理不尽ブラックからの脱却
「じゃ行ってくる」
「後の事はお願いしますね」
レティも同行を望んでくれたが、転移者と天使以外は潜れない門らしく。諦めてくれたレティの右手が差し出される。
「タカツグは変わっている私にも普通に接してくた、何が有ろうと私はアナタの味方よ」
力強い言葉と共に。
ぐ、とその手を握る。生半可な覚悟ではないのが伝わってくる。
「応」
それだけの言葉と笑顔。それで十分。
「この世と天の理に問う、聞きだしたい事故に開かん、真実への門番よ、我らの声に耳を傾け頂きたい」
ミルフィの詠唱に巨大な門が目の前に現れる。そして俺も口を開く。
「とっとと開けろ」
目指さすのは、異界。今居るこの世界とも地球とも違う『未知の世界』
「神より伺っておりまする、どうぞ闇の世界の愛し子、そしてその守護神たる者よ」
何だよ、その言葉は。厨二かよ流石に引く。
ぎぎぎ、と少しだけきしんだ音がする。
よし、と気合を入れ踏み出す。
「タカツグ殿」「タカツグ」「タカツグ様」
まだ、この世界に来て数か月。なのに地球より情が沸いた異世界で、少しだけアイア区間がちくりと胸の奥を刺す。
求めて求められて、己の思考により初めて自分から動く。
皆の呼びかける声に、背中で応える。
期待をかけてくれる、心配してくれる、それらに。
そうして潜り抜けた先は、広々とした部屋があった。そして壁一面によく事務所などに設置してあるような、鉄製の書類棚。ぎっしり詰まったファイル。
「よう来たの」
茶でも出してやりたいが
「ノルマがまだ残っているので、ちと待っててくれるか」
初老位の神が薄いくせに、その横は未練がましくも長く伸ばしている爺さんがオフィス用の机に向かって、羽ペンを片手にもう片方には印章を持ち、作業している。
「なぁ、あんた寝てなくね?」
「寝なくても死にはせんわい、ただ疲労は蓄積していっておる」
部屋の窓から見える、一番当初に会った頃のミルフィ位の天使がふわふわ飛ぶ練習をしていて、世話係なのか数名青年位の天使がそれらの傍に居る。
「あれに手伝わせねぇの?」
「役割があるのじゃよ、儂は創造神としてすべての事務仕事を担って居る」
「それが一番おかしいんだよ、手分けすりゃいいんじぁね?」
地球に居た頃の俺が、その姿にダブる。
ちらりとみた書類の一部を手に取り、流してみる。
「これお前がやらなきゃいけねぇってものと、そうでないものも混じってるぜ」
「ふぁ!!!!?????」
よく見てみろや。創造神がやらなくていい普通の陳情書や、申請書がありそれを突きつける。
「第一あいつらだって世話って何をしてるんだよ」
「飛び方やこれから地球や、他の星の生物に関することを学ばせるために配置しておる、まぁ向いてないものもいるようだが」
「正座」
「は?」
「正座しろって言ってんだ、正座!」
訳が分からんと椅子にちょこんと正座した爺…もとい神を床に座らせ
「適材適所やコストを考えていない、仕事が不公平」
「不公平ななのか?不平等じゃくて?」
「不平等は仕方無い、ミルフィにも聞いているが天使が進化する事は『ありえない』と、だがお前の仕事は、半分は他に手分けした方がいいのが多いんだよ、クソちり紙」
「お前も大概酷いのう、この髪は元はこうじゃなかったんじゃわしかて青年期までは」
「てめぇの髪なぞ知らんわ、だがこれはまた違う…人間界にもある。能力値に合ってない仕事をやってもコストが上がらん」
「……く、詳しいの」
「もとブラック社畜舐めんな、生まれて数年たった天使たちを全員ここへ呼べミルフィクラスの奴らだ……居るだろうが」
「………わ、分かった」
何故か机の引き出しから何にも繋がっていないワイヤレスタイプのボタンが取り出されぽちっと押されて数分後。青年天使達が、がやがやと集まってきた。
「今から俺の言葉はこいつの言葉だと思って心して聞けよ、順番に面談を行う」
「……面談?」
皆揃って?マークを浮かべているんじゃないかと思える程、ポカンとしている。
そして数時間後。
「よく分かった、お前ら自分に向いていない仕事を任されているやつがいる、事務仕事に向いているのは右側に固まっているヤツだ、生まれたての天使の世話焼きは3人で十分だ。残りは実行部隊だ」
多分こんなこったろうと思った。適当過ぎるんだ、仕事の割り振りが。
無能な上司に着くと、部下が苦労する。仕事コストが高すぎる。あと命問題の担当者を産まれてようやく独り立ち出来た天使に任せるとか阿呆かと、横で正座している創造神の頭を書類の束で叩くと。
「以上、配置表を配る」
「あの、儂は何をしたらよいの?」
「お前は自分の配置した異世界の今起きている異常事態の収拾をする、要するにあそこまでねじれまくった世界を修復する」
「いやいや、儂創造は出来るがアフターケアまでは」
「や・れ」
「やり方分からんのよ、儂生まれた時からこの位についているし」
「ならサポートなり秘書を付けろよ、書類は三分の一位になっただろうが、第一あの世界を今のままにしていると、結局死人が増えるだけだ。まずは魔族になった経緯からだな、その辺りを今レティ…あの異世界で知り合った信頼できる友だ。彼が調べてくれている」
「そんなに酷いのか?」
「考えてもみろ、不死の魔族だぞ。そして人間が魔物化する。本来いない筈の存在が魔力無しの元々暮らしていた人間を襲う、そしたらどうなるよ」
「どうなるんじゃ?」
「ちったぁ自分でも考えろや、禿げ」
「段々扱いが酷くなってきてる!」
「タカツグ様に逆らうものは親と言えど容赦はしませんよ」
「なんでミルフィ、大天使になってんの?」
その言葉に互いに顔を見合わせる。
「大天使?」
「己で考え、己で行動できる位だ。普通の天使だったのに」
「あー、そりゃ俺の影響らしい。絆が出来てた転生者が成長すれば天使も黒にも白にも染まるってヤツ」
「だから、あの異世界に行ったサポート役が殆ど魔族に変化しているのか……異世界でやり直しできるよう送った人間が、半数近く魔物になったとはミルフィから報告が上がっていたが」
「そっちは俺が何とかしてやる、天界の方はこれでどうにかなるはずだ。後はお前、少し休め……昔の俺を見てる様でムカつくから」
「優しいのか厳しいのか分からん!?」
うっせ、と頭を叩き門を潜ろうとすると。
「なぁタカツグ、儂の権限で統括にならんか?お前の能力を見てみれば軒並みステータスとスキルが上がっている。通常の人間とは思えん」
「レベル上げとかしてねーぞ、そんな暇無かったし」
「仲間に人間、転移者、天使、エルフや精霊とおるじゃろ、滅多に手を組まない連中じゃ、お前はそれらの信頼を勝ち取っている」
「統括ねぇ、確かに平和と取り戻したら俺のユニークスキルは不要だ。……すぐには答え出せねぇが考えとく」
と、門を潜った。




