですと、全員に目が行き届かなかったり、採点のばらつきが出てしまいますので、より採点を公平にするために、記録の魔法(わたくしが以前使用した録画と同じですわ。)を、ダンスホールや控室等、さまざまな場所で使用し、生徒の様子をチェックしていらっしゃいます、
クラス毎にダンスホールでダンスを披露し、最初はSクラス、次にAクラス、Bクラスと続き、最後はCクラスの順番です。
ダンスを終えましたら、各々エスコートにて控室に戻り、他のクラスが試験を終えるのを待ちます。
わたくしはCクラスですので、ダンスを終えましたらパートナーのエスコートにてダンスホール内の指定された壁際へ向かい、待機いたしますが。
一応、王太子妃教育をほぼほぼ終えた身といたしましては、この試験は全力で臨みませんと、後々何を言われるか分かりませんので、気を引き締めて参ります。
「Cクラスの皆様、ダンスホールへ移動してください。」
試験監督の先生がCクラスの控室のドアを開け、移動を指示なさいました。
わたくしもペアのクラスメイトにエスコートしていただきながらダンスホールへと向かいます。
ダンスホールに着き、クラスの皆がそれぞれ配置に着きます。
♪〜
課題曲のワルツが始まりました。
王立学園というだけあって、ダンスの授業、試験の際は王宮のパーティーさながら、楽団の生演奏で踊ります。
わたくしのパートナーのクラスメイトは、伯爵家のシクラメン様でございます。
意外とそのま…げふんげふん…素敵なお名前ですわ。
灰色の髪にアメジストのような紫色の瞳を持ち、背が高く細マッチョなイケメンさんでございます。
シクラメン様は伯爵家の三男とのことですが、将来は騎士を志望されています。
シクラメン様曰く。
「シクラメン伯爵家は要職を持っていないから、領地の運営ができる嫡男がいれば問題ない。」
とのことです。
ちなみに、先程のトーナメント戦では総合2位になられた実力者でございます。
無事に進級できれば騎士志望の方が選択される科目を中心にカリキュラムを組まれる予定だそうですので、進級後はお会いする機会は少なくなりそうですわ。
♪〜
「シクラメン様、先程のトーナメント戦は見事でございました。
準決勝でのブーゲンビリア様との試合は、惜しかったですわね…」
「ありがとう。カサブランカ嬢。
決勝でブーゲンビリア殿が反則行為を犯すとは意外だった。」
シクラメン様は運動神経もリズム感もとても良く、ダンスに余裕がおありのようですので、曲の邪魔にならないよう、シクラメン様にだけ聞こえる小さな声で話しかけます。
もちろん、お互いにステップはきちんと踏んでいますわよ?
実はシクラメン様、最初は素っ気ない対応が多く、近寄りがたい印象のお方でしたが、慣れてからはCクラスの皆んなに対しては気さくに接してくださるようになりました。
今もわたくしの会話に合わせてくださっています。
あの後、騎士団長令息は先生方に反則行為がバレまして、失格となりました。
ちなみにヒロインも。
あんなにあからさまな手口ですもの、バレるのは当然でしょう。
しかし、反則行為を犯してしまったとしても、騎士になるための道が完全に断たれた訳ではございません。
再試験を正々堂々と受け、尚且つ上位3名までに入れば、騎士の専門履修科目の選択は可能になります。
ただし、反則行為を犯したという前科がつきますので、騎士道精神を重んじる騎士志望の方が多い科目の授業では、周りからの当たりは辛いものとなり、茨の道となりそうですが。
シクラメン様は準決勝で騎士団長令息と対戦し敗れ、その後の3位決定戦で勝利なさいましたが、騎士団長令息の失格を受け、繰り上げで2位となりました。
ちなみに、優勝はあの大怪我をした彼ですわ。
「シクラメン様と対戦された時は、反則行為は無かったように見えましたが…」
「確かに。俺との試合ではあんな物持って無かったな…
決勝では苦戦していたようだが、正々堂々と戦っていれば、どちらに転んでいたとしても成績優秀者だったのに、惜しいよな。」
「そうですの…
本当に、惜しい事をなさいましたわね…」
実力は十分にあったはずですわ。
反則行為をせず、正々堂々とルールを守って戦っていれば、茨の道を歩むことにならなかったでしょうに。
反則行為がバレた以上、父親である騎士団長の耳にも入るはずですわ。
正々堂々と戦う事を良しとする騎士道精神の持ち主で有名な騎士団長の事、特大の雷が落とされた後、失望されそうですわね。
例え正々堂々と戦って負けたとしても、残念がられるかもしれませんが、失望されることはないと思います。
♪〜
曲が終わり、挨拶をして、エスコートを受けながらダンスホールの中央から壁際に移動いたします。
ダンスホール入口の扉が開かれ、Cクラスが試験を受けている間、控室で待機していらしたSクラス、Aクラス、Bクラスの皆様が入場し、壁際に移動されました。
「皆さんお疲れ様でした。
以上をもちまして、マナーの試験を終了いたしーーーーー」
「きゃあっ!」
ダンスホールの中央で、マナーの先生が試験終了を告げていらっしゃるまさにその時、突然ダンスホール中に響き渡る程の悲鳴が上がりました。
「ひどい…」
視線を向けると、ヒロインが床に倒れていて何か呟いています。
近くにはエスコートしていたであろう王太子と黒髪のご令嬢、そしてそのご令嬢のパートナー役であろう宰相令息がいます。
3人共、あっけに取られた顔をしていますわ。
「………マリナ?」
「クロエさん…ヒドい…
急に突き飛ばすなんて…
あたしが殿下とペアだからって、嫉妬してこんなことするなんて…」
は?…今なんて?
