第13話
ごきげんよう。
クロエ・カサブランカでございます。
わたくしは今、マイハウスで、学年末試験のお昼休憩をとっている所です。
やはりマイハウスが一番落ち着きますわ。
まずはお風呂に入ってさっぱりしましょう。
リビングから寝室前の廊下を通り、奥のバスルームへと向かいます。
あまり時間がないのでシャワーで済ませます。
シャワーを浴びてバスルームからその隣に設置した個室に入り、ボタンを押します。
ふわぁっ…
ここは火魔法と風魔法を組み合わせて作ったドライヤー室。
この部屋に入ってボタンを押すと、一瞬であたたかく柔らかな風が吹き、全身の余分な水分を乾かしてくれます。
パタン
さぁ、お風呂に入ってさっぱりしたことですし、お昼にいたしましょう。
「[観察]」
ヴォン
わたくしは早々に棄権したしましたので自由時間ですが、体術の試験はまだ続いております。
試験会場の様子を見るために、観察でモニターを表示させておきます。
『うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
おおぅ…
騎士団長の息子か…ゴツいなぁ…
そして勢いがすごい…
騎士団長令息のカルロス・ブーゲンビリアは、騎士団長を歴任するブーゲンビリア伯爵家の長男です。
黒い短髪に黒い瞳で、父親である騎士団長譲りの恵まれた体格をしています。
本人も騎士を目指しているようで、毎日鍛錬を欠かさないそうです。(風の噂で耳にいたしましたわ)
相手も同じようなタイプですから大丈夫そうですが、わたくしはあのゴリマッチョと素手で戦うのは御免ですわ。
午後の試験に遅れないよう、状況を観察しながら昼食を準備します。
本日の昼食は、昨日作って亜空間に収納しておいたオムライスとコンソメスープ、それからサラダですわ。
コンソメスープは市販品をお湯で溶かしたものですけれど。
「いただきます。」
んっ!このオムライス、上手く出来ましたわ!
チキンライスはわたくし好みの味付けに出来ましたし、卵はふわふわとろとろに仕上がりました。
大成功ですわね。
サラダのドレッシングは市販品ですが、こちらもわたくし好みの味で、新鮮なお野菜と一緒にいただくと、とても美味しいですわ。
コンソメスープも安定の味で、ホッとします。
「ごちそうさまでした。」
わたくしが昼食を食べ終えても、まだ決着はついていません。
さすが決勝戦…
お相手も相当鍛えていそうですし、まだかかりそうかしら?
そう思いながら、ゆったりと食後のお茶を飲んでいると…
ガッッッ!!
「えっ!?」
『ぐぁぁぁぁぁ!!!』
ドサッ!
『勝者!カルロス・ブーゲンビリア!』
『うおおおおおおおおっ!』
モニターには、勝者を告げる先生と、雄叫びを上げる騎士団長令息が映っていますが…
ちょっ!?あれ、ヒロインが持っていた小刀と同じ物ではなくて!?
ヒロインが持っていた物は、あの時先生方が回収していらっしゃったから…まさかもうひとつ持っていたということですの!?
お相手の方は…まずい!
こめかみから血を流していますわ!!!
早く治療しないとーーーー
『カルロス!すこーい!さすがだわ!!!
あ、大丈夫ですか?
今、治してさしあげますね。ヒール!』
ヒロインがコート内に入り、笑顔でカルロスに抱きつきながら祝福の言葉を送り、すぐさま笑顔のままで負傷した対戦相手に振り向いて治癒を行使します。
このシーン…
カルロスルートのイベントでしたかしら?
だとしても、ゲームでは実力で優勝していたはずですが…
『ううっ!』
『あれ?おかしいわね…ヒール!ヒール!!
何で!?全然治んない!!!』
『どけ!早く医務室へ!!!』
『あっ!ちょっと!ここであたしが治して好感度上げる所なんだから、邪魔しないでよ!!』
ヒロインが何度も治癒を唱えますが、対戦相手の彼の容態に変化はありません。
痺れを切らした先生が怪我をしている彼を搬送しようとしますが、ヒロインがそれを阻みます。
それにしても…
好感度を上げるシーンって…薄々思っておりましたけれど、ヒロインも転生者で間違いなさそうですわ。
『邪魔なのはお前だ!
処置が遅れたらどうしてくれるんだ!』
『だから今治すって言ってるでしょ!!!
見てなさいよ!
ヒーーール!!!』
…しーーーーーーーーーーん
ヒロインが対戦相手の彼に向かって両手を伸ばして叫びますが、依然として容態に変化はありません。
それどころか…
『いかん!出血がひどくなっている!
早く医務室へ!!!急げ!!!』
『あっ!ちょっと!待ちなさいよ!』
良かった…彼は無事に運ばれていきましたわ。
しかし、疑問点がひとつ。
ゲーム設定では、ヒロインは聖属性魔法が得意で、このシーンでも簡単に対戦相手の怪我を治していたはず…
まさか、このヒロインは魔法を使えないのでしょうか?
