6.5話
「フェリアスさん…本当にこれだけでいいんですか?」
鍋で蒸した蒸かし芋をお皿の上に置いて机に置くと、ニルスくんがどこか申し訳のなさそうな顔をした。
私のこの世界に来てからの主食であり、肉が取れない日は三ヶ月間、私の胃を支えてくれた蒸かし芋様だ。それでいいに決まっている。
コクリと頷くと、ニルスくんは「これも…修行なんですね」と呟いた。
この子は何を言っているんだろう。
首を横に振ろうとするが、すぐに後ろを向いて洗い物を始めてしまった。
「違う」と言うだけのために話すのも疲れるため、すぐにフォークで蒸かし芋をつついた。
私よりも蒸かし加減がいい気がする。
咀嚼しながら机の上に置いてある花瓶を見つめる。少し前に挿した花が萎れている。
「フェリアスさんはここに来る前はどこにいたんですか?」
洗い物を終えたニルスくんが私と同じ蒸かし芋をたべながら首傾げた。
さて…どう答えようか。今回の生涯でこの辺りから動いたことすらないのだから誤魔化すことは不可能。
だからといって転生してきました!なんて言って信じてもらえるとも思えない。
「………忘れました」
「忘れた…?」
「はい」
苦し紛れな言葉だが、嘘かどうかも確かめようがないだろう。
「……やっぱり、僕なんかには言えない壮大な過去が……」
…………。なんかもっと誤解が深まった気がする。
この世界の常識的がほとんどなく、元いた場所も言わずに森で暮らしている。言葉だけ並べれば、確かにそういう結論に至ってもおかしくはない。
全然違うけどね。でも…その設定はいいかもしれない。辻褄は合うし、都合が良さそうだ。
打算的な思いから頷くと、ニルスくんは「やっぱり…」と呟いた。
「ぼ、僕にできることがあるなら精一杯支えます…」
「ありがとうございます」
凄い健気で罪悪感が湧いてきた…ごめんね。
ニルスくんよりも先に食べ終えると、一度外に出る。花瓶に生ける花を何個か摘むためだ。
花が好きというわけではないが、昔、徹夜でBL本を読むことが多く、熱中しすぎて倒れたことがあり、それから生けた花が枯れ始めたら、必ず寝ることを自分の中で義務付けているのだ。
今回は……これにしようかな。
淡く虹色がかった花。花弁は完全に開いておらず、つぼみが下を向いている。とても綺麗だし、匂いもきつくない。
この見た目だとレアに見えるが、この付近に山程咲いているため、珍しいものでもないだろう。今までにも何回かタイマーとして使ったことがある。
三個ほど花を摘むと、家に戻った。そして、花瓶の花を取り換える。
「やっぱり花を摘んでいたんですね」
それに頷く。
「………………この花って」
「綺麗ですよね」
花をまじまじとニルスくんが覗いた。随分気に入ったらしい。
「……………………フェリアスさん…これはどこに咲いていたんですか?」
「小屋のすぐ近くですよ」
目を見つめられて、人見知りな私は、目を合わせられずに逸らす。
それにしても、そんなに真剣に咲いてる場所まで聞いて…さらに摘んできたいのだろうか?
「フェリアスさん、これはフェアリーフラワー、その名の通りフェアリーが咲かせる花です」
フェアリー…妖精だ。ニルスくんがエルフだし、いてもおかしくはない。
やっぱりこの世界は随分とファンタジーな世界らしい。
「そうなんですね、道理で綺麗なわけです」
つぼみを揺らす。花のことなんて調べる気にすらなったことがないから、そういう話は新鮮だ。
「フェアリーは通常人前に姿を現しません…なのでこの花もとっても希少なんですよ」
普通の花のように触れる私に驚いて、ニルスくんが冷や汗をかいた。
希少と言われても実感がわかない。全部取り尽くしても、すぐに生えてくる雑草のような物だと思っていたし。
もしかしたらこの近くにフェアリーが住んでいるのかもしれない。是非とも見てみたいものだ。というか、フェアリーのBLをあとで探そう。
「す……凄い物なんですよ……」
あまり驚く様子のない私を見て、ニルスくんが呟いた。
前世の感覚で言うとモナ・リザをただの紙切れ同然に扱っている様なものなのだろうか。
それならこれからはもう少し丁重に扱うとしよう。
最後まで見てくれてありがとうございました!!




