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第2話 樫守の街




樫守かしもり

最も巨大な(オーク)の木を中心に、石造りの建物と、樫の木の根と小さな森たちが点在する、他種族が共存する街。

街の中心に聳える樫の木の前に佇むのは、この樫守の守護者でハイエルフの男性、クェルクス。

濃茶の長髪を一つに結い、エメラルドの瞳を細め。

枝葉を透過して降り落ちる陽の光を見上げていた。


その瞳は。

「ここ」ではない、遠くを。

遥か彼方を見つめていた。


あの、「奇跡」。

その日に思いを馳せるように。

ふわりと風が舞い、新緑の衣の裾を揺らした。


「....黒髪の子、か」


クェルクスは静かに呟いた。


「どう思う?」


二百年を生きてもなお、答えの出ない問い。

居るだろう気配に、眼前の空間にそう声を投げる。


「……異世界との扉を閉じたのは、魔法じゃない、だろう。たぶん、調律ーー、なんだろうな……」


姿は現さないが、帰ってきた言葉に。

クェルクスはふむ、と顎を撫でた。




二百年前ーー


世界は、一度だけ繋がった。

唐突に。

それは、紛れようもない。

「奇跡」だった。


何処の世界も、ハイエルフは。

どうやら絶滅危惧種らしい。

膨大な魔力や、希少魔法を有しているからか。

はたまた、長命種族だからなのか。

他種族より遥かに子を身籠りにくく、出産もまた難しい。


そんな出産事情を抱えるハイエルフたちは。

世界違えど、考える事は似通っているのか。

有している膨大な魔力、希少魔法を使ってーー


自世界のハイエルフを。

他世界のハイエルフと「交換」するため。


異界との扉を開く、その術を編み出した。

それは『血の交換』。

異世界からの、見合い話だ。


しかし。

その術は、ハイエルフの膨大な魔力を保ってしても、希少魔法を駆使しても。

簡単に成せるモノではない究極の秘術ーー、という欠陥があった。


故に、「そういう方法もある」という認識に留められ。

個体数を大幅に増やす事も、極端に減らす事もなく。

『血の交換』での交配は、この世界では偶然「繋がったら」ありえる話、という所に落ち着いた頃。


唐突に。

繋がった「奇跡」だった。


それが守護者である俺であったのは、偶然か必然か。

くるくるの金髪にピンクアイが美しい、異世界ハイエルフの姫、クリュシュ。

開いた異界の扉。いきなり目の前に現れた。


ただ。

俺たちの間には、超えられない隔たりがあった。

世界と世界、という距離が。


だから。

互いに手を伸ばして、掴んだ。


それだけで、

触れられた気がした。


数多の微睡みの中、生まれた子供たちは。

まさしく「奇跡の子供たち」だった。


甘やかで温かく幸せな、時間。

しかし、その時間は始まった時同様、唐突に終わりを告げる。


六番目の子が生まれ、家族全員の瞳の色をした、ブレスレットが完成した瞬間。


いきなり、俺たちを裂くように扉が開き。

世界と世界に、分たれた。


クリュシュとメディ、アルマ、ルチェの四人。


そして――

俺と、トール、ロギア、ニカの四人に。


ただ、唯一幸運だったのはーー

俺が元いた世界に、三人の子供たちと共に、無事に戻れた事だったのかも知れない。




空に昇った陽の光が、その強さと角度を変えたのに。

ピンクアイ、くるくるの金髪を揺らす、愛しい女性(ひと)を想いながら。

クェルクスは蒼い空を見上げたまま、呟いた。


「世界はきっと、もう二度とーー。繋がる事はない」






美しい、世界樹の居所がある、エルフの森。

数多のエルフの王である、ハイエルフの王族は。

世界の核と繋がれる世界樹を、守り育てる役目があった。


ハイエルフの母親、ヴラスタリと。

人族の父親、オルティス。

二人の間に生まれた、「奇跡のハイエルフ」、現在女王を務める、二人の娘であるアスティル。


月日は流れ。

金の髪、緑の瞳を持つハイエルフ、アスティルと。

人族で黒髪黒目のピアニスト、車椅子のキラ。

この二人の子として生まれたのが。


黒髪黒目。

エルフの耳。


リューセイ、だった。


男児の生誕に当初、王家は祝福に包まれたが。

ハイエルフの象徴である「金」を、その身に継がなかった事。

エルフにもいない訳ではないが、黒髪黒目の見た目を持って、生まれてきた事で。

また、「純血」ではなく「混血」だった事で。


望まれぬ子。

混血の異端児。

隠された王子ーー


上層部からの監視が、常にまとわりつく。

そんな境遇に身を置く、リューセイが得意なのは。


隠蔽魔法。


彼はいつも思っている。


いつでも身を翻せるように。

いつでも姿を隠せるように。

いつでも……期待から、失望から、視線から。


消えられるように。


「……ここじゃ、ない……」


柱の影。

人々の往来がある廊下ではない、薄暗い分岐点で。

誰にも気付かれない場所で、呟かれた声は。

誰にも気付かれる事なく、空に解けて消えた。

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