静まり返ったダンスホールの中、呆気に取られつつも王太子が何とかヒロインの名を呼びますが、ヒロインはそれを無視し、上半身だけを起こし、いわゆる横座りの態勢で、悲痛な表情を浮かべながら驚くべき発言をしだしました。
「あの…アンスリウム様…大丈夫ですの?
わたくし、カサブランカ様ではございませんが…」
お相手のご令嬢が顔を引き攣らせながらも冷静に反論しています。
きっとドン引きしていることは間違いないでしょう。
わたくしもドン引きしておりますから。
むしろ、ダンスホールにいる全員が引いていると思いますが。
「そんな…!クロエさん…!
いくら現実が受け入れられないからと言って、嘘はいけないわ…!」
お相手のご令嬢が否定しているにも関わらず、ヒロインは信じようとしません。
それどころか、瞳を潤ませ、ご令嬢の間違いを正そうと説得する始末。
今のお言葉、そっくりそのままあなたにお返しして差し上げたいですわ。
わたくし、ヒロインから少なくとも10メートルは離れた場所におりますのよ?
ここから魔法や道具を使わずにどうやってヒロインを突き飛ばす事が出来るのでしょうか?
どなたか教えてくださいまし。
「マリナ…大丈夫か?
彼女はソフィア・モーニンググローリー嬢。
クロエではない。」
「………え?」
「…わたくし、貴女と同じSクラスのソフィア・モーニンググローリーと申します。
以後、お見知り置きを。」
そう言って、美しいカーテシーを披露するのはソフィア・モーニンググローリー様。
黒いウェーブがかったロングヘアに、青い瞳が特徴的なスレンダーなご令嬢です。
モーニンググローリー家は、代々優秀な文官を輩出している名門伯爵家の内のひとつです。
ソフィア様も例に漏れずSクラス。
きっと優秀な方なのでしょう。
それにしても…学年末になると言うのにクラスメイトの顔も覚えていないとは…
よっぽど攻略対象者しか眼中にないのでしょうか。
それとも、ゲームのクロエと同じ特徴を持つご令嬢だったから、ゲームのようにいじめられていると周囲にアピールするために、濡れ衣を着せようとしたのでしょうか?
どちらにせよ、ソフィア様とわたくしへの迷惑行為でしかございません。
不愉快ですわ。
「あっ…えっ?同じクラス???」
「えぇ。先程もご一緒に試験を受けましたし、控室でもご一緒でしたわ。」
あまりに戸惑うヒロインに対して、ソフィア様はそれはそれは素晴らしい笑顔でご指摘を重ねていらっしゃいます。
ヒロインは周りが見えていない…いや…見ていない事は確かなようですわね。
「あ…あはははははは!
ごめんなさい!人違いでした!」
先生の試験終了のお言葉を遮ってまでソフィア様に冤罪をなすりつけようとしていたのに、笑って誤魔化すだけで終わらせようとは…
「マリナ・アンスリウムさん。」
「あ、はい。」
「後程、お話がございます。
貴女はここに残るように。」
マナーの先生がそれはそれは素晴らしい笑顔でヒロインに居残りを命じられました。
これでヒロインはマナーも再試験確定ですわね。
マナーの先生の前で堂々とこのような失態を犯したのです。
当然といえば当然ですけれど。
少し溜飲が下がりましたわ。
「そんな!」
「他の皆さんはこれで試験終了ですので、退場していただいて結構です。
皆さん、お疲れ様でした。」
「「「「「「「ありがとうございました。」」」」」」」
先生にご挨拶した後、皆様しっかりとペアで退場していきます。
もちろん、わたくしも。
王太子のみ、ひとりでの退場ですけれど。
兎にも角にも、学年末試験は終了いたしました。




