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ここにいる証 一調律する隠された王子と八色宝石ー  作者: 小藍
第2章:例外の子どもたち
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第7話 八色の輪




森の空気は、ようやく落ち着きを取り戻していた。

さっきまで小さく震えていた枝葉も、今は静かに吹く風に揺れるだけだ。

ルチェは、ぺたりと地面に座り込んでいた。


「……こわいの、なくなった?」

「多分な」


リューセイは短く答える。

まだ胸の奥がじんわりと熱い。

あの時、確かに何かが流れた。

足元から、ふんわりと。

内側に向かって。


「…………」


あれが、何だったのか。

わからない。

うまく、言葉が出てこない。

ただ――


「なおった!」


ルチェは嬉しそうに言った。


「おにいちゃん、なおした」

「俺がやったわけじゃない」


リューセイは苦笑する。

本当に、よく分からないのだ。

見えた亀裂。軋んだ結界。

それにただ、触れただけ。

合わせただけだ。

それだけでーー

あの歪みは、消えた。


ルチェは嬉しそうにしたまま、自分の手首を見た。

そこには小さなブレスレットがある。

八つの宝石。

森の光を受けて、淡く輝いていた。

リューセイの視線も、自然とそこへ落ちる。


「それ」

「うん」

「さっき、光ってたよな?」


ルチェはこくりと頷いた。


「うん。あったかかった」


指で宝石を一つ触る。


赤。ルビー。


「これ、メディねえちゃん」


大地色。ガーネット。


「こっち、アルマにいちゃん」


淡いピンク。ローズクォーツ。


「おかあさん」


さらに指は続く。


琥珀。アンバー。


「これ、ルチェ!」


ルチェはそこでにっこりと笑った。

リューセイは、少し眉を上げる。


「家族の石、か」

「ううん」


ルチェは首を振った。

小さな手が宝石を包む。


「みんな、これもってるの」

「……は?」

「メディねえちゃんも、アルマにいちゃんも」

「みんな!」


ルチェは真面目な顔で言う。


「はちこ、ある」


リューセイは黙る。

家族全員が持っている。

八色の宝石で作られた腕輪。

つまり――


「同じもの?」

「うん。でも」


ルチェは少し首を傾げた。


「つながるの、ちがう」

「……どういう意味だ」


リューセイは頭を抱えた。

ルチェの言わんとしている事が、わからない。

ルチェは、宝石を掲げて。


「これね」


琥珀が少しだけ光を弾く。


「つながる」

「…‥繋がる?」

「うん」


ルチェは楽しそうに言う。


「でも、だれか」

「えらべない」


リューセイは腕を組む。

繋がるのは、誰か選べない。

それはつまり。


「最初から、繋がる相手は決まってるってことか?」

「たぶん?」


ルチェは頷く。

森に風が吹いた。枝葉が、揺れる。

リューセイはもう一度、宝石を見る。

八色。

その配置。

何か、意味があるような気がした。


「……それ」

「うん」

「誰が作った」


ルチェは、首を傾げて少し考えた。

それから、嬉しそうに言った。


「おとうさん!」


リューセイは一瞬、黙った。


「お父さん?」

「うん!」


ルチェはこくりと頷いて。


「かぞくみんなの、おめめのいろ!」




最初に見た時は、泣いているように見えたルチェも。

今は、もうすっかり元気だった。


小さな手に引かれながら。

リューセイは森の中を歩き出す。

帰り道。


鳥の鳴き声。

風が草葉を揺らす音。

静かな森に、それだけが響く。


その時だった。

ルチェが、ハッと顔を上げた。


「おにいちゃんっ」

「ん?」

「さっき、ひかってた!」


リューセイは眉をしかめた。

なんの話だ? と思いながらも訊ねる。


「俺が?」

「うん」


ルチェはにこにこしている。


「ほし、みたい!」


一瞬、息を飲む。

ほし? ああ、星か。

黒髪黒目。

服装も、目立たない黒を好んで着てるのに、と考えて。

リューセイは、知らずと鼻で笑っていた。


「気のせいだろ」


ルチェがふるり、と首を振った。

その時だった。

ルチェの腕の宝石が――、一瞬だけ。

同時に光った。


赤。


緑。


青。


紫。


金。


大地。


ピンク。


そしてーー、琥珀。


まるでどこか遠くで。

同じように、こちらを見返した気配がした。

ルチェは目を丸くする。


「……あ」


同時に。

リューセイもまた、胸の奥をかすめる気配にわずかに眉を寄せた。


「今のは?」


ルチェは嬉しそうに言った。


「みんな!」




遠い樫守の街。

石畳の、道の角を曲がろうとして。

下方から、いきなり射した光に。

クェルクスは静かに目を開いた。

そうして、愛おしそうに、琥珀を撫でる。


自分の自室で。

メディウムの腕にある石が、かすかに震えた。


大きな窓のある自室兼工房で。

クリュシュは机に布を広げて。

淡色ドレスのデザインを考えていた。


ふと。

白い布に光が落ちて。

手首の宝石が、温かくなった。


「......あら?」


琥珀が、わずかに光る。

クリュシュは小さく笑った。


「ふふ」


それだけで、クリュシュは。

鼻歌を歌いながら、また布に向き直った。


森の中にある小さな鍛冶場で。

アルマがふと、手を止める。


それぞれの場所で。

八色の宝石が、わずかに光り、温かくなる。

遠くで。

八色の輪が、静かに回り始めていた。




そして。

ルチェの前で。

八つの光が円を描く。


「わぁ」

「眩し……っ」


小さな。

だが確かな。

円環の光。


それはすぐに光を弱め。

森の空気に、溶けていった。




同時に、森の奥深くで。

空気が歪み。

見えない何かが。

静かに。

ーー動き始めていた。

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