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第14話 共鳴




空に走ったヒビは、次の瞬間には消えていた。

まるで最初から、何もなかったかのように。

青空には、ゆっくり流れる雲だけがある。


「……今の」


メディウムが呟く。


「見えた、よな」


アルマも窓の外を睨んでいる。

リューセイは答えなかった。

ただ空を見上げたまま、胸の奥の鼓動を感じていた。


ドクン

……ドクン


静かな森の音の中で、それだけがやけに大きく聞こえる。

その時。

ふわり、と。

淡い光が、部屋の中に浮かんだ。


「……あ」


ルチェが小さく声を上げる。

その手首。

琥珀の宝石が、静かに光っていた。

だがそれは、いつもの光り方とは違った。

まるで水面に落ちた光のように。

宝石からこぼれた光が、空気の中にさらさらと溶けていく。

アルマが眉をひそめる。


「……なんだこれ」

「きれい……」


ルチェは目をぱちぱちさせている。

その瞬間。


「……待って」


メディウムが静かに呟いた。

自分の手首を見ている。

赤色の宝石。

それもまた、淡く光り始めていた。


「え?」


リューセイが目を見開く。


「おい。ちょっと待て」


アルマが腕を掲げた。

大地色の宝石が、確かに光っている。


「……三つ?」


メディウムが呟いた。


ルチェの琥珀(アンバー)

メディウムの紅石(ルビー)

アルマの柘榴石(ガーネット)


三つの光が、部屋の空気に溶けるように広がっていく。

その時。

ーーざわり。

窓の外で音がした。


「「「!」」」


三人が同時に振り向く。

世界樹の枝が、ゆっくりと揺れていた。


「……風?」


アルマが訝しげに呟く。

だが違う。

そんなはずはない。

森は、静まり返っている。

枝葉は、揺れていない。

ーーそれなのに。


世界樹の枝だけが、ざわざわと鳴っていた。

メディウムの声が震えた。


「……嘘でしょ」

「どうした?」


リューセイが聞く。

メディウムは、宝石を見つめたまま言った。


「八つ……あるのよ」

「八つ?」

「この宝石……、全部で八色あるの」

「確か、そんな事を此奴(ルチェ)が言っていたが……」

「なんだよ、メディウム姉。それじゃあ、まるで。なんかあるみてぇじゃねーか」

「…………」

「…………」


沈黙が、落ちる。

ごくり、喉を鳴らして。


「…………。ち、因みに……全部揃うと?」


アルマが低く聞いた。

メディウムはゆっくり首を振る。


「わからないわ……。でも、きっと何か、よくない事がーー」


だが。

その言葉の途中に。

光が、強くなった。


琥珀。


紅石。


柘榴石。


三つの宝石が、同時に輝く。


「っ!」


リューセイの胸が強く震えた。

同時に。

空が歪む。

不協和音が耳を裂く。


「また……!」


メディウムが叫ぶ。

空の高み。

世界樹の枝の向こう。

そこに。

ヒビのような光が走った。


そしてーー


その裂け目の向こうに。

見えた。

蒼い樫の大樹。

石造りの街。


その前に、立つ男。

濃茶色の長髪が、風に揺れている。

深いエメラルドの瞳。

新緑の衣。


——守護者(クェルクス)


その男は。

まっすぐ、「こちら」を見ていた。


リューセイの視線と。

確かに。


ーー絡み合った。


「……!」


その瞬間。

男の瞳が大きく揺れる。

信じられないものを、見たような表情で。

唇が、僅かに動いた。


「……馬鹿な」


小さく。

しかしはっきりと。

その声が届いた気がした。

息を継いで。

守護者は呟いた。


「もう……始まったのか」


次の瞬間。

光が弾けた。


琥珀。

紅石。

柘榴石。


三つの光が空へ伸びる。

その奥で。

まだ見ぬ五つの光が、わずかに揺れた。


「くぅっ!」


リューセイの胸が焼けるように熱くなる。


(…………なんだっ?)


空間が歪む。

森が揺れる。

世界樹の枝が大きく鳴る。

胸の熱が。ざわめきが。

どんどん大きく、強くなってーー


ーーしん。


すべてが。

突然、止まった。


光が消える。

裂け目も閉じる。

胸の熱も、ざわめきも。


次の瞬間。

ーーピシィ

何かがーー裂けた音。


「……ルチェ!」


叫んだのは誰か。

ルチェの小さな体が、ぐらりと揺れた。

そのまま崩れ落ちる。

リューセイが咄嗟に抱き止める。


「おい!」

「ルチェ!? ど、どうしたの?!」

「…………」


メディウムも慌てて駆け寄る。

ルチェは目を閉じていた。

だが。


「……すー……すー」


静かに、息はしている。


「……ね、寝てる……?」


アルマが若干つんのめりながら呟く。

リューセイはふと空を見上げた。


もう裂け目はない。

青い空だけが広がっている。

けれど。

胸の奥の鼓動は、まだ消えない。


(……何か、とてつもない事がーー始まる。そんな、気がする……)


何かが。

確実に。

動き始めていた。

——まるで、「どこか遠くの誰か」が応えたかのように。

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