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4話 ニルス視点

 この世に神様なんていない。

 もし存在したとしても、僕はそれを神とは認めない。


 人間に連れ去られた仲間たちは今頃どうなっているのだろうか…、考えたくもない。

 木が切り倒されて、住処を追われる。弱い僕は守られてばかりで、迷惑しかかけない。


 だから…僕は一人でエルフみんなの隠れ家から、家族に何も言わずに去った。

 僕を庇ったせいで、父さんの背中に消えない傷ができた。

 僕を庇ったせいで、お母さんのお腹から一つの命が消えた。


 それなのに、僕だけパンを一つ食べている。みんなは半分なのに…ごめんなさい、迷惑かけてごめんなさいっ…


「はっ…はっ…はっ…」


 一人隠れ家から飛び出した僕は一週間何も食べれずに彷徨い、そして偶々見つけた魔物を襲ってみたが、案の定返り討ちに遭い逃げていた。


 この辺りは人間はいないが魔物が多い、このままでは僕は飢え死にするか、魔物に殺されて終わるだろう。 

 悔しくって唇を噛むと血の味が口のなかに広がった。


 その瞬間、鼻をかすめる肉の匂い。

 獣でもないのに僕はその匂いに抗うことは出来なかった。

 みっともなくよだれまで垂らしてゆっくりそこに歩いていく。ゆっくり…ゆっくり…おぼつかない足で。


 後ちょっと、そう思った。しかし、その次に足が前に出ることはなかった。

 動けない。魔法陣すら見えない高度な魔法に囚われているようだ。


 痛みはないけど、僕は限界でその場に倒れ込んだ。

 地面の匂いがすぐそこにして、薄く目を開く。目の前に蟻が行列を成していた。


 僕はこいつらの餌になるのかな?


 遠くなる意識の中でそう思いながら落ちてくる瞼に従う。


 ごめんなさい、父さん、母さん、兄さん…

 僕のせいで生まれることすら出来なかった弟か妹はきっと僕を恨んでるな…


 意識が途切れる。そう思ったとき、一つの鼻歌が僕の意識を細い糸で掴んだように、なんとか繋ぎ止めた。

 それはまるで、僕の死を見送るような教会にでも流れていそうな声だった。

 それは近づいてきて、僕の体を自由にする。

 動けるようになったところでどうにもならい。

 しかし、その後すぐに僕を背負った背中はどうしようもないほど温かくて目頭が熱くなった。


 その後僕は意識を失った。

 でも、ぼんやりと口のなかに肉の味が広がったこと。そして、天からの迎えが来たのかと思うほど慈しみのある表情が僕に近づいてきたことだけは覚えている。


 次に目が覚めると、まだ体が痛むけど、なんとか一命を取り留めたようで、死への恐怖に追われる感覚はなくなっていた。


 見知らぬ天井を眺めた後視線を落とす。すると、椅子の上で本を読んでいる人に目がついた。

 まだ僕が起きていることには気づいていないようで、僕には表紙の文字すら読めない、難解な本の文字を追う藍色の瞳が僕に向くことはない。


 状況からして助けられたようだけど、相手が人間である以上手放しに喜べる状況じゃない。

 まずは相手を観察しよう。

 バレないように薄目で目線を送る、僕より年上に見えるが、実年齢は予想できない。

 見た目だけなら二十歳を超えていない様にさえ見えるけど、その落ち着きは老成している様にしか見えないのだ。


 性別すら分からない。男と言われれば男だし、女だと言われれば女…そんな中性的な見た目をしている。


 じろじろ見ていたせいか人間に起きていることがバレてしまったようで、人間と目が合ってしまう。

 急いで逸らしてみたものの、僕が起きたことに安心するような表情からして意味はないだろう。


「……………」


 …?起きていることは分かっているくせに、話しかけてこない。

 「助けたかわりに仲間の居場所を喋れ」とでも言われると思ったのに。


「…あの」


 ただ僕を見つめる人間に全てを見透かされているような気がして、耐えきれなくなり、先に僕が口を開いた。


「助けてくれたんですよね…?」


 人間はそれを聞くと微笑んで頷く。

 なぜ喋らないのだろう?


「ありがとうございます…えっと、本当に申し訳ないんですけど…返すものが何もなくって……」


 少しの沈黙が辺りに流れる。

 やっぱり僕からなにか情報を盗むつもりだったのに、こんなことを言われて怒っているのかもしれない。


「なにもいりませんよ」


 唾を飲んだ瞬間、僕の耳に信じられない言葉が響く。

 その声はあの鼻歌を歌っていた人のものだった。


「そういうわけには…なにか手伝わさせてください」


 返事がすぐに返ってくることはない。

 このまま外にでてもどっちみち死ぬことは確定している。

 それに、もしも僕の家族が僕を追ってここまで来てしまったら、エルフの隠れ家がバレてしまう可能性だってある。


 一か八かだったけど…やっぱ無理か……


「農業はできますか?」


 その声は温かかった、まるで赤子に話しかけるような、優しさしかないようなそんな声。

 人間に見つめられて自分が何も答えていないことに気づき、ハッとして首を縦に振る。


「はいっ!なんでもします!」


 そう言うと人間は一瞬動きをとめる。

 なにか気に障ることをしてしまっただろうか?


「何でもするなんて言ってはいけませんよ」


「え…?」


 人間はそれしか言わなかった。ただ諌めるように指を立てると、すぐに背中を向けて扉に向かって歩いた。


 ついて来いと言うことだろうか?


 驚きのせいで少し早まる心臓を無視して、僕はその後を追った。


 優しい顔をされたからって信じたら駄目だ。

 人間は僕の仲間を連れ去った…そして……この世に神様はいないんだ。



最後まで見てくださりありがとうございます!!

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