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第11話 灯台(後編)




「お前の呼び名。知らねぇの?」

「……知らない……」

「…………」


妙な沈黙が、三人の間に落ちた。

アルマが頭を掻く。


「おいおい。居所(ここ)らじゃ、わりと有名だぞ?」

「有名?」


リューセイが眉を寄せる。

アルマはやれやれ、と肩をすくめた。


「黒髪黒目の隠された王子。ハイエルフと人族の混血。ーー「例外」の子……ってな」


メディウムが小さく息を吐く。


「子供たちの間では半分、おとぎ話みたいな扱いでしょうけど」


リューセイはしばらく、黙っていた。

窓の外を見る。

夜の森。

静かで、暗い。

まるで、自分の髪と瞳のようだ。


「……そうか」


それだけ言って、視線を戻した。

アルマが少し不満そうに言う。


「なんだよ、反応薄いな」

「別に。どうでもいい」


メディウムがじっとリューセイを見つめる。


「どうでもいい、って顔じゃないわよ?」


リューセイは何も言わない。

その時だった。

ふっ、と光が揺れた。

ルチェのブレスレット。

琥珀の宝石。


「ひかった!」


ルチェが宝石と同じ琥珀色の瞳をぱちくりして、声を上げる。

宝石が淡く光っていた。

メディウムが身を乗り出す。


「また?」

「またか?」


アルマが立ち上がる。

ルチェはゆっくりと顔を上げた。

そして指をさす。

窓の外。森のーー奥。


「あっち」


静かな声だった。

呼応するように、リューセイの胸が、微かに震えた。


(......まただ)


ルチェの腕の琥珀石。

それが、小さく明滅している。

アルマが言う。


「まさか、場所がわかるのか?」

「それって、まるで」


呟いたメディウムに続けて、アルマが言った。


「灯台みてぇだな」


ルチェが聞き返す。


「とうだい?」


アルマは少し考えてから説明する。


「海にある塔だ。迷った船に、帰り道を教えるってヤツ」

「じゃあルチェ?」


ルチェは首を傾げて、少し考えた。

アルマが宝石に目を向ける。

自分のとメディウムのブレスレットは、光っていない。


「……多分な」


それまで黙っていたリューセイが、静かに口を開く。


「違う」

「え?」


三人がリューセイを見る。

リューセイはゆっくりと言った。


「灯台じゃない」


ルチェの宝石を見る。


「……鍵だ」

「鍵?」


メディウムが、少し怪訝な表情をしながら訊ねる。

リューセイはすうっ、と窓の外を見た。


森の奥。

空気の歪み。

空の裂け目。

ルチェの無意識に張っている結界が、それを押し戻す。

位相に触れられるのはーー、ルチェがいる時だけだ。


「灯台は道を示す。……だが、閉じるのは鍵だ」

「……なるほど、ね」


メディウムが、小さく笑ってリューセイを見る。


「これで、おあいこかしら」


リューセイは微かに苦笑する。

ルチェは、二人を見上げて宝石をぎゅっと握った。


「ルチェ?」


リューセイは、少しだけ笑った。


「……たぶんな」


外の森で、風が揺れた。

遠くで。

ほんのわずかに。

世界がまた、軋んだ。


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