8話 腐女子のスローライフのピンチ!?
「ニルスくん、あなたが見たものは何ですか?」
フェリアスさんは荒ぶる僕とは対照的に、いつもと変わらないトーンで聞いた。
そこには動揺も困惑もなく、ただ事実を確認しているだけだ。
家に住まわせて貰ってからフェリアスさんをずっと観察していて、今日やっとこの核心的な問いで僕は理解した。
食事や水浴び以外で本を手放さなかった理由。そして、なぜ僕をこの家に置いてくれているのかを…。
やっぱり…フェリアスさんは全てわかっていたんだ。
エルフの村が人間によって破壊されている事実も、僕がそこの出身だということも。
だとしたら、他種族間の共生についての本を一週間寝る間を惜しんで読んでいたことも理解できる。
自惚れかもしれない、いや自惚れであったほうがいい。
…でもやっぱ考えられるのは一つ、僕を家に置いて保護して、その後のことまで考えてくれていたということ。
それなのに、僕は信用せずに監視なんて偉そうなことを考えていたと思うと恥ずかしくなる。
そのせいか、ただ単にこんな心の温かい人もいることに感動したのか、それともまた別の理由かは分からないが目頭が熱くなる。
「あなたは…何者なんですか……」
フェリアスさんは何も答えずに、ただ僕を落ち着かせるように優しい笑みを向けてくれた。
……僕一人じゃエルフの未来は変えられない。そして、フェリアスさんはお人好しと言えるほどの優しさを持っている。
フェリアスさんならきっと…何かを変えてくれる、そんな気がする。
まだ少し警戒している癖に、何も返せない癖に、そんな思考が頭を過ぎる。
………そして、気づいたら僕はフェリアスさんにぽつりぽつりと経緯を語ってしまった。
これではお人好しに付け入って、フェリアスさんを利用しているようなものだ。
それなのにフェリアスさんは黙って僕の話に頷いてくれる。それが余計に目から涙を出させた。
◇◇◇◇
「人間が来た理由に心当たりはありますか?」
これで森の開拓をする為と言われたらどうしよう…聞きたくないなぁ…でも聞かなきゃ。
まだ頬を涙で濡らすニルスくんに遠慮なく聞いてしまったことに、少し罪悪感を覚えながらも答えを待つ。
その間、服の袖で頬を拭いてやると、ニルスくんは自分の服をギュッと掴んで口を開いた。
「…っもしかしたら奴隷商の奴らかもしれません…森の珍しい生き物を、同じ服を着た人間が捕らえているのを何度か見たことがあります」
あ…じゃあ、私に被害来ることはないのかな…?
一瞬安心しかけたが、こんな人間みたいなエルフを奴隷にしようとするような奴らだ、もしかしたら人間も対象かもしれない。
油断はできないな…。もしかしたら、森の外は世紀末みたいになってる可能性だって0じゃないわけだし…
「まだ奴隷商はあなたたちを探しているんですか?」
「はい…偵察をしてくれてるエルフたちが、ほぼ毎日探し回ってると、そう言っていました…」
どうやら状況は最悪らしい。
このままじゃ、この小屋が見つかるのも時間の問題だ。
「フェリアスさん…こんなこと頼むのは身勝手だとわかっています…でも………お願いしますっ助けていただけませんか」
ニルスくんが地面に額を擦りつける勢いで頭を下げる。
気づかなかったけど、もしかしたらずっと思い悩んでたのかな…。
でも困った、私は知力が一応高いだけで、他はニルスくんにも殆どステータスが抜かされている。
大人のエルフたちで太刀打ちできない相手を、どうこうなんてできるはずがない。
でも、ここで何もしなくても、もしかしたら普通に人間奴隷にされる可能性も0じゃない。
今から知力以外のステータスがFの私が、本で情報を得つつ逃げて助かる可能性と、知力と本による情報だけを貸してエルフのみんなと協力して奴隷商を追い払える確率、どっちが高いか………。
正直考えるまでもないか。
「わかりました、出来ることはお手伝いします」
体力Fで魔法も使えない。さらに、外のことが何もわからないのに、本だけ見て外に出るなんて悪手にも程がある。
まだ会ったことはないが、モンスターの類もいるかもしれないし。
今回はニルスくんたち、エルフに手を貸してもらおう。
「っ…ありがとうございます」
ニルスくんが引っ込んだ涙をまた浮かべる。
期待しないでほしいな…
私は確かにお世話になる以上、こっちもエルフに全力で手を貸すつもりだ。しかし、普通に役に立たない可能性もある。
だから、私は膝をつきニルスくんに目線を合わせると、彼の頭を上げさせた。
「出来る限りのことはします、それだけです。だから頭を上げてください」
「っ…はい」
ニルスくんの肩に手を置いて、自分がそこまで役に立つか分からないと話してみた。
なんとか許容してくれたようだ。
まだ、子供のニルスくんとだから一対一で話せているが、大人のエルフに囲まれたらさらに話せなくなるかもしれない。
役に立たないどころか、足を引っ張る可能性もあるんじゃ……。
そんな嫌な予感がしたが首を振る。
大丈夫…私には【仮面】のスキルがついてるんだから…BL本読み放題スローライフを守るためちゃんと頑張ろう………頑張れ私っ…!
最後まで見てくれてありがとうございました!
200年一人で生きてきた腐女子が、はたして大人と話せるのか………