兎にも角にも、あの彼の怪我の具合が心配ですわ。
画面をもうひとつ増やしましょう。
「[画面追加]」
ヴォン
最初に表示したモニターの右横に、追加のモニターを出現させます。
『先生!急患です!!!』
『急患?どうなさいました?』
『体術の試験のトーナメント戦で相手にこめかみを切りつけられたようです!!!
搬送を邪魔する者がいたため、遅くなりました!!
最初は意識がありましたが、搬送が遅くなったため出血が多くなり、今は意識を失っています!!!』
『なっ!!
すぐに治癒魔法を使います!!!
[治癒]!!!』
「[治癒]!!!」
パァァァァッ!!!
『う…っ!
あれ?痛くない?』
『急に起き上がって大丈夫か!?』
『はい。もう何ともありません。
先生、ありがとうございました。』
『いや…私は……』
無事に意識が戻り、傷跡も綺麗に消えた彼は、勢い良く先生に頭を下げ、御礼を言いました。
御礼を言われた先生はイマイチ要領がつかめていない様子。
それもそのはず。
あの先生は治癒魔法を使えますが、あそこまでの怪我を治せる程、魔力は高くありません。
そこはゲームの設定と同じようです。
先程は、先生が治癒を唱えたタイミングに合わせて、わたくしも治癒を使ったため、この彼は回復出来ましたの。
『もー!何で!?
何でヒール使えなかったの!?』
無事に怪我人が回復し、ほっとしたのもつかの間、最初に表示したモニターから聞こえたヒロインの声で、存在を思い出しましたわ。
ヒロインは、お得意の聖属性魔法が使えなかったことにご立腹のご様子です。
ちょっと失礼して、ヒロインのステータスを見てみましょう。
「鑑定」
ブォン
観察のモニターとは別に、鑑定内容のモニターを表示させます。
名前 マリナ・アンスリウム
職業 伯爵令嬢 王立学園1学年Sクラス
年齢 16歳
体力 3,000
魔力 10
魔法属性 聖
固有スキル 魅了
称号 前世の記憶を持つ者
えっ!?
魔力10!?
わたくしのように隠蔽している訳ではなく、本当にこの数値で間違いありませんのよね!?
もしそうだとしたらこの方…魔法の訓練を一切していなかったのかしら…
ちなみに、魔力10はこの世界では0歳児の平均値ですわ。
わたくしはロディのおかげで生まれた時から魔力が♾️ですが、魔力は鍛錬を積まなければ基本的に上がることはありません。
それでも個人差はございますので、生まれた時のスタート値や成長速度、限界値等、十人十色ではございますが。
体力も低いですわね…
ゲームでもそうでしたが、実際も、14歳まで平民として生活していたと風の噂で耳にしました。
平民ですと、貴族のようにどこへ行くにも馬車を使用したりしませんわよね?
遠くへ移動するならば辻馬車などを利用するかと存じますが、王都内ならば徒歩での移動がほとんどでしょうに。
日常生活を送る最低限の体力しかございませんのね…
一体どういうことでしょう?
そして、やはり転生者でしたわね。
まぁここは予想通りでしたが。
気をつけるべきなのは、固有スキル。
魅了持ちですか…
攻略対象者達と仲良くしている噂は耳にしておりましたが、てっきり順調に攻略を進めているものだとと思っておりました。
ヒロイン補正か単純に仲良くなっているか…そう予想しておりましたが…
魅了を持っているとなると、魅了を使って攻略している可能性も出てきましたわね。
それならイレギュラーが起こっても、スキルを使用しながら瞳を潤ませ、対象者を見つめるだけで、たちまち自分の意のままにできますし、簡単に攻略出来そうですわ。
まぁ、わたくしのように魅了が効かない人間も存在しますが、ゲームの攻略対象者はもれなくかかるでしょう。
今のわたくしのステータスはこちらです。
実質年齢と体力くらいしか変化はございませんが、体力面でいうと同じ年の方より少しあるくらいですわ。
毎日とはいきませんが、運動はしておりますから。
名前 クロエ・カサブランカ
職業 公爵令嬢 王立学園1学年Cクラス
年齢 15歳
体力 30,000
魔力 ♾️
魔法属性 水・火・土・風・光・闇・聖
固有魔法 転移・空間・隠蔽・浮遊・鑑定など
イメージしたものなら何でも使用可
固有スキル インターネット
ネットショッピング
称号 創造神の加護
女神アフロディーテの愛し子
前世の記憶を持つ者
フローレン王国王太子の婚約者
ちなみに、王立学園の1学年の括りは、日本と同じで、花の月(4月)生まれから陽の月(3月)生まれとなります。
ヒロインとわたくしの年齢が違うのは、誕生日の違いによるものですわ。
閑話休題。
食器を洗い、乾燥させ、棚にしまいます。
洗面台に移動し、歯磨きをします。
ヒロインが転生者…というのは親近感が沸きますが、だからといって、先程の振る舞いを見る限り、仲良くなれそうな気はしませんわね…
仲良くなりたいとも思いませんでしたけれど。
さて。
歯磨きも終えましたし、そろそろマナーの試験に向けて準備を始めませんと。
学園に戻りましょう。
「[転移]」
シュンッ
スタッ
先程のレストルームの個室に着地し、ドアを開け、周囲に人の気配が無い事を確認し、素早くその場を後にしました。




